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2006年12月21日

ゲーム・デヴォリューション
井上明人 国際大学GLOCOM研究員

デヴォリューション

 「ゲーム市場のメインイシューといえば,どこがゲーム機戦争に勝利しデファクトスタンダードを握るかである」
 2006年11月にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーション3(PS3)が発売され,12月には任天堂のWiiが発売された.この事態をめぐるマスコミ報道は上記のような「常識」を前提として組み立てられていた.
 だが,この常識はいつから形成されたのか.一般にハードメーカーの競争がよく報道されたのは90年代中ごろである.そして,家庭用の据え置きゲーム機の市場においてデファクトを獲得することがこれほど大きな意味をもった経緯については,やはり80年代半ばのファミコン(ファミリーコンピュータ)の普及が与えた影響が大きい.
 では,それ以前のゲーム(コンピュータゲーム)の世界はどうなっていたのか.まだ,据え置き型ゲーム機がデファクトでなかった時代である.家庭用ゲームの世界,アーケードの世界(ゲームセンター),PCゲームの世界と,多くのゲームの世界がそれぞれに可能性をもち,さまざまな試行錯誤がなされていた群雄割拠の時代である.
 また,当時はホビイストのプログラマーや,ハッカーと呼ばれる人々がアナーキーにゲームのプログラムを書いていくことで,初期のゲームシーンを豊かにしていた(この点については,山根・馬場[2004] 山根信二,馬場章[2004]「アプリケーションソフトウェアのビジネスモデルの起源:黎明期のホビイスト市場に注目して」『電子情報通信学会 技術研究報告』Vol.104, No.343,SWIM2004-10. pp.7-12などに詳しい).だが,ゲームの世界がその後,ファミコン市場が中心的なものとなって急成長を遂げた結果,高度に巨大化,専門化し,それはホビイストのプログラマーの数の減少を促した.そしてゲーム業界は,硬直化を始める.こうした業界の保守化・専門化は,いわゆる“一人勝ち”の構造を生み出した.
 しかし,現代はこういった状況からまたもう一度,別の転機を迎えていると思われる.
 結論から言う.現代はかつての群雄割拠の時代に再び近づこうとしているのではないか.
 そのような群雄割拠の状態を本稿では「ゲーム・デヴォリューション」と名づけ,現在のゲームシーンについて一定の説明を与えることを試みたい.
 デヴォリューションは,パワーをもっていた中心的なものが,周辺などに力を拡散させていく現象を指す.「地方分権」などの意味合いでもよく登場する.また,"degeneration(前の世代へ戻る)"という意味ももつ.パックス・ニンテンドーや,パックス・ソニーの世界から,群雄割拠の時代へと戻ること.その歴史的うねりについて論じていきたい.

