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【開催レポート】 Innovation Nippon 2016 シンポジウム「情報の自由と活用を考える―政治・消費・対話のパラダイムシフト」

Innovation Nippon 2016 シンポジウム「情報の自由と活用を考える―政治・消費・対話のパラダイムシフト」

日時:2016年12月15日(木)13:10-18:30
会場:東京ミッドタウン カンファレンス Room7
主催:Innovation Nippon
後援:総務省、グーグル株式会社、国際大学GLOCOM
登壇者(登壇順):
 今川拓郎(総務省 情報流通行政局 情報流通振興課長)
 田村祥宏(株式会社イグジットフィルム フィルムディレクター/代表取締役)
 河野秀和(シタテル株式会社 代表取締役)
 庄司昌彦(GLOCOM主任研究員/准教授)
 山口真一(GLOCOM研究員/講師)
 木村忠正(立教大学 社会学部 教授)
 津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
 福井健策(弁護士(日本・ニューヨーク州))
 高木聡一郎(GLOCOM主幹研究員/准教授)
 西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 准教授)
 清原聖子(明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授)
 渡瀬裕哉(早稲田大学 招聘研究員)
 関口和一(GLOCOM客員教授/日本経済新聞社 論説委員)

ダイジェスト

2016年12月15日に東京ミッドタウン カンファレンスRoom7でInnovation Nippon 2016シンポジウム「情報の自由と活用を考える―政治・消費・対話のパラダイムシフト―」が開催された。今回のシンポジウムでは、「地方創生をITの力で促進する」「人々の情報シェアがもたらす経済的インパクトと政策的検討」「米国大統領選挙に見る「ITと選挙」のイノベーション」について、産官学の各関係者らによる基調講演とパネルディスカッションによって新たな知見を広め、議論を深めた。


◆ Session1 「地方創生をITの力で促進する」

最初のセッションでは、総務省情報流通行政局情報流通振興課長の今川拓郎氏と株式会社イグジットフィルムのフィルムディレクター/代表取締役の田村祥宏氏による基調講演が行われた。今川氏はまず、現在の東京一極集中の是正を図るべく地方への新しい人の流れを作るために国として取り組んでいる施策を紹介した。その上で、各地域での地域情報化の取り組みの中から優良事例を表彰する地域情報化大賞についても紹介した。地域情報化大賞では、教育・医療・観光・農業等でのICT利活用のノウハウなどを全国に共有することを促進することが期待されている。2016年度からは「ICT地域活性化大賞」として表彰を行い、より横展開、分野横断的、地域間の広域連携が見込める事例に重点化している。

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次に、地方創生について、定住・移住を増やすにはテレワーク、訪問者を増やすにはWi-Fiが重要であると説明した。また、都市部の仕事を地方のサテライトオフィス等で行う「ふるさとテレワーク拠点」の整備を進めていることを紹介した。これは既に商談件数や契約金額、社会貢献や地域交流などの点でも良い結果が出てきている。同様に、地方においてのWi-Fi整備も国内外からの観光客の増加という面で良い経済効果が発生している。最後に、今川氏は地域IoT実装推進ロードマップについて触れ、全国の各地域における地域活性化や各分野の地域課題解決の実現についてIoT実装を後押ししていくと述べた。

田村氏はフィルムディレクターという立場から、映像制作の立場での地域の人々との関わりについて講演を行った。会場では田村氏が映像監督を行ったInnovator’s Voiceの動画が流された。映像制作の場で田村氏が大切にしているのは「人」にフォーカスをするということである。ドキュメンタリーにおいては、独白形式で述べさせることで内容を個人のパーソナルな部分にフォーカスし、若い視聴者により訴求するものを心がけている。

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人口減少が進む南小国町のリソースをアーカイブ化したプロジェクト「黒川ワンダーランド」では、映像以外にもウェブや音楽、写真などのクリエイターが集まり、黒川の人々にどんな思いがあり、これからどうしていきたいのかなどの思いをまとめている。失われていく文化や資産をもう一度棚卸しして、国内にとどまらず世界の人々にリソースをオープンにすることで新たな連携に活かすことを目的としている。このプロジェクトは海外で多くの受賞を獲得した。

地方でイノベーションが起きる重要な要素として、個人の思いに企業の目標や地域の課題が寄り添えるかが挙げられる。会社や地域の利益のために個人の思いがあるのではなく、まず個人の思いがあり、会社や地域がそれに寄り添える度量があるかが重要である。

