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IT時代のエンターテインメント産業~ミュージック・ビジネスに関して~
- 講師: 廣瀬禎彦 : コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社代表執行役兼最高経営責任者
10月4日のIECP研究会は、コロムビアミュージックエンタテインメント (株)代表執行役兼最高経営責任者の廣瀬禎彦氏を講師に迎え、ミュージッ ク・ビジネスの現状、IT化によるミュージック・ビジネスの変化、その中 でのレコード会社の役割と展望などについてお話をうかがった。
CDが売れない
「CDが売れない」という。いったいどのくらい売れていないのかという と、2004年の年間売上高は3,600億円。1998年の六千億円台をピークにし て、毎年10~15%減少し続けており、おそらく今年は最盛期の半分だろう と言われている。この間、(社)日本レコード協会加盟の大手レコード会社 の数は23社と最盛期から変わらず、廣瀬氏によると「我慢比べ」の状況だ そうである。
かといって、私たちが音楽を嫌いになってしまったわけではない。朝はお 気に入りの曲で目覚めるし、仕事中はパソコンで音楽を鳴らしている。街角 では始終、着メロが聞えてくるし、ネットではライブ・コンサートのスト リーミング配信も行われている。主なライブ・コンサートはほぼ完売状態だ そうである。相変わらず、私たちのまわりには音楽が溢れている。
廣瀬氏は、「新しい仕組みが出現すると、音楽はプライス・ダウンし、需 要は飛躍的に拡大する」ということを、レコードの出現を例にあげて説明し た。かつてはミュージック・ビジネスというと、生演奏(ライブ・コンサー ト)しかなく、音楽を聴くことは一部の人の高尚な趣味でしかなかった。そ こに百年前レコードが出現して、音を記録することができるようになった。 一回きりだった演奏を何度でも再現できるようになり、製品としてのレコー ドを大量に複製することで、音楽の単価は大幅に下がり、市場は飛躍的に拡 大した。より多くの人が音楽を聴くようになり、音楽はより親しみやすい存 在になった。
今、これと同じことが起きつつあると、廣瀬氏は言う。新しく出現したの はネットである。昨年の国内における音楽のネット配信売上高は約二百億円 で、まだCD売上高の6~7%に過ぎないが、倍々で伸びてきていることか ら、あと三年もすれば二千億円近くになり、CDの売り上げに拮抗してくる だろうと言われている。
ミュージック・ビジネスの構造
ではネットという新しい仕組みが加わったことで、従来のミュージック・ ビジネスはどのような影響を受けるのだろうか。廣瀬氏によると、これまで のミュージック・ビジネスの構造は図1のようになっており、アーティスト とリスナーの間に「音楽事務所」と「レコード会社」と「レコード店」が介 在している(ただし、ライブ・コンサートは音楽事務所とイベンターが介在 する)。

音楽事務所の役割は、アーティストの発掘・育成・商品化と、アーティス トの活動全般のマネジメント(レコード会社との契約、ライブ・コンサート への出演、マスコミへの露出、コマーシャルへの出演、ノベルティー・グッ ズの企画・販売、ファン・クラブの運営など)である。アーティストの発掘 から商品化までは長期にわたることが多く、その間のアーティストの生活費 や育成費用などは音楽事務所が負担する。その投資は、レコード会社との契 約金やファン・クラブの会費などで回収することになるが、レコード不況の 影響を受けて楽な状況ではないということである。
ネットの影響については、こうしたアーティストの育成やマネジメントと いった機能は人的な要素が強いものであるため、いまのところ音楽事務所は ネットとは少し離れた関係にあるそうである。ただ、曲を録音してネットに 載せれば、レコード会社を通さなくてもアーティストを売り出すことができ るわけで、近い将来、そういうことが音楽事務所の機能の一つになるだろう と、廣瀬氏は述べた。
もっと厳しい状況にあるのがレコード会社である。レコード会社の役割 は、アーティストとの契約、レコード(CD/DVD)の企画、レコーディング、 ジャケット製作、マーケティング・プロモーション、レコード店への卸と 販売支援である。これを、マスター制作までと製造・流通とに分けると、い まネットが置き換わろうとしているのは、製造・流通の部分である。すなわ ち、音楽のネット配信が主流となったときに、レコード会社に残る機能は、 「レコードの企画」と「レコーディング」だけということになる(マーケティ ング・プロモーションも変化していて、従来のやり方では売れなくなってい るそうである)。
