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1997年12月2日

「今こそCANの構築を」

産業経済新聞「正論」97年12月2日

公文俊平

難航の果てにようやく実現した米国の電気通信法改正から、もう一年半以上たった。この間に、少なくとも三つのことが明らかになったと思う。

その第一は、「グローバリゼーション」の呼び声の高さにもかかわらず、情報通信の分野に関する限り、現在の規模の面でも今後の成長力の面でも他を絶しているのは国内市場、なかんづく米国の国内市場だという事実である。電話の市場規模で見ても、国内対国際の比率は、二十対一という圧倒的な違いがある。だから、世界の情報通信企業にとっての最大の挑戦は、米国市場にどう参入するかである。

その第二は、今日の情報通信革命を主導しているのはインターネットだという事実である。第二期の米国民主党政権は、自国の未来をインターネットに賭ける決心をしたようだ。「インターネット」という言葉は、今やそれ自体が国際標準となり、20世紀の国際社会で「民主主義」や「自由」という言葉がもったのと似た政治的な含意を、急速にもち始めている。その具体的な内容がなんであれ、「インターネット」に原則的に賛成か反対かで政治的な敵味方の区分がなされかねないのであている。それを最も痛切に感じさせられたのは、当初インターネットに否定的な姿勢をとったシンガポールであった。米国は、「次世代」の情報通信システムに対しても、これを「インターネット」と呼ぶ姿勢を取っている。「インターネットなど、何十年も前の技術に依拠した原始的なシステムで、とうてい使い物にはならない。やがてもっと新しい高度なシステムに取って代わられることは必定だ」という見方は、技術的にはともかく政治的には問題があるといわざるをえない。

その第三は、インターネットの当面の主要な応用分野は、業務利用にあるという事実である。これまでのマスメディアの延長線上にある「双方向テレビ」や、インターネットを利用した大衆的な広告や販売の市場の爆発的拡大への期待、あるいは20世紀の家電製品のイメージをそのまま近未来に投影した「情報家電」のビジョンなどはいずれも、現在が新産業革命の「突破」段階にあることを的確に理解しえなかったためにおかされた過ちであった。現在のパソコンが情報家電に進化し終えるまでには、まだまだ何十年もの時間がかかるだろう。今しなければならないのは、企業や政府、病院や学校、あるいは多種多様な市民団体が、日々の業務の生産性を革命的に向上させるための強力な手段としてインターネットを利用することである。そのためにも早急に必要なのは、高速で安価な通信インフラであり、使いやすくて安全なアプリケーションであり、それらを活用可能にするための組織や制度の改革なのである。

このような新しい流れの先頭を走っているのが米国のワールドコム社である。「新種」の情報通信企業といわれる同社は、新市内網を供給するMFS社やインターネット大手のUUNet社を買収したばかりか、さらに全米第二位の長距離電話会社であるMCI社まで買収しようとしている。同社の照準は、米国を拠点とする企業のデータ通信向けサービスに合わされているといってよいだろう。

日本の情報通信企業にも、米国市場に参入する一方で、米国に次ぐ経済大国日本に巨大な国内市場を創出し拡大するための真剣な試みに取り組んでほしいと思う。それにはワールドコム社の行き方に追随するのも一つの方策であろうが、相対的に小さな国土に、同質性の高い住民が高密度で居住している日本の場合は、より抜本的な試みが可能でも必要でもあるのではないか。

私どもはそれをCAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)の構築と呼んでいる。CANは、未来の情報社会の基本単位となる地域のコミュニティであって、全員が加入可能な、高速で安価なインターネット型の情報通信基盤をもつ。具体的には、地域のいたるところの情報通信機器を、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)として局地的にまず結び付ける。そしてそれらのLANを有線や無線で互いに連結する。更に、地域内にループ状あるいはメッシュ状に引かれた光ファイバー市内幹線にそれらをつなげるのである。

この基盤の上に、誰でも容易に使える日常の生活・業務用の各種のアプリケーションが乗り、積極的に活用されている。さらに、それらの保守や更新の、あるいは日々の利用にかかわるさまざまな助言や指導の、サービスを行う商用およびボランティアーの組織が全体を支援している。これがCANの基本的イメージである。

CANの構築や運用を主導する主体(あるいは主体の組み合わせ)は、各地域の条件に応じて、自治体主導、企業あるいは市民主導など、多様でありうる。利用する回線やネットワーク技術も、また具体的な利用の仕方も、これまた多様でありうる。全国各地域が互いに交流し協働しながら、それぞれの地域にCANを一日も早く構築していくことで現在の閉塞状況からの突破をはかる、これが私どもの夢である。私どもは、この夢を実現するためのフォーラム をこのほど結成し、活動に入ったところである。