パネルディスカッションでは、シタテル株式会社代表取締役の河野秀和氏とモデレータとして国際大学GLOCOM主任研究員・准教授の庄司昌彦が加わり、まず河野氏がシタテル株式会社の事業について説明した。シタテルは衣服を生産したい人と国内の縫製工場をマッチングさせる企業である。国内の工場を効率的に動かすことができる他、全国多数の工場と提携することで、熊本で震災が発生したときも他の工場で対応することができるようになった。ICTを活用することで工場の閑散期を新たな雇用に活かしたり、場所にとらわれずに仕事をできたりすることが可能になったと述べた。

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以上の内容を踏まえ、地域活性化を担う「人」と、かれらの活動を横展開するための「仕組み」について議論が行われた。河野氏は、テクニカルな部分だけではどんなに秀逸なシステムがあっても人が動かないので、パッションが必要となると述べた。人を動かすにはテクノロジーに頼りすぎることなく、アナログな部分にも目を向けることが必要となる。田村氏も、和歌山で漁師の後継者不足が問題となった際、それをきっかけとして町民会議がおきた事例に触れ、行政から働きかけることなく人々の想いから問題の話し合いが行われることがあると述べた。

 そして、地域活性化の仕組みとしては、本当に使われるにはどうすれば良いのかを検討し、人の行動のデザインにまで配慮してイノベーションをデザインすることが重要であるとまとめた。


◆ Session2 「人々の情報シェアがもたらす経済的インパクトと政策的検討」

次のセッションでは、国際大学GLOCOM研究員・講師の山口真一から基調講演が行われた。山口氏は、まず、無料で使えるインターネットサービスの価値はGDPに反映されていないことを指摘し、インターネットの価値を定量的計算することの重要性について述べた。そして、分析の結果、消費者余剰は15.7兆円~18.3兆円であると述べた。これはGDPの約3.2%~3.7%となっているが、GDPには含まれていない。

次に、ネット上の情報シェアによる消費喚起効果の推計について述べた。計量経済学的手法で、ネット口コミの利用が、支出額にどのような影響を与えているか定量的に分析した。その結果、10分野中6分野で有意な影響があった。中でも市場規模の大きい外食分野や商品単価の高いパソコン・家電で消費喚起効果が大きく、日本全国では約1.5兆円の消費喚起効果が見られた。この数字は全国年間消費額の約0.5%程度である。

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最後に、インターネットに政府が介入するか否かというテーマに話は移った。世界各国でのインターネットを規制する制度と法についてまとめた上で、政策的対応の問題点を5つ挙げた。
  ① 大きな負の効果をもたらすリスク
  ② Slippery slopeによる拡大解釈・濫用の懸念
  ③ 対症療法的であり問題の本質を見えにくくする
  ④ 特定のプラットフォームを規制することの限界
  ⑤ 健全な市場競争を阻害する可能性
以上のことから、政策的対応は慎重であるべきだが、導入するのであれば「確実に対象を限定できるか」「代替手段は尽くしたか」の2点を十分に検討してから導入すべきであると述べた。また、一方で、社会的対処を模索した。例としてデマの拡散を防止するためにプラットフォームを非営利企業が提供する、ネットリテラシーの教育を受信と発信の両面で充実させる、プラットフォーマーが自主的な対応を促進させるなどが挙げられた。

パネルディスカッションでは、立教大学社会学部教授の木村忠正氏、ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介氏、弁護士(日本・ニューヨーク州)の福井健策氏、モデレータとして国際大学GLOCOM主幹研究員・准教授の高木聡一郎が加わった。木村氏がまず、Yahoo!ニュースとの共同研究の結果を紹介した。

その後、基調講演に対して議論を行った。津田氏はこの問題は日本が最先端で起きていることであるとした上で、問題の本質は公共性と商業性の矛盾であると指摘した。インターネットは巨大な公共圏であり、そのガバナンスについては考える必要がある。講演内容にあった社会的対処については、効果が限定的になるだろうと述べた。デマ情報を意図的に流すのを止めるためには広告が貼れないようにし、インセンティブをなくすべきであると指摘した。また現状はデマニュースを流すハードルが低く、訴訟のハードルが非常に高い。プロバイダ責任制限法を変えても良いのではないかと提案した。

