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コンテンツ・ビジネスが地域を変える

  • 講師:長谷川文雄氏
  • 東北芸術工科大学大学院長

 7月8日のIECP研究会は、東北芸術工科大学大学院長の長谷川文雄氏を講師に迎え、「コンテンツ・ビジネスが地域を変える」と題して開催された。  講師の長谷川氏は、本年4月に刊行された共著書『コンテンツ・ビジネスが地域を変える』(NTT出版)において、コンテンツを活用した地域振興の方法と実際について、多くの事例を挙げて解説されている。今回の研究会では、コンテンツをどのように捉らえ、どう活用すれば地域の活性化・産業化に役立てることができるのかについて、事例を交じえながら話していただいた。

期待されるコンテンツ・ビジネス

 次の成長産業としてコンテンツ・ビジネスが注目されている。小泉政権は、2003年に知的財産戦略本部を立ち上げ、また2004年にコンテンツ振興法(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律)を制定して、コンテンツ・ビジネス振興を国家戦略として推進しようとしている。  ここでコンテンツとは何か*1というと、長谷川氏は次のように定義している。

  • 広義:メディアにのる情報で最終消費財
  • 狭義:メディアにのる情報で娯楽性の強い最終消費財

 わざわざ「最終消費財」と断っているのは、いわゆるソフトといってもコンピューターを起動させるためのOSや情報を運んだり内容を表示させたりするためのプログラムは含まず、情報の内容(content)そのものを意味しているためである。したがって、ここでいう狭義のコンテンツとは、具体的には「映画」「アニメ」「ゲーム・ソフト」「音楽」などのエンターテインメントであり、必ずしもデジタル化されたものに限らない。  ではなぜ、いまコンテンツ・ビジネスがこれほど期待されているのだろうか。  知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会の資料*2によると、世界のコンテンツ産業の規模は2002年の1.1兆ドルから2006年には1.4兆ドルへと、高い成長(年率6.5%)が見込まれ、なかでもアジア太平洋地域では7.1%という、特に高い成長が期待できるとされている。  振り返って日本のコンテンツ産業の規模を見ると、2002年で対GDP比2%であり、米国の5%に及ばないのはともかく、世界全体の3%に比べても低い水準にあると言える。またコンテンツの国際収支を、「ゲーム・ソフト」「出版」「映画」「放送番組」「音楽ソフト」について金額ベースで見ると、ゲーム・ソフトを除いて大幅な輸入超過にある。  かといって、和製コンテンツの質が世界に比して低いレベルにあるというわけでは決してない。これは、『ポケットモンスター』が欧米で放映されて人気を博したこと、押井守監督『攻殻機動隊』が米ビルボート誌でビデオ・セールス第一位となったこと、宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』、北野武監督『座頭市』、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』などが海外の映画祭で高い評価を得ていること等々の事例からも明らかである。振興策によって潜在的な成長力を開花させ、人気が売り上げに結び付くような仕組みをつくることができれば、日本のコンテンツは海外市場で十分勝負できる力を持っているのである。

地域発のコンテンツ・ビジネス

 現在、コンテンツ・ビジネスの立地はほとんどが東京に集積している。例えばアニメ産業では、全国に約四百四十社あるアニメ制作会社のうち、約八十%に当たる約三百六十社が東京都内にあるという(『コンテンツ・ビジネスが地域を変える』、p. 57)。コンテンツ・ビジネスをこのまま東京一極集中に終わらせず、地域でコンテンツを産業として立ち上げる、あるいは街づくりに活用するにはどうすればいいのだろうか。ここで長谷川氏は、地域発コンテンツ・ビジネスの具体例をいくつか紹介した。

