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庄司昌彦 - March 17, 2008
地域SNS、e-democracy:情報技術が変える政策過程
March 17, 2008 [ 庄司昌彦 ]
――はじめに、庄司さんの研究の全体像をお聞かせいただけますでしょうか。
主要な研究分野は「情報社会学」です。
個別のキーワードとして挙げると、政策過程論、e-democracy、電子政府・電子自治体、地域情報化、ネット・コミュニティになります。これらのキーワードは全て密接に関連していて、私の関心を異なる側面から表しています。
現代社会(とりわけ日本社会)が、どのように政策を決定し、社会を運営しているのか。法律に限らない様々なルールが作られていく政策形成過程に関心があり、特に地域社会のような小さな社会がどうなっているのか。これは、大学時代からずっと関心を持ち続けているテーマです。
大学では、地域社会がどのようにルールをつくり社会を運営していくのかを扱っていましたが、GLOCOMに参画してから、情報通信技術が地域社会の人々のコミュニケーションに重要な役割を担っていると感じ、現在はe-democracyにも関心を持って取組んでいます。
――なるほど。政策形成過程における一つのアクターとして地域に注目し、さらには地域と政策形成過程をつなぐものとしての情報技術に注目しているというわけですね。こうした研究の方法論は、どのようなものになっているのでしょうか。
大学では法思想のゼミに所属していましたが、学部と大学院は総合政策部というところの出身だったので、経済学・政治学・社会学を横断的に学んできました。そのため、研究をするにあたって、特定のディシプリンに根ざした方法論をもっていなかったのですね。
しかし、GLOCOMで情報社会研究を続けている中で、ネットワーク科学やソーシャル・キャピタルという方法論に出会いました。
ネットワーク科学は長い歴史を持っている学問分野で、とりわけ90年代後半に大きく発展しました。もともとは、自然科学の分野が震源地になっており、要素と要素のつながりとしてのネットワークがどのように成長していくかについて注目していく方法論です。ネットワーク科学の当初の研究対象は、数学や物理学のディシプリンにありましたが、そこから生まれてくる知見は他の分野にも応用可能なんです。最近では、地域SNSなどの研究を通してこれらの知見を具体的な研究対象に応用し、さらには政治学や政策過程論にも取入れていこうとしています。
たとえばネットワーク科学の成果によれば、インターネット上のウェブサイトは平等につながっているのではない。少数の大きなサイトに集中しているとのことです。都市においても、ある限られた都市に圧倒的に多数の人がおり、「典型的な自治体」の規模というのがないと言われています。このような人でもモノでもないネットワークという見方を導入すると、様々な現象がつながりをつくるという点で共通していると考えることができます。その考え方は政治的なコミュニケーションにも持ち込めると考えています。
一方で、ソーシャル・キャピタルは、そもそもが政治学の分野の議論です。イタリアで地方分権が行われたとき、地方分権が機能した地域と機能しなかった地域がありました。地方分権が機能した地域では、結社やサークルや市民団体などの中間組織が活発に活動していたということです。こうした形で分権化された地域社会をうまく動かす要素のことが、ソーシャル・キャピタルと言われています。具体的には、人々の信頼関係やネットワーク、互酬性(お互いに助け合う規範)などです。
ソーシャル・キャピタルと似た考え方として、情報社会研究の中ではプラットフォームという経営学由来の概念があります。プラットフォーム研究でも、信頼や、人やモノをつなぐ存在としてのコネクターの存在の重要性を指摘しており、ソーシャル・キャピタルと非常に近いと言えるでしょう。ソーシャル・キャピタルの研究では多様な取組みがされていますが、私はこのプラットフォーム研究にソーシャル・キャピタルをつなげていきたいと考えています。
――ネットワーク科学やソーシャル・キャピタルが具体的に適応されている研究対象が、庄司さんが現在、活動の中心として取組まれている「地域SNS」ですね。
地域SNSを研究すると、地域社会における人と人のつながり方をSNSの中で観察することができます。たとえば、地域のキーパーソンを中心に人が集まっていたり、新しい人が入ってくることで、既存のグループに別のグループがくっついたりします。地域SNS内でのコミュニケーションを観察していると、信頼が高まったと言える場面もあったりします。ツールとしての地域SNSは最近になって出てきたものですが、考え方としてはより深く研究してみる価値のあるテーマですね。
――そもそも、地域SNSとはどのようなものか、簡単に説明していただけますか。
SNSとは、会員制サイトなどを用いて、人と人をつなぐネットサービスです。Mixiなどが非常に有名ですね。SNSには全国的や全世界的にサービスをしているものがありますが、地域SNSは、それを地域社会で活用しようという取組みです。
地域SNSが全国的/国際的な規模のものと決定的に違う点は、地域社会におけるリアルな人間関係を大きく反映しているところです。地域SNSでは、ネットから多様なオフ会が生まれるだけでなく、現実社会を変革していこうとするときにネットがそのサポートをしたり、あるいは、現実社会では1週間に1度くらいしか会えない人が、地域SNSを介すことで常に“つながった”状態となることで、数多くのイベントや自発的な街づくりが促進されたりしています。
