GLOCOM - publications

Center for Global Communications,International University of Japan

« セッション:014 地域情報化研究会 | メイン | セッション:012 - 地方政府のIT調達改革 »

セッション:013 -学校ホームページの新展開

  • 油井正樹 : 横浜市立能見台南小学校教諭
  • 須藤和照 : 川崎市立橘小学校教諭
  • 今井 勉 : 相模原市総合学習センター指導主事
  • 高田仁志 : 全日本小学校ホームページ大賞事務局
  • 司会:豊福晋平 : 国際大学GLOCOM主任研究員・助教授

 国際大学GLOCOMでは、1995年より教育情報サイトを開設、日本全 国の学校ホームページの探索とデータベースによる情報提供を行い、2003 年以降はホームページの全数調査・勝手選考を基本とした全日本小学校ホー ムページ大賞(通称:J-KIDS大賞 http://www.j-kids.org/)の企画運営に参 画している。

 セッションでは、これまでの研究成果をもとに学校ホームページの意義と 課題を明らかにすべく、学校ホームページ運営者、教育委員会、コンテスト 事務局と多様な側面からの発表と意見交換が行われた。

 まず、このセッションの背景について簡単に述べておきたい。

 ホームページは、いまとなっては情報手段の一つとして生活に浸透してお り、取り立ててその意義を述べるのもやや時代遅れの感があるが、学校教育 ではやや状況が異なる。

 インターネットの爆発的普及に伴って、1994年頃(文部省・通産省の「100 校プロジェクト」が行われた頃)に、技術的新奇性がもてはやされた第一次 ブームがあり、長い停滞期を経て、2003年以降、再びその社会的価値が認 識されはじめている。家庭の情報化や、外部触媒的な学校ホームページ・コ ンテストの企画が後押しをする形で、これまでなかなか変わらなかった学校 教育にも、ようやく変化の兆しが見えてきたのである。

 主催者の思いとしては、GLOCOM的情報社会学的視点からみて、学 校ホームページは、閉鎖的と言われる学校教育に風穴を開け、学校の個性化 自律化を定着させるキー・アイテムになりうるとの認識が、タイトルの「新 展開」に込められている。

 文部科学省では、毎年夏に公立学校の教育情報化指標(学校における教育 の情報化の実態等に関する調査結果)を発表しているが、学校ホームペー ジ開設率は2005年3月時点で73%(前年67.6%)にのぼる。程度の差こそ あれ、教育委員会サイドではホームページの開設運営自体は自明のこととさ れ、教員向けに開催されるカンファレンスや出版物でも、具体的ページの制 作方法や運用ノウハウをメインにしたものが大半である。

学校ホームページは情報発信手段としてほとんど機能していない

 しかし、学校ホームページ運用の実態を知れば、脳天気にノウハウだけを 語って済まされるほど事態は単純でないことに気付かせられる。例えば、 2004年時点での学校ホームページの年間平均更新回数は17.8回で、年間300 回以上更新する学校がある一方で、全体の42.8%の更新回数はわずか7回以 下に過ぎない。つまり、熱心に更新を続ける学校はごく一部であって、大半 の学校のホームページは、情報発信手段としてほとんど機能していない。ま さに、情報分布のベキ乗則がそのままあてはまるような状況にある。

 このように、形だけホームページ開設率が向上しても、学校からの実質的 な情報発信が普及しないのは、学校側がそのような必要性や意義を真剣に検 討・認識していないからだ、という言い方もできる。そのためには、セッショ ンの主催者としては、広く教育関係者を募りつつも、その意義についても切 り込む構成としたかった。単なるノウハウ講習会であってはならないし、か といって、抽象的議論では明日役立つ知恵にはならない。やや異色な登壇者 の顔合わせになったのは、直面する課題を多面的に分析・考察しようという 理由によるものである。

 さて、当日はまず司会の豊福がセッションの趣旨について解説を行った。 (詳細はフォーラム予稿集の趣旨解説をご覧いただきたい)。

 教育と情報化の議論では、もっぱら教育への情報機器・情報環境導入のみ が問われているが、実は、情報社会における学校教育の在り方を問う大がか りなものである。

 極論すれば、学校での知識伝達は、メディアとコンピュータに置き換え可 能であり、学校教育そのものが必要ない、という見方もある。産業社会的な 効率的知識伝達装置としての軛を解かれた学校は、情報社会における新たな 価値を必要としているのである。

 一方、昨今の公教育に対する過酷な批判・バッシングは、裏返せば、それ だけ学校に対して高い期待があることの表れである。研究の立場としては、 果たして、公教育自体がすでに枠組みとして意味を持たないのか、それと も、動脈硬化と機能不全を治療すれば立ち直るのか、いずれなのかを明らか にしたいという動機がある。

 これまでの経過から結論を述べると、公教育の課題とは、言い換えれば組 織・行政・地域社会相互のコミュニケーション不全による構造的問題であっ て、問題解決の先にあるのは、貴重な時間や場を共有するノードとしての学 校価値の最大化である。

 学校ホームページは、この文脈において、学びの共同体としての学校に関 わるステークホルダー(保護者・地域)に対し、学校の日常をそのまま伝え ることを可能にする「キラー・アプリケーション」となりうる。

 つまり、学校ホームページは、情報担当者の趣味の延長や、一教師のモノ ローグとしてではなく、コンテンツ自体に学校組織そのものが問われている のであって、学校経営の核心にまで踏み込んでいると言っても良い。

