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『デジタルコンテンツ白書2005知的財産立国の実現、アイデンティティーの刷新をめざして』

  • 講師: 福冨忠和 国際大学GLOCOM主幹研究員・教授/デジタルハリウッド大学教授
  • 講師: 平林久和 株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
  • 講師: 津田大介 IT・音楽ジャーナリスト/ネオローグ代表

 2005年9月22日、『デジタルコンテンツ白書2005』をテーマ書籍として、財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAJ)とIECP読書会の合同特別セミナーが開催された。

 『デジタルコンテンツ白書』は、DCAJが編集・発行している国内唯一のコンテンツに関する白書で、デジタル・コンテンツを中心に、メディア・コンテンツ産業の市場規模や産業動向が紹介、解説されている。編集委員長を務めた福冨忠和GLOCOM主幹研究員によると、2005年版の制作にあたっては、編集委員および執筆陣になるべくコンテンツの制作現場に近い方々に参加していただき、現場のリアルな情報を組み込むことに努めたということであった。

 本セミナーでは、最初に福冨氏よりデジタル・コンテンツ市場の概況について説明があり、続いてゲームについて執筆された平林久和氏より「次世代ゲーム機の登場によるゲーム産業、コンテンツ産業の今後」と題して、また音楽について執筆された津田大介氏より「iTunes Music Storeの登場による音楽配信サービスの今後」と題して、それぞれ講演が行われた。

デジタル・コンテンツ市場の概況

 白書の定義によると、コンテンツとは「様々なメディア上で流通する[映像、音楽、ゲーム、図書]など、動画・静止画・音楽・文字・プログラムなどの表現要素によって構成される"情報の内容"」であり、このうちデジタル形式で記録されたものをデジタル・コンテンツという。

 2004年(一部2003年値を含む)のコンテンツの国内市場規模は13兆3,362億円で、これは過去5年間、ほぼ横ばい状態である。このうちデジタル・コンテンツについては2004年2兆4,685億円で、前年比11.1%増と順調な伸びを見せている。これは、国内のコンテンツ消費が飽和状態にあるなかで、デジタル・コンテンツの市場が拡大し、そのぶんアナログ系のコンテンツ市場が縮小していることを示している。この傾向は、ハード・ディスク・レコーダーや地上波デジタルの登場によってますます拍車がかかると言われている。今後、日本の人口が減少に転じるのは確実で、国内市場の拡大が期待できない以上、コンテンツ産業は海外市場に出るしかない。

 ここで海外に目を向けると、世界全体のコンテンツ市場規模は約百三十兆円であり、米国が約半分、日本が約一割を占めている。現在、アジア太平洋地域では市場規模の約半分が日本であるが、中国や韓国の追い上げが著しい。

 日本のコンテンツの国際収支は2001年の統計で、約九百億円の輸出超過『デジタルコンテンツ白書2005―知的財産立国の実現、アイデンティティーの刷新をめざして―』経済産業省 商務情報政策局 監修財団法人 デジタルコンテンツ協会 編集・発行2005 年8 月発行A4 変型、266 頁税込価格4,500 円である。しかし、これを「ゲーム・ソフト」「出版」「映画」「放送番組」「音楽ソフト」の分野別に見ると、ゲーム・ソフトを除いては大幅な赤字であり、ゲーム・ソフトだけで黒字を稼いでいる状況にある。しかし、このゲーム・ソフトについても衰退傾向が顕著で、1980~90年代前半には世界のゲーム市場で圧倒的なシェアを誇っていたものが、2004年には六分の一程度に落ちているそうである。

 このような状況のなかで、福冨氏は日本のコンテンツ市場を巡るトピックとして、以下が挙げられるのではないかと述べた。(1)映画、アニメ、Jポップなど多くの日本発コンテンツが海外で高い評価を受けたことにより、日本ブランドが定着してきた。(2)ライブドアによるニッポン放送買収問題がきっかけとなり、番組のブロードバンド配信に取り組む放送局が増えた。(3)iPod発売以後、音楽配信ビジネスが大きく展開した。(4)ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)から書籍や映画が生まれ、ネット経由のコンテンツが旧メディアに広がった。(5)ニンテンドーDS、ソニーPSPと二つの携帯ゲーム機が発売され、また2005年末から06年にかけて次世代ゲーム機3機種が発売される予定で、新たな展開が注目されている。

