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OPINION PAPER_No.3(16-003)「学校運営改革の動向とその行方」

OPINION PAPER No.3(16-003)

学校運営改革の動向とその行方

豊福晋平(国際大学GLOCOM主幹研究員/准教授)

公共部門へのニュー・パブリック・マネジメントの適用をきっかけとして、我が国の公立学校運営についても2000年前後から様々な取り組みが進められるようになった。ただし、2012年の大阪市による民間人校長登用とその後の顛末など、一部事例がマスメディアの注目を集める事はあっても、その背景や目的に対する理解が促される機会は限られているようにみえる。

◆ 学校運営改革の背景

民間経営的手法を公共部門に応用するニュー・パブリック・マネジメント(NPM)は1980年代以降英米諸国で形成された概念で、NPMの基本コンセプトは主に、1) 定量的な目標設定・成果主義に基づく経営 2) 競争原理の導入による効率化 3) 顧客主義 4) 現場主義 の4点と言われている。

教育での適用例としては、公設民営・PFI方式の学校設置・運営、民営化、民間委託、民間からの人材登用、学校評価、学校選択、教員評価あるいは専門職大学院の設置、産学官連携などが挙げられる(宮腰英一,2004)(*i)。

◆ 民間人校長登用制度

このなかのひとつ、民間人校長登用制度は、1998年の中央教育審議会答申を受けて2000年学校教育法施行規則が改定され、学校長の資格要件が緩和された事を指す。

町支大祐(2015)(*ii)によると、2000年1人であった教員出身以外の校長は、2014年には136人となった。自治体により採用数や継続性については大きな違いがあるが、埼玉県、東京都、神奈川県、大阪府、大分県、横浜市、大阪市では大規模な採用が行われている。このうち横浜市は2014年まで計18人が登用され、2014年現在11人が在職中である。

横浜市教育委員会が設けた民間人校長及び行政職校長検証委員会(2011)(*iii)によると、民間人校長登用のねらいは、1) マネジメント経験等を活かし公立学校の魅力を高める学校経営ビジョンの提示 2) リーダーシップ・独自のマネジメントにより教職員意識に変化を起こすこと 3) 外部教育力を取り込むネットワークの構築 4) 民間視点による組織の効率的運営、機構改革、予算の見直し等の主に4つである。

委員会の検証では、9割の校長が標準的水準を満たすと診断され、特に地域連携、組織運営、広報活動に関しては高評価を得た一方で、教育課程や児童・生徒指導等の教育活動に関する事項や人材育成、研究研修に関する事項についての課題が指摘され、その背景として教職経験のないことが影響していると述べている。

横浜市の民間人校長一般公募を経て2009年より市内中学校に着任した平川理恵(2016)(*iv)は公教育の多様性を阻む要因として、産業化・工業化をモデルとした画一的な学習指導要領、建学理念の欠如、ヒト・モノ・カネが自由にならないこと、短期間の異動でノウハウが蓄積されないこと、教職員の多忙を挙げ、これらはいずれも民間人校長如何に関わらない公立学校共通の課題であると指摘した。

このように、民間人校長登用は民間企業ノウハウを公立学校に適用する切り札として期待されている反面、学校運営を支える体制や旧来の慣習による拘束が厳しく、課題解決は依然として難しいことが分かる。

◆ 学校の自律性をどう促すか

さて、公教育の学校運営改革では、2000年前後に世間の話題を集めたような民間人校長登用制度、学校選択制といった大がかりな仕掛けはブームが沈静化する一方、学校の実態に寄り添うような地道な取り組みが継続されている。

学校評価制度を例にとれば、学校裁量の拡大、公立学校の多様化とあわせて、教育品質の保証(認証)が求められるようになり、PDCAサイクルによる形成的・改善的評価が行われるようになったとされている(西川信廣,2008)(*v)。

現在文部科学省にて検討が進められている「チーム学校」(文部科学省,2015)(*vi)では、多様化・複雑化する子どもの状況への対応や、学校教育の質的充実に対する社会的要請の高まりを背景に、教員の専門性だけでの学校運営が困難になってきたことを指摘し、1) 専門性に基づくチーム体制の構築、2) 学校のマネジメント機能の強化 3) 教員一人一人が力を発揮出来る環境の整備が方策として述べられている。

つまり、学校運営改革の目的としては、地域・保護者を含めたステークホルダによるコミュニティ・スクールの多様性の許容と合わせて、学校の自律的な経営が志向され、これに即した支援が模索されているといえよう。

◆ 課題は組織マネジメント

さしあたって学校現場での大きな課題は、組織経営的なマインドセットがもともと希薄である上に、しばしばトップダウンで行われる改革が必ずしも組織課題(例えば、教職員の多忙)の解決に貢献しないという事である。

一般に教員は対児童生徒・対保護者対応が中心で、学校組織の方針決定や業務改善には直接の役割を期待されていないと考える傾向が強い。学校評価は、単に保護者対象の学校評価アンケートを実施し、集計結果を公表する事と短絡され、PDCAサイクルが十分に機能しない。これでは集計作業の手間ばかりが教職員の徒労感につながってしまう。

先にチーム学校の方策として記されている通り、学校運営改革の各手法の導入は組織マネジメントの強化と並行して進める必要がある。そこで、筆者は学校の自律的経営を支援する各種手法について、文部科学省からの委託を受け調査研究を進めてきた。

例えば、学校ホームページを中心とする学校広報では、保護者・地域との信頼関係形成を主たる目的とした「地味でベタな学校日常」情報提供の重要性を説き、ブログ等を用いた省力化と高頻度更新によって幅広いステークホルダの満足度を高めることをガイドブックにて示した(豊福晋平,2015)(*vii)。

また、学校評価では、とかく根付きにくい学校組織のPDCAサイクルに実効力を持たせるため、世田谷区教育委員会と協力して学校評価プロセス改善、マインドセットの形成、データハンドリング等を行うためのマニュアルづくりを進めている(豊福,2014)(*viii)。

いずれも手法の適用を手続き的に進めるというより、むしろ、学校内外の幅広いステークホルダの存在と潜在的なニーズを認識してもらい、相互の関係形成・維持と意思決定を意図して展開するところを特徴としている。今後、これらが学校での現実的な課題解決と組織改善に繋がる事を期待している。

*i 宮腰英一(2004)「科研報告書「教育行財政におけるニュー・パブリック・マネジメントの理論と実践に関する比較研究」、 http://doi.org/10.5998/jces.2005.289
*ii 町支大祐(2015)「民間人校長制度に関わる基礎データの検討 : 文部科学省調査の整理を通して」、『東京大学大学院教育学研究科教育行政学論叢』 35号, 2015.10, pp. 75-9, http://hdl.handle.net/2261/59085
*iii 横浜市教育委員会・民間人校長及び行政職校長検証委員会(2011)「横浜市公立学校における民間人校長及び行政職校長登用制度の在り方について」、 http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/shingikai/minkanjin/pdf/houkokusyo.pdf
*iv 平川理恵(2016)「教育の未来を拓く~多様な学びの創造へ」、国際大学GLOCOM『智場』vol.120, pp31-37
*v 西川信廣(2008)「学校評価の現状と課題:第三者評価の検討を中心に」、『京都産業大学教職研究紀要』第03号、http://hdl.handle.net/10965/972
*vi 文部科学省(2015)「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」、 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/052/index.htm
*vii 豊福晋平(2015)「学校広報のページ」、 http://i-learn.jp/spr/
*viii 豊福晋平(2014)「学校関係者評価のプロセス改善と体系化」、『日本教育工学会研究報告集』JSET14-4,pp119-124

2016年6月発行