『セカンドライフ』の急成長
庄司昌彦(以下,庄司)── 米国のリンデン・ラボが運営する『セカンドライフ』は,3次元映像で描かれた自分の分身(アバター)を操作して探検やコミュニケーション,ものづくり,ゲームなどを楽しむ新しいオンラインの仮想世界です.世界中で注目を集めていますし,11月からは日本語でのサービスが始まり日本人ユーザーも増えているようです.そこで今日は,この仮想世界についての理解を深めるために,リンデン・ラボの土居さんにお話をうかがいます.
『セカンドライフ』のサービスがスタートしたのは2003年ですが,ここ数カ月で劇的にユーザーが増えていますね.メディアで『セカンドライフ』を見かけることも増えてきました.
土居 純(以下,土居)── そうですね.つい先日まではユーザー数100万人と言っていましたが,今は約177万人です.2006年中に200万人に届くと思います.特にここ数カ月の変化は大きく,いろいろなことが起きています.これはわれわれも想像していなかったことです.しかも,『セカンドライフ』についての広報活動はほとんどやっていませんから,基本的にバイラル(口コミ)で広がっているといえます.それから,IBMや日産,トヨタ,ロイター通信など大きな企業が参入してきたというのは話題性があり,注目を集めました.特にロイター通信が『セカンドライフ』に支局を設けたというのは大きかったですね.彼らは,記者を『セカンドライフ』に常駐させていますから,リンデン・ラボも把握しきれていないようなことをよく調べてくれています.
プラットフォームとしての『セカンドライフ』
庄司── CEOのフィリップ・ローズデール氏は,『セカンドライフ』はプレイヤーが自由に創造的な活動が行える場であり,そのインフラ整備とツールの提供がリンデン・ラボの仕事であると述べています.何を作りどう使うか,ユーザーの自由に任せているところが興味深いです.
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土居── 現在,かなりの数の企業や団体が『セカンドライフ』に参入してきていまして,新しいプラットフォームとしてこれからどう使っていこうか,模索している状態だと思います.たとえばIBMは『セカンドライフ』の中で大量に土地を購入して,社員ミーティングを『セカンドライフ』の中でやっていますね.IBMの米国のウェブサイトではゲームの可能性を大々的に取り上げています.ぼく自身としては,教育や医療関係の利用なども普及して欲しいと考えています.たとえば,身体的なハンデのために外出をすることが難しい人などにも『セカンドライフ』が広がっていければと考えています.
庄司── 先日は,『セカンドライフ』の中で映画を制作するというセミナーをやっていましたね.
土居── マシネマといいます.マシネマというのはマシンとシネマを合成した言葉ですが,3Dレンダリングエンジンを使ってアマチュアでも映画を作ることができるというものです.ピーター・ジャクソン監督が映画『キング・コング』で,エンパイアステートビルのシーンを撮るときに利用したとも聞いており,将来的にはもっと映画に使われていくと思います.
プラットフォームとビジネスモデル
田熊 啓(以下,田熊)── 『セカンドライフ』は,スクリプトを書けなくてもいろいろな物を作ることができるようになりますから,人の表現の幅を3次元にまで広げてくれると思います.マイクロソフトのOSやGoogleの検索エンジンなどと並ぶ,新しい仮想生活の基盤(プラットフォーム)といえるかもしれません.
庄司── そこで,このプラットフォームを維持し発展させていくための収益源についてうかがいたいと思います.いわゆるWeb2.0では,サービスを無料でユーザーに提供し,収益は広告に依存することが多いといわれますが,リンデン・ラボのビジネスモデルはどうでしょうか.
土居── ビジネスモデルはとてもシンプルです.『セカンドライフ』内での土地の販売と有料メンバーシップです.仮想の土地を売って世界を拡大しながらそれを収益にしていくという方向性でして,広告モデルは今のところは考えていないですね.『セカンドライフ』の中で企業が広告を出すことは自由ですが.
庄司── 先日,バーチャルな土地の売買や道具の開発といった経済活動だけで100万ドルの資産を築いた「ミリオネア」が誕生した,という話題がありましたね.
土居── そうですね.すごいユーザーだと思います.羨ましいですね(笑).どういうビジネスをされようが,そこはユーザーにお任せしています.
庄司── 最近はユーザーの急増に伴って,システム投資やトラブル対応など,この場を維持するための苦労も大きくなっているのではないでしょうか.
