『セカンドライフ』の特徴
庄司昌彦(以下,庄司)── 米国のリンデン・ラボが運営する『セカンドライフ』は,新しい仮想世界としてさまざまなメディアが取り上げるなど,世界中で注目が集まっています.10月18日現在で100万人以上のユーザーが,3次元映像で描かれた自分の分身(アバター)を操作して広大な仮想世界を楽しんでいます.11月からは日本語版もスタートし,日本人ユーザーも増えているようです.今日は,10月に「セカンドライフ研究室」を設立された三淵先生に,『セカンドライフ』のさまざまな可能性と,研究室の取り組みについてうかがいます.はじめに,先生が注目されている『セカンドライフ』の特徴を教えてください.
三淵啓自(以下,三淵)── 『セカンドライフ』の特徴は4点あると思います.
一つ目は,これはゲームではない,ということです.『セカンドライフ』は,いわゆるMMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game)の一種として語られることもありますが,リンデン・ラボがシナリオや世界観などすべてを作ってユーザーに提供するのではなく,世界中のユーザーが参加して空間自体を作り上げていく,参加型の世界です.ユーザーが自由に作り上げる世界であるというのは最大の特徴だと思います.
二つ目は,クリエイター主体であるということです.『セカンドライフ』の中でユーザーは,建物や道具などあらゆるものを作り出すことができ,これらの著作権をもちます.通常のゲームでは,コンテンツの著作権は当然,ゲーム会社がもっていますから,これは大きな違いです.またこの著作権は,クリエイティブ・コモンズのライセンスで表示することができます.使用するための条件を細かくユーザーが指定することができるわけです.
三つ目は,今までにないコミュニケーションであるという点です.このような3次元立体像の表現をコミュニケーションの道具として使うということは,公共でしかも無料で使えるものでは,これまでになかったといえるでしょう.3次元立体像を用いることで,離れたところにいる人同士が空間を共有することができますし,2次元に移し変えたりすることなく,3次元のまま表示しながら打ち合わせをしたりすることができます.
四つ目は,RMT(Real Money Trade)やビジネスとしての側面があげられます.『セカンドライフ』の中では,リンデンドルという架空の通貨を用いてさまざまな物が売買されていますが,この通貨は現実のドルとの換金が可能です.1日に取引されている金額は日本円で数千万円という規模であるといわれています.また『セカンドライフ』の中には,ロイターなどのマスメディアが支局を設けていたり,インテルやトヨタなどのさまざまな大企業が拠点を設けて,マーケティングやプロモーション活動を展開したりしています.今後,『セカンドライフ』は経済活動の場として発展していくでしょう.
セカンドライフ研究室が目指すもの
庄司── 次に,研究室設立の経緯について教えてください.
三淵── 私は,リンデン・ラボに出資している企業から日本での展開について相談を受けていました.そこで私は,一般のコンシューマーも対象にしつつ,特にクリエイターたちに『セカンドライフ』を紹介するセミナーを企画しました.クリエイターたちが彼らの作品を発表したり,生計の糸口にしたりする場としてこの世界を使えるのではないかと考えたのです.セミナーの目的は二つです.一つは,3次元の世界に楽しみ慣れてもらい,多く使ってもらおうというコンシューマー向けの目的です.二つ目は,この3次元空間の中で活動をしようという企業などに対してコンテンツを制作する,現在のウェブデザイナーのような仕事をできる人材を生み出したいというクリエイター向けの目的です.その中からアート作品を生み出す人が出てくることも期待しています.セミナーは10月と11月に1回ずつ行いました.12月にはリンデン・ラボから講師を招いて,『セカンドライフ』の中における映画制作をテーマとしたセミナーを開催する予定です.
それから『セカンドライフ』の中に,デジハリランドという島を設けました.ここでは,クリエイターたちが『セカンドライフ』のさまざまな使い方を勉強することができるようにしていきます.また,物を作り出すための作業場も設けますし,作品を発表する場や,それを売買するモールも作る予定です.
