国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

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GLOCOM CREATIVE REVIEW vol.02 しごとの未来と創造性~デジタル時代の働き方変革とコワーキングスペースの機能(後編)

前編 http://www.glocom.ac.jp/news/3655 では、GLOCOMの新たなメンバーであるTuukka Toivonen(トゥーッカ・トイボネン/国際大学GLOCOM 主任研究員・准教授)に、「情報社会におけるクリエイティブな発想は、人と人とのインタラクションの中にある」という洞察について話を聞きました。また、そうしたインタラクションを誘発する場として、コワーキングスペースがいま世界中で拡がりをみせている背景を理解しました。

後編では、コワーキングスペースの課題や果たすべき機能と、日本ならではのチャレンジについて、さらに詳しく掘り下げていきます。

― 人と人とのインタラクションの場は、スマートフォンやSNSによってデジタル空間にも無尽蔵に広がっています。より自由で制限のない世界があるなかで、なぜ、あえてコワーキングスペースという限られた空間に注目が集まるのでしょうか。


Tuukka: 社会のデジタル化は確実に進行し、今後もテレワーク環境がさらに整備され充実していくでしょう。仮にいま、私がひとりで遠い南の島にいたとしても、このインタビューを受けられますし、働くことも容易にできます。とはいえ、このようにテクノロジーによって時空間の自由を得たにも関わらず、なぜか人々は大都会のコワーキングに集まっています。

デジタルになればなるほど、誰と関係を築き、どのような知識・スキルを持った人に囲まれるのかがより重要となってくるというパラドックスのような現象が起きています。人々が大都会のコワーキングスペースに集まる理由は、Face to Faceでのインタラクションの力にあります。つまり、自分の仕事の成功を支えるコラボレーターやクライアントに出会えるからです。そして様々な意味で、オンラインの世界以上に、実際に会うと創造性が高まるからです。

コワーキングスペースは、こうした意味で「デジタルな時代において人間らしい共同体に参加する価値」を提供する使命をもっていると考えています。まだ理想的なレベルにまで来ていないとは思いますが、可能性は十分にあります。もっと言えば、デジタル化が進む社会の中で、インタラクションを失うことなく、いかに「人間性」を担保しながら、テクノロジーと融合し、発展していくことができるか。コワーキングスペースはそうした問いについて考え、実装する場となっていくのかもしれません。



― コワーキングスペースは、創造性を高め、イノベーションが生まれる環境としての役割を担いつつありますが、今後のコワーキングスペースにとっての課題とは何でしょうか。


Tuukka: 日本もおそらく同じだと思うのですが、ロンドンでは、残念ながらすべてのコワーキングスペースが「創造性」を主軸としているわけではないのが現状です。単純に「テンポラリーな場所貸し」であったり、「安心できるコミュニティ」であったりと、運営者の狙いや利用者側のニーズもさまざまです。だからこそ、コワーキングスペースの運営者は何を優先すべきかをしっかりと考える必要があります。

そのうえで、いかなるコワーキングスペースにおいても「人々の創造性を支援する」ことは共通の使命であってほしい。創造性は、アイディエーションのみならず、アイディアの精緻化やテスト、開発に至るイノベーションプロセスのすべてに関わるものだからです。私自身も、これまでの研究成果をスペース運営者の方々に共有したり、また、新たな研究活動を共に行うことを通じて、利用者の創造性を高める支援をしていきたいと考えています。


― ここまでのお話で、コワーキングスペースが世界中で広がる共通の理由がわかってきました。さらに、Tuukkaさんの眼から見て、日本と世界でコワーキングスペースに求められる機能の違いはあると思いますか?


