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セッション:016 - 情報社会の合意形成における市民社会の参加 ~ポストWSISへ向けて~
- アダム・ピーク : 国際大学GLOCOM主幹研究員
- 浜田忠久 : 市民コンピュータコミュニケーション研究会
- 横澤 誠 : 株式会社野村総合研究所情報技術本部研究創発センター/ 京都大学大学院客員教授
- 近藤勝則 : 総務省情報通信政策研究所
- 伊藤道雄 : アジア・コミュニティ・センター21
- 会津 泉 : ハイパーネットワーク社会研究所/多摩大学情報社会学研究所
- 司会:上村圭介 : 国際大学GLOCOM主任研究員
国際大学GLOCOMでは、これまで主要な研究テーマとして「IT政策 と開発」という問題を取り上げており、インターネット・ドメイン名の管理 (ICANN)、デジタル・オポチュニティ・タスクフォース(DOTフォース)、 世界情報社会サミット(WSIS)などの場を通じて情報社会の設計と構築に 市民社会の視点を反映させるための実践と研究を進めてきた。情報社会につ いては技術、産業主導の観点から語られることが少なくないが、利用者一人 ひとりのニーズを満たし、情報化を通じてよりよい社会の創出を目指すため には、市民社会の視点を反映させることも同時に必要である。
ところで、情報社会や「ユビキタス・ネット社会」の諸問題解決における 市民社会活動のプレゼンスは、これまで必ずしも高いとは言えなかった。環 境や人権、開発協力といった広い裾野を持つ市民社会の活動と比べると、情 報社会に関しては、極論すれば、少数の見慣れた顔ぶれで所だけ変えて議論 をしているという状況である。
そのような現状認識の下、このセッションは、他の問題領域(特に開発協 力)の例に学び、よりよい情報社会の創出への市民社会活動の横の連携の在 り方や、産業界や政府とのコラボレーションの方法を模索するための議論を 喚起することを目的に企画された。
セッションでは最初に、国際大学GLOCOM主幹研究員であり、市民 社会の視点からICANN、WSISの活動に深く関わってきたアダム・ピーク 氏が、インターネット・ガバナンスや情報社会の議論の背景や、現在の論点 を踏まえたキーノート的な発言を行い、その後各パネリストがそれぞれの立 場からコメントを行った。
アダム・ピーク 「拡大する市民社会の参加」
世界情報社会サミット(WSIS)は、国連事務総長の指示の下に開催され るハイ・レベル会議である。同様のイベントとしては京都で開かれた環境サ ミットなどがあるが、WSISは、市民社会団体やNGOが初めて政府、国際 機関、産業界と同じ「フルパートナー」として扱われたことが画期的であっ た。
WSISがテーマとして扱ってきたのは、デジタル・デバイド、インターネッ ト・ガバナンスが中心だが、ほかにも、通信事業者間の相互接続、情報セキュ リティー、スパム、コンテンツといった健全な情報社会を創出していく上で 不可欠な問題が取り上げられてきた。WSISの議論のプロセスでは「マルチ・ パートナーシップ」が重視され、各国政府・国際機関、産業界、市民社会・ NGOといった「ステークホルダー」が可能な限り同じテーブルについて議 論が進められてきた。
WSISやインターネット・ガバナンスの議論に市民社会からの参加者が加 わるときに常に問題とされるのは、市民社会の参加者が「誰を代表している か」ということである。各国政府・国際機関や産業界の代表であれば、どの ような立場で誰の利害を代弁しているのかが明白である。しかし、市民社会 の参加者はその点が見えにくい。
実際には、市民社会からの参加者は、誰の代弁者でもないとアダム・ピー ク氏は述べる。市民社会からの参加者が議論に加わることの意味は、代弁者 として議論に参加することにあるのではなく、実質的な議論に対して専門家 や有識者としての知見を提供することなのである。市民社会からの参加のも う一つの意義は、インターネットの設計原理やマルチステークホルダーの プロセスを維持し続け、主流派の議論からは排除されがちの少数派の人たち や、工業先進国と議論を後追いする立場に置かれがちの開発途上国の人たち の声を届けることである。
浜田忠久 「情報社会の公共性」
市民コンピュータネットワーク研究会(JCAFE)の浜田忠久氏は、日本 の市民社会団体からWSISの議論に積極的に関わっている数少ない一人であ る。企業の研究所で研究開発の職にあった1988年にインターネットに触れ ることになった彼は、インターネットを市民が使えるようになることが重要 であるということに次第に注目するようになる。しかし、その関心は次第に インターネットそのものの普及から、インターネットの普及が促す社会の変 化に移っていった。
浜田氏にとっての関心が、インターネット利用者の拡大から情報社会の公 共性という問題に次第に発展していった経緯は、インターネットが単なる新 しい通信手段から公平な社会を創出するための一つの「インフラ」として再 定義されていく経緯と同期する。浜田氏の経験は、情報社会の議論の中に市 民社会が参加することの重要性を示すものとなっている。
横澤 誠「ガバナンスの変容」
野村総合研究所の横澤誠氏は、広くステークホルダーの関与を求めるとい う意味では、いわゆる「産官学」の取り組みだけでは不十分である。ここに 市民社会的な視点、つまり「民」を加え、「産官学民」の取り組みを実現す ることが必要だと述べた。
一方で、横澤氏は、情報社会やインターネット・ガバナンスの議論に人々 の関心が集まらないとしたら、それは議論の「見せ方」にも問題があるとい う。企業統治という意味での「ガバナンス」と異なり、インターネットや情 報社会における「ガバナンス」がどういう意味なのか、実は明らかでない。 したがって、情報社会における「ガバナンス」が、わたしたちと情報技術と の関係をどのように変化させていくことになるのか、具体的に説明していく ことが不可欠であると指摘した。