Wii,PS3,Xbox 360

 2006年12月に発売された任天堂のゲーム機「Wii」の開発時コードネームは「REVOLUTION」であった.
 すでにREVOLUTIONというコードネームが使われなくなった2006年9月,千葉でWiiのお披露目講演が行われた.その際に任天堂の岩田聡社長は「より豪華でよりすごいゲームを作ればゲームマーケットは拡大していくんだ」という発想を「過去の成功法則」であると断じている.任天堂の新ハードはそういった過去の成功法則からは離れたものにならなければならない,という意図がここにはあったと見ることができる.REVOLUTION=革命を起こしてやろう,という意志がこのコードネームからは伝わってくる.
 ただし,革命だ,革命だ,といってもそれは宣伝文句としてあまりにもありふれたものだ.ではゲームの「革命」とは何なのか.
 今回の,ゲーム機「戦争」といわれるものについて整理しておこう.
 まず,ハードメーカー各社がコメントしていることを聞いてみる.すると各社が口をそろえて言うのは,「どこが競争相手なのかがわからなくなってきている」ということだ.ゲーム機同士の競争がすべてという時代ではなくなった,という認識をどこの会社もが示している.
 確かにその発言を裏づけるように,各社のゲーム機はゲーム以外の機能も盛り沢山である.Wiiであれば,ニュースが見られたり,お天気情報を確認できるし,Xbox 360であればWindows Vistaとのデータ連携などが予定されている.また,外付けで次世代DVD規格のHD DVDにも対応する.それに対抗して,PS3はブルーレイディスク対応である.こうした機能はゲームに限らないデジタルエンターテインメント機を目指している.そのため,その違いは一見わかりにくい.確かに,「ゲーム機戦争」ではなくなったのかもしれないが,今度は「ゲーム機」戦争から「リビングルームのデジタル機器」としての競争が始まっただけではないか,という気もしないではない.どのハードでもインターネットブラウザ機能がついてくるし,写真ビューワー機能がついてくるし,ゲームのダウンロード機能がついてくる.こうした機能だけを見てみると,共通点がかなり多い.
 しかし,戦略的な点での違いは大きい.
 任天堂のWiiの場合は家庭にいる高齢者や,ゲームに興味のない人にも「まずはゲームではない機能にふれてもらう」ための導入になるように多機能化を標榜している.そして,そこから最終的な出口としては普段ゲームをやらなかった人も少しでもゲームをやるようになっていってほしい,という狙いがある.そのためにWiiの機能はゲームのために洗練され,必要のない部分は削ぎ落とされている.Wiiは値段が安く,軽く,小さい.
 一方,SCEやMicrosoftの狙うものは,やっていることは似ていてもまったく違う.彼らが目指すのは,最初はゲームに触れてもらうところから始めて,最終的にはデジタル家電としてPS3やXbox 360を使いこなせるようになってもらうことである.そのために機能を特化させて削ぎ落とすのではなく,ユーザー満足度を上げる多くの機能が実装された,きわめて豪華なマシンになっている.PS3やXbox 360は,値段が高く,重く,大きい.
 ここ数回のハード競争からすると,こうしたハードごとに特色が大きく異なるのは新しい現象であるといえる.
 旧来までの路線に対する革命的な変換を遂げようとしているのは,任天堂だけではない.ハードメーカーのほとんどすべてが新たな試みに着手している.
 では,各社がゲーム機の戦略のレボリューションを決意しなければならなかったきっかけは何だったのか.
 その背景には,ゲーム市場のデヴォリューションに対する認識が存在していたように思われる.

