国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

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GLOCOM CREATIVE REVIEW vol.01 しごとの未来と創造性~デジタル時代の働き方変革とコワーキングスペースの機能(前編)

超高齢社会を迎え、働き方改革という命題のもと、少ない労働力でいかにパフォーマンスを高めることができるかが問われています。いまのところ、その解決策は、法制度改革による「労働時間の管理強化」と、AI(人工知能)に代表されるデジタルテクノロジーを用いた「労働力の融合や代替」の二方向に向かうように見えます。

一方、AIとの協働をすすめたり、仕事を委ねることを前提としながら、わたしたちが働き方について考えるとき、「よりよく、人間らしく働くとは何か」というテーマが浮上します。それは、仕事を通じた「価値創出」や「自己実現と充足」の在りようを、わたしたち人間のうちに見いだす作業でもあります。イノベーションを起こす主体はあくまでも人間です。そして、その源泉として行き当たるものは、わたしたちの「創造性(=クリエイティビティ)」です。

昨今、欧米や日本を中心に、多くのコワーキングスペース(*1)が誕生し、新たな価値の源泉や自己を探求する人々であふれています。そこにはわたしたちの「創造性」をくすぐり、高める要素が確かに感じられます。果たして、何が私たちの創造性を動かしているのでしょうか。創造性に影響を与える要素とは、いったい何なのでしょうか。

長年、創造性研究に従事し、コワーキングコンサルタントとしてロンドンでも活動してきたTuukka Toivonen(トゥーッカ・トイボネン/国際大学GLOCOM 主任研究員・准教授)に、その答えを問いました。

*1 コワーキングスペースとは、起業家やフリーランス、企業の新規事業開発メンバーなどが執務や会議のためのスペースなどを共有しながら、独立した仕事を行う共働ワークスタイルのための環境。シェアオフィスやレンタルオフィスとは異なり、利用者同士の交流を促すプログラムなどを通じて、イノベーションを創造する環境をサービスとして提供しているのが特徴。

― 4月にGLOCOMに着任されたばかりですね。まずは、トイボネンさんの自己紹介と研究内容についてお聞かせください。


Tuukka: 出身はフィンランドのヘルシンキです。日本に初めて来たのは高校卒業後で、「Up With People」というミュージカルを上演しながら、世界各国を訪問する国際的な教育プログラムに参加していたことがきっかけです。ですから、当時は研究者ではなくギタリストとして来日しました。ある意味、偶然に日本との接点をもつことになったわけですが、そのとき日本文化に触れた経験が、帰国後も強烈に印象に残りました。それで、日本の大学に入ったのです。卒業後はオックスフォード大学に進み、社会政策学で博士号をとりました。それ以降は日本やロンドンの大学で研究員や准教授を務めてきました。

現在は、起業家が新しいビジネスモデルを形成していくなかでの「The Creative Idea Journey(クリエイティブなアイディアが実現へと向かう道)」を明らかにすること、また、コワーキングスペースおよびインキュベーション・プログラムにおいて、どのようにすれば創造性を高めることができるか、といったテーマで研究活動を進めています。


― どのような経緯で、現在の研究テーマに行き着いたのですか?


Tuukka: 創造性研究をスタートしたのは、2012年でした。そこから現在に至るまで貫いているテーマに、「創造的なプロセスについての一般的な価値観を変えていく」ということがあります。日本だけでなく、海外でも、創造性とはアーティストやデザイナーなど「特定のクリエイティブな仕事のスキルである」といったステレオタイプがあります。また、創造性は、「個人のもの」という思い込みがあります。そうした思い込みを打破していきたいのです。

創造性が個人のものでない、という理由には、いまのような流動的な社会において、個人は多くの他者と接しながら、常にその影響を受けていることが挙げられます。そこで、当初は、「Networked Creativity(ネットワーク化された創造性)」を主な研究コンセプトとしていました。その意味は、個人と個人がつながり、ぶつかることで創造性が生まれ、インタラクションの連鎖によって新しい発想が磨かれていくということです。「個人が主役」であるが、同時に「個人を超えた」ネットワーク社会の日常的な創造的プロセスです。

そもそも、個人という概念自体、社会あってのものです。その一方で、単に社会の一構成要素として個人をとらえることはできません。そこで、現在は、個人と集団・チームの「あいだ」を含めて研究対象としています。具体的には、企業や学会といった集団だけでなく、家族や友人、パブで出会った見知らぬ人まで含めた、あらゆる対象と個人の会話=インタラクションを追跡しています。


― インタラクションの追跡とはどのようなことでしょうか?なぜインタラクションに着目されるのでしょう?