庄司── ブロードバンド上でより高品質な3次元映像を表現するための技術開発など,技術的にもさまざまな興味深いテーマがあると思いますが,研究室では今後,どのような研究をされていくのでしょうか.具体的なテーマや,目指している成果を教えていただけますか.
三淵── いろいろなテーマがあるのですが,現在は主に二つのテーマから手がけようとしています.一つは,『セカンドライフ』内での検索性を高めるための取り組みです.現在,『セカンドライフ』の中では,必要な物がどこにあるのかという所在を探し出すのが大変であるという課題があります.そこでYahoo! のように,ユーザーが登録するディレクトリ型の検索サイトをウェブの側に設け,その検索結果をクリックすると『セカンドライフ』内の目的地に移動できるというようにしたいと考えています.まずは,『セカンドライフ』の画面とウェブの画面を同時に使うようにすることで検索性を高めます.そして将来的には,『セカンドライフ』の中にウェブを表示させる窓のようなものを設けることも考えています.
二つ目は,『セカンドライフ』の中でのプロジェクトマネジメントを支援するような機能を作りたいと考えています.この中でさまざまなクリエイターが協力して生産活動をするときの時間や情報の管理をどうするのか,ということです.まずはタイムカードのようなものになるかもしれません.多国籍の人々が協働作業をするときの言語の問題については,ウェブ上にある翻訳サイトと同等の機能がすでにあります.
その他には,『セカンドライフ』の利用が進むことで,インターフェイスの進化が加速されるのではないかと考えています.これまでもバーチャルリアリティの研三淵啓自氏究や技術開発は行われてきましたが,ここまで多くの人が利用するようなコンテンツはありませんでした.そのためデバイスが開発されても普及しないために値段が高すぎるという問題がありました.しかし『セカンドライフ』の中で活動するためには,従来のPCの画面やキーボードで作業をするのではなく,大画面やヘッドマウントのディスプレイが求められるようになるかもしれませんし,触覚と連動したバーチャルグローブをはめて操作をするようになるのかもしれません.バーチャルリアリティを活用することによって,人の移動を少なくしエネルギー消費を減らすことで,環境問題に貢献するというアイディアは以前からありましたが,それが実現していく契機になる可能性もあると考えています.
庄司── なるほど.『セカンドライフ』のような3次元の仮想空間の利用が盛んになることで,それに合わせて機器のインターフェイスや,利用スタイルまでもが変わっていくかもしれない,というのは興味深いですね.
ネットコミュニティとしての将来
庄司── 現在,世界各国で人気を集めているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が今後発展していく方向は,『セカンドライフ』のような3次元の仮想空間ではないかという議論もあります.常に繋がっていたい人々のネット上の居場所として,『セカンドライフ』が発展していく可能性についてどうお考えでしょうか.
三淵── それはあると思います.『セカンドライフ』では,初期費用として1,675ドルと維持費用として月々295ドルを支払うと「島」を購入することができます.そこでどのようなライフスタイルや価値観を採るかは,買った人の自由です.した
「セカンドライフ」内デジハリランドがって,『セカンドライフ』全体としては,さまざまな価値観をもった島がたくさん共存するということになります.仲良く会話を楽しみながら過ごすのが好きな人たちはそのような島に集まるでしょうし,戦うことが好きな人たちはそういう人たちの島で四六時中戦い続けるでしょう.そういった島を渡り歩くこともできます.また,問題のあるユーザーに対してはログインをできなくすることで罰を与えるなど,全体の調整はリンデン・ラボが行っています.
庄司── 世界中からアクセスするユーザーが,距離や言語の壁を越えてライフスタイルや価値観ごとにコミュニティを作り,実際に場を共有しているような体験ができるわけですね.そのような自律的なコミュニティが共存する『セカンドライフ』という世界全体が今後どう発展していくのか,ということはとても興味深いです.今日はどうもありがとうございました.