国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

English >

OPINION PAPER_No.4(16-004)「メディアは炎上とどう向き合うべきか ―表現の萎縮・炎上への加担の危険性―」

OPINION PAPER No.4(16-004)

メディアは炎上とどう向き合うべきか
―表現の萎縮・炎上への加担の危険性―

山口真一(国際大学GLOCOM研究員/講師)

※本稿は、6月28日開催の「炎上から見るネット世論の真実と未来【GLOCOM View of the World シンポジウム】」の内容を踏まえ、執筆されたものです。

現在、ネット上での自由な発信や議論について、悲観的な意見が増えてきている。その大きな要因となっていることの一つに、一つの対象に批判や誹謗中傷が集中する、いわゆる「ネット炎上」が挙げられる。例えば、ある大学生集団が、スーパーで騒いだり踊ったりしていることを、写真付きでTwitterにて発信したところ、拡散されて批判が集中した事例が該当する。

このような炎上の社会的影響として、ミクロ的には、対象となった人の人生に大きな影響を与えたり、企業の株価が下落したりといったことが考えられる。特に問題となるのは、個人情報を晒しあげて攻撃をしたり、明らかな差別や誹謗中傷を行ったりすることである。炎上は、過剰な罰を与えてしまう傾向にある。将来的に結婚や進学に影響が出た事例や、コンビニや飲食店が閉店に追い込まれた事例もある。

しかしより大きな、マクロ的な問題として、炎上を恐れることによる情報発信(表現)の萎縮が挙げられる。炎上によってネット上で発信を続けるのは攻撃に耐えられる人だけとなり、そうでない人はネットでの発信を諦めていく。これは、ネットの大きな魅力である、「誰でも自由に情報発信できる」という価値を著しく損なっており、社会的コストである。

◆ 炎上による「ネット世論」の正体

このような炎上は、マスメディアでも広く取り上げられるようになった。それは時に、「ネット世論」や「ネットが社会を動かした」などと言われる。典型的な例が、五輪エンブレム事件である。

五輪エンブレム事件は、エンブレムデザインにネット上で批判が集中(*i)し、過去作品についても次々と似ている作品が提示され、それがマスコミに取り上げられたことによって大きな影響力を持った。最終的に、ネット上で個人情報が拡散され、電話等での家族攻撃にまで発展した結果、「人間として耐えられない」としてデザインは撤回された。

本件で注目すべきは、専門家の間では当該エンブレムは著作権違反にあたらないとの意見が多かったことや、選考過程の透明性など本来するべき議論が深まらずに、人格攻撃で終わってしまったことである。さらに、デザインは少なからず他の作品に似てしまうこともあることから、デザイナーや選ぶ側の表現の萎縮にも繋がってしまった。

では、このように報じられるネット世論とは、果たしてどれくらいの人の意見なのだろうか。2014年に約2万人を対象とした調査(田中・山口,2016(*ii))は、驚くべき結果を示した。なんと、炎上において、過去1度でも炎上に書き込んだことがある人は、ネットユーザの約1.1%(*iii)で、これを1年以内に絞ると約0.5%となった。炎上は平均して1日1回以上発生していることを考えると、1件当たりの参加者は約0.00X%となる。

◆ 「ネット世論」は世論か

ごく少数の人の意見である炎上、そしてネット世論は、偏った意見である可能性がある。その理由として、まず、情報発信から撤退する人は中庸的な意見の人であることが挙げられる。強い思いをもって何回も批判するごく一部の人は、極端な意見の持ち主の場合が多く、サイレントマジョリティを代表しているとは言い難い。

次に、通常の世論調査と異なり、ネット世論とは極めて能動的に発信した意見ということが挙げられる。つまり、通常の世論調査は、聞かれたから答えている、いわば受動的な発信である。しかし、ネット世論とは、発信したい人が発信しているという能動的な発信であり、発信したいという強い思いを持てば持つほど、何回も書き込み声が大きくなる世論である。このように形成されたネット世論が、社会全体の意見分布と一致しているとは、残念ながら考えにくい。