Tuukka: 実は、先ほどのテクノロジーと人間性の融合においては、日本にとても可能性を感じでているんです。なぜなら、日本は他国と比較して、テクノロジーに対して肯定的に考えている社会だと感じるからです。日本人はテクノロジーに対して楽観的で、物事を解決するための手段として前向きにとらえているように見える点で、ぜひ日本から刺激を受けたいと思っています。例えば、アーティストがテクノロジーを使って作品をつくる。AIをグループでのイノベーションプロセスに組み込む。日本人はしばしば集団的であるとか、同質性が高いなどと言われていますが、だからこそ、コワーキングスペースにおいても、人と人を賢くマッチングするためのアルゴリズムが求められるのではないかと考えたりもしています。

一方で、欧米の状況でいうと、オフィス内での行動やコミュニケーションのログデータが監視の観点から使われることが多くなってきています。そこで、監視や束縛から逃れるための場所として、コワーキングスペースが機能していくかもしれないと感じています。


― 人と人のインタラクションの在り方においては、日本人特有の「クセ」のようなものが邪魔になることがありそうな気がしますが。


Tuukka: 確かに、日本は集団主義的なところがありますね。個人が主役となるような社会というものをどうつくり着地させるか、を考えることが重要です。

ひとつ、指摘しておきたいのですが、コワーキングスペース=コミュニティとしてとらえるのは間違いです。いわゆるムラ意識は、共同体の存続のためには有益ですが、クローズドで内向きの文化は多様性を失い、インタラクションの拡がりを阻みます。もちろん、スペースのメンバーシップに加入することがある種の安心感を与えることも重要な機能のひとつです。しかし、イノベーションのための創発がコワーキングスペースの目的だとすれば、そこに集う人々は、常にオープンかつ流動的であることが重要だと考えています。

また、世界的に広がっているコワーキングの文化が、ロンドンや日本をはじめ、全く異なった環境において、どのように発展していくかということは非常に興味深い。コワーキングスペースが展開しうるビジネスモデル・サービスにも違いが出てくるはずです。


― 最後に、改めて日本で創造性やコーワ―キングスペースを研究することへの期待や、皆さんへのメッセージがありましたら聞かせてください。


Tuukka: コワーキングスペースを社会に取り入れていくことは、日本人が働き方を変えていく流れのなかで、とても深いチャレンジになるでしょう。コワーキングスペースを研究することは、いまの仕事に内在しているパラドクスを明らかにすることでもあると考えています。

例えば、企業に所属している人に対しては、会社という安心できる場所と、コワーキングスペースという開かれた流動的な場所が存在する。どちらかを選ぶのではなく、両方を自分なりに融合させた形で仕事をしていく。新しい働き方を、自分たちで考えられるチャンスなのです。

また、社会のデジタル化が進むなかで、人間とテクノロジー(AI)の関係を明らかにしていくことも研究の対象としていきます。コワーキングスペースによって、人間と人間の間にあるクリエイティビティを強め、高めながら、いかにAIと共存し、融合する未来をつくっていくかも大事なテーマです。

GLOCOMでは、これまで私が取り組んできた研究を皆さんに積極的にシェアし、対話しながら、ともに日本の働き方を変えていくためのチャレンジに参加したいと考えています。そのためのイベントなども企画していきます。多くの皆さんとインタラクションできることを楽しみにしています。



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ありがとうございました。いま盛り上がりをみせるコワーキングスペースを、どのように社会に取り入れていけば、私たちの「創造性」を高め、イノベーションへと導かれるのでしょうか。ぜひ、多くの皆様と研究活動を進めていけることを期待しています。


(聞き手=小林奈穂 国際大学GLOCOMプラットフォーム研究グループ 主任研究員)

Tuukka Toivonen(トゥーッカ・トイボネン)
1979年フィンランド、ヘルシンキ生まれ。2005年に立命館アジア太平洋大学卒業。2009年にオックスフォード大学博士号取得(社会政策学)。東京大学・京都大学・慶応義塾大学等でのフェローシップ等を経て、2013年より2018年までロンドン大学勤務。世界トップ10大学であるUniversity College Londonにてソーシャルイノベーション分野の准教授まで進む。2018年4月から国際大学GLOCOM准教授。UCL STEaPP名誉准教授。コワーキングスペースなどの新型組織における創造的プロセスに関するコンサルティングを中心に活動するCreative Friction Ltd創業者。
http://www.glocom.ac.jp/researchfellows/tuukka_toivonen

2018-07-18