「地域SNS」の現状と可能性
庄司昌彦国際大学GLOCOM研究員


続々と立ち上がる地域SNS

 人と人の「つながり」を意識して作られたインターネット上の会員制コミュニティ,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が注目を集めている.約900万人ものユーザーを集める国内最大のSNS,「mixi」を運営する株式会社ミクシィが2006年9月に東証マザーズへ上場したほか,ライバルの「GREE」がKDDIとの提携を発表したり,1億人以上のユーザーを抱える世界最大のSNS,「MySpace」がソフトバンクとの提携で日本に進出したりするなど,大きなニュースが相次いでいる.また,さまざまなテーマや機能を持ったSNSが毎日のように登場するなど,SNSの「乱立」状態も進んでいる.
 そして,続々と増えているSNSの中で一つのジャンルを成しているのが,「地域」をテーマに掲げた「地域SNS」だ.町内会から市町村,県レベルまで規模はさまざまだが,地域の人的ネットワークをインターネット上に構築し,地域情報の生成・流通・蓄積や,現実のまちづくり,商業振興,観光振興などに活かそうという取り組みである.
 2004年の末に熊本県八代市で全国初の地域SNS「ごろっとやっちろ」が誕生し,2006年初頭からサイト数が急増,2007年2月現在では200カ所以上の地域SNSが存在している(図1).運営しているのは地方自治体や各地のシステム開発企業,メディア企業,NPO,個人などさまざまであり,これらが協働でSNSを立ち上げる事例も登場している.

図1:地域SNS累計数
地域SNS累計数
出展:地域SNS研究会調べ(2007年3月)

 地域SNSの規模をユーザー数でみると,平均のユーザー数は100~300人程だと思われる(作っただけで放置されているものを除く).表1のように,数千人規模のユーザーを抱える地域SNS も増えている.ユーザー数が最も多いのは福岡県の「VARRY」と東京の「表参道Comnit」で,約5,000人だ.これはmixi全体のユーザー数900万人に比べると3桁も少なく,またmixiで「現住所:福岡県」と登録しているユーザー数20万人や,mixi最大の地域コミュニティ「I Love Yokohama」のユーザー数3万6,000人と比べても大幅に少ない.だが,地域ネットコミュニティの代表例として知られている神奈川県藤沢市の「市民電子会議室」のユーザー数3,000人,三重県の「eデモ会議室」のユーザー数1,500人と比べると,同等以上の規模がある.地域ネットコミュニティの文脈で規模(ユーザー数)を評価するならば,地域SNSは無視できない存在になってきたといえる.
 地域SNSの運営者は,民間企業やNPO,個人,任意団体などさまざまだ.報道などでは地方自治体が運営する事例が目立つが,割合としては全体の1割程度で,最も多いのは民間企業だ.内訳はシステム開発企業が最も多く,地域情報サイトを運営する企業や,通信系,新聞・放送などのメディア企業もある.地域SNSの急増が始まった2006年初頭は個人(個人事業主)が多く,2006年秋以降はメディア企業の動きが目立ってきたという傾向の変化もある.民間企業のほかには,NPOなど非営利団体が多い.「あみっぴぃ」(千葉市西千葉地区)のように地域でパソコン講習などの「本業」ともいうべき活動を行っていた団体がSNSのサービスを開始した事例や,NPO法人の形はとらないが地域活性化を掲げる任意団体がSNSを開設した「イマソウ」(愛媛県今治市)や,商工会議所を中心とする有志が開設した「N[エヌ]」(長野県)などもある.

表1:ユーザーが多い地域SNS
( 出展:地域SNS研究会調べ(2007年3月 )
SNS名地域ユーザー数
VARRY福岡県約5000人
表参道Comnit東京都渋谷区表参道約5000人
ひびの佐賀県約4000人
ごろっとやっちろ熊本県八代市約3000人
京都Comnit京都市約3000人
Yebisy!東京都渋谷区恵比寿約2900人
青森SNSコミュニティ青森県約2600人

急増の背景

 地域SNSが急増した背景にはいくつかの要因がある.最も大きいのは「mixi」などSNSの流行であろう.ユーザーとしてSNSを利用する楽しさや,運営者側のメリット,mixiに対する不満などを感じた人の中から,SNSをビジネスや地域活性化などさまざまなコミュニティで利用したいというニーズが高まっている.
 二つ目は,総務省が2005年12月から2006年2月まで,新潟県長岡市と東京都千代田区で行った地域SNSの実証実験だ.この実験は,「ごろっとやっちろ」の成功を受け,地域SNSが行政への住民参画や防災情報の共有などに使えるかどうか,ということをテーマに行われた.ICTを用いた行政への住民参画については,1990年代後半からすでに電子掲示板(BBS)を用いた取り組みが各地で行われており,2002年には全国で733自治体を数えた.だがわずかな成功例を除くほとんどの事例が,議論が盛り上がらなかったり,荒らされたりして失敗に終わっていた.そこで,互いのプロフィールを明かすことで実名性が高く安心できるSNSに,期待が寄せられたのである.安心なコミュニケーションという点で総務省の実験は一定の成果を残した.だが,それよりもこの実験を通じて「地域SNS」というアイデアが多くの人々に認知され,彼らの想像力を刺激したことが大きかった.
 そして三つ目の要因は,オープンソースプログラムの登場である.SNSの特徴が広く認知され,総務省実験などによって地域SNSへの関心が高まっているところに,「OpenPNE」(オープンピーネ)というだれでも無料で利用できるプログラムが,タイミングよく登場してきた.そして「GoogleMaps」や「Skype」,天気予報やニュースサイトのRSS配信など,さまざまなツールを組み合わせてサービスを作り上げる「マッシュアップ」の流行にも乗って,新たな地域情報サイト構築の試みが各地で行われるようになった.