 続けて各登壇者からの発表が行われた。横浜市立能見台南小学校は2004 年、2005年と連続して全日本小学校ホームページ大賞の神奈川県代表に選 出された。油井正樹教諭は、同校のホームページ制作担当者である。

 油井氏からは「学校ホームページを通した情報提供の取り組み ~ホーム ページ作成でこころがけていること~」と題して、ホームページ運用者とし て日々の課題と展望について発表があった。日々の学校の様子、緑に囲まれ た学校の自然、あるいは、子どもたちの「つぶやき」を継続的に伝えるため の運用として、シンプルなページづくりが目指され、一方では、学校内で ホームページ作成協力者を募る難しさが課題として挙げられた。

 次に、川崎市立橘小学校の須藤和照教諭から「学校サイト運用の現場か ら」と題し、特に組織的運用体制の構築についての発表があった。同校は市 内小中学校のなかでもトップ・レベルの更新回数を誇り、情報発信に熱心な 学校としても知られる。

 川崎市は2005年現在112校がホームページを公開しているが、うち60校 はイントラネットの限定公開で、自宅から情報を見ることはできない。ま た、インターネット公開している52校のうち、更新率が10%を超えている のはわずか6校である。

 ホームページが積極的に作られない理由としては、(1)学校長や教職員が 必要性を感じない(精神的要因)、(2)ホームページ作成・維持管理が困難 (技術的要因)、(3)作成承認のフローが決まっていない(システム的要因) --の三つが挙げられるが、橘小学校では、校長と協議し、組織的対応を行っ た。この結果、昨年はページ作成可能な教員は、2004年4月の一人から大幅 に増加し2005年8月には13人となっている。校長・須藤教諭ともに民間企 業勤務の経験があり、学校の情報開示はもはや当然という強い意志で臨んだ ことが、ホームページの活性化につながっている。

 一方、各学校の情報発信を促進・管理する自治体教育委員会としては、ど のような検討や支援を行っているのか。相模原市立総合学習センターの今井 勉氏からは「学校HPの活性化 ~合理的かつ効果的な学校ホームページの 運用~」と題した発表が行われた。

 相模原市は小中学校のホームページ作成支援に力を入れており、2005年 度の全日本小学校ホームページ大賞では、複数の学校が神奈川県優秀賞にノ ミネートされている。

 今井氏は、学校ホームページに関する保護者向けアンケート結果から、保 護者・地域は学校ホームページに期待している一方で、担当教員の負担感 が大きな課題になっているという。保護者や地域が抱く不安に対して、学 校ホームページは安心と信頼を与え、協力的姿勢を引き出すことが可能で ある。また、教員の作業負担を軽減するため、相模原市ではCMS(コンテ ント・マネジメント・システム)を導入している。さらに、保護者が不安を 抱く個人情報の扱いについては、学校における情報の取り扱いの明確な区分 (積極的に提供すべき情報と確実に守るべき情報)と、学校ホームページに 対する保護者側の理解が必要であるとした。

 登壇者の最後は、全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)事務局 の高田仁志氏からのJ-KIDS大賞の目的と選考方法についての発表であっ た。

 J-KIDS大賞は、2003年から開催されている全国の小学校ホームページを 対象としたコンテストであり、応募不要の全数調査勝手選考、客観的選考基 準を採用しており、毎年約千人の社会人ボランティアが保護者や地域住民の 視点でページを評価している。51校の県代表選考ののち、ベスト8、大賞 などへと勝ち進む甲子園野球のような大会形式を採っている。

学校ホームページに新たな可能性

 学校ホームページには、「学校の現実を伝える」「人や地域を相互につなぐ」 「思い出や愛着を残す」の三つの機能がある。言い換えれば、公共のアカウ ンタビリティーを果たし、コミュニティーの拠点となり、児童の成長過程や 地域の記憶を納めたタイム・カプセルとなる。

 昨年度のJ-KIDS大賞では、これらの機能に加え、さらに日々の学校生活 を率直に伝えるポジティブな情報開示姿勢や、ゆるやかなつながりのコミュ ニケーションが、学校の自信と誇りを育て、保護者や地域との信頼関係を醸 成するという新たな可能性を見出した。

 より多くの学校がホームページの可能性に気付き、自らがその学校らしさ を前面に出したホームページ制作を行い、継続的に運用できることを期待し ているとした。

 フロアからは、現在各地の公立学校で展開されている「ネットディ」(= 在校生保護者や地域住民が協力して、学校の構内LAN敷設を行うイベン ト)が学校ホームページに与える影響について、意見の交換が行われた。

 関西地域をはじめとして、ネットディは盛り上がりを見せており、横浜市 でも進行中であるが、学校側の対応や姿勢によってその後の展開は大きく異 なるようだ。イベント後に大切にホームページや保護者会を育て、J-KIDS 大賞で県代表校に選出されるケースもあれば、その場限りのイベントで終 わってしまうことも残念ながら多い。地域の中の学校を長い目で育ててゆく 視点が必要ということである。

 この後、登壇者・参加者による情報交換会が行われ、合わせて三時間に及 ぶ熱心な議論が展開された。教育関係のカンファレンスや研修会では講義形 式が多いため、聴衆同士の意見交換を行う機会がほとんどなかった、とい う指摘もあり、関係者の間では、このようなゆるやかなつながりを提供する セッションのような機会が設けられることについて、期待する声が多かった ことを付け加えておきたい。 (豊福晋平:国際大学GLOCOM主任研究員・助教授) 主催:教育情報発信プロジェクト i-learn.jp (http://www.i-learn.jp/) 日時:2005年8月20日(土)13:00~ 14:30