――なぜ注目されてきたのでしょうか。政策として、地域活性化が重視されたことなどと何か関連があるのでしょうか。
その通りです。地域社会の衰退は、これまでも長く続いてきた流れではありますが、日本の人口減少や、中国などへの企業の海外移転など、地域社会の疲弊はどんどん加速しています。
この流れを止めるために、地域社会の活性化は国の切実な課題になっています。地域を活性化させるためには、まず人と人をつなぐことによって中間組織を活性化させる必要があり、そのためのツールとして地域SNSが注目を集めているのでしょう。
――なるほど。地域情報化やネット・コミュニティといった点で地域SNSは確かに重要ですね。その他に、庄司さんの関心となっている、電子自治体やe-Democracyと地域SNSの関わりについては、どうなっているのでしょうか。
地域SNSで議論されているテーマは多様ですが、「地域社会をどのようにより良くしてくか」という切り口で見てみると、e-Democracyの議論になります。そのための具体的な取組みとしては、「電子自治体」があります。
電子自治体の研究では、自治体がどのように情報技術を構築し、サービスを提供していくかについて検討しています。GLOCOMでいえば、「IT調達協議会」というプロジェクトで、具体的には地方自治体がどのようにITシステムを調達しているかについて調査しています。大小様々な規模の自治体を見ることで、多様な電子自治体への取組み方を学んできました。
一方、e-Democracyの研究は、多くの主体による地域社会の運営という「ガバナンス」と呼ばれる姿勢で取組んでいるため、電子自治体より扱う領域が広くなります。行政だけでなく、商工会議所や青年会議所なども地域の運営に深く関わることになり、電子自治体の運営についても、行政と民間の連携という点で関連してきます。
――GLOCOMと庄司さんの研究の関わりという点について聞かせてください。庄司さんにとってGLOCOMで活動していることの意味というのはどういったところにあるのでしょうか。
GLOCOMの研究員の中では、私が政治や政策形成過程に一番関心をもっているのはないかと思います。政策過程論では、どのようなテーマの政策も研究対象になり得ますが、GLOCOMでは特に、情報通信分野の政策や、情報社会の制度設計に積極的に関わっています。この分野は、様々な利害関係者が新しく参加してきて激しく対立しており、非常に興味深いテーマです。変化のスピードも早く、たとえば国際的な標準化の流れに合わせるかどうかなど、意思決定が難しい場面もあります。
また、もう私がずっと取り組んできているということという事で言えば、地域情報化の議論も重要です。GLOCOMでは地域情報化についての研究を昔から行っており、現在では私がその流れを汲んだ活動をしています。GLOCOMが各地域で情報化の支援をしてきたおかげで、各地の面白い取組みに参加できています。
もう一つは地域から離れて、国レベルでの政策形成において、行政や政治といった既存の利害関係者以外の人たちが、どのように入り込んでいるかについて研究しています。情報化の恩恵によって様々な人が意見を発信できるようになりましたが、彼らをどのように政策形成過程に取入れていくかに興味があり、実際に「政策空間」という誰でも考え方を発表できる雑誌の編集や、政策過程研究のNPOの運営を行っています。大変入れ込んでいるテーマのひとつですね。
――GLOCOMが各地の情報化を支援してきたということですが、どのような事例がありますか。
GLOCOMがきっかけとなって生まれたものとして、「CANフォーラム」があります。日本全国の各地域では、地域内ブロードバンドインフラの敷設、地域内データベースの構築、地域メディアの活動など、様々な取り組みが行われてきました。CANフォーラムは、そのような活動をしている人々を横につなぐための団体です。GLOCOMで地域情報化に携わった研究員が、この組織の運営を代々引き継いできました。
実は、現在私が取組んでいる地域SNS研究会も、CANフォーラムと同じモデルです。地域SNS研究会は、日本全国の各地域にいる地域SNSの活動をしている人々を横につなぐ役割を果たしています。
また、政策の中身も日々大きく動いているため、私は日本政府や海外の動向をリアルタイムでフォローしています。これは自分の研究にとってはもちろん参考になりますし、情報通信分野の政策を考えていく上でも非常に役立ちます。
――なるほど。では今もっとも注目している情報通信政策のテーマはどのようなものでしょうか?
今もっとも注目しているのは、やはり著作権ですね。情報社会における著作権は、産業社会における財産権に匹敵するほど重要な概念であるといえます。著作権の分野では、「情報や知識をどれだけ流通させるのか」「創作者への価値をどれだけ認めるのか」「著作権の保護機関を延長すべきか」「共有や派生を認めるべきか」「ダウンロードを違法化すべきか」など、多くの重要な議論が行われています。政治的にはソフトパワーなどの議論と絡み合っていて、さらにはユーザーの声をどのように政策形成過程に入れていくかについても考えなくてはならず、一番面白いですね。
また、繰り返しになりますが、地域SNSというテーマに取組んだことによって、私の中のバラバラだったキーワードが一気につながり、今は研究がものすごく面白いですね。