96年9月3日
公文俊平
先日鳥羽で行なわれた地域の情報化をめぐるワークショップは、地域情報通信インフラ構築に真剣に取り組んでおられる多数の自治体の関係者の方々のご参加をいただき、二日にわたる熱心な討議が行なわれ、非常に有意義だったと思います。今回を第一回として、これからも定期的に集まる価値があると痛感しました。
ワークショップを終わっての私の印象は、地域の情報化は今まさに転換点に来ているということでした。これまでの点型あるいは線型の、自治体主導のパソコン通信ネットワークや電話でのダイヤルアップを中心とするインターネットの接続サービスの提供の意義は、NTT その他の情報通信企業によるOCN 幹線サービス提供の決定によって、大きく変わってしまいました。これからは、各地域の地場企業や住民の方々の広汎な利用を前提として、そのための "CAN" つまり、面型のコミュニティ用の情報通信インフラ作りが主要な課題になると思われます。それができれば、後は、必要な限りで、それを幹線につなげばいいのです。何よりも大切なことは、コミュニティの内部での市民・企業・行政の間の、日常的なコミュニケーションとコラボレーションを支援するための情報通信インフラが、それぞれの地域に構築されることです。
現在は、1990年代の初頭に始まり、少なくとも今後10〜15年にわたって続く "ネットワーク革命" の真っ只中にあります。十年前の一過性のニューメディア・ブームが専ら供給・行政主導型の試みであったとすれば、今回のマルチメディアないしインターネット・ブームは、ユーザー・ドリブンのブームである点に特徴があります。いいかえれば、需要が爆発する中で、供給が大きく立ち遅れているのです。ポケベル、携帯電話、ISDN、インターネット、皆そうです。ほんの一年前には、このような需要の爆発はほとんど予想さえされていませんでした。ここに、巨大な事業機会、雇用機会、経済成長機会が開けてきていることを、私はあらためて実感しています。
ここで、今回のワークショップを通じて私がもった感想を、ごく簡単にまとめてみましょう。
電話線によるダイヤル・アップ接続の時代は終わろうとしています。各地域は、LANの構築とLAN間接続という王道にもどることが必要ではないでしょうか。また、これからは光ファイバーの時代になると同時に、無線の時代にもなります。とくに地域のネットワークでは、無線の活用をはかることも大切だと思います。
自治体は発想の転換が必要です。民間の企業では、すぐに対応しきれないくらい現在のニーズが強いからこそ、自治体も支援が必要だという発想に立とうではありませんか。地域に需要がないので、民間の通信企業はきてくれないのではないのです。とても即時の全国的対応がしきれなくて苦労しているのです。しかしやがて民間企業は必ずやって来るでしょう。ユーザーも、今よりもずっと多額の支出を苦にしなくなる。今は、その相場がわかっていないだけのことです。多くの家庭は、英会話の家庭教師や子供の家庭教師には、一時間3000円、5000円を平気で払っている。車には月々10万くらいかけているはずです。通話料金の高い携帯電話も飛ぶように売れ、あっという間に普及率が10% を超えてしまいました。
遅れの克服、後進性の脱却という視点も捨てましょう。先発・後発の差は、ほんのわずかなものにすぎません。皆同じ立場、出発点に並んでいると考えて差し支えありません。多少の先発の利点など、あっという間に失われてしまいます。そもそも、発達したLANのシステムと専用線のネットワークをもっている地域など、まだどこにもないのです。都市対農村とか東京対地方といった分け方も、この情報通信革命の前には、意味を失いました。新しい通信回線の敷設が困難な東京は、大きなマイナスのハンディを抱えています。人々は、リゾート居住や在宅勤務、在宅ビジネスの可能性を真剣に追求し始めています。そこに無限の需要が爆発的に発生しているのです。そこに新しいビジネス・チャンスや雇用チャンスが開けています。今緊急に必要なのは、それにどう対応していくのか、圧倒的な供給不足をどう解消していくのか、行政はそれをどう支援していくのか、といった観点です。行政による民業の圧迫どころではない。供給のボトルネックを打開するために、せめて行政がしばらく前面に出ているといった観点が必要なのです。だからこそ、今出している補助金も、いずれは不必要になる−−民間企業の肩代わりによって、あるいは価格・費用の急激な低下によって−−という見通しは、決して誤っていないと思います。
それぞれの情報通信事業では、赤字(資金不足) につぐ赤字が当面の常態になるでしょう。それは、需要が不足なためでなく、爆発する需要に対応した投資を先行させる必要があるからです。現在の収入では、現在必要な投資を到底賄うにたりないのです。アメリカの場合、事前投資をどんどん続けながら赤字赤字で操業して、黒字になりかかると企業を高い値段で売り払って創業者利得を得るのが、この業界の通常のやり方だと言われていますが、日本にも同じことがあてはまるのではないでしょうか。
今日の情報通信産業の要は、それがサービス産業であることを自覚しなければなりません。単なるハードやソフト、あるいはネットワーク接続権を売っているのではないのです。たとえば、コンピューターや周辺機器あるいは各種のアプリケーションの使い方、ネットワークの管理や活用の仕方、コンテンツの作り方等々について、ユーザーはさまざまな手引きを求めています。質問に答えてもらいたいと思っています。アフターサービスを有料にしようとすると、いっぺんにモノが売れなくなると言われますが、それは、モノとセットにしてサービスを売ろうとするからではないでしょうか。モノからは独立に、つまりどんなハードやソフトをもっていようと、それとは別に質問に答える、個別の相談に応ずるというシステムができていれば、そのために喜んでお金を払おうとする人は、いくらでもいるのではないでしょうか。いや、今のユーザーはまさにそのようなサービスを求めているのではないでしょうか。
その上で、しかし民間企業には依然として十分カバーできないサービス分野もあると考えてはどうでしょう。たとえば、米国の公共図書館的なサービスの分野はその一つです。インターネット接続サービスの提供や、利用相談に応ずるキオスクなども、民間の営利事業というよりは、自治体あるいは非営利法人の事業として展開していく方がいいのかもしれません。そのような可能性も、これから探っていっていただきたいと思います。