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情報社会と二つの設計
GLOCOM 主任研究員
情報社会と設計
第一回の「情報社会と設計」研究部会(以下、設計研)では、一連の設計 研の議論の皮切りとして、情報社会に特有の設計の在り方について議論を 行った。そのような設計の例として、インターネット・アーキテクチャの設 計の在り方を取り上げ、情報社会で道具の設計を考えていく際には、道具そ のものの設計だけではなく、道具の設計のための「場」の設計が重要である という考えを提示し、この話題について、委員の方々に議論をしていただい た。
情報社会に特徴的な設計の対象となるものの代表例はソフトウエアであろ う。ソフトウエアの設計は、産業社会で設計の対象となっていた工業製品や 建築物とは異なり、再設計が継続して起こり続け、社会の中で使われながら 更新されることがある。例えばマイクロソフト・ウィンドウズのように、利 用者が「Windows Update」機能を通じて常にソフトウエアを更新し続ける ことを前提に作られているものもある。設計は消費者への引き渡しの時点で は終わらず、使われながら再設計・更新が続けられていく。設計にかかる時 間は長くなり、製品としての完成がないようなケースもあり得る。「走りな がら作り続ける」のが情報社会における設計である。
例えば、インターネット技術の設計・開発がその好例だ。インターネット・ アーキテクチャの特徴は、技術面ではend-to-endモデル、分散的なアーキ テクチャ、レイヤリングの概念などを導入したことにある。しかし、同じく らい重要な特徴は、設計プロセスに「動くこと」を重視し、技術者が競い合 い、協働して設計を煮詰めていく標準化プロセスを採用したことである。同 時期に国際機関でOSIと呼ばれるほぼ同様の機能を持つプロトコルの標準 化が進められていたが、結局インターネット技術が生き残ったのは、「設計 の場」がより優れていたということが大きな要因だった。
このように、どのようなプロセスで設計・再設計していくかが重要にな る。情報社会では、産業社会と比べよりオープンな形の設計が行われるよう になってきており、設計者同士がアイデアを交換したり競争したりする「設 計者の場」が作られるようになっている。また、最近では開かれた「設計の 場」が多く見られており、「設計の場」への参加が自由であったり、外部か らの意見を受け入れる仕組みが作られている。このことにより、利用者と設 計者の間が以前よりも密接になってきている。つまり、「利用者の場」が「設 計者の場」とは別に存在し、この二つの場をどう設計し、関係付けるかが重 要になってくる。
この発表に対し、委員の方々にはさまざまな意見を交換していただいた。 第一の論点は、全体最適を実現する設計の場のデザインについてのものだ。 目指す全体像を可視化し、それをなるべく設計者が共有して全体最適を可能 にするアプローチがある一方、部分最適を積み重ねていくことで、全体最適 が自然に実現されるような構造もあり得る。例えば、最近ソフトウエア開発 管理の手法としてよく言及されるEA(エンタープライズ・アーキテクチャ) は前者の例であり、インターネットの設計の場であるIETFやオープンソー ス・コミュニティは後者の例と言える。その議論の中で、オーナーシップと リーダーシップの関係が重要となってくることも指摘された。
また、後半ではさらに抽象度を上げて、新しいものを生み出すような場の 設計が可能かどうかということに議論が及んだ。この議論の中では、果たし て「創発」を設計することは可能かということが議論された。この中では、 第一回の倫理研でも話題になった脱社会的存在が設計に参加するような場を 作れるか、設計の場のルールの再定義可能性などに議論が及んだ。