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コンテンツ専門職大学院の可能性
- 講師: 髙橋克三映画専門大学院大学設立準備委員会代表/ 東放学園キャリアサポートセンターセンター長
- 講師: 高橋光輝株式会社ワオ・コーポレーション
コンテンツ専門職大学院が2校、2006年春開校を目指して準備を進めている(認可申請中)。学校法人東放学園大学による映画専門大学院大学と、株式会社ワオ・コーポレーションによるWAO大学院大学である。
2005年11月9日のIECP研究会では、それぞれの大学院の設立準備に携わっておられる髙橋克三氏と高橋光輝氏を講師に迎え、設立趣旨や概要についてお話をうかがい、コンテンツ専門職を大学や大学院で育成するための課題や展望について参加者とともに話し合った。(注)本記事における名称・肩書きなどは2005年11月9日時点のもの。「WAO大学院大学」は11月22日、文部科学省が同大学院の設置認可を不可としたため、2006年度の開学は予定されていない。
映画専門大学院大学
映画専門大学院大学
ではなぜ、いま映画プロデューサーなのか。
知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会の資料
映画専門大学院大学設立準備委員会の髙橋克三氏は、この原因をプロデュースのできる人材の不足にあるとする。「芸術と産業、文化と経済という相対するものを合一させ、より大きなクリエイティビティーを実現するプロデューサーが求められている。日本は小説、マンガ、イラストなど原作の宝庫で、優れた映像技術、世界有数の資本力、市場もある。法律とファイナンスを駆使できるプロデューサーがいれば、映画を世界商品として日本のブランドにできる」
髙橋克三氏によると、映画制作には、[企画開発]→[プリプロダクション]→[制作]→[ポストプロダクション]→[マーケティング]→[流通・公開]という一連の工程があり、それぞれに図1のような仕事がある。ここから、プロデューサーがかかわる仕事を抜き出すと図2のようになり、法律や税務の知識を必要とするものも少なくない。
では実際の現場で、プロデューサーがうまく機能しているのだろうか。髙橋克三氏は、次のような問題を指摘する。
図2:映画制作における人材の現状
図3:プロデューサーの仕事
- 契約書や権利処理の意識が乏しく、ビジネスとして未成熟。
- 制作現場の管理、法的処理や資金調達・管理、流通戦略などが不十分。
- マーケティングを可能にする産業データが公開されていない。
- 映画に代表されるコンテンツ産業の学問体系化ができていない。
- シナリオや映像言語など制作メソッドが確立されていない。
すなわち、「企画開発」「プロジェクト・マネジメント」「流通戦略の構築」ができる人材が不足しているということである。ここに、映画プロデューサーを育成する専門職大学院の整備が求められる理由がある。
また、映画専門大学院大学は育成目標として、映画プロデューサーとともに「映像の公共政策の専門家」を掲げている。これについて髙橋克三氏は次のように述べた。
「日本は世界一、映像コミュニケーションのインフラ整備が進んでいる。人口減や高齢化が進むなかで、映像インフラを街おこしや観光、福祉、医療に利用しようという地方自治体も多いが、それを活用できる人材が行政にいるだろうか。映像の時代になって、コミュニケーションが言葉から映像に変わろうとしているにもかかわらず、映像の分かる公共政策の専門家、映像リテラシーを駆使できる人材が行政に不足している」。このために、公共政策、映像言語、マネジメント、企画開発に優れたプロデューサーの育成が急がれているということであった。
WAO大学院大学
WAO大学院大学
