1997年12月08日
公文俊平
最近、パソコンのことでどうも頭を悩ますことが多い。これから何回か、それについて書いてみたい。読者のご批判やご助言がえられれば幸いである。
私のパソコン/ワープロ歴は、多分かなり長い方だと思う。ワープロはオアシスの親指シフト、パソコンはマックという組み合わせで、1980年代の初期からやってきた。しかし、いつまでたっても初級ユーザーの域を出られないでいる。それでも何とかパソコン/ワープロをどんどん仕事に使ってこられたのは、初歩的な質問に親切に答えてくれる知人や同僚が周りにいたし、今もいてくれるおかげである。それなしには、途中で挫折していたかもしれない。何しろ、いまでも毎日のようにわけのわからない事態に出くわし、研究所の同僚を連日質問攻めにしている。そうでないと、資料が引き出せなくなったり、原稿の印刷や発送ができなくなったりして、たちまち仕事がストップしてしまうのである。
そうかと思うと、私のような初級者にまで、電子メールなどで質問してくる友人がいるところを見ると、パソコンは買ったものの、使い方やつなぎ方が分らなくて、しかも誰にどう質問していいか途方に暮れている人は、決して少なくないに違いない。それなりの料金を払って、安心して質問したり、助言を受けたり、場合によっては出張指導したりしてくれるメーカー横断的な組織があるといいのにとつくづく思う。
ともあれ、まず私のパソコン/ワープロ歴自体の話から始めよう。オアシスとマックからスタートした私は、ワープロ専用機からパソコンへの転換が進んだり、マックの退潮とウィンテルの台頭が日増しに顕著になる潮流の中で、何とか流れに乗り遅れないようにしたいと努力してきた。オアシスは、やがてパソコンにもソフト的に載るようになった。最初、ウィンドウズ・マシンである富士通の「デスクパワー」にオアシス・ワープロが別にくっついている形の機種(デスクパワーDC)が発売された時に、ワープロ専用機からそちらに移る決心をした。(しかし、今でも、一部の専用機についていたA4一ページが全部いっぺんに見える縦長のモニターや、数百ペ−ジの文書が自由に編集できる「構造化文書」機能がなつかしい。)デスクパワーDCは、三代目になったところで、ウィンドウズ95とオアシスのほぼ完全な合体が行われ、オアシスはパソコン上のワープロ・ソフトの一つといった感じで使えるようになった。(しかし、まだファイルの体系は別になっている。)
他方、パソコンの方は、長年マックのお世話になってきたとはいえ、このままではジリ貧になるという感を免れず、かなり悩んだ挙げ句、二年前にウィンドウズに乗り換える決心をした。私は今、自宅のデスクトップとしては、マックのPowerPCと、前記のデスクパワーDCを、同じモニターを切り替えながら使っている。最初に初代のDCが来た時、同じモニターでありながら、ウィンドウズの場合の色合いの鮮明さと美しさに息を呑んだことを覚えている。この二年の間に、両者の利用の割合ではウィンドウズの比重が次第に増していき、今や圧倒的にウィンドウズで仕事をする毎日である。オフィスでも、マックはほとんど使わなくなった。代わりに、同じDCでもこちらはノート型のBIBLO−DCが活躍している。
目下の最大の問題は、オフィス内の各人のスケジュール調整やアドレス管理である。とくに私の場合、スケジュール管理やメールの第一次処理は秘書に任せてあるので、そちらのデータとの同期を取るのが大問題になる。私がうっかりしていて、予定を忘れてしまったり、勝手に予定を入れてコンフリクトが起こったりしてしまうことが、よく起こるのである。これを、マイクロソフトの「オフィス」で何とかしようとして悪戦苦闘している話は次回に回すとして、今回は、モバイル機器をどう使っているかをまず書いておこう。
私の場合、携帯用には、ザウルスとオアシス・ポケットという組合せを10年近く続けた後、一昨年に、ザウルスをHP200LXに乗り換えた。( ポケットに入らないことと、キーボードが小さすぎることを除けば、これは本当にいい機械だった。パソコンのデータとの相互転換もある程度できたし、なにより瞬時に立ち上がるのが有り難かった。しかし、最初の二つの難点にはなかなかつらいものがあった。)
オアシス・ポケットの方は、会議の記録や原稿書きには実に重宝したが、PIM機能はあまり有用ではなかった。遅いし、立ち上がりまでに時間がかかりすぎるのである。(だからザウルスやHPで補完せざるをえなかった。)もちろんインターネットにも繋がらないということで、本格的に通信ができ、パソコンとも連動できる後継機の登場を久しく待っていた。その間ん、IBMのパームトップ110、東芝のリブレット30、それから富士通のインタートップなどを次々に使ってみたが、どれも外の明るいところでは画面が見えなくなるとか、キーボードが小さすぎるとか、バッテリーがすぐ切れるとかの難点があって、結局定着しなかった。そこへウィンドウズとも互換性があり、パソコンとのデータの同期や長時間の使用が可能という触れ込みのウィンドウズCEが登場したので、早速カシオペアを買ってみたが、字が小さいし、ウィンドウズとの互換性は低いし、キーボードはインタートップやリブレットに比べてさらに小さいしということで、これまた悩んだ。キーボードだけで言えば、私は何としてもオアシス・ポケットやモバイル・ギアなみの大きさが欲しいのである。会議の記録を半分速記のように取ろうとすると、小さなキーボードではどうしようもない。(それから、親指シフトが使えると使えないとでは、私の場合仕事の能率がまるで違ってくる。)ところが、ウィンドウズCEは、マイクロソフト社が大きなキーボード仕様の採用を許さないという。これには呆れてしまった。しかもそのうちに、カシオペアのPIMと同期を取っていたデスクトップの方が、なぜかめちゃめちゃになってしまったので、これも使うのを止めた。
