国としての西暦2000年問題危機管理計画策定に対する提言

―――危機管理体制と対応すべき7つの危機―――

1999年7月27日

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
2000年問題研究会 ワーキング・グループ(注1)

はじめに

 現在、政府は公共機関・民間企業に対して西暦2000年問題のための危機管理計画の策定を呼びかけ、1999年4月には企業のための、5月には地方公共団体のための「危機管理計画策定の手引き」を発表し、各省庁も危機管理計画の策定に着手している。

 ここで進められている危機管理計画は、主に西暦2000年問題にあたって各企業・機関・組織・団体などが、いわゆる危険日に自身の業務を継続させるためのリスク軽減策であって、通常コンティンジェンシー・プランと呼ばれるものである。この危機管理計画策定を広く徹底することは、社会総体の被害を極小化するために、極めて重要なものである。

 しかしながら、このような危機管理計画をいかに徹底しても、対策漏れや対応ミス等による社会インフラ・ライフラインの機能低下・停止、さらには被害連鎖等によって引き起こされる重大事態発生の可能性は、決してゼロとはならない。

 したがって、国民の生命・財産を守るため、業務継続を目的としたコンティンジェンシー・プランとは別個の、最悪の事態への対応も含めた国レベルでの総合的な危機管理計画の策定が政府には求められている。

 今回の西暦2000年問題は、同時多発的に、日本全土、世界規模で発生する恐れがあるという特徴を持っており、従来の災害のようにある特定の地域に限定して起きるものではなく、さらに海外からの影響も考えられるため、個別企業、個別自治体では十分な対処が不可能であるという側面を持っている。この意味からも、国としての危機管理計画が必要であると考えられる。

 以上の観点から、政府部内で既に検討されている項目もあると承知するが、我が国の国としての危機管理計画策定について以下の提言を行う。

提言1 日本国としての危機管理体制づくり

@西暦2000年問題の危機管理は、各省庁にまたがる総合的な対応が必要な案件であるため、国として一元管理を行う「西暦2000年問題対策本部」を早急に設置した上で、「国としての西暦2000年問題危機管理計画」を策定する必要がある。なお、右対策本部については、内閣総理大臣が本部長となり、内閣官房長官が責任を持ってその組織化を行い、内閣危機管理監がこれを補佐することが肝要と思われる。また、臨時に「西暦2000年問題担当大臣」を任命することも考え得る。

A これと並行して、「国としての西暦2000年問題危機管理計画」に基づいて災害対策基本法等の見直しを早急に行う必要がある。すなわち、西暦2000年問題を「社会システム災害」として災害対策基本法の対象となる「災害」に政令指定し、遅くとも1999年9月までに「防災基本計画」の一部変更を行い、10月までに指定行政機関(政府全省庁)及び指定公共機関(日銀、日本赤十字、電力・鉄道・通信会社等の37機関)がそれぞれ「防災業務計画」を改定し、自治体が「地域防災計画」を改定する必要がある。(注2)

B 以上を実施し、遅くとも1999年11月までには、国レベルでの西暦2000年問題対応訓練等を行う必要がある。

提言2 国が対応すべき7つの危機とその対策

 現在各省庁で様々なリスク軽減策が実行されているが、国としての危機管理の観点から更に取組みが必要と思われるものを以下に挙げた。

 これらを実施するにあたっては、各省庁の所管に任せるのみではなく、国として総合的に一元管理し、迅速な意思決定を行う必要がある。

(対策の詳細については別表を参照のこと)

危機@ 情報の不足による国民の過剰反応

 対策:西暦2000年問題発生前後の、情報の不足・誤った情報による国民の過剰反応(パニック)を抑制するため、政府は、適宜各方面の関係情報を最大限国民に対し提供し、同時に、今回の問題にあたって国民がとるべき行動指針を提示する必要がある。

危機A 救助・復旧等共同作業の混乱

 対策:西暦2000年問題発生に際して、自衛隊、消防、警察、ライフライン事業者、病院等が、緊密な協力体制を構築し、救助・復旧等共同作業における関係部局間の混乱を防ぎ、作業の効率化を図ることができるような、情報の共有を行うための情報通信ネットワークの構築が必要である。(注3)

危機B 輸入原材料・エネルギー・食糧等の不足

 対策:西暦2000年問題に起因した、海外での港湾設備等のトラブルによる諸外国からの原材料・エネルギー・食糧等の輸入停滞や遅延に対処するため、国内備蓄の速やかな提供を保証するとともに、輸出入につき当該国に対する事前調査および相互保証等の協議を行う必要がある。

危機C 海外でのトラブル

 対策:西暦2000年問題による混乱時の外交ルートの確保、在留邦人の保護、その他関連する対策を事前に検討するとともに、海外に向けて随時我が国の西暦2000年問題発生状況を的確に発信する必要がある。

危機D 社会的混乱

 対策:西暦2000年問題に伴う騒乱・犯罪を想定して対応策を講じるとともに、買い占めや個人備蓄の増加による一時的物不足や物価高騰に対してもその対応策を検討する必要がある。

危機E 内外勢力からの破壊活動

 対策:社会の混乱に乗じた内外勢力からの破壊活動(暴動・サイバーテロ等も含む)を想定し、その対策を講じる必要がある。

危機F 訴訟の乱発

 対策:損害賠償訴訟や株主代表訴訟等の多発への対処、海外における日本企業を標的とした訴訟対策を検討する必要がある。

 

(注1)危機管理計画ワーキング・グループのメンバーは以下の通り。なお各メンバーは、本ワーキング・グループには個人として参加しているものであり、所属組織等を代表するものではない。

主 査:公文俊平  国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)所長

副主査:舛添要一  GLOCOM教授

委 員:浜口 勤  社会インターフェイス研究所 代表

    丸田 一  株式会社 三和総合研究所 研究開発第1部主任研究員

    指田朝久  東京海上リスクコンサルティング株式会社 第二事業部主席研究員

    桐井賢一  GLOCOM客員研究員  

    武藤吉昭  GLOCOM客員研究員

    山内康英  GLOCOM研究・教育部長

        その他5名

幹事役:原田 泉  日本電気株式会社 産業政策企画室担当部長

(注2)1999年3月国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)「2000年問題研究会」作成の「2000年問題と日本の法制度:現状と対応」参照。

(注3)当該情報通信ネットワークには以下のような機能が必要と思われる。

@ 電力、電話網がダウンした場合にも機能する無線システム

A 日本全土をカバーできる広域性

B サイバーテロ等からフリーな閉じたネットワーク(暗号利用も含む)

C 西暦2000年問題以降の、他の大規模災害等の際にも利用できる汎用性

D 自衛隊、警察、消防等の現場での、可能な限りの横断的情報交流の実現

E 動画等も伝送可能な大容量伝送システム

以上


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