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セッション:017 日本コンテンツ立国論
- 中村伊知哉 : スタンフォード大学日本センター所長/国際大学GLOCOMフェロー
- 安東高徳 : 総務省情報通信政策局情報通信政策課コンテンツ流通促進室課長補佐
- 岡田眞樹 : 外務省広報文化交流担当審議官
- 小野打恵 : 株式会社ヒューマンメディア代表/国際大学GLOCOMフェロー
- 土屋光弘 : 文部科学省生涯学習政策局参事官付企画官〔学習情報政策担当〕兼情報政策室長
- 山下隆也 : 内閣知的財産戦略推進事務局参事官補佐
- 和久田肇 : 経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課〔メディアコンテンツ課〕課長補佐
- 福冨忠和 : 国際大学GLOCOM主幹研究員・教授
本セッションでは、世界的に注目を集める日本の文化コンテンツを、21 世紀の知財戦略の重要な要素と考え、主として政策的な観点から検討するた めに開催された。国内外のコンテンツ関連情報に詳しい株式会社ヒューマン メディアの小野打氏の問題提起を受け、現役の官僚がそれぞれの立場からの 「コンテンツ立国」の在り方について語り合うという、非常に豪華なセッショ ンとなった。
拡大するコンテンツ市場
まず小野打氏より、日本のコンテンツ産業の現状についての報告があっ た。報告は、およそ次の七点にまとめられる。
(1)定義の問題
現在では、イベントの項目すらも「コンテンツ」と呼ばれてしまうが、そ もそもコンテンツとはどういうものを指すのか。仮にコンテンツを「メディ アを通じて対価を支払って取引される情報」と定義すると、その規模は12.8 兆円になる。ここには個人のブログなどは含まれていないが、そこに何らか のスポンサーが付いてバナー広告を貼った場合、ブログの内容は変わってい ないが、市場規模のカウントの中に含まれることになる。情報ソフトやメ ディア芸術といった呼称も出ているが、きちんと定義をした方がいいのでは ないか。
(2)市場規模
コンテンツ全体の市場規模について考えてみる。キャラクター市場と呼ば れるようなものは、直接的には二兆円程度だが、既にキャラクターなしでは ヒットしないと言われているパチンコ・スロットの市場を含めると、30兆 円になる。また、携帯電話などのコミュニケーション市場が14兆円、ハー ドの市場が11兆円になり、そのほかも含めてコンテンツ産業だけで71兆円 という規模になる。土木・建設が51兆円、食品が同じ71兆円という規模で あることを考えると、これだけの市場規模を持っていながら、複数の省庁に またがる形で管理されている産業は珍しいのではないか。
(3)世界的な意識とのギャップ
コンテンツ市場のうち、マンガ/アニメ/ゲームは二兆円ほどの規模を持 つ。また韓国政府の調べによると、世界のアニメの六割が日本製であるとい う。先日の愛知万博では「世界コスプレサミット」も開催され、世界中から コスプレに情熱を傾けている人々が集まった。少しインテリジェントな人々 であれば、「OTAKU」といった言葉が通じない人はいないわけだが、そう した「かっこいいもの」という世界的な認知と、日本における「オタク=ダ サいもの」という意識のギャップが生まれている。
(4)統計の不在
コンテンツ市場に関する世界的な統計は、プライス・ウォーター・ハウス 社のものを除けばほとんど存在せず、またある程度のバイアスがかかってい る。韓国などは、数字の根拠については問題があるが、とにかく統計データ を集めてくる努力をしている。日本においても独自のデータを収集する必要 があるのではないか。
(5)自国のコンテンツ保護政策
映画や映像、音楽コンテンツの、国産コンテンツと輸入コンテンツの内訳 を調べてみると、いずれもかなりの部分を輸入コンテンツが占めている。 輸入コンテンツだからだめだ、というわけではないが、世界的に見ると、韓 国、中国、フランスなどはこうした点を非常に気にしている。アメリカは自 国のコンテンツ輸出に非常に積極的だが、フランスなどは英語文化が過剰に 流入しないように、国内のコンテンツに対する保護政策をとっている。韓流 映画も、韓国政府の映画産業保護の結果として起きたもの。日本においても こうした政策の可能性について検討するべきではないか。
(6)権益保護からの脱却
アメリカの映画・テレビについての歴史をひもといてみる。かつてアメリ カの映画産業は、制作者側が非常に強い力を持っており、映画館は上映する 映画の選択権を持たなかった。ここに政府が介入し、映画館の裁量が認めら れるようになった、という事実がある。また、映画産業はその後テレビに押 されていくわけだが、テレビの番組に一定以上、外部の制作者が作ったコン テンツを入れなければならない、という規制によって、テレビと映画の巨大 な関係ができあがった。日本においては、映画産業は既得権の保護を求める 組合運動ばかりやっていたわけだが、そうしたことも見直さなければならな いのではないか。
(7)ネットやケータイの動向
ネット、ケータイを通じたコンテンツの市場というものが相対的に弱い。 通信料を入れると二兆円ほどの規模になるが、コンテンツとしてはまだまだ だ。ただ、音楽産業に関しては、カラオケとともにケータイのシェアが大き くなっており、この点は注目すべきだろう。それとは別に、ゲームに関して は、徐々に萎縮する傾向にあり、韓国が強みを持っているオンライン・ゲー ムに押されている。
