GLOCOM 「地球智場の時代へ-情報社会学シリーズ- 」(情報通信ジャーナル連載)

Center for Global Communications,International University of Japan

国際大学GLOCOMの研究員が『情報通信ジャーナル』誌で行ったリレー連載 「地球智場の時代へ-情報社会学シリーズ- 」の各論文を、電気通信振興会様のご好意により1月遅れで転載・公開するものです。

地球智場の時代へ

地球智場の時代へ
~情報社会学シリーズ~

 このコンテンツは、電気通信振興会が制作・発行し、総務省情報通信政策局が編集協力している「情報通信ジャーナル」誌に2005年1月号より連載されている記事を、電気通信振興会のご好意により1月遅れで、グローコムのウェブサイトにも公開するものです。

記事一覧

第38回: アドレスバーか、検索バーか、それが問題だ

上村 圭介(国際大学GLOCOM 主任研究員)

ドメイン名の昔と今

ウェブページの場所を特定するURLや、電子メールの送受信に使われるメールアドレスは、いずれも他と紛れることなく一意に区別されることが必要である。http://www.glocom.ac.jp/index.htmlやkmmr @ glcocom.ac.jpといったURLやメールアドレスが一意に区別できるためには、ドメイン名が一役買っている。index.htmlというファイル名をもつウェブページは世の中にいくらでもあるだろうし、kmmrというユーザ名を使ったメールアドレスも(まかさとは思うが)重複しないとは言い切れない。ドメイン名が一意であるからこそ、その他の部分が多少重複していても識別子全体としての一意性が保たれる。

インターネットに接続されるコンピュータにはIPアドレスという識別子が割り当てられ、通信するコンピュータ同士が相手を間違わないようになっている。IPアドレスさえあれば、ウェブページへのアクセスも、メールの送受信も原理的には可能である。しかし、IPアドレスは現在主流のIPv4の場合、32ビットの数値をとる。これは、一般的には4組の0から255までの数で表現される。通常の人間の記憶力では、このような数字の羅列であるIPアドレスを覚えることは困難である。ましてや、今後普及が進むと思われるv6アドレスは、256ビットの数値で表されるため、0から255までの数が16組必要になる。

そこで、コンピュータに与えられたIPアドレスに、一種のニックネームを付けて管理するという手法がとられることになった。インターネットの初期には、インターネットに接続されるコンピュータの数も限られていたため、IPアドレスとニックネームの対応表は手作業で、しかも単純なリストとして管理されていた。しかし、このような手法は、ネットワークに接続されるコンピュータが増加すると破綻する。1980年代初頭には、このようなリストによるアドレスと名前の管理は、現在われわれが使っている分散管理による階層構造をもつデータベースによる管理の仕組みに移行した。Paul Vixieは、ドメイン名システムを「分散型モデルに基き、一貫性を維持した、高信頼で、自律的な階層データベースとして最初で唯一のもの」*1と称している。どの登録事業者を通じてドメイン名を登録したとしても、その情報は間違いなく世界中に伝播される。これほどの広がりをもった分散データベースは、確かにほかにはないだろう。

ところで、ドメイン名には、もう一つの側面がある。それは、インターネットの商用化の歴史が、ドメイン名の商用化の歴史と重なっていることである。1993年から1999年まで、インターネットのドメイン名のうち汎用トップレベルドメイン(gTLD)と呼ばれる、.com、.net、.orgの三つのドメインは、アメリカの全米科学財団(NSF)の委託の下、Network Solutions社によって管理されていた。1995年のインターネットの商用化に伴い、同社はドメイン名の登録に際して登録料を徴収するようになるが、この登録料の扱いの是非や同社によるドメイン名登録「ビジネス」の事実上の独占が大きな問題となってきた。今日、インターネットガバナンスと呼ばれている問題の一つには、結果として独占的に行われてきたドメイン名管理の市場をどのように開放するかという問題が含まれていたのである。

このようにドメイン名は、今日のインターネットのありようと非常に深く関わっている。

ドメイン名の「難しさ」

利用者の視点からみると、ドメイン名は、インターネット利用を煩雑にする要因であるとも言われる。ドメイン名は、IPアドレスをそのまま覚えるよりはマシだが、それでも省略語や専門用語の組み合わせであることが多く、覚えにくい。しかも、その省略語は英語で表記されることや、英語以外の場合でも通常の正書法では使われないローマ字表記によって表現される。これでは、英語やラテンアルファベットに馴染んでいない言語話者が、インターネットを思い通りに使うことができないおそれがある。