設置主体である(株)ワオ・コーポレーションは、能開プレスクール、能開センター、能開予備校、スタッド学習塾、WAO高等学院、WAO資格カレッジなど、子供から社会人までを対象に教育事業を展開している企業である。また、「エデュテインメント(educationとentertainmentの融合)文化の創造」をテーマとして、エンターテインメント事業にも取り組んでいる。1997年にWAOクリエイティブカレッジを設立し、アニメ、CD、映像、イラスト、Webデザインなど制作現場で活躍する人材を養成するとともに、2000年に(株)ワオワールドを設立し、アニメーション映画、eラーニング教材などのコンテンツ企画・制作を行っている。劇場用アニメーション映画としては、2003年に『NITABOH~仁太坊 津軽三味線始祖外聞~』を制作、現在は2作目の『ふるさと─ Japan─』を、2005年冬の完成を目指して制作中だそうである。
WAO大学院大学が開校を予定している杉並区は、アニメ産業の集積地である。杉並区もアニメ産業振興に力を入れており、区役所にはアニメ・新産業係という、全国で唯一「アニメ」の付く部署が設けられている。こうしたことから杉並区は、構造改革特別区域法に基づいてクリエイティブ教育推進特区を申請し、2005年3月に認可された。
現在のアニメーションは、CGを始めとするデジタル技術抜きには語れない。(株)ワオ・コーポレーションの高橋光輝氏は、「アニメ、CG、実写が統合されたデジタル映像をすべて教える大学院にしたい」と述べた。
WAO大学院大学は育成目標として、「演出家・監督」と「プロデューサー」を挙げている。これに合わせて、カリキュラムも「演出・監督領域」と「企画・プロデュース領域」に分かれる(基礎科目を除く)。「演出・監督領域」では、シナリオ開発、プリプロダクション、動画技法演習、アニメーション、CG描写研究、演出といった制作専門科目を、もう一方の「企画・プロデュース領域」では、コンテンツ企画開発、プロデュース・テクノロジー、コンテンツ・ビジネス法務・著作権、財務・ファイナンス、メディア・マーケティング、マーチャンダイジング、海外マーケティング戦略といったビジネス専門科目を学ぶ。高橋光輝氏によると、修了の2年次には、監督志望の学生とプロデューサー志望の学生がプロジェクトを組み、デジタル・アニメーション制作のための出資も含めたプランをつくって、一つの作品を仕上げていくような機会を設けたいということであった。
暗黙知を形式知に変えるために
両氏ともに大学院開設に当たって最大の問題として挙げたのは、コンテンツ産業が学問として体系化されておらず、教えるメソッドもテキストも確立されていないということである。
高橋光輝氏は、「プロデューサーという資格があるわけでも、明確な定義があるわけでもない。プロデューサーにはどういう能力が求められるのか、そういうところから始めなければならないのが現状」だという。
また、髙橋克三氏によると、教授陣に日本の映画界を代表するプロデューサーをそろえても、彼らが持っているのは経験によって体に染みついた暗黙知であり、普遍的に学ぶためにはそれを言語化して形式知にする必要がある。そのために映画専門大学院大学がとった方法は、実務家教員と研究家教員のコラボレーションである。具体的には、映画プロデューサー、市長、弁護士、公認会計士、金融マンらコンテンツ制作にかかわる実務家の知識を、ミクロ経済学、民俗学、経営学、歴史学、文化人類学などの研究者を通して、学問のフレームでとらえようとする。髙橋克三氏は、「これは新しい学問を作り上げようとする試みであり、一つの大学だけでできることではない。研究会を作って、できるだけ多くの大学を巻き込んでいきたい」と述べた。
2006年、07年と、複数の大学でコンテンツ系の学部・学科の新設が予定されており、数年後には、コンテンツ専攻の学生が大量に輩出されると言われている。会場には内閣官房知的財産戦略推進事務局のデジタル・コンテンツ担当者、慶應義塾大学、駒澤大学の関係者も参加されていて、コンテンツ産業学の体系化、カリキュラムの問題や教員の確保、教科書・教材の作成、そのための産業界と大学の連携などについて意見が交わされた。大学と大学、業界と研究者との間でどう協力体制を組んでいくのかを考えるうえで、今後の展開に向けて有意義な会になったと考える。2005年11月9日開催(編集部)