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Center for Global Communications,International University of Japan

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日韓のIT・メディア政策

  • 講師:高選圭
  • 韓国中央選挙管理委員会選挙研修院教授

 韓国の情報化の進展には日本を凌ぐものがある。2004年のデータ*1で、インターネット利用者3,158万人(対人口比65.7%)、携帯電話利用者3,625万人(対人口比76%)、ブロードバンド加入は全世帯の約八割に達している。インターネット・バンキングや電子商取引が盛んで、電子署名の利用者は915万人、取引全体の14%が電子商取引によって行われているという。ユビキタス・ネットワークのインフラ整備も進められていて、慶尚南道の昌原市では世界初のユビキタス都市が建設されようとしている*2。韓国はどのような戦略によって、これからの情報社会を築こうとしているのだろうか。

 7月12日のIECP研究会は、韓国中央選挙管理委員会選挙研修院教授でGLOCOMフェローでもある高選圭(ゴ・ソンギュ)氏を講師に招き、韓国のIT政策や開発中の電子選挙システム、今年から開始されたDMB(Digital Multimedia Broadcasting)サービスなどについてお話をうかがった。高氏は日本の東北大学大学院を修了(情報科学博士)後、ソウル市電子政府研究所、世宗研究所を経て、現在は中央選挙管理委員会の選挙研修院で電子選挙システムの開発とサイバー選挙運動の研究をされている。日本通としても知られているそうで、今回は愛知万博でのシンポジウム参加のために来日されたのを機会に、研究会で講演していただいた。

u-Korea構想とIT 8-3-9戦略

 韓国は、「サイバーコリア21」、「e-Korea」に続くIT基本戦略として「u-Korea構想」と「IT 8-3-9戦略」を打ち出している。これは、ユビキタス・ネットワークの整備によって知能基盤社会を構築し、それによって国民所得二万ドル、国際競争力の確保、産業生産性の向上、国家システムの革新等を達成しようとするものである。u-Korea構想では、次の三段階に分けて知能基盤社会を実現するとしている(図1)。

 第一段階(~2007年)はユビキタス社会への進入段階で、Person-to-Personと表現されている。有無線のBcN(Broadband Convergence Network)でつながるモバイル機器・DTV(デジタルTV)などを通じて、いつでも、誰でも、どこからでもサービスが受けられるようになる。

 第二段階(~2012年)はユビキタス社会の発展段階で、Person-to-Thingと表現されている。主な施設や建築物にICセンサーが取り付けられ、ネットワーク化されて、外部から監視やコントロールができるようになる。

 第三段階(2013年~)はユビキタス社会の成熟段階で、Thing-to-Thingと表現されている。ネットワーク化されたICセンサー間で相互認識が可能となり、それをもとにさまざまなサービスが提供されるようになる。社会の隅々にITが行き渡り、作業の生産性、公共機関のサービスが向上して、国民生活は豊かになる。

 このu-Korea構想を具体化させるのが、IT 8-3-9戦略である。8-3-9とは、以下の八つのサービス、三つのインフラ、九つの成長製品を指している。

  • 八つのサービス
    • WiBro?(Wireless Broadband)サービス
    • DMB(Digital Multimedia Broadcasting)サービス
    • ホーム・ネットワーク・サービス
    • テレマティクス・サービス
    • RFIDサービス
    • W-CDMAサービス
    • 地上波デジタル放送サービス インターネット電話(VoIP)サービス
  • 三つのインフラ
    • BcN(Broadband Convergence Network)
    • USN(Ubiquitous Sensor Network)
    • IPv6
  • 九つの成長製品
    • Ubiquitous Robotic Companion(知能型サービス・ロボット)
    • ホーム・ネットワーク
    • IT SoC(System on Chip)
    • Embedded S/W
    • テレマティクス
    • デジタル・コンテンツ
    • デジタルTV/放送
    • 次世代移動通信
    • 次世代PC

http://www.glocom.ac.jp/img/chijo/103_093.jpg

図1:u-Koreaの発展段階(講演資料より)

 講演ではこの中から、本年サービスが開始されたDMBについて説明があった。これは衛星を介して携帯電話でテレビ番組を見ることができるサービスで、2012年までに二千万人加入を目標にしている。アンケートでは、年収三百五十万円以上の人の五割以上がこのサービスを利用したいと回答したということである。料金は千三百円/月程度であるが、DMB用端末が数万~十万円と高めであり、普及させるためには端末購入に補助金を出すべきだ、という議論もされているそうである。オーディオ(20)とビデオ(7)を合わせて27チャンネルあり、映画、ドラマ、ゲーム、音楽、ニュース、スポーツなどのコンテンツが用意されている。既存のTV番組を配信するだけでなく、DMB専用のコンテンツ制作も始まったということであった。