一人勝ち構造の崩壊

 デヴォリューションの内実について確認していきたい.
 まず,近年のゲーム市場の状況を一言で強引に言ってしまうとすれば,一人勝ち構造はもうすでに終わった,ということである.現在は次のような状況が観察できる.
 第一に,日本市場の一人勝ち,という状況が崩れた. 国内ゲーム市場の規模は1990年代末にほぼ飽和状況に至る.しかし,それをピークとしてその後ゲーム市場は拡大できず現在は当時の8割程度の市場規模で落ち着いている.一方で,欧米をはじめとする海外のゲーム市場はこの10年で2倍近くの市場規模に到達し,売れ行きのいいソフトとしては日本のものよりも各国独自のものが多くなってきている.
 第二に,据え置き型ゲーム機の一人勝ちという状況も崩れている.
 ある調査 株式会社メディアクリエイト調べ.によれば,日本のゲーム市場におけるソフト販売本数シェア推移は2006年にはニンテンドーDSのソフトが過半数の51.2%を占めた.日本市場でははじめて家庭用据え置き型ゲーム機の市場が首位から転落する,という事件が起こっている.また,(携帯ゲーム機ではなく)携帯電話機のゲームというのもここ数年間で毎年2倍近い成長をつづけ大きな市場を形成しつつある.2005年の市場規模は1,000億円を超え社団法人コンピュータエンターテインメント協会[2006]『2006 CESAゲーム白書』,ここでもあと2,3年もすると据え置き型ゲーム市場をいつのまにか超えてしまうかもしれないような金額が動いている.また世界では,PCをプラットフォームとしたオンラインゲームの市場が急成長している.韓国などでは,ゲームといえばほぼすべてPCをプラットフォームとしたオンラインゲームの世界である.
 第三に,日本のプラットフォームホルダー(任天堂,SCE)の一人勝ちという状況も怪しくなっている.
 もっとも,いまだに任天堂やSCEの力は強い.だがここで,韓国を中心に発展してきた“ハンゲーム”の事例に目を向けてみよう.ハンゲームはゲームのハードではない.インターネット上に存在するゲームのポータルサイトである.韓国ではこのサイトがさまざまなゲームをのせておく「ゲームのプラットフォーム」として機能している.これは「ゲームのプラットフォーム」という概念自体の新しいあり方なのかもしれない.
 第四に,エンターテインメントゲームの一人勝ちという状況も崩れつつある.
 最近の例で一番わかりやすいのは『脳を鍛える大人のDSトレーニング』(2005,任天堂),『もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』(2005,任天堂)が数百万本の大ヒットを記録したことだろう.いままで,純粋な娯楽目的以外のゲームソフトは売れないものだ,ということが日本国内ではよくいわれていたが,非娯楽目的のゲームでもきちんと作って,きちんと売れば十分大ヒットできるのだ,ということがこれによって実証された.一方,オンラインゲームの世界では,ユーザーがゲームを介して現金を稼ぐという世界が成立し,その市場規模は世界で数千億円に上ると推定される.なかでも,中国ではゲームを「作る」のではなくゲームを「プレイする」ことで暮らしている人々が一説には50万人は存在する,といわれる.こういう人々にとってゲームを「プレイする」ことは,半ば労働行為である.「娯楽」以外のところへゲームソフトの役割が拡散していく状況は,そのほかにも数多くの例をあげることができる.
 これらの状況をまとめると,ファミコンの延長線上に成立してきた市場が量的にも,質的にも頭打ちになったというように整理できる.国内市場規模は伸び悩み,ゲームの描画水準の向上もゆきつくところまでゆきついてしまった.
 同時に,この10年でPCとインターネット網の本格的普及が全世界的に行われたことで,オンラインゲームなどの市場が巨大化した.世界市場の覇権を,日本の「家庭用据え置き型ゲーム機」メーカーが握っていた時代に陰りが見え,携帯ゲーム機,携帯電話などがゲームのプラットフォームとして力をもち始めている.
 ゲーム市場は,一人勝ち状況が崩壊したのちに,市場規模としては拡大,そして同時に,ゲーム市場の性質としては中心性が失われて拡散している.
 つまり,ゲームは拡大・拡散という形で二重の意味で拡がっている.

……続きは『智場』#108で.

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投稿者 noc : 23:51

ゲーム内市場の現実化
山口 浩 駒澤大学助教授 ┼ 鈴木 健 GLOCOM主任研究員
報告:牛島正道鈴木 健

suzuki_yamaguchi.jpg  2006年11月16日のIECP研究会は,駒澤大学助教授山口浩氏および鈴木健GLOCOM主任研究員を講師に「ゲーム内経済学:仮想と現実の出会う場所」と題して開催された.
 山口氏はリアルオプションの研究や,ゲーム内経済学の研究を専門としている.リアルオプションは,本来金融工学で使われているオプションの考え方を抽象化し,金融以外の財でも同様の考え方を適用することができるという手法である.また,株式会社はてなが予測市場のシステムを導入するときに助言などを行っている.山口氏は,このように仮想と現実の間をある種のメソッドが行き来するようなシステムに深い関心をもっている.山口氏の講演は,ゲーム内経済学の初心者向けの導入を行うとともに,上記の視点からゲーム内経済学の重要性と可能性を指摘した.
 また鈴木は,伝播投資貨幣PICSY(Propagational Investment Currency System)の研究を行うなど,コンピュータがないと実現できないような社会システムの設計を行っている.今回の講演では,現在オンラインゲームの中で起きている現象をどのように解釈すればよいのかを明らかにすることを目的とし,「3D仮想世界経済は,仮想世界の法則を制御できるので,リアルの経済全体を変えてしまう」ことを主張した.
 本講演のメッセージは「ゲームに代表される仮想世界と現実世界は今後深くかかわるようになり,単なる社会実験を経て,社会そのものを駆動する可能性を秘めている」とまとめることができる.このようなことがリアリティをもって議論されるのは『セカンドライフ』のような仮想空間の経済圏がかなりの規模で発展を遂げており,すでに無視できない存在になりつつあることが遠因といえよう.