土居── 返事したくない質問ですね(笑).でも大きな問題はないです.唯一,ロイター通信の報道があったときに予想以上にアクセスが集中して混み合ったことがあります.あのとき一度だけサーバーが落ちましたね.しかし,土地や島を買う人がいればその分のコストはユーザーが払っていますから,それに合わせてシステムの増強をしていけばいいだけの話です.特に予想外の事態でどうこうということはないですね.
鈴木 健(以下,鈴木)── 『 セカンドライフ』はOSとかプラットフォームであるということを宣言するタイミングが重要だと思います.今はベンチャーにしかできない独自の道を進んでいますが,プラットフォームだと認識されると,同じものを作ろうとするライバルが出てきて厳しい競争にさらされるようになります.Netscapeはタイミングが早くて,Googleはいいタイミングでした.私は『セカンドライフ』には期待しているので,宣言は慎重にしたほうがいいと思うんですがね.
ネットコミュニティとしての将来
庄司── SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が,今後発展していく方向は『セカンドライフ』のような3次元の仮想空間ではないかという議論もあります.『セカンドライフ』が,気の合う仲間と常に繋がっていたい人々のネット上の居場所として発展する可能性はあると思います.たとえばMySpaceのようなSNSサイトはライバルであるとお考えですか.それともSNSと『セカンドライフ』のコミュニティは異質なのでしょうか.
土居── どちらかというとMySpaceはブログを書きたい,ウェブページを作りたいというニーズから発展していったものだと思います.ユーザーとユーザーの間でコミュニティを作っていくということは共通の要素ですが,ルーツが違う.『セカンドライフ』の内部でブログを書くということもできると思いますし,SNSの基本的な機能はすべて『セカンドライフ』の中にあると思いますが,SNSをライバルとは思っていませんね.
仮想世界のガバナンス
庄司── インターネットには数千万人規模のネットコミュニティがいくつもありますから,『セカンドライフ』も将来はそういった規模になるかもしれません.そうなると,仮想社会も複雑になっていろいろと問題も起きてくると思います.その時にリンデン・ラボは,場の雰囲気や秩序の維持に積極的にかかわるのでしょうか.それともユーザーに主導権を渡して控えめに動くのでしょうか.
土居── コミュニティにアクセスできるユーザーを限ることができるように,島のオーナーはパーミッションをコントロールすることができます.しかし,ユーザー間のトラブルがなくなることはないと思っています.現実社会と一緒ですね.リンデン・ラボは,あらかじめ定めてあるコミュニティスタンダード(六つの禁止事項)を侵された場合には対処しますが,それ以外の場合には基本的には対処しません.われわれが常に監視して,特定の人たちを『セカンドライフ』からいなくさせるように何かをするということはしない方針です.ブログや『セカンドライフ』内で行うタウンホール・ミーティングを活用して,ユーザーの声に耳を傾ける機会は設けていて,それによってわれわれの決断を変えるということはあります.
リンデン・ラボとは
田熊── お話をうかがっていると,リンデン・ラボという会社もとても興味深いです.仮想とはいえ百万人以上の人々がいる社会を運営していますし,実際のお金と連動した経済活動もしていますから,社会学や経済学,政治学,金融などの高度な知識をもつ人たちがいらっしゃるのではないかと思うのですが,いかがでしょう.
土居── 8月に入ったばかりなのであまりよくわかりませんが,確かにゲーム,アニメ,スクリプティング,メディカル,物理学などいろいろなバックグラウンドをもっている人たちがコラボレーションしています.彼らのとても哲学的なメールも社内で飛び交っています.頭の良さや人と人との関係を大切にしていますから,博士号保持者やビジョナリーなど,人材の採用にかなりこだわりをもっているGoogleと似たようなところがあるかもしれません.そして,これだけプロダクト・サービスを愛している会社は正直言ってあまりみたことないですね.プロダクトには会社のあり方も反映されていると思います.
『セカンドライフ』はどこへ行くのか
庄司── 『 セカンドライフ』は今後,どこを目指していくのでしょうか.何でもできる場になっていく,というのも一つの方向ではあると思いますが…….
土居── 難しい質問ですね.技術的な動きとマーケットの動きがどうなるかにもよると思うのですが,おそらく最適な答えは,「1年後,半年後にどういう方向に動いているかわかりません」ということですね.ユーザーがどういう方向を求め作っていくのか,というのはわかりませんから.
庄司── なるほど.ユーザー次第というお答えは,とても『セカンドライフ』らしいと思います.今日はどうもありがとうございました.
"Second Life" ©2006 LINDEN RESEARCH, INC