ただし、レコーディングについては、デジタル化によって大きく様変わり している。従来のレコーディングは、専用のスタジオで高価な機材を使用し て行われ、非常に設備投資のかかるものであったが、最近ではパソコンと専 用ソフトがあれば、マンションの一室をスタジオ代わりにしてレコーディン グができるようになっている。アーティストが自分でレコーディングするこ とも可能なわけで、レコード会社の介在が絶対に必要というものではなくな りつつある。
となると、レコード会社に残るのはレコードの企画だけとなる。これは、 アーティストを素材として市場の求める商品を企画することで、いわゆる プロデュースと呼ばれる仕事である。最終的にレコード会社に残るのはプロ デューサーとしての役割のみ──これがレコード会社の直面している状況だ ということであった。
ロング・テールでのビジネス
音楽配信に限らず、ネットでの売り上げの特徴として「ロング・テール」 ということが言われている。これは図2右のように、ものすごい枚数を売り 上げるごく一部のアーティストと、わずかの枚数を売る膨大な数のアーティ ストに、市場が極端に分かれる現象である。わずかの枚数を売るアーティス トが大量に存在するために、グラフの右下の部分が延々と長く続き、このた めにロング・テールと呼ばれる。
ネットでのダウンロード

これは、レコード店では売り場面積が有限なために、店頭に並べてもらえ るアーティストの数が限られるのに対して、ネットは無限だからと言われて いる。テール部分は、従来は販売コストが見合わないために切り捨てられて いた部分であるが、ネットでは在庫のコストを低く抑えることができるため に、いろいろなアーティストのいろいろな曲を並べておくことができ、ユー ザーのごくわずかなニーズを拾い上げることができる、ということである。
一人ひとりのアーティストの売上げは小さくても、この延々と続く長い テール部分を合計すると無視できない売り上げとなる。廣瀬氏は、このテー ル部分で採算がとれるようなビジネスを提案する。
ネット化によってミュージック・ビジネスはどう変わるか
例えば、旧譜(カタログ曲)と言われる曲のネット配信である。かつての
ヒット曲には根強いファンがいるが、レコード店には置いていないことが多
い。レコード会社はこういった旧譜
また、ネット化でシングルCDは消えていくだろうと言われており、実際 に売り上げが激減している。このために変わらざるをえないのが、新人アー ティストのデビュー・プロセスである。シングルCDには新人アーティスト のマーケット・テストという側面があり、現在、標準的なケースで、三カ月 ごとにシングルを一枚ずつ出し、市場の反応を見ながら、一年ぐらいかけて アルバムを出すかどうかを決めているのだそうである。廣瀬氏によると、新 人のデビュー・プロセスは、おそらくもっとテンポの速いものになる。すな わち、毎月二曲ずつレコーディングしてネット配信に出していく。この方法 だと数カ月で合否の判断がつき、そのぶんリスクも少ない。また数カ月たっ た時点でアルバムを出そうとなったとき、材料はすでにそろっているのでア ルバムの制作コストも安く済む。
さらに、ネット化・デジタル化を生かした新しいミュージック・ビジネス として、廣瀬氏は、ライブハウスとライブハウスを結んで生演奏をネット中 継するアイデアを紹介した。
現在、ライブハウスは乱立気味で、特に地方のライブハウスは有名アー ティストになかなか来てもらえないことから、客集めに苦労しているそうで ある。そこで、店内に大型ディスプレーを設置し、来店客がお酒を飲みなが ら、別のライブハウスでのアーティストの演奏を楽しめるようにする。もち ろんインタラクティブなので、こちらの店での観客の反応を、あちらの店で 演奏中のアーティストに伝えることもできる。また、ライブをデジタル化し て配信すると、同時にDVDを作成できるというメリットもある。CD売り 上げの落ち込みに比べ、ミュージックDVDの売り上げは伸びているそうで ある。DVDも制作コストを格段に低く抑えることができれば、ロング・テー ルでのビジネスが可能になる。
廣瀬氏によると、デジタル化・ネット化によって音楽の供給も需要も増え る。売ることのできる曲も、売ることのできる拠点も増えるということであ る。ただし、それには需要を顕在化させるための情報提供の仕組みが必要だ ということであった。
2005年10月4日開催(編集部)