福井氏も、インターネットの規制は反対であるものの、「対症療法にとどまる」とする意見、特定のプラットフォームに規制すべきでないという意見については否定的であるとした。その理由として、根本療法がない以上対症療法を行わない理由はない点、そして、既に覇権的なプラットフォームは上位で固定し変わらないフェーズとなっている点を挙げた。

そして、「公共性と商業性」にちなみ、議論は「ネットの公共性をどうみるのか」について進んだ。木村氏はスマホを高校生から使い始めている世代は、身の回りの人間関係について常に神経を注いでおり、社会や国際にまで想像力が及ばない現状があるのではないかと指摘した。彼らは全てをコンテンツとして、基本的にはフリーで流通しているものと認識していると述べた。公共性ということに関しては、彼らにとっては一部の人の声の強さによって支配されている現状があると警鐘を鳴らした。

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話は、昨今問題となったキュレーションメディアについても及んだ。キュレーションメディアの問題について、福井氏は情報のインフラ整備が重要であると述べた。誰でも自由に情報発信でき、情報があふれる時代にあっては、情報の競争過多が起こり、価格の低下を招く。その結果、安いコピペ記事が多くなり、SEO対策に過激なタイトルが付く。そこで、情報の検証が重要となり、ジャーナリズムが従来の役割を果たすことが必要になる。調査には原価がかかることから、社会は、価値ある情報をえるためには少なからずお金がかかることを理解する必要が出てくる。リテラシー教育の中に著作権や契約の教育も含めるべき時代に来ているのではないかと指摘した。それを受け津田氏は、ネットは発表の場を多く提供したが、著作権や倫理について助言する編集者を生み出すことができなかったということを挙げ、キュレーションの問題の原因がここにあると指摘して締めくくった。


◆ Session3「米国大統領選挙に見る「ITと選挙」のイノベーション」

最後のセッションでは、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の西田亮介氏と国際大学GLOCOM主任研究員・准教授の庄司昌彦による基調講演が行われた。

まず、西田氏の講演は、Brexitや米大統領選、韓国大統領の不祥事、衆参両院での改憲派議席数3分の2超などを挙げ、グローバル/ドメスティックな常識と手法の敗北、そしてその連鎖が起こっているという点を指摘した。その上で、2016年を代表する言葉としてthe Oxford Dictionaries Word of the Year 2016に選出された「post-truth」という言葉を紹介した。「post-truth politics」と日本政治との関わりでは、メディア・リテラシーの限界などの論点もあるなか、特に政治(政党や政治家など)の情報発信やメディアの読解と伝達について検討していく必要があると挙げた。日本においては、「統治する側のイメージ政治」や「抵抗する側のイメージ政治」にそれぞれpost-truth politics上の問題意識がある。統治する側の事例としては安倍首相の会見に関する矛盾した発言、抵抗する側の事例としては2016年の参院選における三宅洋平候補の選挙フェスが挙げられる。

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日本政治とメディアの変容としては、自民党の情報発信の例を上げ、戦略の起点が属人的だったのが中央集権的になってきたと指摘した。西田氏は最も意欲的にITと向き合ってきたのは自民党であり、過去にはやらせがあると指摘されたが、一貫してイノベーションを続けてきたと評する。日本では、2013年の選挙から2016年の選挙までに、各政党ともイノベーションを進めている。また、政党によっては、IT以外にも、フリーマガジンのデザイン変更や発行部数の増加などのメディアのイノベーションを行っている。

次に、庄司の講演では、まず過去の選挙の年代別投票率の推移を示した上で、ネット選挙運動と投票率上昇・低下の関係はまだ明らかではなく、投票率を高めるネット選挙運動手法は未だ確立していないことを指摘した。一方、米国の大統領選挙においては、2004年のハワード・ディーン候補がブログやSNS、小口献金をネット経由で集めことにはじまり、2012年の選挙ではビッグデータ分析に基づく効果的な選挙キャンペーンを行ったりするなど、積極的にITを活用している。それらを踏まえ、日本でのITと選挙のイノベーションに向けては、以下4点を展望として掲げた。
  1.選挙におけるIT(企業)の関わりの増大
  2.ソーシャル×マスメディアの相互作用
  3.ソーシャルメディア上の言論への即時対応
  4.ビッグデータを活用した資源の効果的投入
次に、2016年米大統領選において、クリントン氏とトランプ氏のSNS活用方法が異なっていたことを紹介した。クリントン氏は幅広いSNSで発信した一方、トランプ氏はSNSを絞って発信することで注目を集中させ、話題になるような発言を継続させた。その結果、SNSでの言動をマスメディアが拾い上げる報道がなされ、拡散された。また、トランプ氏がSNSで行った差別的な発言や根拠の無い放言に対し、クリントン陣営がファクトチェックを行い、誤りの指摘や事実の提示を即時に行った。日本においては、こうした双方向コミュニケーションには消極的であるが、即時対応の体制整備によりSNSの活用が進むのではないかと推測している。

