国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

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OPINION PAPER_No.12(17-003)「ブロックチェーンで創造性を鍛えよう」

OPINION PAPER No.12(17-003)

ブロックチェーンで創造性を鍛えよう

高木聡一郎(国際大学GLOCOM主幹研究員/准教授)

ブロックチェーン技術に対する社会的関心が高まっている。ビットコインというデジタル通貨を実現する技術として誕生したものだが、より幅広い応用が検討されている。ブロックチェーンを巡っては、「本質的」「破壊的(ディスラプティブ)」といった評価から、「怪しい」「よく分からない」といった声まで聞かれる。ブロックチェーン技術の評価は人によって様々であるが、ここでは、この技術を、ビジネスパーソンにとって創造性を鍛えるためのきっかけとして活用することを提唱したい。

◆ ブロックチェーン技術の応用と革新性

ここでブロックチェーンの詳細を説明する紙幅は無いが(*i)、ごく掻い摘んで説明すれば、『人や組織が価値(あるいは資産)の交換を行うことを、分散型のインフラ技術で実現できる』ということである。

マーケットプレイスや銀行などの信頼できる第三者が仲介しなくとも、インフラレベルで価値の交換・移転が行える。最初に実現の対象となったのは、ビットコインという仮想通貨であったが、土地登記やダイヤモンドなど、様々な資産の登録・管理も検討あるいは実践されている。

また、分散型でこうした情報管理を実現するために、ブロックチェーン技術を活用したサービスに特有のコイン(トークンとも呼ばれる)が新規発行される。こうしたコインは、いずれ通常のお金と交換されることで、その価値を確かなものとしていく。誰かがお金を出さなくとも、新規発行されるコインをインセンティブとすることにより、様々な業務を分散型ネットワークで担えるようになる。これを応用したのが自律分散型組織(DAO)と呼ばれるものだ。

ブロックチェーンを用いた価値交換の仕組みは、完全にコンピュータ・プログラムに埋め込むことができる。また、ある条件が満たされた際に資産の移転を実行するといったことも、ブロックチェーン上で動作する「スマート・コントラクト」を使えば、実現可能だ。こうした仕組みを使えば、貴重なデータの交換や、IoT(Internet of Things)における機器同士の通信の際に、コインの交換を同時に行うこともできるだろう。こうなれば、人が介在しなくとも、マシンが稼ぐことができる時代が見えてくる。

このように、分散型のネットワークで価値交換を実現するだけでなく、コイン発行をインセンティブとした自律分散型組織を実現、また決済機能をプログラム化できるなど、革新的な機能を多く含んでいるのがブロックチェーン技術である。

◆ 技術の応用を巡るパラドックス

ところが、こうした革新性が今すぐに社会に実装され、実現するかというと、そういうわけではない。それは、ブロックチェーンが破壊的(ディスラプティブ)であるがゆえに、既存の組織や制度と合わない点が多々あるためだ。

例えば、自律分散型組織は理論的には可能であるが、法人格を持たないサービス主体がどこまで社会、あるいは既存の法制度にどの程度受容されるかは不透明である。あるいは、ブロックチェーン技術の活用を検討した結果、自社を取り巻く業界構造自体を変革することが必要だと明らかになったり、「自社」の役割そのものが不要になったりという結論に至ることもあり得る。

ところで、業務が自律分散的に行えるからと言って、直ちにあらゆる「組織」が不要になるというわけではない。「組織」には人の帰属意識、リーダーシップの発揮、人間的成長など多様な面があり、今すぐに組織が全廃されるとは考えにくい。

従って、ブロックチェーンの破壊性は今すぐ実現されるものではなく、既存の組織や制度との折り合いをつけながら、徐々に社会に浸透していくものと考えられる。破壊的である一方で、本格的な応用までにはもう少し時間がかかると考えられる。逆に言えば、この技術をどのように活用するか、考える時間があるということでもある。

◆ ビジネスモデル検討の題材

そうはいっても、何かきっかけや題材が無ければ、ブロックチェーン技術のインパクトや可能性を考えるのは難しいかもしれない。そこで、以下では三つのケースを提示してみたい。

