
青柳でございます。本日は大変良い機会を頂きまして、有り難うございました。2000年問題は、すでに「問題」の段階を越えて、「危機」の段階に至っていると考えますので表題を「2000年危機」とした次第です。

国際大学というのは、多分皆様はご存知ないと思いますので、ちょっとご紹介させてください。1982年に日本で初めてできた大学院専門の大学で、財界総掛かりで設立されました。現在、学生の約70%は海外からの留学生です。全部英語で授業・論文指導をいたしまして、修士号を出しております。
その中の私が属しているグローバルコミニケーション・センター、略称グローコムは、1991年に興銀の中山素平特別顧問のリーダーシップのもとに設立されました。初代所長が村上泰亮先生、現在は二代目の公文俊平所長です。この研究所は、公文所長の方針により、「誰も読まない論文を書いていても駄目、学問的にもレベルが高くて経済界、産業界に実際に役に立つ研究をしてどんどん提言しろ」という方針のもとに運営されております。
Publish or perish、あるいは Propose and dieというわけです。そういう方針の元に毎年重点テーマを決めて研究活動をやっておりますが、今年はY2K問題が日本の経済界、産業界にとって最大の問題であるとの認識から、グローコム所員一同が一丸となってこの問題にあたることにしております。
グローコムの中でも公文所長が委員長、舛添要一先生と山内教授が副委員長になりまして毎週研究会をやっております。現在までに半導体メーカー、原子力関係者、電力関係者、電機メーカー、警察、保険会社関係、運輸、弁護士、そういう方を毎回お越しいただいて、一緒になって研究会をやっております。その結果だんだんいろんなことが解ってきました。日本はなかなかよくやっているという面と、全然駄目だなという面と、両方あります。今日は大変いい機会でありますので、それをお話しさせていただきたいと思います。

本日はご覧の通りの順に話をさせていただきます。
実は昨年の夏頃でしたか、公文所長が小渕総理にお会いして2000年問題について日本はもっと真剣に対応をしなければいけないとの進言を申し上げました。その後の総理の動き方は大変素早くて、9月には政府の行動計画が発表され、内閣の高度情報通信社会推進本部の中に作られた2000年問題顧問会議等で対策が進められています。

(注:その後、同ガートナー・グループによる1998年12月現在における調査結果が1999年3月に発表された。それによると日本は1ランク上がってグループ2に位置づけられている。)

日本では本件に関しては驚くほどの無関心と楽観論が充満しております。情報も不足です。国際レベルは最低レベルではないけれども、中の下です。具体的にいいますと、日本企業の半分に少なくとも一つのミッションクリティカルなシステム故障が発生するだろう、というレベルにランクされています。全企業に50%の確率で起こるといっても良いでしょう。これがグループ3の意味です。
システム故障が発生すると修復は短期間ではできない、コストもかかる、基本業務の遂行に支障をきたす、たとえば操業休止、工場閉鎖、出荷停止、そういう深刻な事態が起こるというわけですから、大変なことです。おまけに現代はネットワーク社会ですから問題は自社のみに止まらない。関連取引先にも多大な迷惑をかけことになります。これは昨年9月のガートナーグループの推計でございますので、現在に至るまではだいぶ好転はしておりますけれども、それでも日本の国際レベルは中の下という総体的なところは残念ながらまだ動いてはいないと思います。
米国はたまりかねて、昨年の9月にはジョン・コスネキン特使を派遣してきました。日本国内の対応を何とかするだけでなく、日本は色々な電気製品などを海外に輸出しているわけですから、その輸出した製品も何とか面倒を見て欲しいということを言って帰りました。

日本も、それなりに努力をしているのですが私どもが調べたところによりますと間違いだらけの対応姿勢が非常に多いと思います。今日はこの対応姿勢の問題を含めまして、お話をさせていただきたいと思っております。