結局、携帯用にはウィンドウズ・マシンの軽いものということで、いろいろ調べた挙げ句、この十月にレッツノートのサブノート(ALN2−T516)を購入した。( 親指シフトキーの問題は、親指Qというソフトでとりあえず解決した。レッツノートはスペースキーが比較的小さいので、親指シフトへの転換がまずまず問題なくできるのである。)このマシンは、とても気に入ったのだが、やはりいささか重い( バッテリーを二つ入れると1.5 キロを超えてしまうし、 さらにACアダプターも常時携帯するとなると、もっと重くなる)のと、バーテリーの持続時間が短いこと(飛行機の中や会議などで本格的に使おうとすると、最低6時間は欲しい。その点、オアシス・ポケットは楽だった)、それに瞬時に立ち上がらないのでスケジュールや電話番号のチェックにはやはり不向きだ、などとまたまた悩んでいたところへ、大容量バッテリーなら8時間の連続使用が可能というレッツノートのミニが出た。サブノートを買ったばかりなのにと恨めしかったが、仕事の能率には代えられないと、思い切ってそちらに乗り換えることにした。使ってみると、CPUの速度の遅さ(サブノートの133に対し、こちらは120MHz)が気にはなるものの、まずまず使える。何より、長時間使えるというのが嬉しい(ただし、まだ実は大容量バッテリーは発売されていない)。キーボード(ピッチ15ミリ)もぎりぎり我慢できる。しかし、立ち上がり時間を考えると、やっぱりこれだけというわけには行かない。ポケットに入り、しかもPIMが完璧に同期できるものが欲しい。そこで新発売のカシオのカレイドに飛びついたのだが、いざ使ってみるとこのPIM機能はいかにも使い勝手が悪い。しかも同期を取るための「シンクロステーション」は、本体が発売された一ヶ月ほど後でないと出ないという。これでは話にならない。そこで、あらためていろいろ比べてみた挙げ句、シャープの新しいPCwiz(PA−Z900)をレッツノート・ミニと併用することにした。使ってみると、この機械がもっている「インテリシンク」という同期機能は、とてもすばらしい。レッツノートで私が使っているPIMのマイクロソフト・アウトルックとも問題なく同期が取れる(やや時間がかかるのが難といえば難だが)のも有り難い。もちろんPIM自体の性能も悪くないばかりか、ザウルスやカレイドよりもさらに軽くて小さいので、気軽に上着の内ポケットに入れておける。(Yシャツだと、さすがにいささかかさばる。)いずれにせよ、携帯用ノート型と併用するのであれば、ザウルスほどの機能は必要なく、これで十分である。多分、しばらくはこの組み合わせでいけるのではないかと思っている。各種の個人用データは、インタートップからアウトルックを経由し、インテリシンクの同期機能で、無事にPCwizにも移った。
それにつけても思うのだが、メーカーはどうして「売り物」であるはずの周辺機器や付属品の発売を後回しにするのだろう。というか、なぜ本体だけをともかく急いで市場に出そうとするのだろう。レッツノート・ミニの場合も、非常に有力な売りは、大容量バッテリーをつけても1.3 キロにしかならず、しかも8時間使えるという点なのに、肝心の大容量バッテリーはまだ入手できない。販売店で聞いてみても、何時になったら出るのか分らないと言う始末である。これでは情けない限りである。
もう一つは、パソコン雑誌で華々しく書き立てている性能比較とか、ライバルの対決といった記事の内容である。本当に使ってみた上で書いているのかと首を傾げたくなることが多すぎる。たとえば、カシオのカレイドの場合、シャープのザウルスに対抗しうるほどの豊富な機能をもつ機種で、しかも値段は半分に近いという紹介がさる雑誌にあって、私は飛びついてしまったのだが、実際に使い始めてみると、たちまち自分の粗忽さを後悔する羽目になった。たとえば、カレイドのPIM機能では、週の初めを日曜にするか月曜にするかの選択ができないとか、土曜日をいっぺんに休日に設定できないとか、定期的な予定の一括入力ができないとか、これまで使っていたザウルスやHPLXに比べると、どうにも信じがたいほどのお粗末さなのである。しかも、私がいつも行く渋谷のビックカメラでは、これが人気ナンバーワンとなっている。ということは、私の注文がピント外れなのだろうか(たとえば、液晶画面の大きさや解像度の良さが主たる魅力になっているのかもしれない)。
ちなみに、畏友デービッド・ファーバー(ペンシルバニア大学教授)は、この二年ほど携帯用にはリブレットとパーム・パイロットの組み合わせを愛用していた。(あの大きな身体と指でどうやってリブレットで入力するのかと心配だったが、多くのアメリカ人がそうしているように、二本指ですばやく入力できるのであれば、別に問題はないのかもしれない。)ところが、先月来日した折には、「今度はパームトップはやめてこれにしたよ」といって、名刺くらいのカードを見せてくれた。これにPIMデータをパソコンから転記するのだという。直接の入力はどうするのかと尋ねたら、ちょっと照れたような顔をして、「いやそれは紙に書くことにした。家に帰ってからパソコンに入れるんだ」と答えた。なるほど、紙片がカードケースに挟んであった。案外それはそれで合理的なやり方かもしれない。