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1993年11月29日

「NIRA報告要約」

公文俊平  

米国を先頭にして急激に進展しつつある近年の情報革命は、小型化、高性能化、低価格化したコンピューター間の高速大容量の通信を可能にし始めた。これによって、誰でも、いつでも、どこでも、誰とでも、大量のマルチメディア情報を受発信できる時代、個々のデータベースに集中していた情報がいたるところに分散するグローバル・ネットワークの時代、の到来が間近に迫ってきた。これは、世界のシンクタンクの活動にも新たな地平が開かれようとしていることを意味している。とりわけ、海外との間の "情報不均衡" が長らく指摘されてきた日本および日本のシンクタンクにとっては、グローバル・ネットワーク化は、それを一気に解消するための一大好機となりうるのである。  

本研究は、そうした現状認識にたって、理論的分析と実証的なアンケート調査の両面から、グローバル・シンクタンクの未来を探ろうと試みたものである。アンケート調査は二次にわたって行われ、第一次調査では123 社の、第二次調査では69社の解答を得ることができた。

本研究の結論は、次のように要約できる。

1)米国にあっては、過去一〜二年の間に、情報革命の進展とその意味するところをめぐっての広汎な合意が確立した。合意の要点は、  

  1. 現在進行中の情報通信技術の革新をさらに積極的に押し進める必要がある、
  2. 同時に、 "全国情報インフラ" の構築に官民の努力を結集すべきである、
  3. 情報革命の成果は、全国民に均霑させられなければならない、
  4. 近未来の主導産業は、 "マルチメディア" 産業になるだろう、
というものである。マルチメディアの主要な応用分野が何になるかについては、まだ明確な合意はないが、 "グループウエア" 型の応用分野が有望である。

2)米国のクリントン政権は、すでに "全国情報インフラ構築の行動計画" を発表して、タスクフォースや諮問委員会を中心とする本格的な活動に入りつつあるが、民間にもそれを支援する、あるいはそれに呼応するさまざまな動きがいっせいに起こっている。とりわけ、州や地方レベルでの多種多様なプロジェクトが、提案・実施されつつある。

3)新時代の情報インフラの中で、近年とりわけめざましい成長ぶりを示しているのが、コンピューターの "ネットワークのネットワーク" としての "インターネット" である。年々倍増するほどのインターネットの爆発的成長は、米国では1988年ごろから始まったが、1990年代に入って、ヨーロッパもその波に加わり、さらに他の地域もこれに追随しようとしている。

4)日本は、1980年代の後半以来、情報革命の進展には、情報通信技術の革新の面でも、情報インフラの構築の面でも、大きくたちおくれてしまった。とりわけ、インターネットの普及率という点では、日本は世界の趨勢から予想される率の1/10という惨めな水準にとどまっている。また、国際的な情報交流の面でも、日本の立ち遅れははなはだしい。とくに、現代の日本に関する情報の提供が足りない。しかし、ここに来て、そうした遅れを取り戻すための努力が、ようやく始まろうとしている。

5)日本の "情報不均衡" の是正は、これまで行われてきたようなデータベースの強化のみでは不十分である。むしろ、よりリアルタイムで、より広範囲の情報交流への人々の幅広い参加を可能にするような、 "ネットワーク・ソリューション" が追求されなければならない。

6)ネットワーク・ソリューションのためには、国際公共財の一種とみなすことのできる "インターネット" を、そのための情報インフラとして利用することが、最も有望である。

7)現に、世界の主要なシンクタンクの多くは、電子メールや電子的ファイル転送その他の、コンピューター・ネットワークを通じたコミュニケーション環境を積極的に利用しているか、もしくはその利用を考慮・検討中である。その中でも、インターネットは、その中心的な手段とされている。                     8)多くのシンクタンクは、コンピューター・ネットワークを通じたデータや情報の入手だけでなく、より積極的に、それを通じた情報の発信や交流を行うことに、強い関心を抱いているばかりか、そうした情報交流にさいして地域コーディネーターとしての役割をはたすことにも、意欲的である。

9)また、回答を寄せたシンクタンクの八割は、日本情報を必要としているが、日本語を使えると答えたところは、二割弱にすぎない。英語の使用が圧倒的なのである。このことは、日本のシンクタンクが日本情報を提供するさいには、英語でそれを行うか、あるいは廉価で良質な翻訳サービスの提供とセットにして行う必要があることを示唆している。

10)入手したい日本情報としては、 "会議の予稿集" 、 "専門調査レポート" 、 "ワークングペーパー" のような広義の "灰色文献" を挙げるシンクタンクが多かった。

11)そうした状況を考慮するならば、今こそ、日本のシンクタンク、とりわけNIRAとしては、日本の内外のシンクタンクとの情報的な交流・協働を可能にするような、シンクタンクのグローバルなネットワークの構築に、そのリーダーシップを発揮すべきである。

12)その第一歩として、NIRAは、インターネットの中に自らのノードをもって、情報のグローバルな受発信をまず試みてみることが大切である。現状でも、それは、それほど多額の費用をかけなくても構築・運営していくことができる。

13)そのさい、日本情報の提供、とりわけ灰色文献に関する情報の提供や、情報の英語への翻訳、あるいは翻訳サービスの提供に留意すべきである。

14)NIRAがこうした活動に乗り出す場合、すべてを自力で行うことも考えられるが、それは将来の課題として、当面は、すでにグローバルなネットワークの構築に関して経験とノウハウをもっている他の組織−−たとえば本研究を担当した国際大学グローバル・コミュニケーション・センターなど−−との協働によって、まず突破口を開くことが有益であろう。