このような問題を解決するべく、国際化ドメイン名(IDN)という仕組みが段階的に導入され始めている。通常のドメイン名がアルファベットと数字、それから一部の記号の組み合わせであるのに対して、IDNは、それ以外の文字によってドメイン名を表現するための仕組みである。こうすることで、ラテンアルファベットに親しみのない利用者でも、自分が慣れ親しんだ文字によって表記されたドメイン名を使うことができるようになる。

一方で、それとは逆向きの動きも見られる。ドメイン名やURLが理解しにくいものである場合、それを理解しやすいものに作り替えようとするのではなく、そのような仕組みをそもそも使わずにすむようにしようという動きである。もちろん、このような動きが組織立って展開されているわけではないが、目的とするホームページに到達するために、「アドレスバー」にURLを入力するのではなく、そのホームページの名称を検索することで、そのホームページに到達するというような事例は最近では珍しくない。個人的には何かの間違いであってほしいと思うが、GoogleにアクセスするためにYahoo!で「Google」と検索するというような、笑うに笑えない光景を筆者は実際に目撃したことがある。

Andrei Broder*2。によると、AltaVistaの検索ログを分析した結果、純粋に情報を求めようとして検索を行うのは全体の48パーセントにすぎず、残りのうち30パーセントはショッピング・サイトなど、それ自体が情報ではないサイトを探すためのものだったという。さらに20パーセントの検索は、ナビゲーションのため、つまり、知らない情報を探すための検索ではなく、既知のサイトや、当然存在するだろうと思われるサイトにたどり着くための検索だった。

2007年5月に筆者が新聞上で行われているウェブページへの「誘導」(URLや検索語を提示し、特定のウェブページに利用者を導くこと)の数を数えたところ、約一週間で1470件に上った。そのうち、37件(全体の2.5%)が検索語を含んでいた。検索語による誘導を含むもののうち、10件は検索語だけでホームページに誘導しようとするものだった。全体から見ればまだごく少数に過ぎないが、検索語の提示が、ウェブページに利用者を誘導する手法として使われ始めていることがうかがえた。今では、その数はさらに増えていると思われる。

検索語によるナビゲーションの皮肉

ところで、検索語によるウェブページへの誘導には実は大きな問題が隠れている。それは、検索語では目標とするウェブページに利用者を正確に誘導できないという問題である。先ほどの調査とあわせて、筆者は新聞、雑誌、広告などで提示されている検索語が利用者を目標のウェブページに誘導できるかどうか調べてみた。その結果、目標ウェブページが検索結果の最上位に表示されるものは全体の約65%であった。また、目標ウェブページそのものではなく、そのウェブページに関連すると思われるウェブページ(例えば階層上、目標ウェブページの下位または上位に位置するウェブページ)が表示されたケースが約16%あった。これらをあわせると、割合にして81.4%の検索語は利用者を目標サイトあるいはその関連サイトに利用者を誘導することができることになる。

ところが、残りの2割近くの検索語では、検索結果の最上位に表示されるのは、目標サイトとは全く関係をもたない、あるいは外見上関係が明確でない無関係なウェブページであった。最上位が無関係ウェブページであるということは、利用者は目標ウェブページに到達できないか、与えられた検索語で検索した上で、そのサイトを探し回らなければならないということである。

もっとも、無関係サイトが検索結果の最上位に表示されていたとしても、第2位以降の検索結果や広告リンクを通じて目標ウェブページあるいは関連ウェブページが表示されれば、ある程度までは利用者を目標ウェブページへ誘導することができるだろう。それでも、約1割の事例では、検索結果の中に広告リンク、目標ウェブページ、関連ウェブページのいずれも出現しなかった。

このような結果から言えることは、検索エンジンは、特定のウェブページに利用者を誘導するためのナビゲーションツールとしては、よくてベスト・エフォートのパフォーマンスを示す程度であり、場合によってはまったく関係のないウェブページに誘導しかねないということである。

検索語を提示することによって目標とするウェブページに到達してもらおうとするのは、利用者の手間を省いたり、利用者のリテラシーの不足を補うことが目的だと考えられる。しかし、現実的には、目標とするウェブページに到達できないことが少なからず起きていることを考えると、利用者には検索結果を理解し、自分が目標とするウェブページを探し出すための別の手間やリテラシーが求められていることになる。ある種のリテラシーがなくてもアクセスできるように配慮をした結果、別のリテラシーが求められるようになっているというのは皮肉なことではないだろうか。

