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1993年2月13日

「アルバート・ゴア・ジュニアーの構想」

公文俊平

ここで取り上げるゴア論文は、上院の科学・技術・宇宙小委員会の委員長であったころのアルバート・ゴア・ジュニアー(Albert Gore, Jr.) 副大統領が、1990年 7月15日のワシントン・ポスト紙に発表したもの [Gore90] であって、アメリカの経済力の優位に対する挑戦者として立ち現れた日本が、アメリカよりもはるかに自覚的に、情報化政策を策定し実施しようとしているという強い危機感に支えられている。

以下、この論文の要旨を紹介してみよう。

ゴアはまず、一国の経済にとっての各種のインフラストラクチャーの重要性から説きおこし、今日では、その定義を情報インフラストラクチャーにまで拡張すべきだという。今日のアメリカには、情報 "グリッドロック" (がんじがらめ) とでもよぶべき事態が出現している。すなわち、情報政策が不備に由来する情報インフラストラクチャーの欠如のために、過去に農業や道路交通に見られたのと同様な能力の未利用状態が発生している。たとえば、ランドサット衛星が収集するデータの95% は、未利用のままに放置されている。あるいは、いかに大量のデータがあったところで、その意味が適切に解釈されて、データが情報になり、さらに知識となり、理解となり、智恵となってくれないことには、折角のデータも無価値なままとなる。利用されないデータや情報は、かつての余剰穀物のようなもので、"information" というよりは "exformation"とでも呼ぶしかないしろものだろう。

ところが他方では、今日の技術は、これまでの帰納 (理論化) および演繹 (実験) という知識の獲得方式に加えて、コンピューター科学という知識獲得の第三の方式を生みだしてくれた。今日のスーパーコンピューターを利用すれば、 "干草の山の中から針を探し出す" ように、データの山から有用な情報を引出し、さらにそれを知識や智恵に転化していくことが可能になる。今日の技術はまた、コンピューターとコミュニケーションの融合をも可能にしている。いまや、スーパー・コンピューターのネットワークを作って、データの高速伝送と視覚化を行い、高度かつ有用な知識の迅速な形成・交流や理解・普及をはかることも夢ではなくなったのである。これによって、ディジタル・コードの形で通有される知識に立脚した真にグローバルな文明が出現することになるだろうし、その中での各国の国際的競争力は、ディジタル化されたデータの処理能力に依存して決まることにもなるだろう。

しかし、そのためには、大前提として、 "データハイウェー" あるいは" 情報スーパーハイウェー" とも呼ぶべきデータの高速伝送路を構築して、コンピューター同士を互いにつなげたり、誰でもがスーパーコンピューターにアクセスできるようにしておくことが必要不可欠である。その意味では、今やアメリカは、かつて1950年代に自動車のハイウェーの大々的な建設に乗り出したように、データハイウェーの建設に乗り出すべき時が来ているのである。実はゴア自身は、すでに11年も前から、それを提案していたし、議会もそれを超党派的に支持しているが、共和党政権は、その推進に一貫して冷淡な態度をとってきた。これに対し、米国の主要な競争相手である日本は、すでに明瞭なビジョンと計画をもって、すべての工場から家庭にいたる光ファイバー・ネットワークの建設に乗り出し、次の二十年でそれを完成しようとしている。幸い、この分野では、今のところアメリカの優位はハード、ソフトいずれの面でも大きいけれども、うろうろしているとそれは失われてしまいかねない。今日のアメリカは、世界のスーパーコンピューターの三分の二を生産しているにもかかわらず、国内での使用率はそれほど大きくない。スーパーコンピューターは情報時代の機関車のようなもので、機関車は、鉄道ができるまでは大して役に立たなかったのである。だからこそ、情報インフラストラクチャーとしてのネットワークの建設が、戦略的な重要性をもってくる。つまり、アメリカの現在の優位を活用する最善の方法は、まず政府がデータハイウェーの建設を先導することであって、それによって "鶏・卵問題" は一気に解決され、民間もこぞって参入できるようになり、やがてはネットワークが家庭にまでおよぶようになるのである。      

以上が、この論文でゴアが展開している議論の要旨である。