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セッション:023-024 ised第5回設計研
- 近藤淳也 : 株式会社はてな代表取締役
- 村上敬亮 : 経済産業省資源エネルギー庁総合政策課課長補佐(前 商務情報政策局情報政策課課長補佐)/東京大学先端科学技術センター客員研究員
- 井庭 崇 : 慶應義塾大学総合政策学部専任講師/国際大学GLOCOM客員研究員
- 楠 正憲 : マイクロソフト技術企画室主席研究員(技術戦略担当)/早稲田大学理工学部非常勤講師
- 国際大学GLOCOMフェロー
- 八田真行 : 東京大学大学院経済学研究科博士課程/Debian Project/GNU Project
- 東 浩紀 : 国際大学GLOCOM教授
- 司会:鈴木 健 : 東京大学大学院総合文化研究科博士課程/PICSY/国際大学GLOCOM客員研究員
国際大学GLOCOM東浩紀研究室では、新しい情報社会のパラダイム を探ることを目的として2004年10月に「ised@glocom-情報社会の倫理と 設計についての学際的研究-」を立ち上げ、次世代の企業家、技術者、研究 者、ブロガーらを集め、これまで倫理研4回、設計研4回の計8回にわたる 討議を行ってきた。今回は設計研の第五回として、株式会社はてなの代表取 締役近藤淳也氏を講師に招き、「なめらかな会社」と題した講演と議論が行 われた。
「なめらか」という概念
まず、近藤淳也氏より株式会社はてな(以下、「はてな」と記載)の紹介 が行われた。「はてな」は2001年に京都で創立されたウェブ・サービス運営 会社であり、最初は「人力検索はてな」という質問サービスから始まり、そ の後「アンテナ」や「ダイアリー」を作成、去年東京に移転して「グループ」 「検索」、今年に入って「ブックマーク」「アイデア」「マップ」とサービスを 増やし続け、現在は約十種類のサービスを一般ユーザーに提供している。社 員数は現在約十人で、渋谷区に拠点を置く。
今回はこの「はてな」という会社の提供するサービスが、情報社会におけ る「なめらか」という概念を実現している多くの事例が紹介された。なめら かとは設計研司会の鈴木健氏により第四回設計研の中で提唱された概念で、 財やサービスの提供者と消費者、教育者と生徒といったこれまでステップな (切り立った)関係であった者同士がよりその関係を行き来しやすく、すな わちなめらかなものにしていくことこそ、豊かな情報の共有を可能とする情 報社会の真価である、というものである。
しかし、必ずしも全てがなめらかになればよいというものではない。例え ば、物事に対する責任の所在は、常に明らかでなければならないし、また、 組織の中でもピラミッド構造によって強さを保っているスポーツチームや、 産業の中でも巨大な自動車メーカーのピラミッドの中で強さが生まれるとい うことも存在する。このような例外はあるとしても、本来開示されるべき 情報が何らかの理由で隠蔽されている、もしくは企業と消費者においてその 製品を日々利用している消費者の方が製品を改善するためのよりよい情報を 持っている場合などにおいては、両者の対話を可能にすることで情報の共有 を進め、その関係はなめらかにされていくべきである。 「はてな」における「なめらか」の実践
「はてな」が行っているなめらかの事例として、社内における情報共有の 取り組みが紹介された。
- はてなグループというブログとwikiが組み合わされた情報共有ツールを利用し、各社員が開発などの業務の進捗度合いを1日に十~二十回にわ たり報告を行う
- 毎朝の自由参加ミーティング
- 業務に関係する全てのメールを社内全体に向けてCCを送る
こうした取り組みの原則として、社内における情報の私有化を禁止すると いうことがある。「はてな」のような会社にとっては各人に割り当てられた PCなどよりも、社員が思い付いたアイデアやプログラムのコード、持って いるノウハウといった情報が大きな価値を持つので、そういった情報を会社 に対して徹底的にオープンにすることを求めている。また、社内における立 場のなめらかさの実現として、管理職を極力置かないという取り組みを行っ ている。次に、社内と社外の関係のなめらかさに関する事例が紹介された。 新たなサービス導入の告知として「はてなダイアリー日記」という公式の ページに告知を行う他、社員一人ひとりが持っているスタッフ日記を通して サービスの開発段階から情報公開を行っている。
こうして導入したサービスに対する要望を利用者から収集するため、「は てなダイアリー日記」への利用者からのコメントやトラックバック、後述す る予測市場の仕組みを用いた「はてなアイデア」を利用している。このよ うな手段で収集された要望や不具合情報をどのように扱うかという社内会議 は、音声ファイルとして社外にも公開されている。
