1996年3月6日
公文俊平
日本の情報化も、やっと勢いがついてきたようだ。
まず、行政の情報化は、昨年二月の「高度情報通信社会推進の基本方針」を受けて、行政情報化の基本計画と、各省庁の個別実施計画が次々に策定されてきた。中でも、各省庁のLANを結ぶ "霞が関WAN" が、インターネットの標準を採用して、来年からいよいよ構築される運びになったのは、すばらしいことだと思う。なるべく早くこれを全国的に拡大して、地方の出先機関や自治体、各種の団体ともつなげていってもらいたいものだ。
次に企業の情報化の方は、ここほんの二三カ月の間に、アメリカ原産の "イントラネット" のコンセプトが、広く普及した。その眼目は、企業の外部でまず発展したインターネットの標準やアプリケーションを企業内の情報システムに導入していくところにある。もちろんファイアーウォールなどのセキュリティ確保手段はさまざまに講じられるにしても、あらゆる企業に共通の標準やアプリケーションが広く採用されることの意義は、実に大きいものがある。これによって、企業の情報ネットワークのオープン性が確保され、今井・国領氏らの提唱している "プラットフォーム型産業組織" や "オープン型経営" に向かっての産業や経営のパラダイム転換を推進する基盤が整うだろう。
とすれば、残るのは、一般の市民や地場の中小企業を対象とする "地域の情報化" だ。だがそれも、各地域を結ぶ幹線部分については、今月のNTTによるオープン・コンピューター・ネットワーク(OCN)の具体的イメージの発表が、突破口を開いてくれた。コンピューター・ネットワーク用の専用線の価格が劇的に下落して国際水準に並ぶようになる見通しが、ようやく開けたのである。このOCNが一日も早く提供されると共に、それが刺激となって、他の企業や産業が第二・第三のOCNを構築して競争してほしいものだ。また、OCNの一部を借り入れてより多様な情報通信サービスを提供する "二次プロバイダー" が多数出現することも、あわせて期待しよう。さらにいえば、新しいOCNの価格自体、競争を通じて毎年10% とか20% コンスタントに下がっていくことも、期待してよいだろう。
しかし、地域の情報化はOCNだけでは足りない。十分高速で大容量の "情報ループ" が、それぞれの地域コミュニティにはりめぐらされ、それらが相互接続すると同時に、あちこちでOCNに接続すること、そしてこの "情報ループ" にはいたるところに "情報コンセント" がついていて、任意の情報機器のプラグをそれに差し込むだけで、高度の情報通信が誰にでも可能になること、それが地域情報化の不可欠の条件である。
このような情報ループは、個々の加入者を電話局に直結している電話の市内網とは、仕組みが違っている。それはむしろ、光ファイバーもしくは同軸ケーブルが、多数の加入者の自宅やオフィスをへめぐって、ループ状に張りめぐらされているという形を取ることになるだろう。それは、電話よりはケーブルテレビの配線の仕組みに似ている。私はそれをLANとの語呂合わせでCAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)と呼んでみたい。
この意味でのCANは、電話の市内網とは別のネットワークとして、これから構築されていかなければならない。したがって、ここには電話の場合のような既存の独占は存在しない。電話事業者以外の多種多様な事業者が、その構築に参入できるはずだ。また、構築の初期局面では、財政資金の思い切った投入も考慮してしかるべきだ。
OCNの構築と並行して、CANの構築を、今世紀末までに、日本全国に実現すること、これを今後の日本の情報化の最大の政策目標にしたいものである。