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Center for Global Communications,International University of Japan

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はてなコミュニティーの拡大と未来

  • 講師:近藤淳也
  • 株式会社はてな代表取締役

 2004年11月10日、IECPでは株式会社はてなの代表取締役である近藤淳也氏をお迎えして、「はてなコミュニティーの拡大と未来」と題した研究会を開催した。周知の通り、株式会社はてなは、群雄割拠の時代に入ったブログサービスの中でももっとも成長著しく、またユニークな特徴を持っている「はてなダイアリー」を中心として事業を展開しているベンチャー企業である。今回の研究会では、近藤氏に「はてな」のサービスを支えるユーザーコミュニティの現状と、今後の展望について話していただいた。

株式会社はてなのこれまで

 はてなの最初のサービスである「人力検索エンジン」がスタートしたのは2001年の7月。近藤氏によると、これは従来型の検索エンジンが「スペースで区切るとand検索」のように、初心者には分かりづらいルールだったことに疑問を感じ、電話番号案内と同じようにホームページを探すことができないかと考えて始めたサービスだった。このときから「誰にでも分かりやすい」という、はてなのサービスすべてに共通するコンセプトが存在していたのだという。

 話し言葉で質問ができる人力検索エンジンをうまく機能させていくためには、質問に答えてくれる人がいなくてはどうしようもない。そこではてなでは「はてなポイント」という独自のポイントを発行し、質問者が回答者に支払うことで、インセンティブを持たせることのできるシステムを導入した。これは同時に、「その質問は過去にもあったのでそっちを読め」といった、回答者が質問者よりも強い立場にある従来型の質問掲示板から、「質問者の方が力を持ったシステム」へと発想の転換を図ったということでもある。以後、はてなはこのポイント制度を応用して、サービスの拡大につとめていった。

 2002年の5月には、お気に入りのページの更新状況を知らせてくれる「はてなアンテナ」のサービス提供を開始。2003年の3月には、はてなのキラーコンテンツとなったブログサービス「はてなダイアリー」の正式稼働をスタートさせる。

 現在までに全体で20万人以上のユーザーを抱えるはてなの爆発的な拡大を促した「はてなダイアリー」は、ユーザーが自分の日記を簡単に公開・編集できることを目指した設計になっており、また「キーワードリンク」という独自の機能によって、自分と関心の近い人の日記へのリンクを促すシステムを有している。このシステムが、「はてな」というサービスにおけるユーザー同士のコミュニティを生み出していく原動力となった。たとえば「はてなダイアリークラブ」という、キーワードリンクを利用した日記連動企画がユーザーの中から生まれてきているという現象がある。

 「短歌日記」というはてなダイアリークラブでは、ユーザーが自分の日記に短歌を書き、そこに「短歌日記」というキーワードを加えておくだけで、キーワードのページへとリンクが生成される。逆に言えばこのキーワードを通じて、たくさんのユーザーの短歌日記へのリンク集が毎日更新され続けているわけだ。あるいは「はてなダイアリー映画百選」というクラブでは、リレー形式でユーザーの映画評が書き継がれており、見ず知らずだったユーザーが、ひとつの連続映画評でつながっている。こうしたユーザー同士の交流が非常に盛んなのも、こうしたはてなダイアリーの設計思想が元になっている。

 はてなのユーザー数の拡大に伴い、2004年2月に株式会社化したのを皮切りに、4月には東京都渋谷区へ事業所を移転、また5月には「はてなグループ」のサービスを開始した。その後はオンライン書店bk1やTSUTAYAなどとの連携サービスなども行いながら、現在もユーザー数、ページビュー数ともに増加を続けている。

「ダイアリー」から「はてな全体」へ

 はてなのユーザーの特徴として挙げられるのは、20代から30代のユーザーが8割を占めるという形で若者に人気があること、そしてその中でも文筆業に携わる人が多いということだ。インターネット全体を見ても、アクティブなネットワーカーが多いといわれているこの世代がはてなの成長を後押ししたのだといえるが、でははてなのビジネス的な側面はどうか。

 実は、起業当初から長い間、はてなは本来のサービスで収益をあげることができず、ビジネス向けの委託開発などで得た収益を、はてなのサービスに還元する形で自社サービスを運営してきた。それが一昨年から今年にかけてのユーザー数の増加に伴い、ようやく自社サービスから収益をあげる方向に舵を切ることができたのだという。先に紹介した他社サービスとの連携もそうだが、それ以外にもオプションの有料サービスや、ビジネス向けサービスなどを展開し、ようやく「はてな」としてのビジネスが動き始めたといえるだろう。

 また、「はてなポイント」の動向も非常に注目される。もともとはてなポイントは、人力検索エンジンにおいて、回答者へのインセンティブとして用意された「1ポイント=1円」のシステムだったが、現在でははてな全体のサービスで利用可能な、一種の共通通貨となっている。また、特徴的なのはユーザーがこのはてなポイントを単なる額面を表す単位ではなく、「はてな」というプレミアムな価値を有したものだと考えているということだ。

 たとえば、読んでいて面白いと思ったユーザーに対して、手持ちのポイントを送信する「投げ銭」などが代表的だが、はてなでは、ポイントを「質問に対する回答」のような、自分にとって利益になる行動だけでなく、寄付のような形でやりとりする例がよく見られる。また、先日の新潟中越地震の際に、はてなポイントによる義援金を募ったところ、わざわざポイントを購入して寄付をしたというユーザーが多くいたのだという。決済や購入にかかる手間を考えれば、わざわざポイントで寄付を行う必要はないはずなのだが、そこに「はてな」であることの価値が見いだされているということなのではないか。ポイントというサービス内共通通貨を基軸に、「はてなダイアリー」を運営する会社から、はてなポイントを用いた総合的なサービス提供主としての「株式会社はてな」全体へと、ユーザーの視点は移りつつある。

今後の展開に向けて

 そうした中で、これまで以上に困難な課題も登場している。現在はてなが直面しているのは、たとえばユーザーの日記やキーワードにおける、プライバシーや著作権侵害、詐欺などの法律違反に当たる可能性のある記述をどのように管理するかという問題だ。あるいは、そうした問題への対処の一環として検討中である「ユーザー住所の登録」を巡って、利用者から反発が起きていることなども含め、はてなの一挙手一投足は内外から非常に注目されているところである。

 ブログやソーシャルネットワークサービスといった、2004年に急速に拡大したサービスも、1年前にはビジネスになるのかどうかは半信半疑という風情だった。事実、はてなもユーザー数の急速な拡大に合わせて、これから「ビジネス」という側面について検討するという状況なのである。しかし忘れてはならないのは、はてなの急成長の陰には、これまでのネットベンチャービジネスが目指していた「いかにして利益を拡大させていくか」を最優先課題にせず、ユーザーの側に立ったサービス開発を行ってきたはてな自身のキャラクターがあったということだ。それが最終的に、ユーザー同士の交流やポイント流通によって培われる「はてなコミュニティー」に対するユーザーのロイヤリティの源泉になったのであり、それこそがはてなの最大の資産なのである。

講演を終えて

 多くの参加者の関心は高く、特にはてなとして、今後の展開をどのように考えているのかという点に質問が集まった。企業として、収益を上げるために力を入れていくサービスや、IPO(株式公開)ないしM&Aを見据えた事業展開のヴィジョンなど、これからのはてなが考えるべき課題とそのオプションが見えてきたのではないかと思う。結果として非常に有意義な会になったのではないだろうか。近藤氏には、あらためて御礼を申し上げたい。

 鈴木謙介(GLOCOM研究員)