まず、2000年問題は2000年1月1日0時0分に起こるというのが一般的な理解でございます。しかし、それしかないと思っていると、とんでもない、ここに書いてある実例の通り沢山の問題があるのです。
例えば上から3番目の例をご覧下さい。カーナビゲーターの一部に問題が発生します。これは人工衛星を利用したGPS(Global
Positioning System)の週管理システムに二進法の10桁しかとっていなかったことに由来します。1980年1月6日をスタートとして2の10乗すなわち1024週間分までしかスペースを取っていません。したがい今年の8月21日で10桁全部が1になってしまい、翌22日には10桁全部が0にもどってしまうわけです。するとシステムは、1999年8月22日をシステム・スタート日の1980年1月6日と認識してしまうのです。2000年問題そのものではありませんが、時系列表現システムの齟齬という点では同種の問題であります。
上から5番目に書いてある例が、いわゆる2000年問題です。2000年1月1日0時0分の時に年号の下2桁を1900年と認識してしまうわけです。
さらにその2つ下、7番目の例をご覧下さい。2000年というのは閏年なんですね。ご承知の通り4で割り切れる年は閏年ですが、それですと少し日数が多すぎてしまいます。そこで100で割り切れる年は例外的に閏年ではないとして、調節しています。しかし、そうすると今度はわずかですが少なくなり過ぎますので400で割れる年は100で割れるけれども閏年にするということにしています。そこで2000年は100で割り切れるにもかかわらず閏年にしているわけですね。2000年の1月1日を偶々うまくパスしたシステムでも、ここでひっかかる危険性があります。2000年まで使われるということを意識してプログラムを組んでいないと、駄目ですね。
従って、ハードウエアとソフトウエアを直すにしても、2000年1月1日部分だけを直せばいいということではありません。ここにリストしてあるケースに全部対応できるように直さなければいけないわけです。しかもデータベースに持っているデータも直さなければいけない。おまけに、その直し方が標準化されていませんから、みんなてんでんばらばらな方法で直しているわけです。その不統一なデータがネットワークの上で流通するという事になると各所で不具合を起こして面倒な事になります。これが現状です。

ソフトについての対応はこういう面倒な仕事であるにもかかわらず、「ソフト業界は不景気だから、技術者がいつでも対応してくれる」と、甘く考えておられる方が非常に多いのです。ところがそうはいかない。ソフト業界はどちらかというと好景気で人手不足です。プログラムを直すだけじゃなくてデータベースも直さなければいけないわけですが、こういう仕事は技術者にはおもしろくないんですね。前向きの仕事ではありませんからつまらない。ソフト会社にとってもあまり大きなお金は取れないからうま味はない。しかも既にソフト技術者は枯渇しております。情報サービス産業協会の調べによりますと、供給はこの2年間で135万人/月しかないけれども需要は150万人/月です。
それから我々がいろいろ調べてきたところによりますと、2000年問題というのはソフトウエアの問題よりはどうもハードウエアの問題の方がずっと深刻のようです。感覚的表現ですが私は個人的にはトラブル全体の深刻さを100としますと、ソフトウエア関連が20位で、ハードウエア関連が80位かな、と思っております。

