『EAで繰り返される悲劇』
丸田 一(GLOCOM主幹研究員)
地域は、三点セット(地場産業衰退、地域コミュニティ崩壊、個性喪失)といわれる深刻な病気を患っている。 これまで国は、病気が流行するつど新薬を開発しては地域へ一斉投与を続けてきたが、一向に薬は効かず、ことごとく治療に失敗してきた。薬が効かない理由は 明らかである。似たようにみえても患者によって症状が違うからであり、患者である地域を診ることなく国が治療法を決めているからであり、一方、患者本人は 自らの心身への関心や治ろうとする意志が希薄だからである。
地域が抱える最も深刻な問題は、この点にある。地域が、自分で治すしかない病気を患っていることに地域自身 が気づかないばかりか、他人を頼り続けることが問題なのである。この致命的な勘違いを正さないかぎり、治療効果は現れない。その点で期待されているのが地 方分権改革である。これは国と地方の役割を見直す構造改革であると同時に、国と地方それぞれの意識改革でもある。99年に地方分権一括法が公布され、歩み は遅いが地方分権改革は現在も進行中である。
ところが今、地方分権の流れに逆行して、国による新薬投与という悲劇が繰り返されようとしている。政府の IT調達改革である。
政府の情報システムに関する調達(IT調達)は、情報サービス市場の約2割を占める規模の大きさをほこる。 こうした中で2000年、安値落札騒動が起こった。政府のIT調達で「1円入札」など採算を度外視した落札が続き、その後、公的取引委員会が大手ベンダー 等に指導を行ったにもかかわらず、2001年後半まで安値落札が続いたのである。
これが契機となり、中央政府では経済産業省を中心にIT調達改革が進められてきた。大手ベンダーへの依存度
が過度に高いことや、組織単位で似たシステム開発が行われていること、属人的能力に頼った業務遂行、つまりITを知らなければキャリア官僚でも口出しでき
ないなど政府IT調達における問題点が整理された。そして、これを解決する手段としてEA(エンタープライズアーキテクチャ:業務・システム最適化計画)
という完成度の高い仕組みが提案された。EAは、米国のFEA
そして、2004年度は、多くの地方自治体が一斉にEAを導入すべく予算を確保した。中央政府は地方自治体 等への普及を促進し、都道府県もこれに強い関心を持つという現在の流れからみると、多くの都道府県が中央政府の策定したEA策定ガイドラインをもとにし て、日本版EAがコピーされていくことが想定されている。
これらの地方自治体は、どんな地域問題や組織問題を解決するためにEAという道具を導入するのだろうか。
日本版EAは、ガイドラインが本文だけでA4版200頁を超えるなど、電子自治体の中核に据えるべく膨大な 体系を持つ仕組みである。地方自治体の職員は膨大なEAの体系を組織ぐるみで勉強し、あるいはシンクタンクなどの助けを借りながら、悪戦苦闘して庁内に新 しい仕組みづくりを進めていくことだろう。しかし、いくら策定ガイドラインにそってきれいに整理されたEAの目的や機能を端から理解したとしても、安値落 札騒動の際に中央政府が受けた動揺までは追体験できず、EAを理解し導入するだけで精一杯であることから、導入することが目的となりかねない。少なくと も、利用する動機が希薄な借り物の道具になることは否めない。
これと全く対照的なのが、長崎県CIO島村秀世さんが進めている「長崎ITモデル」
多くの地域が、評判のよい出来合いの日本版EAという道具を無自覚に導入しようとしている中で、長崎県で は、現場の問題を起点として解決法を模索するという全く別のアプローチで、日本版EAに匹敵する自分の道具を作りだしている。この道具に対する主体性の違 いは、いずれ道具を使う段階になって大きな差となって現れるだろう。