国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

English >

OPINION PAPER_No.13(17-004)「知的自前主義でなければ地方創生はできない」

OPINION PAPER No.13(17-004)

知的自前主義でなければ地方創生はできない

庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)

◆ 地方は消滅しない

日本創生会議のいわゆる「増田レポート」が示した「地方消滅」論は、「地方創生」という言葉とともに、少子高齢化・人口減少が進む中で地方の衰退にどう向き合い、地域経営をどうしていくべきかという議論を巻き起こした。

しかし、「地方創生」は、(1)地方そのものの衰退問題、(2)地方自治体の財政破綻問題、(3)国単位での少子化問題、の3つが混在して語られがちである(木下2014)と指摘されている。

このうち、私たち一般人にとっては(2)と(3)、すなわち個別の地方自治体が財政破綻しないようにすることや、国単位での少子化問題を根本的に解決することは難しい。だが、(1)の個別の地域が衰退しないようにしていくことについては、関与できる余地がある。

実際に、官民の取り組みがある程度成功し、以前より移住者が増加することで、人口減少がゆるやかになったり高齢化率が低下したりする地域が出てきている。先進地域としては島根県隠岐郡海士町や、徳島県勝浦郡上勝町がある。

図1は、島根県立隠岐島前高等学校のユニークな教育と「島留学」や、住民主導のまちづくりで知られる海士町の戦後の総人口の推移である。1950年以降は一貫して減少しているが、2010~15年の減少はわずかであり、横ばいに近い。また海士町の人口の社会増減と自然増減を描いた図2からは、自然減は続いているものの、社会減が食い止められ、年によっては「社会増」となっていることがわかる。2000年に国立社会保障・人口問題研究所が予測した2015年の海士町の総人口は2007人(高齢化率44%)であったが、実際(2015年9月)には2352 人(高齢化率39%)を実現している(海士町2015)。

「葉っぱビジネス」や徹底的なゴミ分別とリサイクル等で知られる徳島県上勝町も、人口の自然減は続いているものの、2000~12年の13年間に6回、「社会増」の年があり、移住促進策が一定の効果を生んでいることがうかがえる。


OP13-1
図1 海士町の総人口の推移(人)
〈海士町ホームページのデータより筆者作成〉

OP13-2
図2 海士町の人口の社会・自然増減(人)
〈海士町ホームページのデータより筆者作成〉

人口減少にブレーキをかけている地域がある一方で、2060年には、比較的減少幅がゆるやかな島根県の人口(2017年時点で68万人:全国46位)よりも、その1.5倍の人口を持つものの急減が続いている秋田県の人口(2017年時点で99万人:全国38位)が下回ってしまうという予測もある。

このように、「地方の衰退」の速度は、その地域の社会経済の運営状況によって異なる。それでは人口減少や社会経済の衰退を軽減するためには何が求められるのだろうか。

◆ 「私(たち)」のウェルビーイングから考える

地方創生の推進のために、政府から数千億円規模の交付金が地方自治体に振り分けられている。だが、「衰退の取引」(Jacobs1984)と呼ばれるように、衰退地域を救うために実施される補助金や交付金などの「他地域への依存」が進むと、地域の創造性が奪われ、さらなる衰退を招くことになる。海士町や上勝町のように創造性を失わず、地域外から人を惹きつける地域となっていくためには何が必要なのだろうか。

田中(田中2017)は、OECDの議論を参照し、地域活性化における人々の「ウェルビーイング」向上の重要性を指摘している。ウェルビーイングとは、「物質的な生活水準条件」につながる「所得と資産」「仕事と報酬」等だけでなく、「生活の質」につながる「健康状態」「教育と技能」や「社会的つながり」「生活の安全」など幅広い主観的な要素で構成される。

また、地域の社会経済の運営に必要なヒト・モノ・カネ・情報の資源は、地域全体のものなのではなく、基本的には個人のものである。まず「自助」があり、その先に「共助」「公助」がある。「公」である地方自治体や地域全体といった「全体」のために個人があるのではなく、「私」や「私たち」の将来をつくっていくために「全体」がある。

つまり他地域に依存しないためには、「私(たち)」のウェルビーイングのために「私(たち)」の資源を使うという自前主義が求められる。

知識産業の集積を地方に作れるか

IT産業などの仕事を確保しながら生活の質を求める方策として、移住促進やサテライトオフィス誘致の取り組みが広がっている。先進事例としては、徳島県の神山町や和歌山県の白浜町などが知られている。筆者も、新潟県の南魚沼市で国際大学の多国籍な学生と連携したマイクロな知識産業のクラスター作りに取り組んでいるが、多くの地域が先進事例に続こうと努力しているところだ。

一般に、知識労働者は都市に集積する傾向にあり、第三次産業従事者が大半である都市の人口はますます増大していく。しかし、ITが社会の隅々に浸透する中でニッチな仕事を生み出す可能性はあり、またウェルビーイングが主観的なものであるならば、地方都市がニッチな仕事とニッチなウェルビーイングを提供することで数十人といった規模の小さな知的クラスターを作ることは不可能ではないだろう。

そうした先進事例としては福島県会津若松市における会津大学を中心とするマイクロな知的クラスターが注目される。地域SNS、オープンデータ、ブロックチェーンを用いた地域通貨など、官民を超えた社会的なつながりの上で迅速に意思決定をし、低コストで実験的なチャレンジを次々と創発している。このような知的自前主義が経済を回し、ウェルビーイングを高め、ひいては外部から人を惹きつける原動力となって地方創生を実現するのではないだろうか。

参考文献:
・ 木下斉(2014年10月27日)「「地方創生」論議で注目、増田レポート「地方が消滅する」は本当か?」、『THE PAGE』https://thepage.jp/detail/20141027-00000017-wordleaf
・ 海士町(2015.10)「海士町創生総合戦略 人口ビジョン《海士チャレンジプラン》」
・ 茂木克信(2017年5月26日)「秋田県の人口、2060年には島根以下?」、『朝日新聞DIGITAL』
・ Jacobs, Jane (1984). “Cities and the wealth of nations: principles of economic life”, Random House. (ジェイン・ジェイコブス(2012)『発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 』、筑摩書房)
・ 田中秀幸編著(2017.3)『地域づくりのコミュニケーション研究 まちの価値を創造するために』、ミネルヴァ書房

2017年6月発行