97年度著作へ

1997年9月29日

「WorldCom社の経営戦略 」

日本電子計算機 掲載

公文俊平

私が勤務している国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(グローコム)では、数年前から「智業=企業協働プログラム」と称して私どもと会員企業の方々との間の共同研究会を開いている。今年は、(1 )情報通信新時代、(2 )電子商取引、(3 )複雑系の理論と社会科学という三つのテーマのもとに研究会シリーズを組んでいるのだが、つい先日、情報通信新時代のグループで、ワールドコム・ジャパンの池内社長から、同社の経営戦略についてお話を伺う機会があり、強い感銘を受けたので、今回はそれについて若干のコメントをしてみたい。

前回紹介したハント前FCC委員長の演説の中に、「現在の長距離会社対地域会社の間の競争は、実はインターネットを構築しようとする会社とその他の会社との間の争いだ」という言葉があったことを、ご記憶だろうか。「新種(new breed )の通信会社」とも呼ばれるワールド・コム社は、単なる長距離会社ではなく、まさにインターネットを構築しようとする会社の代表的な存在なのである。

同社は、全米第四位の長距離(かつ国際)電話会社としてのワールドコム本体と、既存の地域電話会社をバイパスする光ファイバー網を市内に敷設してきたMFS社と、インターネット・サービス・プロバイダー最大手のUUNet社とから構成されている。その経営戦略の特徴は、グローバルに活躍する企業のビジネス上の通信需要にこたえるべく、自前の光ファイバー回線網をグローバルに(もちろん海底や市内にも)張り巡らせて、「エンド・トゥー・エンド」のサービスを企業に提供しているところにある。それも電話だけでなく、インターネット接続サービスの提供をとくに重視している。中でも、当面はインターネットでのFAX通信に大きな需要が出てくると見て、この分野のサービスを拡大する態勢を整えている。

私は、ワールドコム社が、グローバルに活躍する企業の通信需要にこたえるのをその経営戦略の中心に据えていること、しかもそこでインターネットを重視している事に、特に興味を引かれた。通信需要が当面もっとも急速に拡大するのがまさにこの分野である事は、いまやほとんど疑問の余地がない。しかも、それは同時に、一種の「クリーム・スキミング」戦略でもある。急速な成長を続けている同社ではあるが、他の世界的な通信会社に匹敵する巨大化は、志向していないのだという。むしろ、(恐らくはエンド・トゥー・エンドの一体型サービスの規模の経済が限界に到達するあたりで)後は相互接続に切り替えるのだという。インターネットの分野でも、MFS社が開発してきた商用相互接続サービス(IX)を、今後も強化していく方針をとっているそうだ。

確かに、取り引きの相手を比較的少数のグローバル企業に絞って、それに対しては高速幹線網と市内アクセス網の両方をもったエンド・トゥー・エンドのサービスをワンストップ・ショッピングで提供していこうという戦略は、将来的にはそれらの企業の「イントラ/イクストラネット」部分のサービスを担当する事にもつながり、小回りも利かなければ、電話の呪縛からもなかなか自由になれない巨大電話会社との競争戦略としては高い合理性を持っているといえるだろう。しかもサービスの体系が閉じているのではなく、相互接続の形で外部にも開かれているとすれば、なおさらである。

もちろんワールドコム社一社でこのような対グローバル企業サービスのすべてをまかないきれるはずはないとすれば、他にも同様な戦略を取る会社がいくつも出現して、競争・共存する可能性は大きいだろう。例えば、国際通信の分野にこれから進出するNTTなどは、まさに同じような戦略を採用すべきであって、同時にこれまで国内でのインターネット接続サービスとして展開されてきたOCNにも、このような観点からの新しい位置づけと再編成が望まれるように思う。

しかし、問題はそれだけで十分かである。ワールドコム的なグローバル戦略だけが、情報通信新時代の戦略のすべてであるとすれば、高度な情報通信サービス、とりわけインターネットへの高速アクセスをめぐる、大きな企業間格差、あるいは地域間格差が、少なくとも当分の間、発生し拡大しつづける事はほとんど不可避だろう。上に見たようなエンド・トゥー・エンドのサービスの「エンド」の存在する部分は、一部の大都市の一部の地域に当面は限定されざるを得ないと思われるからである。

そうだとすれば、そして、全国すべての地域に、地域内および地域間の高速・広帯域通信サービスへの業務上および生活上のニーズが、可能性としては大きいのだとすれば、それに正面からこたえるための戦略や主体も、また必要とされることは明らかである。私どもが提唱しているCANのコンセプトはまさにそこに焦点を合わせたものである。恐らく全体としての情報化は、ワールドコム的なグローバルな戦略と、私どものいうCANの構築・運用をめざす戦略とが互いに補完的に展開されていく中で、初めて円滑に進みうるのではないだろうか。

NTTの新長距離会社と地域会社には、この意味での分業をぜひ期待したい。