予測市場とは、近年米国を中心に注目されている株式市場機構を模した、 ハリウッドのアカデミー賞受賞者や選挙の結果など、さまざまな事象の結果 を予想することを目的とした意見集約の仕組みである。予測市場の仕組みを 用いた「はてなアイデア」では、利用者は無条件に仮想のアイデア・ポイン トを1,000ポイント与えられ、そのポイントを使って要望やアイデアを株式 として購入・取引を行う。例えば、「はてなダイアリー」にこういう機能を 付けてほしいということを思い付いたら、それをアイデアとして登録して、 自分で株式を購入する。さらにそのアイデアがいいと思った人がいれば、ど んどんその株式を買い増し、ある一定の株式が発行されると新株の発行が止 まって市場での自由な価格での売買が始まる。そのアイデアが「はてな」に よって実装されて実現されると、1.5~ 5倍となってポイントが配当される。 逆にいつまでも実現されないと、株は買われたままになり、アイデアが却下 されるとそのポイントは没収されることになる。
この仕組みの利点として、「視点の共通化」が挙げられる。サービスの利 用者対提供者のような対立軸に基づいた、ただ自分がやってほしいという要 望ではなく、「はてながこれをやりそうかどうか」ということを予測して価 格を付けているので、サービス提供者と利用者の視点が共通化することにな る。「はてな」がこれをやるべきかどうか、ということを運営者側もユーザー 側も考えた上で重み付けをすることができる最も有用な仕組みではないか と、近藤氏は考えている。
なめらかであることの価値
次に、ここまでの事例を元に企業や社会がなめらかであることの利点が3 点示された。
●標準化のための戦略
ネット上で標準を確保するためになめらかであることが必要になっ ている。「はてな」の外側の例として、アマゾンでは書籍のデータベー スを公開しアフィリエートなどの形で社内と社外の関係をなめらかに することで、ネットにおける書籍販売の標準として大きな成功を収め たと言える。また、グーグルは優れた検索システムを無償で公開して いる。仕組みを作るために相当な投資が必要であるにも関わらず、無 償で公開したことにより、グーグルは検索エンジンの標準システムと してビジネス構築をすることができた。
●変化可能な商品の提供
ユーザーの嗜好や利用方法の変化に対する、企業の商品・サービス 開発者の想像力には限界がある。例えばブログという言葉が一般的で ないときにブログと言っても意味がわからない、もしくは技術的にト ラックバックということが全く理解されないものから、だんだんと市 民権を得ていく中で、そうした変化への臨機応変な対応をする必要が 出てくる。提供者と消費者で情報を共有することによって、さまざま な要望や変遷に対応できるのではないか。
●変化に対応可能な会社の構築
情報技術により会社組織も変化する。今までの会社は基本的に三層 構造になっており、株主から資本を集めた会社が、その資本を使って 物を作り消費者に売る。そして消費者から売り上げを得て、それを株 主に配当するという構造であった。しかし、これからの会社、つま り、これまで説明したようにユーザーが参加して、そこから生まれて きたプロダクトをいろいろな人が使う構造というのは、まず外側に物 言う消費者がいて、その中心に会社がいて、協力して業務を行う同心 円構造になっていると言える。
このように、なめらかということをキーワードに考えると、新しい時代の 変化が見えてくる。その方法論が、「はてな」のようなインターネット・サー ビス事業者以外にも応用可能であるのか。
基本的には、多かれ少なかれ、さまざまな企業で活用が可能なはずであ る。最初は情報サービス産業のようなところから始まり、パソコン・メー カーのような製造業・メーカーによる活用、あるいは行政や直接的な民主制 にも応用可能であろう。先ほどの「はてなアイデア」によって「はてな」へ の要望を集約している仕組みは、例えばそのまま「はてな」が「東京都への 要望」という市場を作り、意見を集めて提言をしていくという活用も考えら れる。また、企業と消費者の関係をなめらかにすることは、市民と公務員の 関係にも適用できるのではないか。
意味のない情報の隠蔽を、情報技術によって崩壊させていきたいというの が今回の根底にある考え方であるから、逆に言えば意味のない情報の隠蔽が あるところなら、どこにでも応用できるのではないかと考える。
(生貝直人:国際大学GLOCOMリサーチアソシエイト)
- 主催:国際大学GLOCOM東浩紀研究室
- 日時:2005年8月20日(土)16:30~ 17:30、19:30~ 21:30