講演1: 次世代ゲーム機の登場によるゲーム産業、コンテンツ産業の今後

 Xbox360(マイクロソフト)、プレイステーション3(ソニー・コンピュータエンタテインメント)、Revolution(任天堂)と、次世代ゲーム機主要3機種の発売が相次いで発表された。平林氏の講演では、「E3 2005」「E3(Electronic Entertainment Expo)2005」は2005年5月18~20日、米国ロサンゼルスにて開催。や「東京ゲームショウ2005」「東京ゲームショウ2005」は2005年9月16~18日、幕張メッセにて開催。で公表された新機種の最新情報に加えて、白書に現れにくいゲーム産業の実態などが紹介され、次世代ゲーム機が今後のゲーム業界に与える影響や未来のゲームの方向性について分析が行われた。

 白書の記事の冒頭で、平林氏はゲーム市場における現在の「三つの奇異な光景」について述べている。

  • ゲーム・ソフトが売れない。1997年をピークにして国内ゲーム・ソフト市場は頭打ち、ないしは縮小傾向にある。
  • 海外、特に北米地域におけるゲーム・ソフト市場は1998年頃から急拡大し、なお伸び続けている。
  • ゲーム・ソフトは売れないのに、ハードはよく売れている。プレイステーション2は国内で2,104万台(2005年6月現在)を出荷。

 この現況を読み解くために、平林氏は「ゲームとは何か」という問いから始める。ゲームをプレーヤーに強い緊張感や刺激を与える製品ととらえ、ゲームが市場に浸透するに伴って必然的に起こる「刺激のネタ」の逓減が、ソフトの売れない最大の原因だとするのである。他方、ハードのほうは、テレビ・ゲーム機を「わが家にあって当然」と考える家庭が増えたために、堅調な売れ行きを見せているのではないかという。また平林氏によると、ゲームのユーザーは、比較的単純なゲームで気軽に遊ぶカジュアル・ゲーマーと、会費を払ってMMORPG(Massively Multiplayer Online Roll PlayingGame)で遊ぶマニアックなゲーマーに二極化していく傾向がみられるそうである。

 こういった状況のなかで発売される次世代ゲーム機とは、いったいどういうものなのだろうか。

 まず任天堂のRevolutionの特長は、テレビのリモコンのような小型のコントローラーである。先端部にダイレクト・ポインティング・デバイスを備え、画面との距離やひねりといった操作情報をワイヤレスで伝える。「東京ゲームショウ」のデモでは、コントローラーを画面に向けて動かすことで、フライパンの映像を自在に操って料理してみせたそうである。また、平林氏の推測によると、DVD3枚分の厚さという本体サイズや充電器が用意されていることから、携帯できるゲーム・サーバーという位置付けがされ、ニンテンドーDSなどとWiFi通信で接続して、複数でゲームをするような遊び方が提案されるのではないかということであった。

 またプレイステーション3の特長は、実写並みのCGである。CPUにCell(IBM・東芝との共同開発によるスーパーコンピューター並みの性能を持つチップ)を搭載し、GPU(グラフィック・チップ)はNVIDIAと共同開発、全体で2テラフロップス級の処理能力を持つ。このほか物理シミュレーション、リアルタイム・レンダリングなどの技術により、実際に撮影したかのような映像を描き出すことを可能にしている。これまでの3DCGの描画法とは全く思想が異なり、平林氏によると「CGに革命を起こす可能性がある」(詳しくは白書を参照されたい)。販売戦略的に強調されてはいないが、このCG革命については、Xbox360についても同様だということであった。

 ここで指摘されているのが、ソフト開発費の高騰である。実写並みのCGを作るために一本のソフトにかかる資金は最低十億円とも言われ、ゲーム・ソフト業界の再編はますます加速すると言われている。しかし平林氏によると、問題は資金だけではない。「今後はゲーム・ソフトを作るのに、解剖学、物理学、建築学、心理学など広範な専門知識が求められるようになる。ルネッサンス期にダヴィンチがそう称せられたように『万能の天才』、もしくはそれに類するプロフェッショナル集団が、コンテンツ開発の設計段階から必要となるだろう」。そして、「象徴的に言うならば、ダヴィンチのような天才的作家性を発揮するか、カジュアル・ゲーマーたちの声なき声に敏感な市場の黒衣となる謙虚な心を持つか。企業経営者も現場にいる開発者も、大胆な選択を迫られている」(白書、p.121)。

 最後に、1994年秋季COMDEXにおけるビル・ゲイツの基調講演の中で使われた映画が紹介された。十年後(すなわち2004~05年)の社会を予測して制作された映画で、携帯端末(ウォレットPC)による電子決済、カーナビによる移動体通信、ブロードバンド、大型の壁掛けディスプレー、インタラクティブTVなどが日常に溶け込んでいる様子が描かれていて、予見された未来が確実に実現しつつあることが実感されるものであった。

