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2005総選挙とインターネット
- 講師: 高橋 茂 : 株式会社世論社/インターネット新聞『JANJAN』
10月14日のIECP研究会は、(株)世論社の高橋茂氏を講師に迎え、今年 の総選挙におけるインターネットの動きと今後の展望、特に公職選挙法の問 題点やネット上での選挙運動などについてお話をうかがった。
講師の高橋氏は、2000年の長野県知事選で田中康夫(現長野県知事)陣
営のインターネット戦略を担当された方である。その経験から、ネット上で
の議員活動をサポートするシステム「ネット参謀」
「ネット参謀」について
高橋氏が開発・運営されている「ネット参謀」は、議員活動をサポートす るためのさまざまなツールをインターネット経由で提供するシステムで、電 子メールの送受信や掲示板への書き込み程度ができれば、誰でも簡単にホー ムページの立ち上げ・更新、スケジュール管理、メーリング・リスト、メー ル・マガジン(メルマガ)ができるようになっている。使用料は現在、初期 設定10,500円、月額4,620円(市区町村会議員)~ 9,240円(国会議員・知事・ 政令指定都市長)である。
高橋氏が「ネット参謀」を作ったきっかけは、長野県の知事選で市民運動 に取り組んでいる元気な「おばさん」たちに出会ったことで、彼女たちが低 コストで選挙戦を戦うためのツールを作りたいと考えたのだそうである。 また、組織を持たない彼女たちが当選しても、議会ではつぶされることも多 い。そこで、議員がひとりでも闘えるようにするために、全国で同じような 政策を掲げてがんばっている方たちの横のつながりを作るためのツールとし ても使えるようになっている。現在、国会議員、地方議員のほかに、川辺川 ダムの問題にかかわっている方、インドからオピニオンを発信したいという 方が個人メディアとして利用している。
2005総選挙とインターネット:五つの注目点
高橋氏は、今回の総選挙でインターネットがどう動いたかについて、次の ような注目点を挙げた。
(1)マスメディア以外の選挙関連サイト
従来の選挙では新聞記事やテレビの特集番組、およびそれらマスメディア
によるサイトが主な情報源であったが、今回はマスメディア以外のさまざま
なサイトが選挙特集を組んだ。高橋氏が作成された総選挙関連リンク集
また『JANJAN』
(2)ネット・ジャーナリストの出現
ここで高橋氏が紹介したのは、『Grip Blog』というブログを運営されてい
る泉あいさんである。泉さんのこだわりは一次情報にあり、何か気になる
ことがあると、必ず自分で情報源に会って話を聞く。そして、取れたインタ
ビューについては、全文を『Grip Blog』に掲載している。その理由は、「イ
ンタビューの全文を読むことで、読者一人ひとりがインタビューを解釈し、
自分の意見を持つことができ」「インタビューを文章で残すことでアーカイ
ブとして利用できること」、そして、「既存メディアが自分の都合の良い部分
だけを切り取ってつなぎ合わせていることに不信感を持つ人も多い」からだ
と、彼女自身が述べている
例えば総選挙の取材では、7党(自民党、公明党、民主党、社民党、共産党、 国民新党、新党日本)の党首すべてにインタビューを申し込み、福島みずほ 社民党党首、小池晃参議院議員(共産党)、遠山清彦参議院議員(公明党)、 世耕弘成参議院議員(自民党)への単独インタビューを実現させている。ア ポイントが取れた相手については、事前に読者からブログで質問を募集して インタビューで質問し、それをビデオに録画して、報告記事とともに全部を ブログで公開している。そしてそこには、即座に読者からのコメントが書き 込まれていく。高橋氏は、「これは、双方向で容量の制約がないというネッ トの特長を生かした方法で、泉さんの場合、一個人が無償で記事を書くと同 時に自分でメディアを作ってしまったことが画期的」だと述べた。
(3)自民党のPR戦略
自民党のPR戦略を巡っては、二つの動きがあった。
一つは、総選挙公示前の8月25日、自民党がブログやメルマガの発信者 と武部勤幹事長・世耕弘成広報本部長代理との懇談会を開催したことであ る(安倍晋三幹事長代理も出席予定だったが、台風の影響で出席できなかっ た)。これは自民党が、ネット上で影響力はありそうだが、あまり政治的に 偏ってはいないサイトをピックアップして、その発信者三十数人を招待した もので、懇談会でのやり取りの全文が『Grip Blog』に公開されている(泉 さんは最初招かれていなかったが、党首インタビュー申し入れの過程で懇談 会のことを知り、自分から頼んで加えてもらったそうである)。高橋氏によ ると、自民党側が参加者を選んだとはいえ、自民党幹部がネット・メディア と直接やり取りする機会を作ったことは画期的で、自民党がインターネット に注目していると、ある種の期待感をもって受けとめられたそうである。