これも大変大きな誤解ですが、「2000年問題というのは一過性だから、多少の不便はあるが大きな危機にはならない」という考えがあります。この問題は世界同時多発ですから、対応が大変困難です。またネットワーク社会ですから1カ所に問題が起こるとその影響は連鎖的にエスカレートしながらは広まります。
さらに日本の経済は先進諸国の中でも類を見ないほどの輸入依存型です。エネルギーに関しますと石油は99.7%が海外に依存しています。エネルギー全体でも79.9%が海外に依存しています。食糧もエネルギー換算いたしまして41%が海外に依存しています。2000年問題が深刻だと言ってもアメリカの深刻さと日本の深刻さは桁が違います。アメリカの深刻さはいろいろ問題が出ても、自給自足型の経済が可能ですから何とかなる。ところが日本の場合には極端な輸入依存型ですから、大問題になる。輸入相手国の2000年問題というのは日本自身の2000年問題と認識しなければいけません。
それから先ほどハードウエアの問題がソフトウエアの問題よりずっと大きいと申し上げましたが、それは具体的には埋め込みチップの問題であります。埋め込みチップというのは現在世界で500億から700億個ありまして、これの検査、発見が大変困難であります。
ご承知の通り電子機器類の故障を直す人は現在はエンジニアではなく、チェンジニアと呼ばれています。故障したチップが搭載されているボードを、ボードごと取り替えるだけなのでチエンジニアというわけです。しかし2000年問題でチップが故障したときには新しいボードを持ってきても同じチップが乗っているわけですから、また同じ問題が起きてしまう。修理したことにならないんですね。
2000年問題対応済のチップを乗せるか、あるいはチップを新しく開発して新規にボードを作らないと直せない。埋め込みチップの問題は、事後にしか見つからない場合が多いのです。一旦、故障したらしばらくは動かないということを覚悟しなければいけないことが多いわけです。
それでは困るので事前に検査して発見しようとするのですが海中の石油関係のリグ、宇宙にあるもの、地下施設にあるものは検査もできない。もう仕方がないから、そのまま放ったらかして駄目になったら、その時はその時だということになっているのが多いようなのです。しかし、その時はその時だといっても海中に潜っていって取り替えるなどということはそう簡単にはいきません。
鉄鋼メーカーさんはのんきなのか自信があるのか私には解らないのですが、高炉は事前に運転を止めて検査をすることはやらないそうです。つまり12月31日の晩に運転を止めて、1月1日に火入れをしてみて動くかどうかやってみるということだそうです。高炉の運転を止めるのは大変な費用がかかるのと、検査自体が大変難しいということもあると思いますが、おそらくリスクカリキュレーションの仕方に問題があるのではないかと思います。高炉というのは大変たくさんのチップが使われていて、制御システムの塊のようなシステムだそうですから、私は故障がその時点で発見されても回復はなかなか簡単にはいかないのではないかと考えております。不具合が生じても回復に要する日数は見当がつかないわけですから、費用がかかっても早めに運転を止めて検査をして、その後運転を再開して操業しながら年内に対策方法を開発すべきではないのでしょうか?
原子力発電所の問題も心配です。法律で、少しでも安全性に疑義がある場合にはいったん運転を止めて徐々にアップしていくということになっていますが、その段階でチップの問題の不具合が発見されたら、先ほど申し上げましたとおり、なかなか簡単に復旧するわけにはいかないと。
原子力発電が日本の総電力に占める割合は平均35%です。東京電力で40%です。したがって、もし日本中の原子力発電所が一斉に止まったら、大変なことになります。多分、そうはならないでしょうが、少なくともたいへんな電圧低下が起るとか、短期的には電車が動かなくなってしまうとか、そういうことは充分考えられるのではないでしょうか。
何よりも現在全ての社会、産業のメカニズムというのは巨大なネットワークでつながれているわけですから連鎖反応が恐いとおもいます。原料供給、輸送、生産、保管、営業、という連鎖の中で、たとえば一企業のベルトコンベアー一つが壊れてしまったら、ネットワーク全体が麻痺してしまうわけす。金融は麻痺してしまい経済が沈滞して、工場が閉鎖して倒産が続出するということが考えられます。
金融麻痺などは、まさかと思われるかもしれませんけれども、現在個人金融資産1200兆円、企業の金融資産が400兆円、合計1600兆円位あるというふうに言われております。個人金融資産の63.3%、つまり約760兆円が銀行の預貯金という形になっているわけですね。こういう状況の中で、2000年問題をひかえてタンス預金がどんどん増えることが懸念されるのです。タンス預金は一昨年末で55兆円だったのが昨年の暮れには60兆円になっております。
これが今年だんだん2000年問題と金融関係の問題点が指摘されてきますから、皆様が用心して預金の半分位は手元に置こうということになりますと、380兆円がタンス預金になってしまうわけですね。仮に3分の1でも約250兆円です。そんなに流通資金の余裕はありません。もうどこにもなくなってしまいます。しかし日銀がこういう混乱がおきないように紙幣を増刷しているという話は聞いたことがない。
アメリカの場合は既に国内向けには5億ドル、国外向けに2億ドル、合計7億ドルのお札を2000年問題対策として新たに刷っています。そして、こうして刷っていますよ、ということを公開しています。私は個人的には7億ドルでも足りないと思うのですが、一応かなりのお金を刷っているから心配はないということを知らしめているわけです。そうすると、皆はいざとなっても預金を下ろすことは可能だと思うから、現実にはあまり下ろさなくて済ませるという心理的な効果が出てくる訳です。
ところが日本はそういう対策を何もやっていません。タンス預金が増えますと企業間の決済資金も枯渇してきますから、経済は麻痺してしまいます。工場が閉鎖して倒産が続出することも有り得ます。こういう経済的な影響について、あるアメリカのシンクタンがどのくらいの経済的インパクトを米国経済に与えるかを試算してみました。だいたいベトナム戦争に匹敵するインパクトがあると予想しています。ベトナム戦争は何年も続いて米国経済に重大な影響を与えた出来事でしたから、もしそうだとするとたいへんなことになるわけですね。