第1部:ゲーム内経済学とは(山口氏)

オンラインゲームとは

 近年,インターネットを介して他のプレイヤーと共同でプレイする「オンラインゲーム」が発展を遂げている.典型的なオンラインゲームの特徴は,3次元空間を模したゲーム空間内でプレイヤーの分身となるキャラクター同士がコミュニケーション可能な点にある.プレイヤーの数は数十万人にものぼり,その国内市場規模は約820億円,対前年比で42%増と急速に拡大している.

オンラインゲーム内の社会と経済

 ゲーム内で行われるプレイヤー間のさまざまなコミュニケーションにより,ゲーム内には制作者の予想もしないような多様性が生まれ,一種の社会が発達していく.またこの社会には資源と貨幣が存在するために,経済活動も観察される.特に注目されるのは,多人数参加型オンラインRPG(Massively Multiplayer Online RolePlaying Game: MMORPG)と呼ばれるゲーム内の現象である.
 RPG(Role Playing Game)とは,キャラクターの成長を楽しむことに特化したゲームジャンルである.プレイヤーキャラクターにはある能力値が与えられ,目標達成に向けキャラクターを成長させるのが目的となる.この過程で,敵キャラクターをやっつけたり謎解きをしたりといった小目標の達成に応じ,能力値上昇の資源(アイテムや金銭)を獲得できる.これによりプレイヤーの能力値が成長するので,今度はより困難な課題に挑戦することができる.この構造がRPGのシステムの根幹である.MMORPGでもこの基本は変わらない.
 プレイヤーはアイテムという仮想資源を,ゲーム内通貨で売買することができる.希少性のあるアイテムは需要が供給を上回るため,高値がつく.やがて取引に便利な場所が市場となり,売買や交換を専門で行うプレイヤー(商人)が現れる.
 現実の経済と異なるのは,資源獲得の方法である.現実世界では習得に時間のかかるさまざまなスキルが必要だが,典型的なMMORPGでの労働は比較的単純な作業(モンスターと呼ばれる敵対キャラクターを倒す,など)に限られており,構造的な過剰生産が発生する.また,現実の中央銀行にあたる機関は存在せず,マネーサプライの管理は行われない.このため,ゲーム内経済ではインフレなどの現実に類似した現象が発生することになる.

……続きは『智場』#108で.

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第2部:オンラインゲームと社会システムの実験と実行(鈴木)

 第1部の講演を受け,鈴木は「オンラインゲームと社会システムの実験と実行」と題した講演を行った.山口氏の講演との相異点は,仮想社会を特に

  1. 社会実験の場
  2. 実社会に影響を与えるシステム

とみなす視点に置かれた.また,自らが一貫して提唱する伝播投資貨幣PICSYの解説を行った.

自動車社会

 鈴木は,ネットとリアルの関係を考えるのに,よく「自動車社会」という言葉を例に出して説明している.自動車社会という言葉は,自動車学校の教習で初めて知ったが,確かに自動車同士でコミュニケーションをしているある種の社会が成立しているといえよう.しかし,一般には自動車社会という言葉は意識されない.自動車は100年以上の時間をかけて,現在では網の目のように社会に浸透して,あえて自動車社会といわなければ意識されないようになった.ネット社会という言葉は自動車の創成期のようなもので,いずれは消えてゆく運命にあるだろう.社会全体にネットが浸透し,ネットとリアルが高密度に連携をはじめると,自動車社会という言葉が使われなくなったと同様にネット社会という言葉もなくなる.

