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OPINION PAPER_No.8(16-008)「「地方豪族」が縮小時代の地域情報化を担う」

OPINION PAPER No.8(16-008)

「地方豪族」が縮小時代の地域情報化を担う

庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)
永井公成(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)

◆ 縮小する自治体財政と「地方豪族」への注目

人口の減少と高齢化が進み、国と地方自治体の財政がさらに厳しくなる中、今後、地域はどのように産官学民の力を結集してそれぞれの地域を運営していくのかということが大きな課題となっている。ビッグデータ・オープンデータの活用やIoTの推進といった地域情報化の新しいテーマについても、特に資金面で、誰がどのように支えていくことができるのかという点は不透明である。

こうした資金面の課題については、1)モノやサービスを共有して稼働率を高め、無駄を減らす「シェアリングエコノミー」、2)地域からの資金的な外部流出を抑え、半自律的に地域経済を回そうとする「里山資本主義」、3)限られた資金の使い道を当事者の決定に委ねる「地域内分権・財源移譲」、4)経営者視点で利益を生み出し、地域全体の価値を高める「稼ぐまち」の議論、5)ソーシャルネットワーク等を通じて共感を広げ、小口の寄付や投資を募る「クラウドファンディング」や「ふるさと納税」など、様々な方向性が試みられている。

これらに加えて、地域で生まれ、地域に密着して地域経済を実際に動かしている6)「地方豪族企業」の存在を忘れてはならない。地方豪族企業は、そのほとんどは全国区では知られた存在ではないものの、地域の人々の日々の消費生活や就労を支えている。歴史的にも、鉄道の敷設や観光開発、学校の設置など、地域の発展を支える半公共的な投資を担ってきた存在でもある。

◆ 「地方豪族」の定義と発展の経緯

地方経済の今後の担い手を地元密着型の企業から考えるという議論は、過去にも「ヤンキーの虎」(藤野・2014(*i))や「新・地方豪族 ニッポンの虎」(日経ビジネス・2015(*ii)) という言葉で試みられている。「ヤンキーの虎」とは、地方で生活しているいわゆるマイルドヤンキーたちをまとめ、雇い、地縁・血縁をフルに活かして、リスクも取って事業を行う企業である。また、「新・地方豪族 ニッポンの虎」は、バラバラな事業を幅広く手がけ、地方で勢力を増す新興企業のことを示す。

筆者は、上記の先行研究の定義を踏まえたうえで、新たに「特定地域に立脚し、消費者の生活に密着した事業を行い多角化する一方、状況によって素早く事業内容を転換することもある企業」として、「地方豪族企業」という定義を定めた。 地方豪族企業が注目される背景には、2000年前後からの公共事業の減少がある。建設市場が縮小する中で、地域に密着した中小企業は、雇用と地域経済を守るために事業内容を増やし、多角化した。介護福祉や中古車販売、飲食、観光業等、様々な分野に進出し、企業の合併・買収等が行われた結果、一部の企業がコングロマリット化していったのである。

こうした中小企業は事業拡大に意欲的であり、地方の行政との距離が近く、公的な補助金の活用にも慣れていることが多い。同時に、借り手に有利な条件をつけてもなかなか貸付先が見つからず困っている地方銀行からの融資も有効に活用しており、このような面からも地域経済への貢献がみられる。

このような「地方豪族企業」の経営に注目し、地域社会との関わり方を研究していくことは、今後の縮小社会における地域情報化を始めとする地域活性化政策の検討に役立つ可能性がある。

◆ 地方豪族企業の分類

筆者は、以上のような問題意識から、地方豪族リストを作成した。作成にあたっては、すでに「ヤンキーの虎」や「新・地方豪族企業」で挙げられている企業に加え、「地方で設立されその地域で事業を行っている企業であること」と「複数の分野に渡って事業を行っている企業であること」を選定基準とした(*iii)。後者については、あくまで事業の分野が複数にわたっていることを基準としており、様々なジャンルの飲食店を展開しているような場合は除外している。このリストは、地域SNS研究会のウェブサイト(*iv)にて公開し、随時更新している(2016年11月現在、39社掲載)。

リストに掲載した企業を事業分野の多角化の度合いと、地域密着の度合いという二つの軸で分類し整理した結果、大きく分けて二つに類型できることが見えてきた。


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図 地方豪族の分類

一つは、図左上の「地域に根付き、多様な事業を行う企業」である。具体例として、宮崎市の「株式会社日米商会」を見てみると、この企業は、戦前から石油販売業を行っていたが、現在は石油製品やエレベーター、太陽光発電パネル、車用品販売、車検、損害保険代理業、携帯電話販売、工業薬品販売、不動産の所有及び賃貸、リフォーム業など、様々な事業を宮崎県周辺で行っている。まさに典型的な地方豪族企業であるといえよう。

もう一つは、「多角化は限定的で、基幹事業と関連事業分野を発展させながら地方から全国展開していく企業」である。具体例としては、前橋市の「株式会社コシダカホールディングス」があげられる。屋台の中華そば屋から始まったこの企業は、現在では『カラオケまねきねこ』の屋号でカラオケ事業を主軸に据えるJASDAQ上場企業であり、フィットネス施設の『カーブス』や温浴施設の事業を全国で行っている。中核のカラオケ事業においては、居抜き物件を次々と抑えた店舗展開で、現在、全国400店舗以上にまで成長しており、さらにフィットネス施設も全国1500店舗以上で展開している。すでに全国区の企業であるが、地域性を持ちながら急成長した代表的事例として先行研究で紹介されている。

◆ 地方豪族が地域データ活用を担う

2016年10月、政府の地域経済分析システム(RESAS:リーサス)を活用した「地域データ利活用促進業務」として人材育成等を行っていくことを、鹿児島市の総合商社である南国殖産株式会社が発表した。地域経済をよく知る地方豪族企業が、地域のデータ活用の中核を担うのは自然な流れであるといえよう。

地域の経済社会に密着し、多角的にビジネスを行う地方豪族企業は、国や地方自治体という従来の枠組みを超えて地域の将来を考えていくうえで重要な存在である。今後も国内外の事例研究を進め、さらなる政策提言等につなげていきたい。

*i 藤野英人「地方に跋扈する『ヤンキーの虎』に注目せよ!」、『Forbes Japan』2014年10月号 に初出。藤野の「ヤンキーの虎」論は藤野英人『ヤンキーの虎』(2016)東洋経済新報社 にまとめられている。
*ii 中尚子「地方の観光を守るのはオレ!『地方豪族』がいま、熱い」など、『日経ビジネス』2015年8月10日号、日経BPを参照。オンライン記事は、http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/080600042/
*iii 次の情報も参考にした。
 (2012年5月9日)「47都道府県の『大金持ち』がひと目で分かる『全国長者番付』を実名公表する2012年版『資産形成・生活・考え方』—13人がインタビューに答えた!」、『週刊現代』、講談社、http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32453
 一般社団法人全国携帯電話販売代理店協会 http://www.keitai.or.jp/
*iv 永井公成(2016年6月16日)「地方経済の担い手「地方豪族企業」を分析する」、『地域SNS研究会』http://www.local-socio.net/2016/06/gouzoku.html

2016年12月発行