Tuukka: メディアやSNSを通じて、いまや情報はあらゆる場所に存在しており、アクセスも容易です。しかし、こうした情報収集は、表面的な知識の蓄積の行為にすぎません。情報収集だけでは、クリエイティブな発想は生まれないのです。情報をつなぎ合わせてアウトプットに変えていく作業が必要で、それは「他者とのインタラクション」の中にあると考えています。

具体的に言うと、ここ数年取り組んでいる研究では、ロンドンの郊外をベースにビジネスを行っているインド系の社会起業家のインタラクションを追跡しています。彼は、農産物が様々な理由によって売られることなく廃棄されてしまう問題の解決や、地産地消の推進をビジョンに持ち、起業しました。そして、地域の農家が生産した野菜を集め、木箱に入れて届ける「ベジボックス」というサービスを始めていました。しかし、あるとき母親から、「会社を興してから数年たつのに、まだ儲けが出ていないじゃない。奥さんに迷惑をかけてはだめよ」と言われ、その影響で、短期的なスケールの小さい成功ばかりを追い求めてしまった時期がありました。

一方で、ビジネスの相談相手であるメンターから、「君が提供する『ボックス』は、野菜しか入らないのかい?」という指摘を受け、自身のサービスモデルは食料だけではなく、資材や燃料など、サプライチェーン上のあらゆるリソースに対して適用できることに気づきます。そしていま、彼は、より大きなスケールでのサービスビジネスへと乗り出しています。

このように起業家たちが、様々なインタラクションから影響を受けながらも、いかに自身のビジョン=クリエイティブなアイディアを守り育て、成功へのプロセス―アイディアを実現する道(The Creative Idea Journey)を歩むのか。これが私のリサーチクエスチョンです。


― インタラクションによってイノベーションが進むわけですね。では、より多くの、そして多様なインタラクションの相手を持つことが、創造性を高めイノベーションにつながるといえるのでしょうか。


Tuukka: そうですね。まさにいま、ロンドンでもイノベーションを起こそうとする人たちで、コワーキングスペースが賑わっています。コワーキングスペースは、お互いの専門知識を分け合い、創発する相手と出会い、インタラクションすることでイノベーションを生み出す場として考えられているからです。

ロンドンでは、コワーキングスペースのエコシステムが機能しています。イノベーションの初期段階にある人向けに、アイディアを探し試すようなスペースがありますし、その先のプロセスに進んだ際の別の場所として、投資家を探すことに特化したようなスペースもあります。また、業界別にファッションに特化したもの、フィンテックに特化したもの、あるいは他分野にまたがるものや、企業に所属している人向け、フリーランサー向け、などの形態も登場してきています。つまり、コワーキングスペースごとの棲み分けが非常に進んでいるのです。

そして、こうしたコワーキングスペースは、起業家たちにとって、創造性を発揮するために必要で、かつ安心できる居場所としても機能しています。よい仲間ができれば、もっと深いレベルでコミュニケーションができる。すると自分自身に対してより自信が持てる、ということもあるからです。


~後編へ続きます~ http://www.glocom.ac.jp/news/3801

(聞き手=小林奈穂 国際大学GLOCOMプラットフォーム研究グループ 主任研究員)

Tuukka Toivonen(トゥーッカ・トイボネン)
1979年フィンランド、ヘルシンキ生まれ。2005年に立命館アジア太平洋大学卒業。2009年にオックスフォード大学博士号取得(社会政策学)。東京大学・京都大学・慶応大学等でのフェローシップ等を経て、2013年より2018年までロンドン大学勤務。世界トップ10大学であるUniversity College Londonにてソーシャルイノベーション分野の准教授まで進む。2018年4月から国際大学GLOCOM准教授。UCL STEaPP名誉准教授。コワーキングスペースなどの新型組織における創造的プロセスに関するコンサルティングを中心に活動するCreative Friction Ltd創業者。
http://www.glocom.ac.jp/researchfellows/tuukka_toivonen

2018-06-15