地域SNSのビジネスモデル

 では地域SNSは,ビジネスとして,あるいは公的な事業として,発展性や持続可能性のあるものなのだろうか.
 まず,運用コストを確認してみよう.総務省の報告書では,地方自治体が地域SNSを設置運用するためには,最も安くて年間28万円程度(オープンソースプログラムや,既存の環境,既存の技術者などを活用),新規にハードウェアを用意して外部業者に導入運用を委託すると750万円以上がかかると述べている.民間の地域SNS運営者の中には,無料で利用できるASP(Application Service Provider)や,年間数万円程度のホスティングサービスなどを使い,導入・運用の作業を自ら行うことで,年間10万円以内程度の費用で運営しているところもある.
 地域SNSの運営費用をどこから調達するのか.地域SNSの現状を大きく整理すると次の四つになる.一つ目は公営・協働モデルだ.地方自治体などの公的予算を投入することで初期費用などをまかなう.二つ目は広告モデルだ.大手SNS と同様に,バナー広告を外部から獲得して表示する.三つ目はCRM(Customer Relationship Management)モデルだ.これは,地域情報サイトやシステム開発,NPOなど「本業」を持つ事業者が関連サービスとして地域SNSを運営し,顧客や潜在顧客との関係を構築・維持したり,人々の話題や消費動向を知ったり,自社の認知を広めたりするなど,「関係価値」に基づく副次的なメリットを得るものだ.そして四つ目は非営利・自己負担モデルだ.
 地域SNSだけで運営費用をまかなうことは,きわめて難しい.実際にはCRMモデル的に運営し,かつ若干の広告収入も得ようとする組み合わせが多く見られる.そのほか,非営利・自己負担で運営している地域SNSが,結果としてCRM的に関係価値のメリットを受けることなどもある.いずれにしろ,さまざまな「組合せ」を考えるのが現実的なようだ.

地域SNSには何ができるのか

 SNSは,ユーザーが自由に情報発信できるCGM(Consumer GeneratedMedia)であり,また任意のグループを自由に作り出し交流やさまざまな活動に役立てられるGFN(Group Forming Network)である.とはいえ,具体的には何ができるのかということについてはさまざまな議論がある.地域SNSの先進事例を概観してみると,友人とのコミュニケーションを楽しむ,さまざまなコミュニティで情報交換ができるといったことのほかに,地域SNS独自の傾向として(1)オフライン活動の活性化,(2)既存の人的ネットワーク間の橋渡し,(3)地域メディア化,を指摘することができる.
(1)オフライン活動の活性化
 ユーザーが実際に顔を合わせられる距離に住んでいることを活かし,オフライン活動が活発に行われている地域SNSがある.「VARRY」(福岡県)や「ドコイコ」(香川県),「ショコベ」(神戸市)などでは,SNSでの交流をきっかけとして,ユーザーがスポーツをしたり音楽イベントを開催したりグッズを作ったりボランティア活動をしたりしている.ユーザーが実際に集まって行う「オフ会」といえば,飲み会や食事会というイメージが強いが,活発な地域SNSで行われているものには「イベント」や「プロジェクト」と呼ぶ方がふさわしいと思えるほど,規模が大きかったり,手が込んでいたりするものがある.また「あみっぴぃ」のように,オフラインのNPO活動が先にあり,SNSはその補完をする道具であると明確に位置づけている事例もある.
 ネット発で起きたオフラインのイベントや活動といえば,2002年頃から匿名掲示板「2ちゃんねる」を中心に行われていた「オフ」がある.「オフ」はオフ会のことだが,「突発オフ」「大規模オフ」「ネタオフ」などとも呼ばれ,独特の意味を持っている.掲示板上でさまざまな企画内容を練り上げ,オフラインでさまざまないたずらや抗議行動,ボランティア活動などを行った.この「オフ」では,ネットコミュニティのメンバーが,議論を通じてネタの意味や文脈(何がおもしろいのか,など)を共有し,場(2ちゃんねる)への愛着や,仲間意識を醸成していた.
 おそらく地域SNSの運営にも,「オフ」のようなボトムアップで創発的なイベント企画が,重要な役割を果たすだろう.そして,SNSと結びついたさまざまなオフライン活動によって,地域が活性化していくのではないだろうか.したがって運営者には,ネット上のツールを開発する能力だけではなく,オフラインのプロジェクトを運営するスキルなども必要とされる.
(2)既存の人的ネットワーク間の橋渡し
 既存の組織や活動の枠を越えて,新たな人と人のつながりを作り出す「橋渡し」も意識的に行われている.「ひょこむ」ではこのような効果をねらい,友人に友人を紹介することを「仲人」と呼ぶなどして積極的に行っている.「かわさきソーシャルネット」(川崎市)では,市内各地でまちづくりやサークル活動などに取り組んでいるキーパーソンをSNSに招待することで,彼らをつないでいる.そしてそのコミュニケーションの中から地元をテーマとするインターネットラジオ番組「ラジオたまじん」が生まれた.まちづくり活動やサークル活動には,必ずといっていいほど積極的に働き,人と人,人とリソースなどの「コネクター(ハブ)」となる人物がいる.このようなキーパーソンを意識的に招待し,つながっていなかった人同士を結びつけていくという取り組みは,地域SNS内のコミュニケーションの濃度を上げ,また現実社会における継続的で強い人間関係の形成に役立つのではないかと考えられる.
(3)地域メディア化
 地域SNSは,ユーザーの手によって地域に関する情報を多く生み出し,記録・伝達する新たな「地域メディア」になろうとしている.地域SNSでユーザーが書く個人的な日記やコミュニティで交わす話題は,他愛のないものが多い.だが,SNSで書かれる情報の多くが,その地域をネタにした地域情報であることに大きな意味がある.つまり地域SNSは,地域に関する情報を広く薄く増加させ,「だれが」,「いつ」という情報とともに蓄積する場所になるということだ.さらに,地図機能を連動させているところでは,「どこで」という情報も加わる.地域に関する情報が,「だれが」,「いつ」,「どこで」という情報とともにSNSや地図に蓄積されていくことは,将来的には地域の財産にもなるし,新たなサービスや,実際に地域を変えていく活動のための基盤ともなるだろう.
 また,地域SNSの中でユーザーが作り出すさまざまな情報に編集を加えてSNSの外部に向けて発信するという取り組みが,インターネット上だけではなくフリーペーパーやラジオ,新聞,テレビなどのメディアへと広がってきている.鹿児島テレビの「NikiNiki」や佐賀新聞の「ひびの」など,地方のメディア企業がSNSの運営に乗り出しているのは,ユーザーが作り出す地域情報と既存の地域メディアとの新たな関係を模索する動きととらえられるだろう.

