1992年12月7日
公文俊平
いわゆるバブルの崩壊以後、人々のライフスタイルが変わり始めているようだ。外食、それも高級レストランやファミリー・レストランでの食事が、はやらなくなったという。もっともそれほど高価でない、エスニック・フッドや和食のレストランは依然として賑わっているらしい。旅行も、飛行機や鉄道での旅行から自動車旅行へのシフトが、一気に進行しているそうだ。同時に、アウトドア・ライフとでもいうべき余暇の過ごしかたが、あらためて人々の関心を集めている。在来型の登山や釣りもそうだが、それよりも、オートキャンプをしてカヌーやマウンテンバイクを楽しむといった新しい形のものが、人気を集めつつある。
しかし、この種のアウトドア・ライフを支援するための社会資本や産業活動となると、この国ではまだまだ揺籃期の域を出ていない。本格的なオートキャンプが可能なキャンピング・サイトとなると、数えるほどしかないのが現状である。乗用車の売上が低迷する中で、各種のリクリエーション・ビークルが健闘しているとはいえ、アメリカのいたるところを走っている大型のキャンピング・カーにお目にかかることは、日本ではめったにない。アウトドア・ライフとアウトドア産業は、現在のものとはとうていいえない。
それでは、そこに未来はあるのだろうか。そもそもアウトドア・ライフとは、いったい何なのか。それは、バブルの落とし子にすぎないのだろうか。そうでないにしても、狭い日本列島の上では、やはりパチンコとかカラオケのような、都市型・インドア型の余暇生活がぴったり来るのではなかろうか。日本の自然を上手に利用することが不可能ではないにしても、登山に始まるアウトドア・ライフは、 "余暇" の概念自体と共に、結局のところすぐれて近代文明の産物であって、自然と対立し自然を征服するといった価値観から、所詮自由にはなりきれていないのではないだろうか。近代文明の原理を超えるアウトドアライフの原理といったものは、どこに求められるのだろうか。
スーパーステージ開発協議会は、そのような問題意識をもって、このほど京都府の久美浜町で「アウトドア・エグゼクティブ・セミナー」を企画した。この本は、そのさいに用いられたテキストであって、同協議会のコンセプト開発委員会の編集にかかるものであり、入門編と上級編の二部構成になっている。入門編は、文明論の立場からアウトドア・ライフへのアプローチを試み、近代文明の大転換ということの意義や近代文明と環境問題のかかわりを考えることから出発し、同時に近代文明の一分肢でありながら、自然との対立よりは共生を指向してきた日本の文明・文化の特質をも考え合わせつつ、これからのアウトドア・ライフの倫理や活動の原点を探っている。上級編では、それぞれのテーマをさらに深く掘り下げている文献の本文を収録すると同時に、さらに考察を拡げていくための参考となる文献百点を選んで、その一覧表をかかげてある。
二泊三日のエグゼクティブ・セミナーへの参加者は、実際のアウトドア・ライフのさまざまな体験を共にしながら、このテキストをもとにして、熱心な議論をかわした。私も、縁あって、自分の書いたもののいくつかをテキストに入れていただいたばかりか、セミナーそのものにも参加する機会を得て、アウトドア・ライフの一端に触れることができ、大いに楽しむと同時に、多くのことを学んだ。
時間が限られていたためもあって、このセミナーの間にテキストのすべてについて議論することは到底できなかった。しかし、参加された方々が、セミナーでの体験を通じて、このテキストをより真剣に読んで考えてみよう、というインセンティブをえられたことは間違いないと思う。それにしても、折角編集したテキストを、セミナー参加者だけのものにしておくのはもったいない話である。テキストを編集した開発委員会としては、この機会に、このテキストを、アウトドア・ライフに真剣な関心をもち始めた人々、あるいはアウトドア産業の関係者たちといった、もう少し広い範囲の読者の利用に供することにしたいという考えをお持ちとうかがった。私に推薦者となる資格があるかどうかは疑問だとしても、アウトドア・ライフを深く広く考えていくための好個のテキストとして、私からも推薦させていただきたい。