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Center for Global Communications,International University of Japan

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世界のメガキャリア、電話網の次を語る

  • 講師: 松原 敦
  • 日経コミュニケーション副編集長

 2005年10月11日のベストネットワーク研究会は、日経コミュニケーション副編集長の松原敦氏を講師に、「世界のメガキャリア、電話網の次を語る」と題して開催された。今回は、日本で開かれた「BBWFA(BroadbandWorld Forum Asia)」を機に集まった世界の大手通信キャリアの首脳へのインタビューを踏まえて、電話網の今後についてお話を伺った。

電話網のIP化に取り組む世界のキャリア

 電話網のIP化は2004年あたりから世界的に急激に加速した。最初に電話網をIP化すると発表したのは英ブリティッシュ・テレコム(BT)であり、2004年6月のことだった。日本ではKDDIが2004年9月にIP化を発表したあと、NTTも同年11月に発表した。各社によって時期や投資コストは違うが、世界の大手通信キャリアの多くは、それぞれIP化を進めていく段階に入りつつある。

 電話網のIP化を各キャリアが進める理由は、コスト削減が図られるからである。従来の固定電話網の交換機と比べると、IP電話網で使うルーターは安価で維持費も安い。BTによるIP網への移行投資額の試算をみてみると、年度ごとの支出額は一時的に増えるものの、2010年には、現状の固定網に比べて半減するとしている。また、2015年度までの累積支出額は、固定電話網を維持した場合と比較すると、二割以上のコスト削減になるとしている。

 BTはなぜIP化を急いだのだろうか。松原氏によると、「BTは経営状態が悪く、コスト削減が急務であった上に、古い交換機が多く、いずれにしろ設備投資が必要だった」ということである。それに比べてNTTはそれほどIP化を急いでいない。「交換機の寿命は近づいているが、BTと比べると、部品交換などでまだまだ使える交換機が多い」からだという。NTTは新たなIP網の構築費用は現状の維持費の削減でまかなうとしている。交換機をだましだまし使いながら、順を追ってリプレースしていくのだ。NTTが2004年11月に発表した中期経営計画では、2010年までにユーザーの半数である約三千万回線をIP網に移行すると発表している。

 各国のIP化への温度差をみてみると、前述の英BTを始め、ヨーロッパは先んじてIP化を進めたがっているのが分かる。また、韓国も韓国テレコム(KT)を中心にIP化に積極的である。韓国はADSL普及時もそうであったが、国策として情報通信の先進国になろうとしているのだ。それに対して、米国はIP化にはそれほど興味がない。大きな理由としては、米国の場合、電話会社と競合しているのは「トリプル・プレー・サービス」(video, voiceand broadband)が好評のケーブル・テレビ会社であり、電話会社はそれに対抗することに関心が高く、コスト削減のためのIP化にはあまり興味がないからだ。

期待されるFMC

 Fixed-Mobile Convergence(FMC)が新たな収益源として期待されている。FMCには多種多様なサービスがある。代表は「ワンフォン(OnePhone)」であり、携帯電話の端末を固定の端末としても使えるサービスである。これについては、韓国のKTが「DU」を、英国のBTが「BT Fusion」を先駆けてサービス開始している。両者のサービスは共にBluetoothを固定アクセス・ポイントとの通信に使っており、外にいる時には携帯電話として、屋内にいる時は無線で固定電話として使う。

 日本では、NTTとKDDIの双方がFMCに力を入れていくと公言している。NTTは「グループ力を結集してFMCを推進する」と発表しており、「PASSAGE DUPLE」という無線LANによるIP電話と携帯電話のデュアル・サービスなどを開始している。一方、KDDIは携帯電話(3G)網を発展させた「ウルトラ3G構想」を打ち出している。この構想によると、2010年をメドにIP化された電話網に有線のブロードバンド回線や無線LANなどを含む多様なアクセスを相互接続し、統合されたサービスを提供していく予定である。

 なぜ各国はFMCに力を入れるのだろうか。それは、固定電話の_通話料収入の目減りを防ぐためである。携帯電話を固定電話の代わりに使う人は、年率約十%で増えている。固定電話の通話料収入を、これ以上携帯電話事業者に奪われたくないのだ。また、携帯電話事業者にとっても、新しく出てきたWiMAXなどの高速な無線ブロードバンド・サービスに携帯電話のデータ通信部分が奪われる可能性があり、それを防ぐ意味合いがあるだろう。松原氏は、「まだ現時点では見えてきていないが、これから二、三年後には動きがあるはずである」と予想していた。