『セカンドライフ』

 そうしたことを考えるのによい例として,現在アメリカで特に人気を博している『セカンドライフ』http://secondlife.com/world/jp/というオンラインゲームがある. 大きな特徴は,(1)きわめてリアルな3D表現技術,(2)ゲーム内のオブジェクトをプレイヤーがプログラムして作り出すことが可能という圧倒的な自由度,である.鈴木はこのゲームを「現実とのリンケージが圧倒的に高い」と評した.現在,『セカンドライフ』の仮想世界内では,IBMやトヨタなどが広告を出したりロイター通信が「支局」を設置するなど企業の注目も高まっている.また,実際に使われたロケットを作成し展示場を運営したり,ゲーム内での経済活動に関するコンサルタントを営む,といった多種多様なプレイヤーの活動も見られる.このような多様性は世界初のブラウザmosaicが登場したインターネット最初期と酷似しており,ゲームを超えて3D空間のブラウザとみなすことができるかもしれない.すでに年間の取引額が数百億円に達し,『セカンドライフ』の中で生計をたてるものが数百人もいるなど,かなりの規模の経済圏となっている.

現実世界と仮想世界のリアルタイム連動

 このゲームはAPI(Application Program Interface)が公開されているため,実世界の操作をゲームに反映させる,あるいはゲーム内の現象を実世界に反映させる,という相互操作が可能となる.その一例として,鈴木は自らの実験プロジェクト「Cシャツ」と『セカンドライフ』の連携をあげた.『セカンドライフ』中で着ているTシャツを実際にドロップシッピング経由で発注してリアルで着ることができたり,またその逆ができるようになるという.詳細はウェブサイトhttp://cshirt.sargasso.jp/ http://blog.picsy.org/archives/000375.htmlを参照されたい.
 『セカンドライフ』のAPIを用いると以下のようなことが可能になる.

 今後,想像もできないくらいネットとリアルが密結合していくだろう.

3D表現が認知科学と合理性の接点に

 ところで,以上のような「仮想的な世界とリアルな世界を密連携させる」という現象はネットやオンラインゲーム以前から存在する(コンビニエンスストアのPOSシステムなど).ではなぜ,3Dオンラインゲームの革新性をこれほど強調するのか? 鈴木は「人間の認知行動に直接働きかける点,そしてそれを変化させうる点で,3D表現のもつ圧倒的なリアリティはこれまでになく強力」と主張する.このような立場からは「ヒューマンインターフェイスとしてのゲーム」という視点が可能になる.これにより,従来,論理や合理性による分析のみに頼らざるを得なかった社会設計の問題を,認知科学と合理性の接点として理解し,実験することが可能になる.

仮想世界に対する理解の段階

 以上のような視点をもとに,鈴木は「仮想世界に対するわれわれの理解の段階」として,以下の5段階をあげた.

  1. 3D仮想世界経済はリアルな経済と関係のないお遊び
  2. 3D仮想世界経済はリアルな経済に従属する
  3. 3D仮想世界経済ではリアルな経済と同じことが起こる
  4. 3D仮想世界経済では,仮想世界の法則を制御できるので,リアルの経済とは異なることが起こる
  5. 3D仮想世界経済は,仮想世界の法則を制御できるので,リアルの経済全体を変えてしまう

 そして「現在のわれわれは第2,第3段階の理解にとどまっているが,今後は第4,第5へ理解の段階が進むだろう」と鈴木は主張し,講演第1部の山口氏と見解を同じくした.このようにして,自動車社会という言葉がなくなっていくのと同様にネット社会という言葉もなくなっていくだろう.

……続きは『智場』#108で.

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投稿者 noc : 22:56

ゲーム,ハッカー,インターネット
川端裕人 作家 ┼ 山根信二 GLOCOM客員研究員 ┼ 井上明人 GLOCOM研究員

kawabata01.jpg 左から、川端裕人、山根信二、井上明人

(智場108号より部分的に掲載)

9.11以後のインターネットとリアリティ

山根 ─── 『 The S. O. U. P.』が出版されたのは2001年8月ですが,そのすぐ後に9.11が起き,アメリカの役割もハッカーの動向も大きく変化しました.それについて川端さんは,次の小説『竜とわれらの時代』の中で考察を加えられています.もし,何年かあとで『The S. O. U. P.』が書かれたとしたら,また別のリアリティがあるのではないかと思います