また、横澤氏はガバナンスの変容にも言及した。今後より多くの人が、よ り多くの生活シーンでICTと密接な関係を持つようになるとするなら、そ の結果、ステークホルダーやガバナンスが多様化するが、これがガバナンス の内容を大きく変えることになる、というのである。例えば、「情報社会に おける狭義のガバナンスは、IPv4の時代のガバナンスであった。IPv6にな ればリソース・ガバナンスの在り方も変化することになるはずだ」と彼は述 べる。また、そのような時に「ガバナンス」のメカニズムに必要となるのは、 立ち上がったら後戻りできない仕組みではなくて、産官学民の合意による意 思決定で軌道修正ができる仕組みであるという。
近藤勝則「国際社会におけるイシューの変化」
ジュネーブ・フェーズの際にはWSISの担当であった総務省情報通信政策 研究所の近藤勝則氏は、自身が以前関わっていた難民支援の分野で、各国政 府の意思決定に市民社会の知見や提言が大きく取り込まれていることを踏ま え、「情報社会、あるいはインターネットのガバナンスの問題だから、市民 社会に出番が到来したということではない」と述べる。そうではなく、「国 際社会の構造や、国際社会が抱える問題の性格が変化し、その中で国際的 な問題に関する意思決定過程に変容の兆しが現れたと見るべきだ」と指摘し た。
もちろん、そのような枠組みが、どのような問題領域においても共有され るということではなく、その都度、市民社会の参加についてのlegitimacy(正 当性)をどこかに求めなければならないだろう。「市民社会のニーズは国内 のプロセスで反映されているという見解もありうるわけであり、議論される 問題の性質によってマルチステークホルダーの枠組みの在り方は異なるので はないか」と述べた。
伊藤道雄「市民活動のネットワーク化と他セクターとの恊働」
このセッションの大きな目的は、情報社会やインターネット・ガバナンス から目を転じて、環境や開発援助、人道支援といった分野に目を向け、これ らの分野で市民社会と他のセクターとの恊働がどのように模索され、機能 してきたのかを知ることであった。その点から発言を行ったのがアジア・コ ミュニティ・センター21の伊藤道雄氏である。
伊藤氏は、NGO活動推進センター(現・国際協力NGOセンター)設立 の立役者だが、その設立の目的は、第一に、草の根の市民レベルにおける恊 働体制を作ることであったという。また、恊働体制は、同じ目標や価値観を 持つ人たちや団体を集めることで「NGO界」全体の能力の強化につながる という。さらに、ネットワークができることで、異なる価値観を持ったセ クター、例えば産業界や政府と付き合う基本ができることになる。開発援助 の分野では、草の根の活動の掘り起こしと、そのネットワーク化が重要だっ たということだろう。その一方、産業界との対話は期待するようには進まな い面もある。そこで、彼は今では労働組合との恊働を模索し始めているとい う。
ところで、伊藤氏は「市民社会」という点について大きな問題提起を行っ た。それは、「市民社会」は、個の確立があってはじめて可能なものではな いか、というものである。市民社会の活動は、集団主義、あるいは利己主義 の両極に振れがちであった。彼はその原因を個人の確立に見ている。彼の観 測どおりとするなら、「状況」的に市民社会の役割が期待されるとしても、 市民社会が内在する「能力」が「ボトルネック」になってしまうだろう。
会津 泉 「新しい議論の場の創出」
最後のパネリストとして発言したのは、国際大学GLOCOMの客員研 究員の会津泉氏である。彼は、「情報社会、インターネット・ガバナンスを 巡る議論に通底するのは、情報社会の主役は誰かという問題意識である」と いう。しかし、インターネットや新しい世代の情報通信メディアは、単純な 需要者と供給者という役割の分離ができず、いわゆる受益者がメディアなの か、IT企業なのか、あるいは「ネティズン」なのかを一意に決めることは 難しい。
会津氏は、WSIS以降の議論の場の形成について行われている議論につい て触れ、WSISとは独立した活動として、国連事務総長の下に設置されたイ ンターネット・ガバナンスに関するワーキング・グループ(WGIG)の最 新の報告書では、情報社会と呼ばれるもののルールをどこでつくるか、誰を どういう資格で招き入れるか、ということが論点になっているということ を紹介した。そしてそのための議論を継続的に行うためのフォーラム設置が 提案されているという。市民社会の関与が提唱されているが、どのような参 加になるのかは今の時点では分からない。このフォーラムが実現したとして も、このような議論に対して日本から継続的な貢献をするためにどうすべき かという問題は残ることになる。 まとめ
正直なところ、このセッションは、モデレーターのほか6人がそれぞれ発 言するという大変欲張りな構成であったこともあり、議論の時間を十分とる ことができなかった。しかし、「常連」だけでなく、他の分野へのアウトリー チを試みたという点では、これまでの議論にはない新しさがあったのではな いかと考えている。情報社会、インターネット・ガバナンスの議論は、11 月のチュニスでのWSIS本会合の後も、形を変えて継続されることが確実な 情勢となっている。そのような議論の場に向け、市民社会の意見や利害を集 約するなどということは望むべくもないとしても、市民社会の声を恒常的に 吸い上げるためのメカニズムは必要であろう。今回のセッションには、その ような意図も含まれていたわけだが、今後、この「市民社会メカニズム」を 形成する上で、今回のセッションのアウトプットをどのように活かしていく のかが、GLOCOMフォーラム以降の私たちの課題だろう。 (上村圭介:国際大学GLOCOM主任研究員) 日時:2005年8月20日(土)17:00~ 19:00