このような大きな問題ですが、ユーザーの立場で考えてみましょう。この問題は「基本的にはシステム開発会社及び機器製造会社の責任だから、その人たちに責任を取ってもらえば良い事である」というふうに半分高をくくっていらっしゃる方があるかもしれない。しかし、現実問題として他社の責任を追及している余裕はありません。
今日は取締役の立場にいらっしゃる方が多いと思いますが、企業の事業活動維持のために必要な対応を必要な時に実行するのは、商法上の取締役の忠実義務です。仮にメーカーに対して責任追及をすることが可能である場合でも、責任を取れとか取れないとか、無料で直せとか、そういう紛争に時間をとられて対応機会を逸してしまって損害がおきますと、忠実義務違反ということになりますので株主からは損害について株主代表訴訟がおきます。保険はかかりませんから、大変な問題になります。
過日、保険会社の方に我々の研究会においで頂き大議論をやりました。保険会社としては2000年問題は偶発的な問題ではないから保険の対象にはならないと言っています。東京海上さんはネットワーク保険という保険商品を売っておられます。掛け金は高いんですが大変便利な保険です。ネットワークのどこかが故障したら、そのネットワークの故障による派生的な損害も負担するというものですが、既にこのネットワーク保険についても2000年問題は対象外という特約をはっきり結んでからでないと引き受けないということを明確に表明しています。
現在、メーカー側が一生懸命に2000年問題に関する技術情報を開示をしています。ユーザとしてもそれをよく調べて自己責任で至急対応をしなければなりません。対応を怠りますとメーカに過失があっても過失相殺となりますから、仮に後で賠償請求が成功した場合でも十分な補償は取れません。この問題に関するメーカー側の責任は必ずしも明白ではないんですね。皆様がユーザの観点から、これは製造業者あるいは納入業者のミスに決まっているから必ず補償を取れると思っていても取れないかもしれません。これは先へいって、Y2Kの法律問題というところで別途お話申し上げます。

それから、中にはソフト会社が全部調べて直してくれたからうちは対応が完了したというふうにおっしゃる中小企業の方もいらっしゃいます。これは全く間違いです。私は冒頭から、ハードウエアつまり埋め込みシステムの問題こそが危険ということを申し上げているわけですが、そのハードウエアのシステムというのはソフトウエア会社は関知しません。仮にソフト会社が全部機器を調べてくれたと言っても、そういうハードウエアの中味の問題はソフトウエア技術者には分かっていません。これは機器の納入業者、メーカー、電子機器製造業者、そういうところまで全部辿っていって個別に調べてみないと解らないのです。

ハードウエアの問題には非常に面倒な側面があります。私どもの研究会には色々な企業の2000年問題対策担当の方においで頂いて、我が社はこういう対応をしたということを発表して頂いています。もちろんその企業は、世の中の平均的なレベルよりも遙かに上の対応をきちんとおやりになっているわけですが、それでもしばしば大きな穴があるように思われるわけです。研究会でいろいろ議論をしていく中で明らかにされて、その技術者の方も「全くそういう点は考えていなかった」とおっしゃってお帰りになる方がおられるくらいです。
そのような点のひとつが「当社の埋め込みシステムには時系列対応部分はないので問題はない」という点です。九電力会社のホームページを見ますと、電力の制御系システムには時系列対応部分はないから2000年問題は関係ないと、そろって書いてあります。結果として関係はないとおっしゃるのは良いのですが、根拠として時系列対応部分はないからいわれるところが不安な点です。
ほとんどの場合、大手の半導体メーカーは汎用チップを製造販売するだけです。埋め込みチップのコード部分はソフト業者がコーディングして焼き付けている場合が多いのです。したがって本当に時系列対応をしていないかどうかはコーディング部分を見ないと解りません。ところがユーザ企業の技術者はシステムのアウトプットのセンスで、内部に時系列対応がないであろうから大丈夫だと思ってしまうことがあります。しかし、実は見えないところでシステム的に時系列対応をしているところがたくさんあるんですね。
簡単な例を言いますと、たとえば自動車のナビゲーターシステムでは地図の上に今自分がどこにいるかというのを示しているわけですから、時系列対応は関係ないように思えます。これはユーザの立場でのアウトプットからのセンスによる判断です。ところがシステム的には、複数の衛星から発信される、これは何月何日、何時何分何秒、もっと細かいところまで、どの星から発信された信号ですというのを複数受信して、それをシステムで分析して地図の上でここということを示しているわけですね。
ですから、時系列対応をしていないように見えるけれども、内部的にはしているわけです。これは前に申し上げた通り今年の8月にトラブルが生じます。さすがにこの例のような簡単な事を見落としている技術者の方はいらっしゃらないと思いますが、もっと複雑なシステムですとわかりません。
それからセンサーの問題も非常に大きいんですね。センサーというのは非常に重要な部分の安全確実な運転に関する情報を自動的に収集していますから、これが壊れるとシステム全体に対して非常に大きな影響を与えます。従って、センサー・システム自身が経年管理システムを持っていまして、ある一定の時間が経過して部品が疲弊しますとウォーニングを出して、交換要求のために自動的に停止するようになっているシステムが多くあります。こういうクリティカルな部分が2000年1月1日0時0分に世界中で一斉にばっと壊れたら、これは大変なことです。
2000年問題対応担当の技術者の方が皆様のところに報告にきて、「自社の埋め込みシステムには時系列対応部分がないので問題はない」といわれたら、「本当か、チップのコーディング部分の中身まで調べたのか」とお聞きになった方が良い。「そのレベルまで調べました」という答えが返ってくれば安心です。
一般的に申しますと、この問題に関する限り技術者のセンスをあまり信用なさらない方がいい。日本は楽観論に充ち充ちているからです。私は文科系・事務系ですが、技術者は何でも知っているように思いがちです。白衣を着ているお医者さんは、小児科から外科から内科から何まで知っているように思いがちですが、本当はそうではない。技術者も実は自分の担当分野のところはよく知っていても他の部分は殆ど知らない。自分の良く知っている分野の常識から類推してチェックしているだけなのが多いのです。