○杉並アニメーションミュージアム
<http://www.sam.or.jp/> 東京都杉並区にはアニメ制作会社が多く立地していることから、杉並区ではアニメ産業を重要な地場産業として支援している。「アニメーションフェスティバル」や広報によりアニメ生産の地をアピールし、今年3月には「杉並アニメーションミュージアム」が開館した。
○石巻マンガランド構想
<http://www.city.ishinomaki.miyagi.jp/kikaku/matizukuri/jigyo2001.htm> マンガ家の石ノ森章太郎氏の出身地にちなんだ街づくり構想。1999年に「浪漫商都ルネッサンス=マンガ的発想が人を呼ぶ街づくり」をコンセプトにTMO(Town Management Organization: 街づくり機関)を設立、2001年7月に中核施設となる「石ノ森萬画館」が開館した。
○湯布院映画祭
<http://www.d-b.ne.jp/yufuin-c/> ゴルフ場建設反対をきっかけに地元有志により「明日の湯布院を考える会」が結成され、住民による街づくり運動のなかでさまざまなイベントが展開された。湯布院映画祭はその一環として1976年に始まり(日本で最初の本格的な映画祭)、現在では湯布院映画祭、ゆふいん文化・記録映画祭、こども映画祭と、年3回の映画祭が開催されている。
○デジタルメディアファクトリー
<http://www.dmf.co.jp/> 沖縄県にあるCG制作会社。海洋生物の動きをシミュレートしたCG素材や、「沖縄」「海」「生命」などをモチーフにした映像を制作している。
○東京ディズニーランド
<http://www.tokyodisneyresort.co.jp/> 1983年に株式会社オリエンタルランドが千葉県浦安市に開園、2001年には隣接地に東京ディズニーシーが開園した。毎年一千万人を超える入場者が訪れ、2003年には累計入場者数が三億三千五百万人に達した。税収、雇用、資材調達、周辺の土地利用など、地元に与えた影響は大きく、東京ディズニーランドというコンテンツが浦安を変えたと言える。
○さっぽろ雪まつり
<http://www.snowfes.com/> 1950年に地元の中・高校生が大通公園に六つの雪像を設置したことをきっかけに始まる。雪合戦、雪像展、カーニバルなどを併せて開催、五万人あまりの人出で予想以上の人気となり、以後、札幌の冬の行事として定着。大規模な雪像も造られるようになり、海外からの観光客も多い。
○YOSAKOIソーラン祭り
<http://www.factory4.net/yosakoi/map/index.htm> 高知県のよさこい祭りと北海道のソーラン節をミックスさせた踊りを中心とする祭り。北海道大学の学生が実行委員会を立ち上げ、1992年に第一回YOSAKOIソーラン祭りが札幌で開催された。以後、札幌では恒例の祭りとして定着、YOSAKOIソーラン祭りは全国各地に広まり、授業に取り入れる学校も増えている。
○庄内ロケ支援実行委員会
<http://www.city.tsuruoka.yamagata.jp/tasogare/> 直木賞作家の藤沢周平氏の出身地である山形県鶴岡市では、藤沢作品(『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』『蝉しぐれ』)の映画化に当たって、鶴岡市長を会長に「庄内ロケ支援実行委員会」を結成してロケを誘致した。資料調査協力、エキストラ動員、スタッフの旅費・宿泊費・昼食代への財政支援、前売り券の売りさばき協力などさまざまな支援を行い、日本のフィルム・コミッション*3事業の中でも積極的な活動を展開している。『蝉しぐれ』の撮影に使用された羽黒町のオープン・セットは資料館として公開されており、保存の方向で検討が進められている。
○昭和レトロ商品博物館、赤塚不二夫会館、青梅レトロ映画通り
<http://www.ome-maruhaku.net/retoro/><http://akatsuka-kaikan.ome.jp/> 青梅駅近くの商店街に「昭和レトロ商品博物館」「青梅赤塚不二夫会館」がある。また、旧青梅街道沿いのあちこちには昔懐かしい映画の手描き看板が掲げられて、レトロな雰囲気を醸し出している。

 これらの事例を見て分かるように、コンテンツ・ビジネスといっても、いきなりアニメや映画を制作しようということではない。地元ゆかりの著名人、海や雪などの気候風土、祭り、歴史、文化、史跡、町並み、あるいは地元にたまたま蒐集家や映画関係者がいるといった地域の資源を拾い上げ、魅力的なコンテンツに仕立て上げているのである。このように地域発のコンテンツ・ビジネスを成功させるコツは、「地域に眠る諸資源でコンテンツになりうる可能性のあるもの」を発掘してコンテンツ化させる仕掛け、すなわち「プロデュース力」にあると長谷川氏は説く。