最後に、参加者の特殊性が挙げられる。山口(2015)(*iv)で言われているように、客観的な属性に際立った特殊性はなく、むしろ若干裕福な家庭という傾向にある。計量経済学的モデルで属性分析した結果、男性、年収が多い、子持ち、ラジオ接触時間が長い等の傾向が見られている。また、追加調査で、主任・係長クラス以上が多いことも分かっている。

しかしながら、考え方や性格を見ると、特殊な人物像が浮かび上がってくる。分析の結果、「ネット上では非難しあって良い」「世の中は根本的に間違っていると思う」「相手の意見が間違っているなら、どこまでも主張して言い負かしたい」等の考えを持っている人は、炎上参加確率が高いことが分かった。これらから、炎上によるネット世論を形成しているのが、攻撃的で、社会に対して否定的な人であることが分かる。

◆ 炎上に加担するマスメディア

このような炎上について、マスメディアは、被害者となることもある一方で、加担している側面も否定できない。それは、大きく分けて2つある。

まず、炎上を取り上げた挙句、大げさに報道する場合がある。見てきたように、炎上の参加者はごくわずかにもかかわらず、それを大きく報道し、結果として潜在的不満者に届くように拡散している。いわば、スピーカーの役割を果たしているといえる。実際、炎上認知経路として、実に約60%の人は、テレビのバラエティ番組からという調査結果もある(吉野,2016(*v))。また、炎上において、ネットで収まった場合は株価に影響はないが、マスメディアで取り上げられた場合は株価に影響があるとする研究結果もある(Adachi & Takeda, 2016(*vi))。

次に、炎上したことを取り上げて、より厳しく追及する役割を果たしている。ネット発信のバッシングに乗っかり、著名人を厳しく追及する例がしばしば見られる。批判の仕方が短絡的な場合もあったり、時には対象者が自殺してしまったりする例もある。ネットが広く普及したとはいえ、マスメディア、特にテレビを情報源としている人は多く、そこで厳しく追及することは、炎上を大きく加速させる。

◆ マスメディアへの期待

マスメディアに期待されるのは、次の4点である。第一に、炎上を取り上げるにしても、それは多様な意見の一つに過ぎないことを強調して報道すること。第二に、ただ批判をするだけでなく、ポイントを明確にし、冷静な議論を呼びかけること。第三に、炎上を根拠に「ネットは怖い」「ネットで意見表明している人は口汚い」などと報道しないこと。それもごく一部しか見ていない。第四に、ごく一部の過激な批判を恐れて表現を萎縮しないこと。以上4点を踏まえ、炎上と正しく向き合っていく必要がある。

炎上は、ネットがもたらした新たな現象である。もちろん、昔から、マスメディアの放送をもとに、批判や誹謗中傷が殺到する現象はあった。しかし、拡散力や可視性、持続性(コンテンツが残り続ける性質)を持つソーシャルメディアは、その頻度と威力を大きく増幅させた。

ただ、忘れてはいけないのは、明らかな個人情報の流布や差別は別として、批判することは表現の自由の範囲内ということである。彼らには彼らの権利がある。そのため、炎上をもってして「ネットは怖い」「ネットユーザはマナーが悪い」等といって向き合わないのでは、社会の発展はない。また、そのような態度をとることで、炎上参加者の意見をより先鋭化させ、批判を激化させることに加担してしまう。正しく炎上の実態を把握したうえで、表現の萎縮をしないことが、マスメディアには求められる。

*i ネット上では、盗作疑惑の前からデザインに対して批判的なコメントが散見され、それをまとめた人気まとめブログもあった。そのような中で、盗作疑惑は格好の材料となり、批判を加速させた。
*ii 田中辰雄・山口真一(2016)『ネット炎上の研究』、勁草書房
*iii ネットアンケート調査に伴う回答バイアスは、統計的手法でコントロールしている。
*iv 山口真一(2015)「実証分析による炎上の実態と炎上加担者属性の検証」、『情報通信学会誌』33(2), 53-65.
*v 吉野ヒロ子(2016)「国内における 「炎上」 現象の展開と現状: 意識調査結果を中心に」、『広報研究』= Corporate communication studies, (20), 66-83.
*vi Adachi, Y., & Takeda, F. (2016). Characteristics and stock prices of firms flamed on the Internet: The evidence from Japan. Electronic Commerce Research and Applications, 17, 49-61.

2016年8月発行