 このような状況を踏まえ、総務省もFMCに向けて動きを見せており、「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会」を発足させた。この研究会では、FMCで使う番号に関する議論を行っている。電話番号は、03などの固定サービス向けの0ABJ、移動体通信サービス向けの090、IP電話サービス向けの050など、サービスごとに特定の統一番号が使われている。ユーザーの混乱を招く可能性や通話料金の課金問題などを検討した上で、年内にでも統一見解を出す予定である。松原氏は、「今のところは、FMCの統一番号を作るのではないか」と話していた。

鍵はNGNの標準化

図1:NGN標準化の主な関係団体と動き【図を拡大

 Next-Generation Network(NGN)とは、電話網の次を担う次世代ネットワークのことで、電話網のIP化やFMCサービスの提供を支える技術的基盤のことである。電話網をIP化した時やFMCサービスを提供する時などは、今の固定電話と同じように相互接続する必要がある。相互接続するためには、プロトコルなどの標準を策定する必要があり、その標準となるのがNGNである。

 NGNの標準化の経緯をみてみると、まず初めに欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute:ETSI) のプロジェクト「TISPAN」(Telecommunications and Internet converged Services and Protocolsfor Advanced Networking) が、2003年9月に標準化団体として発足している。次に2004年5月に国際電気通信連合の電気通信標準化部門ITU-Tで「FGNGN」(Focus Group Next Generation Network)が発足した。NGNの標準を策定している主体は、前述のとおりTISPANとITU-Tがあるが、現状はTISPANの方が先行している。TISPANはフランステレコムやBTなどのヨーロッパの通信事業者が強い発言力を持っている。それに対し、ITU-Tは発展途上国などを含めた多くの国が参加しており、日本に限らずアジア、特に最近は中国が力を入れている。今後、どちらの方が優勢になってくるかで標準化の動向が変わってくるだろう。

 また、インターネット技術の標準化を行うIETF(Internet EngineeringTask Force)との関係もあるだろう。NGNでは、IETFが作成したSIPプロトコルを使う。ところが、IETFとITU-Tでは考え方が違う。IETFは、基本的にはインターネットの文化であり、ネットワークは管理されず、端末に機能を持たせ、ユーザーに自由を与える。しかし、NGNはIPベースであるとはいえ、電話のネットワークであり、管理されており、端末にはあまり機能を持たせない。今後、双方のバランスをとっていく必要があるだろう。また、IETFは国際的な機関だが、アメリカが一番強い発言力を持っており、NGNはTISPANで始まったことに象徴されるようにヨーロッパの発言力が強い。背景には、アメリカ対ヨーロッパの構図もあると言える。

 さらに、管理のコストの問題も重要である。通信サービスの管理は、今は各事業者が個別に対応しているという状況であるが、実際にNGNが効果的図1:NGN 標準化の主な関係団体と動き に機能するためには、どれだけうまく標準化し、通信事業者全体のコスト削減につながるかが重要になってくる。松原氏は、「NGNは標準化が鍵を握ってくる。様々なメーカーが標準に準拠した商品を出すことで、機器の調達や管理コストが削減できる」と述べていた。事業者は、NGNを採用するタイミングや標準化の動向に乗り遅れないことが重要だろう。

 最後に松原氏は、業界団体であるTMF(TeleManagement Forum)のJames Warner会長の「このままではゆでがえる「煮沸した湯では逃げてしまうが、かえるを冷水から徐々に加熱してゆくと、ゆでがえるboiledfrogになる」という意味。」という言葉を紹介した。「今のところ通信事業者は、管理の問題にはまだ熱心に取り組んでいない。しかし、この言葉には他が取り組んでいないからと放っておくと、共倒れになってしまうという警告が込められている」と、ネットワークの標準化だけでなく、管理の標準化に積極的に取り組むことの重要性を指摘していた。

  • 2005年10月11日開催
  • (報告:霜島朗子GLOCOM主任研究員)