川端 ───  いま書くとすればまったく違うものになると思います.『竜とわれらの時代』は大変やばい作品で,書いている途中に9.11が起きた.それもイスラム系テロリストが出てくる話の初稿を書き終わったところで起きてしまった.『TheS. O. U. P.』はその前の作品なので,まったく違う文脈です.「その後」の話はまたゼロから構想しうるという感覚は前々からあります.逆に山根さんが,9.11を境に変化したインターネットのランドスケープを素描すると,どんな感じになりますか

山根 ───  9.11以降の変化をまとめると,それまでインターネットを使って何をするかわからない連中がハッカーだといわれてきたのが,コンピュータに頼らないテロの脅威が再認識された.その反面で,インターネットは政府にとってもテロリストにとっても効果的に使われることも明らかになった.もはや,ハッカーをマークする時代ではなくなったということです
 もう一つはネットジャーナリズムが,大統領をウォッチするメディアから,いろいろな情報が錯綜するメディアに成長した.そういう印象をもっています.『The S. O. U. P.』に描かれた大統領は,人形のようとは形容されていましたが,かろうじて一問一答を注目されるような部分がありました.現在では,大統領の一問一答に誰も興味を示さないのではないか.これは9.11の問題というよりも,2ちゃんねる的なものが浸透してきたと言ったほうがよいかもしれません.現在のネットジャーナリズムは,かつてのように大統領に注目するのではなく,大統領像を拡散させ,ネタや怪情報としてのみ流通させる.そういうようにネットジャーナリズムが変わってきたのではないかと思います. kawabata02.jpg

川端 ───  テロリストにも,アメリカという国にもインターネットが必要,みんな息を吸うように繋がっていることが当たり前になっている世界は,やはりあの頃とは違う
 どんなに影響力のある人が「白だ」といったとしても,その発言がされた瞬間に「実は黒だ」とか,「白でも黒でもなく実は緑だ」という情報が流れて,それらがそれぞれそれなりの説得力をもつ.そういう中で,何が正しいのかわからないと無力感を抱いている人に,ネットの中でよく出会うと感じています.20世紀にもニューエイジと連動して,ある種の相対主義的な世界観が流行しましたが,突き詰めていくと足もとがズブズブとなっていって,どこに立っているかわからなくなってしまう.それと比較するのが適切かはわかりませんが,今,「誰の発言が信頼できるのか,どのみちわかんないのさ」というアパシーが人々の間に広がっている気がします
 そこで,新たな物語が立ち上がるとしたら,ぼくはそこでもう一度,ハッカーに出てきて欲しい.彼らのもてるスキルとクリエイティビティで何ができるだろうか.インターネットに誰でもアクセスできるようになった状況の中で蔓延するアパシーに,ハッカーがどう立ち回るのかということが,興味の中心になるのは間違いない
 こういうふうに話していると,書きたくなってきますね(笑).

……続きは『智場』#108で.

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投稿者 noc : 22:50

『セカンドライフ』とは何か
インタビュー 土居 純 リンデン・ラボ Business Development Manager
聞き手:庄司昌彦 ┼ 鈴木 健 ┼ 田熊 啓

『セカンドライフ』の急成長

庄司昌彦(以下,庄司)── 米国のリンデン・ラボが運営する『セカンドライフ』は,3次元映像で描かれた自分の分身(アバター)を操作して探検やコミュニケーション,ものづくり,ゲームなどを楽しむ新しいオンラインの仮想世界です.世界中で注目を集めていますし,11月からは日本語でのサービスが始まり日本人ユーザーも増えているようです.そこで今日は,この仮想世界についての理解を深めるために,リンデン・ラボの土居さんにお話をうかがいます.
 『セカンドライフ』のサービスがスタートしたのは2003年ですが,ここ数カ月で劇的にユーザーが増えていますね.メディアで『セカンドライフ』を見かけることも増えてきました.