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最後に、2016年の米選挙戦に使われたビッグデータ活用について述べた。ビッグデータは「地上戦」を支える技術として用いられた。トランプ候補は共和党氏名獲得後にデータを活用し、広告の費用対効果を厳しく検討・効果の測定と改善を繰り返した。また、日本でのデータ活用に際して、地域分析や説得的な製作の作成に利用可能な公共データの整備をする必要性や、政党や政治家がすでに保有しているデータを活用するためのルールや基盤づくりの必要性を訴えた。

パネルディスカッションでは、明治大学情報コミュニケーション学部准教授の清原聖子氏、早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏、そしてモデレータとして日本経済新聞社編集委員の関口和一氏が加わって議論を行った。

清原氏は2016年の米選挙戦とソーシャルメディアについて述べた。以前は多くの人がケーブルテレビで選挙に関する情報を入手していたが、ミレニアム世代は選挙に関する情報をソーシャルメディアで入手する傾向にある。また、「共感」も重要なキーワードである。大統領候補者と一緒に撮ったセルフィーをSNSにアップしていくことで、それが無料の広告媒体となった。オバマ氏が大統領選で勝利したときも、今回のトランプ氏の勝利も、いずれにしてもソーシャルメディアにパワーが有ることには違いないと語った。

続いて渡瀬氏は、自身が世論調査の設計と解釈を行っていることを紹介した上で、調査は意図と見方を見ることが重要であると述べた。ヒラリー氏の世論調査の結果を見ると、若い人と有色人種の支持が高かったが、そのいずれも実際の選挙では得票数を落とすことが事前から明らかな人々であった。これが実際の勝敗を分けた要因であり、事前予測することは可能であった(実際にそう公言していた)と述べた。

議論に移り、西田氏は、日本の政治ジャーナリズムは、「べき論」的なところがあり、また記者が人となりや特定の派閥に張り付くという事が多かったと述べた。客観的報道をするなら従来型の「規範のジャーナリズム」でよかったが、ソーシャルメディアなど他のメディアと比較すると、新聞は速さではなく、情報を整理分析し、適切な言論を作り上げていくようにすべきであるとした。また、渡瀬氏は、メインストリームメディアの権威の相対化が進んでいると見ていると述べた。アメリカでは「自分がコンサバである」と答える人の8割ぐらいは「メインストリームメディアが左がかっている」と認識しているという調査を紹介した。そういう中ではあらゆる情報源が相対化されているため、きちんとファクトを出しながら、なおかつ感情的なメディアが伸びていくだろうと展望した。

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次に、日本でどうこの教訓を活かすかという話に進んだ。西田氏は、ネットの潜在的なポテンシャルがフルに発揮されなかったという話もあったが、選挙には様々な要素が複合的に絡むため、常に起きうることであると指摘した。清原氏は、アメリカの大統領選を振り返ると、2008年も2016年もアウトサイダーが勝利していると指摘した。アウトサイダーとインサイダーの権力闘争があったときに初めて、ネットやソーシャルメディアを活用する意味がある。そのことを踏まえると、日本でネット選挙が解禁されたあとで、ポテンシャルを発揮できない政治状況だといえる。

最後に、インターネットが国民の民意を吸い上げ、政策を選ぶツールに使えるのではないかという質問に対し、渡瀬氏は、インターネットは一般に地理的なことを超えるものと理解されているが、実際はインターネットが選挙に影響を及ぼすとすれば都市部に限られると答えた。例えば、都知事選ではネットがかなりのインパクトを与えたと捉えていると述べた。以上の議論を受け、庄司は、Post truthというものが何なのかについてはまだ幅がある話であるが、我々が常識だと思っていることや思ってきたことが揺れていることは間違いなく、まだ専門性や機能により深く入っていくことが必要なのではないかとまとめた。

                                    

2017-02-02