もう一つ例を挙げます。「自社のシステムには時系列部分があることはありますが、リアルタイム処理なので問題はありません」というせりふも大変よく出てくると思います。確かに通常のタイミング制御や経時処理制御の場合には、外付けの水晶発振子を使いますので日付処理は無関係のように見えます。しかし制御システムではホストと端末の間で色々な制御のための通信もやりまして、複雑な仕組みがありますので、その中に日付処理が入っている可能性があります。
技術的細部に入るのは避けますが、タイミング制御を行うためには相対時間をとらないといけないわけですが、相対時間をとるために絶対時間を使っている場合が多いのだそうです。出来合いの絶対時間のチップというのはひとつ100円です。ですから、相対時間をわざわざ作るよりは絶対時間のチップ100円を2つ使って差を取った方が遙かにコストは安くできるわけですね。引き算の引かれる方が2000年1月1日の年号を1900年と認識してしまいますと、それから1999年12月31日のある瞬間の数字を引くわけですから答えはマイナスになってしまいます。多分エラーになると思いますが、エラーになったらフェイル・セイフで多分システムは停止するでしょう。
そういう心配は本当にないのかというところまで調べないと安心できないのですが、実際のところはチップの上に焼き付けられたコード部分の中味を見ないと解らない。ですから、そこまで調べることをしないで「時系列対応をしていないから大丈夫です」とか、「時系列対応しているけれども、リアルタイム制御だから問題がない」とか、考えるのは危険なわけです。

チップには色々なチップがありまして、2000年問題に関係の有るのはリアルタイム・クロック(RTC)、マイクロ・コントローラ(MCU)、及びマクロが入っている特定用途向けの集積回路(ASIC)です。三菱電機、日本電気、富士通、東芝など、ほとんどの大メーカーは汎用のチップを作って売っているだけですから、チップのコーディング部分の中身を聞いても解りません。ただしモトローラさんと日立さんはコーディング部分までも引き受けて製造されている部分も多いと聞いております。
大メーカから出荷された汎用チップを使って、システム機器を製造するかたがた、主として中小企業のかたがたなのですが、コーディングをして焼き付けて、これをアセンブルメーカーに渡すわけです。アセンブルメーカーの技術者にとっては、その部分がどういう中身になっているかは、ブラックボックスで全然解りません。繰り返しになりますが、実際のところはコーディングした人に聞くしかないのです。大変やっかいなことに大きなシステムというのはまず元請けメーカがいて、その下に何層にも製造メーカが重なっていて構造が5層ぐらいになっているわけです。
そうすると一番下の方で作ったシステムは上の層の技術者には全くわかりません。時には、どうやって辿っていったら良いかさえも分らないことがあります。1992年にJIS規格が4桁になりますから、それ以降は4桁対応しているのが多いんですが、それ以前のシステムはむしろ2桁対応が普通ですから危ない。古いのをたくさん使っている場合には開発メーカももう辿りようがない場合があります。従って、そのような場合には新しいものに全部取り替えてしまうに限ります。
この中には技術関係の方が沢山いらっしゃると思います。大変失礼な言い方なのですが、こういう問題については技術者の方は文科系・事務系の人が何か言っても全く聞いいてくれませんね。「今日、青柳という変な奴が来て、こういうことを言っていたよ、我が社は大丈夫か」、と皆様が自社の技術者の方におっしゃっても、多分聞いてくれないでしょう。そんな時には是非「これを見ろ」とおっしゃっていただきたいものがあります。
英国電気通信学会が埋め込みシステムの2000年問題についてのチェックについて手引き書を出しています。350ページもある膨大な手引き書ですが、これを足立晋さんがボランティアの方を糾合されて翻訳し、インターネットのご自分のサイトにのせておられます。機器や機械装置で起こりうる2000年問題のリスクを判断し、管理するためのテクニックについて、英国電気通信学会がまとめたものです。これを読んでもらって、それに基づいて全部点検をやり直せということを是非おっしゃっていただきたい。