アドレスバーか、検索バーか: ドメイン名の未来

筆者は、検索語の提示によるウェブページへの誘導という手法が、今後より洗練された誘導の手法へと発展することを否定するものではないし、URLの手入力が得意でない利用者のリテラシーに応じたサービスを提供するという姿勢を否定するものでもない。今の段階で、注目すべきなのは、このように検索エンジンへの依存度が高まりつつある一方で、検索エンジンがそのような依存や期待に現実問題として応えきれていないという点にあるのではないだろか。Yahoo!でGoogleを検索するという笑い話のような例は別としても、利用者の利便性という観点から、検索語によるウェブページへの誘導はますます高まっていくだろう。

ドメイン名がインターネットのサービスで使われることのもうひとつの理由は、IPアドレスはISPの変更やその他の理由で変更される可能性があることだろう。IPアドレスが変更されても、ドメイン名システムが緩衝剤となることで利用者はその変更を意識する必要がない。例えば、そのような緩衝剤の役目を検索エンジンが果たすようになるとしたらどうだろうか。ウェブページのIPアドレスが変更されたとしても、検索エンジンがきちんとその変更を追いかけてくれるなら、ドメイン名でその変更を吸収しなくてもいいかもしれない。どのみち、利用者がURLによらずに、検索エンジンで目的のサイトを探すのだとしたらなおさらである。

ところで、ウェブページへの誘導の目的でURLを使わなくなるということは、ドメイン名の役割が縮小していくということでもある。ドメイン名が何であれ、IPアドレスが何であれ、検索して出てきたリンクをクリックしてウェブページにアクセスするのであれば、誘導には検索語さえあればよいことになる。

インスタントメッセンジャーやSkypeなどのIP電話サービスでは、相手方を識別する際にドメイン名は使わない。スクリーン名やSkype IDのように、ドメイン名をもたない識別子の体系が使われる。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)も、外部から見た場合にはドメイン名を含んだURLを使っているが、例えばそのSNS内部のサービスはドメイン名とは無関係に成立しうる。

無線のWi-Fi端末を使うときに、わたしたちはドメイン名を意識するだろうか。そもそも、インターネットをどこまで意識するだろうか。インターネットにもつなぐことのできるゲーム端末がアクセスしたいのは、インターネットなのか、それとも便宜的にインターネットで接続されてはいるが、その先にあるゲームやコンテンツのサービスなのか。このような利用形態をとる情報機器では、間により効率的なネットワークがあるなら、インターネットでなくても構わないということさえありうるのではないか。

そういう意味で、検索語によるウェブページへの誘導は、長期的にはインターネットの利用形態、アドレシングのあり方に影響を与える大きな変化への入り口を垣間見せてくれる一つの例だと筆者は考えている。Kevin Werbachは、これまでのインターネットが求心力によって、何でもフラットにつないでいこうという姿勢をもってきたなら、これからのインターネットは遠心力によって分断化していくとの見通しを示している。そして、アプリケーションごとに使われ始めているドメイン名に代わるアドレシングの仕組みはその一例であると述べている*3。そのような流れの中で、ドメイン名というアプリケーションを越えたグローバルなインターフェースのあり方も、次第に変化していくことになるだろう。あるいは、もしかすると、インターネットが、常にグローバルで、オープンなネットワークではない時代というのは、思ったよりも近くまで来ているのかもしれない。

* * * *

これまで、2005年1月号より39回にわたって続けてきた本連載も今回が最終回です。本連載では、国際大学GLOCOMの研究員の視点から、情報社会を研究するということがどのような広がりをもつのか、またそのような研究からどのようなことが明らかになるのかを示すことができたのではないかと思います。最終回の執筆者として、また、国際大学GLOCOMを代表して読者の皆様のこれまでのご愛読に感謝します。



*1 Paul Vixie. (2007). DNS Complexity. ACM Queue, Vol. 5, No. 3. (http://www.acmqueue.com/modules.php?name=Content&pa=showpage&pid=481)

*2 Andrei Broder(2002)A taxonomy of web search. ACM SIGIR Forum, Vol. 36, Num. 2. (http://www.acm.org/sigs/sigir/forum/F2002/broder.pdf)

*3 2007年9月の第35回Telecommunications Policy Research Conference (TPRC)での同氏の報告より。


プロフィール

kmmr

<かみむら・けいすけ>

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員。同センターにて、これまでP2Pアプリケーションの分析、マルチメディア・マークアップ言語の開発、デジタルデバイド、インターネットと多言語主義、ブロードバンド政策に関する調査・研究に従事。著書に『クリエイティブ・コモンズ』(NTT出版、2005年。共著)、『インターネットにおける言語と文化受容』(2005年。共著)などがある。