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保守サービス勝ち残り戦略

霜島朗子(GLOCOM主任研究員)

 

 ビジネス市場が急拡大している第三者保守サービス(Third Party Maintenance)。他社製品を対象としたメンテナンス・サービスである第三者保守サービスは、IT社会の進展や環境規制の強化に伴い、注目を集めている。今回は、第三者保守サービスで実績をあげているオムロン・フィールド・エンジニアリング(株)(http://www.omron-fe.co.jp/)の諏訪良武常務取締役にお話を伺い、保守ビジネスの新たな可能性について考えた。

保守ビジネスの高まる重要度

  2003年に施行された「家電リサイクル法」などの環境規制の強化により、社会的に「壊れたら捨てる」のではなく、「壊れても直して使う」というリサイクル・リユースへの要求が高まってきている。それに伴い、今後は故障時に修理を行う保守サービスの市場は拡大すると予想される。

 一方、保守サービスにおける顧客のニーズは高度化してきている。コストダウンはもちろん、24時間365日の出動要請や保守リードタイムの短縮なども求められている。受付時間が限られていては、いざという時に役に立たないかもしれない。また、コールセンターに電話がつながらなければ、かえって苛立ちを増すことにもなりうる。保守サービスで勝ち残っていくには、単なる販売のオマケとしてではなく、満足してもらえるレベルのサービスをスピーディーに提供し、確実に顧客のニーズを実現していかなければならない。

 保守は顧客満足にダイレクトに影響を与えるサービスであり、そのぶんサービス向上への期待は高い。つまり、保守を通じて顧客との信頼関係を維持し続けることで、既存の顧客を優良顧客に変えることができるのだ。現在、企業が効率的に売上を伸ばしていくためには、CRM(Customer Relation Management)が重要な課題とされているが、その観点からしても保守サービスは大きな可能性があるといえるだろう。

収益力が高い保守ビジネス

 大手コンピューター保守サービス会社、NECフィールディング(株)(http://www.fielding.co.jp/)の売上は、2004年3月期で2,506億円にのぼり、2年間で約1.5倍の162億円の経常利益をあげている。新しい技術の活用によって保守のコストダウンが進み、メーカーにとっては製造よりも保守の収益率が高くなってきている。

 例えば、コンピューターと電話システムを連携させたCTI(Computer Telephony Integration)を用いたコールセンターの導入により、既存の顧客データを最大限活用し、効率的に保守を行えるようになった。さらにモバイル端末の活用により、いつでもどこでも顧客のデータを手に入れることができ、迅速な対応が可能となった。

 このような新しい技術によって、顧客から受け取る保守費用はそのままでも、実際の運営コストは下がり、利潤が高まってきている。それ以上に、より質の高いサービスが提供できるようになり、保守サービスが競争上の大きな強みとなっているといえる。

最新技術でドラスティックな業務改革

 オムロン・フィールド・エンジニアリング(株)は、電子機器製品の設置保守サービスの会社で、当初は売上の90%以上を親会社であるオムロン製品が占めていた。しかし、昨年度はその比率が54%に下がり、今年度は第三者保守による売上が半分以上になると見込まれている。

 同社は2004年3月、日本オフィス・オートメーション協会から「ITを利用した経営革新の最優秀企業」として表彰された。技術や接客のスキルアップなど「人によるCS(Customer Satisfaction)」だけでなく、先進のコールセンターなどの「仕組みによるCS」の向上に注力し、抜本的な業務改革を実施したからだ。

 その結果、顧客の現場に出向かず電話だけで問題を解決する比率を高め、約5万件の出動を軽減させた。さらに、第三世代携帯「FOMA」を利用し、外出先で地図情報と連動させながら顧客の保守履歴情報データベースにアクセスできるシステムを構築し、「顧客に最も近い保守技術者が30分以内に駆けつけること」を目標にした保守サービスを展開した。そして、顧客満足度を大幅に高め、一人の技術者が多能工的役割を果たすことによるコストダウンも実現することとなった。

 また、当初、最も反対の多かった「webによる進捗公開」も予想以上の効を奏したという。これは、顧客自身が技術者のいる場所と作業状況を確認できるようにしたシステムで、これにより督促苦情が1/20以下に削減できたばかりでなく、技術者の緊張感アップにつながり、生産性の高いサービスを提供できるようになったのだ。まさに、これらの巧みな仕組みが、ドラスティックな業務改革効果を発揮したといえるだろう。

本気で保守ビジネス

 オムロン・フィールド・エンジニアリング(株)の諏訪常務は、業務改革のポイントとして、「カオスの状況の中で改革を進める」「過去の経緯、細かな意見の相違にこだわらない」という2点をあげた。これは印象的であった。競争に勝ち残っていくために「待った無しの状態」だったといえるだろう。そして、大胆にも、業務プロセスの改革だけでなく、抵抗勢力を防ぐための全拠点長のローテーション、実質成果を反映した人事評価制度導入などの改革を同時並行で実施したことは、大変興味深い。そこには、相当な反発や苦労があったことが容易に想像できる。いかにして改革に踏み切ることができたのだろうか。それは、経営トップ自らが、現場の不満や悩み、非効率の原因を直接知り、本気で顧客中心のCSを実行しようと決意したからであろう。

 第三者保守サービスは、駅の改札やエレベーターなどの産業機械が中心であったが、法人ユーザーのパソコン保守などにも広がってきている。今後は、一般消費者向けにも拡大していくと考えられている。しかし、現状では、まだまだ技術力の向上や保守費用の低下などの課題が残る。もっと便利に利用できるように、コールセンターの更なる充実や修理しやすい製品設計の進展、顧客情報の保護の強化が必要だろう。さらに保守で得られるノウハウを顧客企業の製品開発のプロセスやシステム開発などにも活かし、保守を意識したトータルなビジネスモデルの定着が望まれる。

 そのためにはまず、企業が本気になって保守サービスのCS向上に注力し、お客様中心のサービスを展開していかなくてはならないだろう。