土居 純

土居 純(以下,土居)── そうですね.つい先日まではユーザー数100万人と言っていましたが,今は約177万人です.2006年中に200万人に届くと思います.特にここ数カ月の変化は大きく,いろいろなことが起きています.これはわれわれも想像していなかったことです.しかも,『セカンドライフ』についての広報活動はほとんどやっていませんから,基本的にバイラル(口コミ)で広がっているといえます.それから,IBMや日産,トヨタ,ロイター通信など大きな企業が参入してきたというのは話題性があり,注目を集めました.特にロイター通信が『セカンドライフ』に支局を設けたというのは大きかったですね.彼らは,記者を『セカンドライフ』に常駐させていますから,リンデン・ラボも把握しきれていないようなことをよく調べてくれています.

プラットフォームとしての『セカンドライフ』

庄司──  CEOのフィリップ・ローズデール氏は,『セカンドライフ』はプレイヤーが自由に創造的な活動が行える場であり,そのインフラ整備とツールの提供がリンデン・ラボの仕事であると述べています.何を作りどう使うか,ユーザーの自由に任せているところが興味深いです.

図1:『セカンドライフ』住人数の推移
出典:New World Notes (http://nwn.blogs.com/)
および土居氏のデータをもとに庄司作成
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土居──  現在,かなりの数の企業や団体が『セカンドライフ』に参入してきていまして,新しいプラットフォームとしてこれからどう使っていこうか,模索している状態だと思います.たとえばIBMは『セカンドライフ』の中で大量に土地を購入して,社員ミーティングを『セカンドライフ』の中でやっていますね.IBMの米国のウェブサイトではゲームの可能性を大々的に取り上げています.ぼく自身としては,教育や医療関係の利用なども普及して欲しいと考えています.たとえば,身体的なハンデのために外出をすることが難しい人などにも『セカンドライフ』が広がっていければと考えています.

庄司──  先日は,『セカンドライフ』の中で映画を制作するというセミナーをやっていましたね.

土居──  マシネマといいます.マシネマというのはマシンとシネマを合成した言葉ですが,3Dレンダリングエンジンを使ってアマチュアでも映画を作ることができるというものです.ピーター・ジャクソン監督が映画『キング・コング』で,エンパイアステートビルのシーンを撮るときに利用したとも聞いており,将来的にはもっと映画に使われていくと思います.

プラットフォームとビジネスモデル

田熊 啓(以下,田熊)── 『セカンドライフ』は,スクリプトを書けなくてもいろいろな物を作ることができるようになりますから,人の表現の幅を3次元にまで広げてくれると思います.マイクロソフトのOSやGoogleの検索エンジンなどと並ぶ,新しい仮想生活の基盤(プラットフォーム)といえるかもしれません.

庄司──  そこで,このプラットフォームを維持し発展させていくための収益源についてうかがいたいと思います.いわゆるWeb2.0では,サービスを無料でユーザーに提供し,収益は広告に依存することが多いといわれますが,リンデン・ラボのビジネスモデルはどうでしょうか.

土居──  ビジネスモデルはとてもシンプルです.『セカンドライフ』内での土地の販売と有料メンバーシップです.仮想の土地を売って世界を拡大しながらそれを収益にしていくという方向性でして,広告モデルは今のところは考えていないですね.『セカンドライフ』の中で企業が広告を出すことは自由ですが.

庄司──  先日,バーチャルな土地の売買や道具の開発といった経済活動だけで100万ドルの資産を築いた「ミリオネア」が誕生した,という話題がありましたね.

土居──  そうですね.すごいユーザーだと思います.羨ましいですね(笑).どういうビジネスをされようが,そこはユーザーにお任せしています.

庄司──  最近はユーザーの急増に伴って,システム投資やトラブル対応など,この場を維持するための苦労も大きくなっているのではないでしょうか.

土居──  返事したくない質問ですね(笑).でも大きな問題はないです.唯一,ロイター通信の報道があったときに予想以上にアクセスが集中して混み合ったことがあります.あのとき一度だけサーバーが落ちましたね.しかし,土地や島を買う人がいればその分のコストはユーザーが払っていますから,それに合わせてシステムの増強をしていけばいいだけの話です.特に予想外の事態でどうこうということはないですね.

