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ICタグをメール送信のスイッチとして使う

庄司昌彦(GLOCOM研究員)

 

 数千人、数万人、という人たちが参加するマラソンや駅伝の市民大会では、7~8年前から、「RCチップ」と呼ばれるICタグが使われている。参加選手は、大会主催者から配布された ICタグをシューズに結びつけて走り、中継点やゴールに付けられたカーペット状のリーダの上を通ることでタイムが計測されるという仕掛けだ。このシステムのおかげで、計測者が何人も張り付いてストップウォッチを押す必要が無くなり、正確なタイムが記録されるようになった。

 昨年筆者が参加したある駅伝大会では、そのシステムが一段進歩していて驚いた。これは、株式会社ランナーズが運営しているGTMailSというサービスで、選手のICタグがリーダを通過すると同時にタイムがデータベースに記録されるだけではなく、あらかじめ登録しておいた携帯電話のアドレスにメールで送られる。このとき、ICタグはメールを送信するためのスイッチのような役割を果たしている。

 フルマラソンの大会では、5キロ地点、10キロ地点、など途中の通過タイムまで携帯電話に届く。これによって、付き添い者が選手のゴールタイムを予測することができるし、選手はゴール後すぐにペース配分を確認して反省の材料に使うこともできる。

 ゴール後すぐにタイムを掲示したりプリントアウトしたりしてくれる大会が無かったわけではないが、その作業には膨大な手間がかかるようで、数週間後に大会事務局から郵送されてくるまで自分の正式タイムが分からないということの方が多かった。GTMailSは、ICタグによるタイム計測と即時性のあるメールを組合わせることで、選手の利便性を大いに高めてくれたといえよう。

 GTMailSのようにICタグとメールを組合わせたサービスとしては、六本木ヒルズが行っていたR-Clickの「ぶらっとキャッチ」や、オムロンと小田急が行っている「グーパス」とIC鉄道カード(スルッとKANSAI)を統合した「PiTaPaグーパス」がある。いずれも、ICタグやICカードがリーダを通過すると携帯電話にメールを送信し、情報が読み取られたということを直ちに利用者に報告している、という点が興味深い。

 ここで、慶應義塾大学の國領二郎教授が『デジタルID革命』で述べているICタグ利用の「コンシューマー・エンパワーメント戦略」という考え方を紹介してみたい。これは、IC タグの利用につきまとうプライバシー問題の根底には、利用者に「知らないうちに、企業や権力者に情報を握られて弱い立場になってしまう」ことへの恐怖感、つまり「情報の非対称性」がある、という認識に基づいている。そして、情報の非対称性を小さくするために「顧客に情報と選択権を寄り多く与え、そのことによって増す満足感や、販売機会の増大を軸にビジネスモデルを構築する」という戦略が有効ではないか、というものである。

  ICタグを使ったタイム計測で選手がプライバシーを問題した、という話は聞いたことがないが、上記の議論は参考になる。まず、ICタグによるタイム計測は、参加選手にゴールタイム等の情報を提供することを目的としているので、初めからコンシューマー・エンパワーメント戦略のサービスであったといえる。そこにGTMailSのメール送信サービスが加わったことで、情報提供の即時性や個別性を向上させ、利用者の利便性やサービスへの信頼を大きく高めたと考えられる。

 コンシューマー・エンパワーメント戦略に基づいたICタグとメールの連携は、(たとえば以前筆者が紹介した航空手荷物輸送のような)自分の物を誰かに預けるサービスの高付加価値化など、さまざまな利用シーンに応用できそうであり、発展を期待したい。