もう一つ、総選挙の公示直後に、民主党が総務省から指摘を受けて政党サ イトの更新部分を削除するという事件があった。これは、民主党が公示後も サイト更新やメルマガ配信を続けていたことを、自民党が公職選挙法違反だ と批判したためである。高橋氏によると、選挙公示後の政党によるサイト更 新が選挙違反と明確に指摘されたのは初めてのことで、これも自民党がイン ターネットに前向きに取り組もうとしている姿勢の表れではないかというこ とであった。
(4)進歩のない立候補者サイト
現在、現職議員の九割以上が公式サイトを持っているが、高橋氏による と、その質は「まだまだ低い」。業者が作成したためにピントはずれであっ たり、スタッフ任せで本人の声が聞こえてこないものが多いそうである。
またブログに関しては、日記のようなものを書いている政治家は多いが、 使いこなせていないということである。政治家がブログを使うからには、自 分の意見を提示して、そこにコメントやトラックバックを付けてもらうべき だが、それがきちんとできている政治家はほとんどいないし、秋葉賢也議員 や杉村太蔵議員の例のように、スキャンダルが起きるとコメント欄が荒れ放 題になってしまう。
高橋氏は、ブログや掲示板は何かのきっかけで簡単に荒れてしまうため、 政治家の公式サイトには安易に付けるべきではないという。政治家の公式サ イトに必要な基本情報は、「自己紹介」「プロフィール」「理念・政策」「活動 報告」の四つであり、この基本情報の部分を標準化して、比較できるように することが重要ではないか、ということであった。
(5)やはり公職選挙法の壁
現在、ネットによる選挙運動はできないことになっている。ネットによる 選挙運動というのは、具体的には、選挙期間中の候補者や政党によるサイト 更新とメルマガ配信である。といっても、公職選挙法の中にそう書いてある わけではなく、総務省がそういう見解を出しているのだそうである。公職選 挙法第142条に「文書図画の頒布」についての規定があり、選挙管理委員会 が許可したもの以外の文書図画を頒布してはいけないことになっている。選 挙にかかわるサイトやメルマガは、この「文書図画」に当たるとされている のである。
では、サイトやメルマガの頒布とは具体的に何を指すのか。選挙期間中、 候補者のサイトにアクセスできることは頒布ではないのか、文書や画像では なく音声だけならいいのか、後援者のサイトは更新してもいいのかといった ことになると、よく分からない。高橋氏によると、みんなそれに振り回され ていて、候補者は疑問を感じながらも公示日になると更新をストップさせ、 一般のネット・ユーザーからも「なぜ違反なのか分からない」という意見が 多く聞かれたということであった。
今後の展望
これらの状況を踏まえ、高橋氏は今後の展望として以下4点を挙げた。
(1)公職選挙法の改正
- 二年後の統一地方選か参議院選挙までには改正されるのではないか。
- 改正のポイントは、告示/公示以前と以後の活動(政治活動と選挙運動)の定義、立候補者のネット活動と有権者のネット活動、選挙期間中のネッ ト活動の解禁の程度、「誹謗中傷」の定義など。
- ネット上の選挙運動が解禁されたとして、表現に規制がかかって今より悪くなることはないのか。
(2)ブログはどうなるのか
- ブログの勢いは止められないだろう。
- ブログにはオピニオン・リーダーが存在し、何か起きたときにネットの意見を引っ張っていく可能性があるが、オピニオン・リーダーとして注目さ れている人の中には考え方が先鋭すぎる人もいる。
- 自分の身の回りのことを発信していく市民記者的な情報発信には期待したい。
- トラックバック・センターに集まる情報の整理が必要。
- ブログのシステムを見直して、日本の情報発信に合ったものに作り替えた方がいい。
- 全体の動きが分かるような統括的なメディアが必要。
(3)政党の戦略はどうなるか
- 国でも地方でも、政党や政治家のPR戦略がますます重要になってくる。
- 例えば、政党専属のブロガーが現れてブログを仕掛けるようなことになったとき、世論の操作が簡単にできてしまう可能性がある。本当の民意はど こにあるのか、という見極めができるかどうか。
(4)候補者サイトはどうなるのか
- 政治家のサイトにはブログや掲示板は向かない。
- 動画、携帯、RSSの活用が進む。例えば、政見放送はネット上でいつでも見られるようにしておくべきだろう。
- ネット上だけで選挙運動はできない。候補者は、選挙期間中はネットよりも街頭に出るべきで、サイトにはスケジュールや活動の様子を簡単に載せ るぐらいでいいのではないか。
- 選挙管理委員会はインターネット上に選挙公報を作るべきだろう。
2005年10月14日開催(編集部)