こういうわけで2000年問題というのは大変対応が難しいわけですが、基本的な対応姿勢が欧米と日本ではものすごく違うな、と最近つくづく感じております。欧米におきましては、ベストは尽くすけれども、所詮は人間業なので完璧はあり得ない、という考え方で対応を進めています。日本は99年中に何としてでも完璧に対応したい、いや、必ずしますという決意の披瀝で満ち満ちています。本当にそうできれば良いのですが。
日本の色々な会社のウェブサイトを見ましても、「うちの会社はこれをやったけれども、もう駄目ですとか、お手上げです」とかは絶対に書いていない。「我が社の製品を買った方は、こういう問題があるから皆様が自分のリスクで一生懸命直して下さい」、というふうに書いてあるところはどこにもありません。欧米は対応作業、特に技術的詳細を公開するのは社会的責任であるというふうに考えています。日本は作業が完了する前に具体的な対応作業の詳細を公開すべきではないと妙な(妙ではないのかもしれませんが)考え方がありますから、どこも詳細を発表していません。
欧米では、パニック回避の最善の方法は詳細かつ正確な情報を伝達することであるというふうに考えています。日本では、危険を予告してパニックを起こすのは避けるべきであると考えています。それから、欧米では警告によるミスリードの危険性は多くの犠牲者が生じる危険性とは比べものにならない、どんどん情報は出すべきであると考えています。日本は、もし危険を予告してその通りにならなかったら恥をかくから、不確かなことは言うべきではないと、こうなっているわけですね。このような差は役所の対応姿勢や、業界の団体の対応姿勢にもはっきりと出ています。

欧米におきましては、既に危機管理局から年末年始の不要不急の旅行は控えることという通知がでています。これは新聞情報ですが、日本の運輸省は年末年始の航空機には何の心配もありませんから、安心してご利用下さいと言っています。旅行会社は2000年1月1日はどこどこで迎えようという企画をどんどん売っているわけですね。全くノー天気な話だなと思ってしまいます。
これはインターネットに出ていたのですが、中国政府は一生懸命中国の航空会社にきちんと対応するように督促しているのですが、なかなか話が進まないので、ある命令を出したそうです。すなわち12月の31日から1月1日にかけて飛ぶ飛行機に全航空会社の幹部社員が自分で塔乗するようにという指示を出したそうです。
また米国では2000年問題対応のための業界協調は独禁法を弾力的に適用するということをいっています。後に述べますが、アメリカの情報開示法では、アンタイ・トラスト法の適用を弾力的に運用して業界がある程度共同作業をやってもいいということをいっています。業界の談合の危険よりもずっと2000年問題の影響の方が深刻であると認識しているわけです。
ところが日本の公正取引委員会は、「情報交換は良いいけれども、2000年問題に名を借りた価格カルテル行為や、取引上の地位の不当な利用等、競争制限的な行為をしたら厳正に取り締まる」とインターネット・ウェブにわざわざ書いています。これはこの文章の限りでは間違っているわけではないのですが、2000年問題に対する影響の深刻さを全く認識していないと言わざるを得ません。
アメリカではNERCという北米電力事業者連合会というべき団体があり、2000年問題と電力についても徹底検査を行い、詳しい成果を発表しています。それによると事態はだいぶ好転したが、なお予想外の事故は起こりうるということです。その前の発表時点では大変悲観的で、私もどうなってしまうか分からないと心配していたものです。その時点では全米に停電の被害が蔓延する危険性が有るということことを言っていたわけですが、その後だいぶ好転したことを非常に詳しい調査結果と一緒に発表しています。厳しい危機感の中で徹底的な調査と対応を行ったという事が良く分かります。こういう発表は信頼できます。
現状では日本の九電力会社全てが、何の心配もありませんということをウエブ上で正式に発表しています。我々の研究会には、電力会社の方達にもおいでを頂いて議論をしました。「100%大丈夫なのか」あるいは「絶対保証できるのか」とお聞きしますと、「人間業だから100%ということは常にない。また、その程度も2000年の1月1日にはこういう問題が世界同時多発的に生じるのだから、少しは%もさがるのは当然である」とおっしゃるわけです。
そこで、我々の方は、そういう状態で「何の問題もありません」と言いきってしまうのはいかがなものかという問題提起を行っているわけです。電力会社が何の問題もありませんということを言いきってしまっていると日本中全部の危機管理計画が停電はないという前提で作られてしまいます。それで良いものでしょうか。もし万一、故障が起こって大きな被害が起きて訴訟になった場合に法律責任はまったくないということがいえるのだろうか、という疑問が出てきます。現在、電力会社の方でもウェッブにおける発表の仕方や、訴訟問題についてあらためて検討中であると伺っております。

