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1994年3月20日

「地球情報基盤への日本の貢献」 

日本産業新聞 「正論」

公文俊平

このニュースは、早速インターネット上で報道されたのだが、私はそれに接して、同じような試みが一足先に細川首相との間で行われていればよかったのにと残念でならなかった。

ここでいうインターネット" とは、局所的に互いに接続された多数のコンピューターのネットワーク(LAN)が、さらに広域的に結びついているものをいう。それらのインターネットのうちの最大のものが、いわゆる ザ・インターネット" であって、これにつながるコンピューターの数はすでに200万台を越え、ユーザーは2000万人に達していると推定されており、依然として年々倍増する勢いで爆発的成長を続けている。米国の評論家ジョージ・ギルダーも指摘するように、単体としてのコンピューターはジャングルの中の自動車のようなものにすぎない。コンピューターの本来の力は、万国のコンピューターが互いに連結されることによって、始めて十分に発揮されるのである。

米国では、情報革命" の嵐のような進展の中で、未来の主導産業がマルチメディア産業になることや、二一世紀の産業社会にとっての 全国情報基盤" の建設が当面の緊急課題であることについては、すでに広汎な合意が成立している。だが、マルチメディアの応用分野として何が最も有望かとか、全国情報基盤の具体的な形はどうで、その主たる建設・運用者は誰になるのかといった各論については、まだまだ意見の一致はえられていない。むしろ、 新ゴールド・ラッシュ" などといわれるように、さまざまな展望や試行が交錯し渦を巻いている状態にある。

しかし、ここに来て、各論のレベルでも次第に明確なビジョンが固まってきつつあるように見える。

第一に、情報革命の意義は、情報が主要な生産要素として威力を発揮し始める点にある。 情報こそは力" なのである。だとすれば、高度なコンピューティングと高速広帯域のコミュニケーション(HPCC)の最も直接的な応用分野は、娯楽などではなくて、産業や行政組織の日々の実務そのものになるだろう。そうしてこそ、国際競争力をもつ産業や、効率的な行政が生まれうるのである。

第二に、情報革命が解放しつつある潜在的な力は、万人のものにされなければならない。そうなってこそ、人々の 生活の質" が向上すると同時に、職も保証され、産業や国家の競争力が国民的な基盤に支えられたものとなりうるのである。その意味では、HPCCのもう一つの応用分野は、教育・医療・社会福祉といったところに求められるべきであり、そのためにも、全国民が低廉な料金で高度な情報や情報サービスを互いに受けかつ与えることができるような、新たな ユニバーサル・サービス" と コモン・キャリッジ" の仕組みが作り上げられなければならない。

これらの要求をもっとも良く満たす全国情報基盤のありかたは、従来の放送や電話の延長線上というよりは、いわゆる パソコン通信" や上述した インターネット" を原型とするものでなくてはならないだろう。残念なことに、日本はインターネット型の情報通信システムの構築において国際的に 異例" と評されるほどの遅れをとっている。この遅れは一日も早く取り戻したいものだ。

しかも、情報基盤や情報技術は、グローバルに展開され普及することこそ、最も望ましい。日米間の貿易摩擦や文化摩擦は、中央政府のレベルだけでなく、地方のレベルあるいは民間のレベルで、広く深いコミュニケーションの試みが日常的に行われることによって、始めて効果的に対処できるようになるだろう。また、途上国への技術移転や途上国との多面的な交流にとっても、情報基盤や情報技術は多くの役割を発揮するだろう。

その意味で、私は、日本と世界を結ぶインターネット用の高速通信幹線を、日本の政府が借り上げて、広く世界に対してその利用を無償で開放することを提言したい。つまり、グローバルな 情報フリウェー" の相当部分を、日本が 地球公共財" として積極的に供給するのである。もちろん、それ以外にも各種の 情報有料道路" が必要とされることは論をまたないが、それこそ民間の競争にまかせておけばよかろう。