地域SNSの今後

 ネットコミュニティは,「2ちゃんねる」に代表される匿名掲示板や,「セカンドライフ」に代表される仮想世界など,現実社会や個人の実名とは切り離された場所を求める方向に強いベクトルが働いている.その一方で,現実社会の生活や人間関係,社会生活などを豊かで便利なものにするためにネットコミュニティを使おうというベクトルもあり,地域SNSは後者に位置づけられる.
 本稿執筆時点(2007年3月)で,世間の地域SNSへの関心は高い.地方自治体も民間企業もNPOもまだまだ関心を持っており,もうしばらくは各地での導入が進みそうだ.
 また国内ではSNSのテーマの細分化やコミュニティの小規模化が進んでいるので,おそらく地域SNSも,子育て支援や産業振興,自治活動などのテーマごとに分化し,多様化が進んでいくと予想される.そして,人々が目的や関心に応じて仲間を募り協働するための機能の強化も進むだろう.すでに地図,ニュース速報,クーポン券,チャット,動画投稿,携帯電話との連携などの機能を特徴とするものが現れてきているが,今後は地域通貨,ターゲット広告,イベント支援など,地域ならではの機能やテーマに応じた機能を付加しながら地域SNSは進化していくだろう.
 また分化の一方で,「連携」も必要になってくる.地域SNSがそれぞれの地域で完全に閉じた情報系として存在するよりも,外部のウェブサイトや別の地域SNS,大手のSNSなどと部分的に連携することで,ユーザーの利便性や情報の価値は高まるはずだ.
 さまざまな機能開発やサービス開発の試行錯誤の中から,地域情報化の成功例であると呼べるような持続可能なモデルが登場してくることが望まれる.

地域SNS研究会

 国際大学GLOCOMでは,2006年3月に地域SNS の運営者・開発者,研究者などと「地域SNS研究会」(http://www.glocom.ac.jp/project/chiiki-sns/)を結成し,最新動向の把握や事例紹介,運営上の課題に関する情報交換や調査などを行ってきた.地域SNS研究は,GLOCOMがこれまで行ってきた地域情報化に関する研究やアクティビストの支援,ネットコミュニティ研究などの成果を受け継いでいる.そして,地域SNSの当事者と観察者の双方の視点から将来の「ありたい姿やあるべき姿を計画・説明・評価する」という,設計科学を目指しているともいえる.
 ここまでの成果は,『地域SNS最前線 Web2.0時代のまちおこし実践ガイド』(アスキー,2007年3月刊)という書籍にまとめたところだ.今後は,「2010年の地域SNS」を考えるプロジェクトなどを推進していく.関心をお持ちの方には,ぜひ参加をお願いしたい.