コンテンツ事業創生と人材育成

 地域でコンテンツをプロデュースする力を育てようとする取り組みの例として、埼玉県と岐阜県のプロジェクトが紹介された。

○SKIPシティ
<http://www.skipcity.jp/index.shtml> 埼玉県が中心となって推進しているプロジェクトで、彩の国ビジュアルプラザ、NHKアーカイブス、埼玉県産業技術総合センター、埼玉県生活科学センター、川口市立科学館、早稲田大学川口芸術学校などの施設を整備、2003年に川口市にオープンした。特に彩の国ビジュアルプラザは本格的な映像制作ができる「デジタル映像制作拠点」として、オフィス入居者は、映像制作支援室などの施設を廉価に利用できるほか、映像制作の研修、起業コンサルティングやビジネス・マッチング、広報誌などでの事業紹介が受けられる。また、デジタル・シネマに関するセミナー、フォーラム、シンポジウムを定期的に開催し、デジタル・シネマに関する情報発信基地を目指している。
○ソフトピアジャパン、IAMAS
<http://www.softopia.or.jp/><http://www.iamas.ac.jp/> ソフトピアジャパンは、高度情報基地岐阜(情場)づくりの戦略拠点として岐阜県が1996年に大垣市に開設。ソフトピアジャパンビジネスサポートセンターでは、ベンチャー企業育成のために、ITベンチャー企業・SOHO起業家向けオフィスの提供のほか、研究開発支援・技術支援、ビジネス・マッチング支援などを行っている。~ またIAMASは、情報技術産業で活躍する人材の養成を目的とする機関で、情報科学芸術大学院大学と国際情報科学芸術アカデミー(専修学校)という二つの学校がある。大学院大学ではメディア文化の広汎な分野で活躍する人材の養成、アカデミーでは高度なスキルを身につけたクリエーターの養成を目指している。

 また大学においても、次のように専門の人材を育成しようという動きが見られる。

東京大学で映画、アニメ、ゲームの人材教育プログラムを開始

デジタルハリウッド大学・大学院大学(構造改革特区を活用して新設)

東京芸術大学が横浜に大学院映像研究科

京都精華大学がマンガ学科

大阪電気通信大学がデジタルゲーム学科

宝塚造形芸術大学がメディアコンテンツ学部

東北芸術工科大学大学院が仙台にコンテンツプロデュース領域

 こういったコンテンツ関係の学部・学科が新設される一方で、コンテンツ・プロデュース自体が未知の学問分野であり、教える側の人材の確保、教授法の確立が大きな課題だということであった。

コンテンツの有りようが変化するなかで

 講演後の質疑応答では、人材育成の方法やカリキュラム、韓国や中国が国家を挙げて取り組んでいる現状などについていろいろな意見や感想が出されたが、なかでもコンテンツの変化を巡っての意見交換は興味深いものであった。若者の興味の対象が映画からゲームへと移っていったなかで、消費者の嗜好や感性が変わってきている。名作と言われるような長編ものは敬遠され、他方で、ホーム・ビデオで撮った数分の、ほとんど編集されていない、それこそブログのような映像がネットで世界中を飛び交っている。映像メディアが誰でも使えるものになり、監督をトップとする少数の人間がつくって多数の消費者に見せるという、今までのモデル自体が崩れてきているのではないか。コンテンツの構造を支える基本的なところが変わってきていると感じる。そのことを踏まえてコンテンツをつくらなければならないのだが、どうつくればいいのかがよく見えてこないということであった。  確かに『電車男』が本になり映画になって売れるという現象を見ると、プロの手で最初から大掛かりにつくり上げられたものより、ユーザーが参加して共につくっていくスタイルの方が受ける時代になっているのかもしれない。長谷川氏が述べたように「従来型の発想では、時代遅れの人材を再生産することにもなりかねない」わけで、次世代コンテンツの有りようについてあらためて考えさせられた議論であった。

2005年7月8日開催(編集部)