講演2:iTunes Music Storeの登場による音楽配信サービスの今後

 音楽CD市場の落ち込みとは対照的に、高い成長が見込まれているのが音楽配信サービスである。津田氏の講演では、白書を執筆された後の今年8月に日本でのサービスが始まったために、白書では詳しく扱うことができなかった "iTunes Music Store( iTMS)"についてお話をうかがい、実際にiTMSで曲を検索して購入する様子も見せていただいた。

 iTMSは米アップルコンピュータによる音楽配信サービスで、"iTunes" という専用の音楽管理ソフト上でサービスが提供される。音楽を一曲単位で購入することができ、米国では値段が1曲99セントで統一されている(ただし、日本では1曲150円もしくは200円の二本立て)。著作権保護機能にはアップル社独自の "Fairplay" が採用されていて、購入した曲はiPodに何度でもコピーでき(iPodはもともとiTunesを補完するものとして発売されたそうである)、CD-Rに書き込むこともできる。

 現在20カ国でサービスが展開されており、全世界の音楽配信市場の八割以上(アップル社の発表による)を占めている。日本でも8月4日のサービス開始後、4日間で百万曲を販売したということである。

 津田氏は、iTMSの特徴として以下の3点を挙げ、「音楽CDよりも便利な世界をユーザーに提示したこと」がユーザーに支持された理由だと述べた。

  • 豊富なカタログ

 米国では4大メジャー・レーベルとインディーズを合わせて二百万曲以上

  • 購入しやすい価格

 米国では1曲99セント。ワン・コインで気軽に購入できる感覚が重要

  • 使いやすいDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)

 iPodとの連携。CD-Rに書き込み可(カー・ステレオ用には必須)

 つまり、CDショップに出かけていって欲しい曲を探して買ってくるよりも、よほど便利だということである。津田氏によると、iTMSの背景には「もっと音楽を広めたい」というスティーブ・ジョブズの思想があったそうである。アップル社が米国でiTMSをスタートさせた2003年当時にも、1曲99セントという値段は破格であり、またコピー制限が緩いなど、レコード会社としてはとても呑める条件ではなかった。ただ、レコード会社が自ら行っていた音楽配信サービスがうまくいかなかったという事情があり、そこにスティーブ・ジョブズが粘り強く交渉した結果、一年間アップル社に任せてみようとなったということである。もともとマッキントッシュがアーティストに親和性が高く、スティーブ・ジョブズの思想に共鳴する大物アーティストがいたことも大きかったということである。

 実は日本版iTMS以前から、日本でもbitmusic、Moraなどの音楽配信サービスが行われてきたが、ユーザーへの浸透はいま一つであった。理由は、カタログが貧弱で、価格が割高で、DRMの使い勝手が悪い(携帯音楽プレーヤーへの転送回数に制限がありCD-Rへの書き込み不可とする曲が多い)からである。

 この違いはどこから生じるのか。津田氏は「カタログ数」「価格」「DRM」のそれぞれについて、いくつか理由を挙げて説明を加えた。長くなるのでここでは詳細を省くが、原盤権の在り方の違い、そのために配信許諾の権利処理が複雑なこと、レコード会社とプロダクションの関係、売上分配率の問題、再販制度、価格決定の仕組み、レンタルCDというシステムの存在、DRMに対する業界の姿勢など、さまざまな問題が複雑に絡み合う。しかし、いずれにしてもユーザー側というより業界内部の事情であり、ユーザーの利便性よりも「業界の慣習や法的問題、既得権益」を優先させる体質が、新しいビジネスの普及を妨げてきたことは否めない。

 最後に津田氏は、iTMSがもたらす可能性について次のように述べた。

  • セールス・プロモーションがネット上で完結するために、アーティストの海外進出が容易になる。
  • 原盤制作や流通のコストがかからないために、従来リリースしにくかった音源の積極的なリリースが可能になる。
  • 単価が安いので「試聴」感覚で購入するユーザーが多い。従来のパッケージ(音楽CD)との共存もありうる。
  • 音楽配信では1曲単位で購入できるため、ベスト・アルバム、コンピレーション・アルバムの存在意義がなくなる。
  • CDレンタル・ビジネス解体の可能性。
  • iTune上ではメジャー/インディーの垣根がないため、作り手にとっても受け手にとっても公平な世界をもたらし、音楽が多様化する。

 iTMSおよび音楽配信ビジネスの今後については、アップル社による動画配信サービスの可能性、米国の一部レーベルによる値上げ要求の動き、ヨーロッパで伸びているMP3系の音楽配信サービス、日本では「着うた」ビジネスとの競合、タワーレコードとの合弁によるNapster(聴き放題サービス)の日本進出、ソニーミュージックの動向などが気になるところだということであった。

  • 2005年9月22日開催(編集部)