米国と日本のチェック体制にも大きな違いが認められます。アメリカは重大な関心、危機感、法律制度的対応及び豊富な情報の元にチェックが進んでいるわけですが、日本の場合は先ほど申し上げましたとおり無関心、楽観論、貧困な情報と知識の中でチェックが行われています。
昨年の12月に通産省が3,111社に対して調査を行ったところ、民生用電子機器、いわゆる白物電気製品、それからおもちゃ業界の100%が、「対応が必要な製品はない」と回答してきました。なんと100%です。こういうことはあり得ないのいで、要するに何ら関心がないということをいっているわけです。それから自動車、同部品、その他の民生用電子機器、ゲームソフトの90%以上の企業が、同様に「対応が必要な製品はない」という返答を出しています。通信機器、ロボット、印刷産業機械、建設機械、工作機械、包装機械、その他の50%以上の機器、これらの企業も「対応の必要な機器はない」という回答を出しております。
私どもの研究所の公文俊平所長が、自分が乗っている自動車の某メーカーに対して「人命に関わる大きな問題と思うので、文書でご回答頂きたい、御社のこの自動車の2000年問題対応は大丈夫ですか」と手紙を書きました。しばらくしたら返事が来まして、「自動車には時系列対応をしている部分はありませんので、何の問題もありません。どうかご安心してお乗り下さい」という返事が来ました。勿論その通りならば安心なのですが、どうなのでしょう。本当に日本の対応レベルはこのままで良いのかと心配になります。

2000年問題についてはどこにも十分なデータはないのですから、危機管理体制は哲学でやるしかありません。一般的反応としては、日本は無関心と楽観論、アメリカは危機意識と悲観論の中でやっているということがいえます。何か対応策を作ろうというときには危機意識、悲観論の中でやった方が隅々まで注意が行き届きますから、対応は万全になることは言うまでもありません。
危機管理の原理としては、日本は精神論的完全主義、アメリカは確率論的現実主義です。日本の場合は、「対応をきちんとやれよ」と言うと、現場の人は誠心誠意、絶対にやろうと決心して、「はい、やります。大丈夫です」と上に報告します。この報告がだんだん上に積み重なっていきますから、トップにいる人はどこからも「当社は絶対大丈夫です」というような報告が来ますから、トップの人は我が社は本当に大丈夫だと思っている。
ところが現状は、今私が申し上げましたようなところなのです。対応主体としては日本は専門家任せです。技術者の言うことは間違いないだろうと、頭から信じ込んでしまいます。アメリカの場合はあくまでも自己責任原則です。そういう中で危機管理計画、コンテンジェンシー・プランにも大きな差がつきます。

私は、危機管理計画の中でも、資源エネルギーの国際的連鎖を重視した中長期危機管理計画こそが重要だと思っております。一般的に言われているようにコンピュータが2000年を1900年と認識すると、銀行の預金の金利がマイナスで計算されてしまうとか、だから元金がなくなってしまうとか、その類の混乱は必ずあるでしょうが、たいした問題ではないと思います。たいした問題ではないというと語弊がありますが、そういう問題はユーザーも銀行も一緒になって一所懸命に直そうとするから必ず直せます。
日本は目に見える危機については大変直し方が上手です。しかし、本当に大事なのは、足立晋さんがご自分のサイトで言っているように、中東の原油田が砂漠に帰ってしまうというような危険をどうするかということと思います。東京電力さんに聞きましたら発電用の石油の備蓄は100日分だそうです。100日分はもつわけですが、その後はタンカーが来なくなってしまったら打つ手がありません。昔は大きなタンカーには100人も200人も乗組員がいたわけですが、今は10人か15人しか乗っていません。非常にたくさんの半導体チップを使った制御システムが動いて巨大なタンカーは動いているわけです。これが止まってしまったら簡単には直せません。全然石油も来ません。そうなると日本経済はめちゃくちゃになってしまいます。
金利計算が狂うという類の問題よりも、こういう問題の方がずっと大きいと思います。2000年1月1日に産油国で問題が生じたと判明した時に、どういう手を打つのか、こういう問題について対策を考えておくことが危機管理計画であると思います。日本からすぐ技術者を多数派遣して、こういう部分は日本に任せろと交渉するのか、あるいは代替的な産地を探すのか考えておかなければいけないと思います。私は2000年問題の危機管理計画というのは、短期的な目先の問題は当事者に任せておけばいいと思っています。もっと大きな日本の産業・経済というものを、壊滅的な危機にならないように大所高所から手を打っておくのが大事だと思います。