全体として小野打氏の主張は、世界的に国内コンテンツ産業の保護政策を 強力に推し進める国が珍しくない中で、日本はどうあるべきかについて注意 を喚起する、というものであった。これを受けて参加者からは、それぞれの 立場からの応答があった。 政府として何ができるか・何をすべきか
まず総務省の安東氏から、ネット関連についての発言があった。安東氏に よると、ネットやケータイの利用は増えているが、テレビ視聴との関係で言 うと、実はテレビ視聴時間も増えており、これはユーザーが寝る間を惜しん でコンテンツを消費していることを示している。その背景にあるのは、振興 策の強い海外と比較しても、民間での努力が大きいということだろう。こう した取り組みをどう広げていくかが総務省の課題になる、というのが安東氏 のコメントだった。
続いて経済産業省の和久田氏より、振興策の在り方についてコメントが あった。これまでは、市場の規模を広げるという点のみに注目をした振興策 が主であったが、こうした政策の強化あるいは見直しというものも求められ ているのではないか。例えば、東京国際映画祭などを通じて、これまでも日 本のコンテンツを海外に広げる努力はしてきたが、国内向けに作られたもの を輸出するのは限界がある。既製の作品を外に出すのではなく、もっと川上 の部分で、海外のクリエーターと作品を作るなどして、グローバル市場で勝 ち残る戦略も必要になるのではないか。そうしたときに、国はどこまで関わ ればいいのか、サプライヤーよりの政策だけでいいのか、と和久田氏は述べ た。
外務省の岡田氏からは、振興策とは異なった観点からのコメントが出た。 外務省がコンテンツに期待するのは、既に制作されたコンテンツを用いて、 外交上、どうやって相手の心をつかんでいくかという点にある。漫画やアニ メは、"Japan is Cool" などと言われ、世界的に受け入れられている。こうし た意味で、コンテンツは海外での異文化理解のための重要なツールになると 考えられる。しかしながら国内外を問わず、こうしたポップ・カルチャーは 知的なエスタブリッシュメントに認められない傾向にあり、この点で官民一 体の努力が必要になるだろう、というのが岡田氏の見解である。
続いて、文部科学省で学習情報政策を担当した経験もある総務省の土屋氏 よりコメントが出た。コンテンツは、最広義にとれば「人間の知的活動のア ウトプット」全体を指す言葉であると言えるが、そういった意味からは、ク リエーターのみならず、一般の人々の創造活動をどうサポートするか、とい う点も重要になる。本格的なクリエーターには、文化芸術振興基本法の枠 組みがあり、メディア芸術祭などのチャネルもあるが、ここで扱うのは、時 代の精査を経た文化芸術であり、ポップ・カルチャーのようなものは馴染み にくいという点には注意が必要だ。また、文科省の管轄で言うと文化庁があ り、ネットと音楽市場の関係など、著作権にまつわる問題も課題となってい る。今後、ディストリビューションのチャネルとしてのネットの可能性につ いても検討する必要があるだろう、と土屋氏は述べた。
内閣知的財産戦略推進事務局の山下氏からは、メディア・コンテンツ産業 は実は言われているほど強くないのではないか、という問題が提起された。 GDP比で見ても、成長率で見ても、必ずしも高いとは言えないメディア産 業は、現在のように漸進的な政策で対応していては、海外に後れをとってし まう可能性がある。コップの中の利害調整ではなく、ユーザーとクリエー ターが主役であることを明確にする必要がある。その上で、個人のポテン シャルの維持やビジネス・モデルは、民間に任せていくという役割分担が必 要ではないか、と山下氏は述べた。
最後にスタンフォード大学日本センターの中村氏から発言があった。中村 氏はかつての郵政省の時代からコンテンツの運動に携わっていたが、そのこ ろから行政の内実はあまり変わっていないのではないか、と述べる。これは 前の山下氏との発言とも関係するところだろうが、さらに中村氏は、役所の 議論に乗る以前での、アカデミズムでの鍛錬の必要性も訴える。結果的に分 散し、タコツボ化しているコンテンツの議論を束ねていくようなやり方を考 える必要がある、と中村氏は述べた。
全体を振り返って
その後のディスカッションでは、コンテンツに対する支援とは、産業に対 するものなのか、ユーザーやクリエーターに対するものなのか、全体的な支 援なのか、ターゲットを絞ったものにするのかなど、実践的な課題も含めて 意見が出された。その中で、二次利用の問題、ネット配信における問題など も取り上げられるなど、コンテンツとビジネス、そして政策を巡る問題の最 前線が、集中的に議論されたセッションであった。
しかしながら同時にそれは、小野打氏の発言にもあったとおり、市場が拡 大しているにも関わらず、一本化された監督府省が存在せず、問題への対処 が遅れてしまうという現在のコンテンツ政策の問題点を浮き彫りにするもの でもあった。今後も府省横断的な、また産官学の連携した議論が発露される ことに期待をしたくなる、そのような場になったと思う。 (鈴木謙介:国際大学GLOCOM研究員) 主催:コンテンツ政策研究会(http://contents-policy.net/) 日時:2005年8月20日(土)17:30~ 19:00