96年度著作へ

1996年12月4日

「高度情報通信基盤構築の当面の戦略目標 」

日経ビジネス「視点」

公文俊平

1996 年は、大手の通信企業が「21世紀のための真にグローバルなインフラ」 (ビント・サーフ) であるインターネットへの接続サービスの提供に、本格的に乗り出した年となった。

米国のAT&Tは、今年の初めに、自社の長距離顧客に対して、一年間のインターネット無料接続サービスの提供を約束したことで、一気にインターネット接続サービス提供業者(ISP) の二番手にのし上がった。日本のNTT も、年末からインターネット型の「オープン・コンピューター・ネットワーク」サービスの提供開始を予定している。

しかし、これまでのところ、一般向けのインターネット接続サービスは、既存の電話回線による「ダイヤルアップ接続」によるものが主流だった。そのため、1)画像などの伝送速度が遅すぎる、2)電話が混雑する、といった不満が沸き起こった。とくにアメリカの場合は、市内電話料金が定額制や回数制になっているために、インターネットに長時間つなぎっぱなしにする顧客が増え、それが電話の混雑を加速するという悪循環が起こっている。もともと電話の交換機は、同時に多数の加入者が通話を試みるといった事態を想定して作られていないので、インターネット接続には向かないのである。

しかし、ここに来て、既存の通信回線を利用しつつ、しかも電話交換機を経由しないインターネットへの高速アクセス技術が、いっせいに実用化の域に入りつつある。その先頭に立っているのがCATV用の同軸ケーブルを使うケーブルモデムであり、ケーブル会社は、デジタル衛星テレビや無線ケーブルとの競争に対抗するために、インターネット高速アクセスのサービスを突破口としようとしている。衛星を使ったインターネットのコンテンツの高速配信も試みられようとしている。

とりわけ興味深いのは、XDSLと総称される、既存の電話回線を利用しながらも交換機は通さないで双方向の高速伝送を実現する一連の技術である。そのためには、回線の両端に特別な機器をとりつけるだけですむので、サービスの展開も容易だし、機器の価格も普及と共に急速に下がっていくだろう。だから、光ファイバーを電話局から加入者の自宅までひく「ファイバー・ツー・ザ・ホーム(FTTH)」の必要性は一気に遠のいたといわれている。

これらの技術はいずれも、下り方向については、一秒あたり10-30 メガビットといった高速伝送を実現しようとするもので、そこからインターネットを利用した一般大衆向けの「ビデオ・オン・ディマンド」の夢が、あらためて開こうともしている。

しかし、その期待は恐らく性急に過ぎよう。あるいは、現在すでに数百チャネルからの選択を可能にしつつあるデジタル衛星テレビの魅力には、まだまだとてもかなわないだろう。ここしばらくのインターネットの利用分野の本命は、企業や行政の業務の生産性向上のための「イントラネット」と一体になった利用ではないだろうか。

もちろんそのためにも、インターネットへの高速アクセスはやはり必要である。しかし、それはまだ10-30 メガもの速度は必要ないだろう。恐らく数百キロから数メガで十分ではないか。そうだとすると、XDSLの魅力はさらに大きくなる。回線が長くなると伝送速度が落ちることをそれほど心配しなくてもよくなるからである。

日本は、64-128キロの速度を実現するISDNの展開では、世界に先駆けた。FTTHの技術でも、最先端を走っているという。だが問題はその中間にある。インターネット用新市内網の構築と、それを補完する既存回線による高速アクセス・サービスの展開を組み合わせた形で、2000年までに、数百キロから数メガでのインターネットへの常時アクセスを全国的に保証すること、これを日本の高度情報通信基盤の当面の構築目標にしてもらいたいと思う。