韓国の電子選挙システム

 電子投票については、「2008年の国会議員選挙を電子投票(海外からはインターネット投票)で実施」、「2012年の国会議員選挙をインターネット投票で実施」ということが、国家の目標として定められている。そのためには2008年までに、電子投票とインターネット投票の両方のシステムを開発して、実践的に使えるようにしておかなければならない。日本では岐阜県可児市の電子投票(2003年7月の市議会議員選挙)で、システムのトラブルから選挙の無効が確定したが、韓国の国会議員選挙でこのようなことになると大変なことになるので、万全を期して準備に当たっているということであった。

 高氏は、現在、開発されている電子投票の大きな特徴として、有権者が全国どこにいても投票ができるということを挙げている。これは、例えばソウル市民が釜山にいても、自分の選挙区の投票ができるということである。駅前や遊園地、映画館の前などに移動投票所を設置するようなことも考えているという。これは、身分証明書と電子署名を利用した本人確認と投票カード(ICカード)に、投票する選挙区の候補者情報を記憶させておくことで可能にするのだそうである。

 さらに2012年に全面導入されるインターネット投票では、携帯電話やパソコン、PDAからの投票が可能になる。すなわち、有権者は投票所に行ってもいいし、自宅や会社にいながらでも投票ができるのである。有権者が決められた投票所に行くのではなく、投票所が有権者の側に出向くというパラダイムの転換によって、誰もが効率的に政治参加できる選挙システムの構築を目指している、ということであった。

大統領制が推進する電子政府

 韓国の情報化が日本に比べて特段に進んでいる分野は、電子政府・電子自治体ではないだろうか。高氏は、これは日韓の政治体制の違いによるのではないかと述べた。韓国は大統領制であるため、政策の実行に当たっては大統領の意向が強く働く。大統領選挙で公約した政策には優先的に予算が割り当てられ、実現に向けて組織や体制が整えられる。他方、日本では、電子自治体に関して総務省からの指導や支援はあっても、あくまでも主体は地方自治体であるため、各自治体の財政事情や首長の意見に左右される部分が大きいのではないかという。

 韓国における電子政府の取り組みを高氏の話から拾ってみると、例えば税金の申告・納税をオンラインで行うと、税額が割引になるうえ、抽選で高級車が当たるといった特典が用意されている場合もある。このようなさまざまなメリットが納税者にとって大きな誘引策となって、納税者の24%、法人では九割以上が電子申告・納税をしているそうである。住民サービスについては、国民年金・産災保険・健康保険・雇用保険の連携システムと市町村行政総合情報システムが構築されていて、住民票・車両・戸籍などのワン・ストップ・サービスを可能にしている。住民票・印鑑証明・戸籍謄本は、わざわざ役所に取りに出かけなくても、インターネット経由で自宅のパソコンで受け取ることができる。印鑑証明については、役所から直接、提出先にオンラインで送ってもらえるサービスも今年から始まった。

 また、公共事業の入札では91.4%、調達は97%が電子化されている。調達品はRFIDを貼付して納品することになっていて、オンライン化により請求から二時間以内に代金が支払われるシステムができているということであった。

ITが促した若者の政治参加

 韓国のIT事情において特筆すべきことは、政治とのかかわりだろう。現政権はネット世代が誕生させたとも言われる。2002年の大統領選挙では、午後二、三時までの出口調査ではハンナラ党の李會昌氏有利であったが、そのネット速報を見た二十~三十歳代の若い有権者が電子メールや携帯電話のSMS(ショート・メッセージ・サービス)を使って投票を呼びかけ、僅差で盧武鉉氏勝利となったのである。

 これをきっかけに、若者の間に自分達が政治を変えるのだという認識が生まれ、積極的に政治に参加しようとする動きが見られるようになったという。昨年の国会による大統領弾劾案可決に際しても、若い世代がネット上で弾劾無効を訴え、全国六十カ所余りでの抗議集会を主導し、さらにそれをネットで中継するというやり方で、弾劾反対の世論を盛り上げた。

 いまや政党や役所もネット上で寄せられる意見を無視できなくなり、反対や批判の多い政策は取り下げざるをえなくなっているという。政党だけでなく政治家個人も政治活動に積極的にネットを利用していて、ネットを介したボランティアや寄付金の募集、ニューズレターの発行、動画による演説、掲示板での意見交換などが盛んに行われている。韓国では、世論形成や政策決定にネティズンが大きな影響力を持つようになっている、ということであった。

2005年7月12日開催(編集部)