第一が、「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれるものである。これは、ビットコインのようなデジタル通貨を、国の中央銀行が発行しようというもので、英国やスウェーデンの中央銀行が積極的に研究を進めている。もし国がデジタル通貨を発行したら、何が起こるだろうか。イングランド銀行副総裁のブロードベント氏は、実質的に全国民が中央銀行に口座を持つ形となり、市中銀行の預金・貸出が機能しなくなる可能性を指摘している(*ii)。一方、誰もがデジタル化された英国ポンドを簡単に手に入れられるようになれば、この「デジタル・ポンド」を使うのは英国民だけでなく、全世界の人々かもしれない。あるいは、デジタル通貨の特性、例えば用途を限定したり、価値を途中で変えたりといった機能性を駆使すれば、新しい金融政策、あるいは金融サービスも可能かもしれない。

第二に、前述の「自律分散型組織(DAO)」がある。コインをインセンティブとして業務を分担するという、ブロックチェーンのアーキテクチャを用いることで、組織も上司もいない形で、サービスを提供する試みが世界で行われている。例えば、クラウドソーシングをDAOの考え方で実現しようとする「Colony」、マーケットプレイスを実現する「OpenBazaar」などである。

こうした考え方を、自社を取り巻くサービスに応用できないか。様々なステークホルダーに対して、委託や雇用といった関係を作るのではなく、作業に応じてトークンを発行し、そのトークンが社会で価値を持つようにエコシステムを設計するには、どうしたらよいか。サービスを取り巻くステークホルダーの関係性と役割分担、費用負担について、視野を広げて考えてみるきっかけとなるだろう。

第三に、IoTなどのデータ交換への応用も検討の余地が大きい。自社が持つ情報を提供することとの引き換えに、少額の課金をできないだろうか。あるいは、自社が提供するプロダクトがインターネットに接続する際、そこから生成・提供されるデータをもとに、経済圏を構成できないだろうか。家電製品やスマホアプリが送受信するデータで、稼ぐことはできないだろうか。こうした考え方により、単純に機器がつながることによるマクロの効果だけでなく、その機器を購入・使用するユーザの便益も向上できるかもしれない。

◆ 技術的にも改善の余地あり

そもそも、ブロックチェーン技術自体がまだその初期段階にあるため、これから技術の改善が進むとともに、その姿を大きく変えていく可能性がある。

ブロックチェーンの特性の一部分を活かしつつ、既存のデータベースシステムと融合するという方向性もあるだろう。また、スケーラビリティ、データの秘匿性、簡便なノード構成、クラウドとの融合など、様々な検討の方向性があり得る。「ブロックチェーンとはこういうものだ」と決めつけず、柔軟な発想で発展の方向性を検討することが求められる。

◆ 創造性を鍛えるきっかけに

ここまで見てきたように、ブロックチェーン技術がもたらす影響は、単に業務の技術的な実現方法の変化だけでなく、既存の業務、制度、組織と広範囲にわたることがわかる。その応用を検討するには、既存の枠組みに捉われない、柔軟な発想力が必要である。また、自らが直接携わっている業務を越えて、エコシステムや経済圏をどのように作っていくか、幅広い視点も必要になる。国際大学GLOCOMでも、『ブロックチェーン経済研究ラボ』や実証実験などの活動を通じ、こうした思索の一助ともなり得る研究を進めている。

ブロックチェーン技術は、破壊力が高いがゆえに、影響が出るまでにはもう少し時間がかかるだろう。しかし、放置しておけば、新しいアーキテクチャを持った業界外のプレイヤーからの挑戦を受けることになるかもしれない。短期的な視点に捉われず、まずは創造性の訓練だと思って、ブロックチェーン技術の応用を検討してみてはいかがだろうか。

*i  詳細は筆者連載『ブロックチェーンの可能性と課題』(Biz/Zine)を参照。http://bizzine.jp/article/corner/68
*ii http://www.bankofengland.co.uk/publications/Pages/speeches/2016/886.aspx

2017年2月発行