鈴木 健(以下,鈴木)── 『 セカンドライフ』はOSとかプラットフォームであるということを宣言するタイミングが重要だと思います.今はベンチャーにしかできない独自の道を進んでいますが,プラットフォームだと認識されると,同じものを作ろうとするライバルが出てきて厳しい競争にさらされるようになります.Netscapeはタイミングが早くて,Googleはいいタイミングでした.私は『セカンドライフ』には期待しているので,宣言は慎重にしたほうがいいと思うんですがね.

ネットコミュニティとしての将来

庄司昌彦 庄司──  SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が,今後発展していく方向は『セカンドライフ』のような3次元の仮想空間ではないかという議論もあります.『セカンドライフ』が,気の合う仲間と常に繋がっていたい人々のネット上の居場所として発展する可能性はあると思います.たとえばMySpaceのようなSNSサイトはライバルであるとお考えですか.それともSNSと『セカンドライフ』のコミュニティは異質なのでしょうか.

土居── どちらかというとMySpaceはブログを書きたい,ウェブページを作りたいというニーズから発展していったものだと思います.ユーザーとユーザーの間でコミュニティを作っていくということは共通の要素ですが,ルーツが違う.『セカンドライフ』の内部でブログを書くということもできると思いますし,SNSの基本的な機能はすべて『セカンドライフ』の中にあると思いますが,SNSをライバルとは思っていませんね.

仮想世界のガバナンス

庄司──  インターネットには数千万人規模のネットコミュニティがいくつもありますから,『セカンドライフ』も将来はそういった規模になるかもしれません.そうなると,仮想社会も複雑になっていろいろと問題も起きてくると思います.その時にリンデン・ラボは,場の雰囲気や秩序の維持に積極的にかかわるのでしょうか.それともユーザーに主導権を渡して控えめに動くのでしょうか.

土居──  コミュニティにアクセスできるユーザーを限ることができるように,島のオーナーはパーミッションをコントロールすることができます.しかし,ユーザー間のトラブルがなくなることはないと思っています.現実社会と一緒ですね.リンデン・ラボは,あらかじめ定めてあるコミュニティスタンダード(六つの禁止事項)を侵された場合には対処しますが,それ以外の場合には基本的には対処しません.われわれが常に監視して,特定の人たちを『セカンドライフ』からいなくさせるように何かをするということはしない方針です.ブログや『セカンドライフ』内で行うタウンホール・ミーティングを活用して,ユーザーの声に耳を傾ける機会は設けていて,それによってわれわれの決断を変えるということはあります.

リンデン・ラボとは

田熊──  お話をうかがっていると,リンデン・ラボという会社もとても興味深いです.仮想とはいえ百万人以上の人々がいる社会を運営していますし,実際のお金と連動した経済活動もしていますから,社会学や経済学,政治学,金融などの高度な知識をもつ人たちがいらっしゃるのではないかと思うのですが,いかがでしょう.

土居──  8月に入ったばかりなのであまりよくわかりませんが,確かにゲーム,アニメ,スクリプティング,メディカル,物理学などいろいろなバックグラウンドをもっている人たちがコラボレーションしています.彼らのとても哲学的なメールも社内で飛び交っています.頭の良さや人と人との関係を大切にしていますから,博士号保持者やビジョナリーなど,人材の採用にかなりこだわりをもっているGoogleと似たようなところがあるかもしれません.そして,これだけプロダクト・サービスを愛している会社は正直言ってあまりみたことないですね.プロダクトには会社のあり方も反映されていると思います.

『セカンドライフ』はどこへ行くのか

庄司── 『 セカンドライフ』は今後,どこを目指していくのでしょうか.何でもできる場になっていく,というのも一つの方向ではあると思いますが…….

土居──  難しい質問ですね.技術的な動きとマーケットの動きがどうなるかにもよると思うのですが,おそらく最適な答えは,「1年後,半年後にどういう方向に動いているかわかりません」ということですね.ユーザーがどういう方向を求め作っていくのか,というのはわかりませんから.

庄司──  なるほど.ユーザー次第というお答えは,とても『セカンドライフ』らしいと思います.今日はどうもありがとうございました.

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投稿者 noc : 18:18