危機管理計画にはそれぞれのお国柄が反映されます。たとえばカナダでは、陸軍の兵力32,000名を各地に駐在させます。そして法律を改正して警察権限を付与して治安に当たらせます。これは、ちょっと何かあるとすぐ暴動が起きて略奪が始まるような環境では必要でしょうが、日本は多分そういう問題は必要ないと思います。また、カナダでは陸軍、海軍両方とも1年間、調達は全部2000年問題関連以外は中止です。軍艦は全て港に停泊して臨時の駐屯地、野戦病院、発電所、給食センター、そういうものにするそうです。
国々それぞれの対応策を採ったらいいわけです。非常に難しいなと思うのは、核弾頭の問題です。英米安全保障情報協議会というNPOが「米ロ2カ国は全ての核弾頭を取り外すべきである」と提案しています。

日本の場合は見るべきものはほとんどまだ出ておりません。日本電気さんは、在庫積み増し、調達ルートを複数化を打ち出しています。今まで1社からしか買っていないものを全て複数のところから買うようにしているわけです。調達が切れたらたいへんなことになりますから。しかし全ての調達ルートを複数化というのは、トップの人は簡単に決めたのかもしれませんが、現場では、そうは簡単にいかないとのことで大きな問題になっているそうです。なかなか難しい問題があるわけです。
トヨタ自動車も危機管理計画策定に着手しました。NTTは以前から交換機をほとんど4桁に対応済です。日本航空は、全社横断的対策委員会を設置して、問題が生じた時のために代替飛行ルートを検討中ということです。航空機の安全性のチェックの詳細については発表されていません。KLMオランダ航空は会長が「ジャンボ機は16,000個もの半導体チップが使われている、これが全て故障しないということはあり得ない、飛ばすことは飛ばすけれども、自分のリスクで乗ってくれ」というステーツメントを発表しています。
ジャンボ機は非常に安全性が高いそうですから、たとえ半導体チップにいろいろ不具合が発生しても墜落してしまうことはないと思います。しかし、安全管理、運航管理、危機管理等の面で色々な支障が起こるのはまず間違いないと思った方がいいのではないでしょうか。だから年末年始にかけては、皆様もあまり海外旅行にはお出にならないで、自宅においでになった方が良いんじゃないかと思います。
ここにきて国会も動き出しました。2月10日に行われた衆議院災害対策特別委員会で、2000年問題小委員会設置をするということが提言され、7月設置を目標に各党持ち帰り検討することになりました。なぜ7月まで待たなければならないのでしょうか? 多分6月まで国会があるからだろうと思うのですが、7月設置目標じゃ、ずいぶん遅いんじゃないかなと思います。小委員会が出来ると、ここで危機管理計画策定と立法処置の検討が行われることになると思います。自民党では古屋先生が中心となって検討が行われます。自由党は自由党独自の「2000年問題対策小委員会」というのを既に作りまして、小沢党首が本部長、達増拓也議員が事務局長になりました。

Y2Kの法律問題ですが、これはたいへん大きな問題です。60年代から70年代においてはコンピュータ・システムはむしろ2桁対応が通常でした。したがって、この時代のソフトや製品については納入業者の責任であるということは言い難いでしょう。では、いつから4桁対応が「普通」になったかというのも、明確な線がひけるわけではありませんから微妙な問題です。89年にANSIおよびISOが4桁対応をうちだし、92年にJIS規格が4桁対応になりました。しか、これは規格がそうなったというだけで、業界が全体がそのようになったかどうか、というのはまた別の問題です。
供給者の責任というのは、4桁対応の必要性を誰がどう認識していたかということに関係があります。この問題は非常に大きな法律的な問題になるだろうということは間違いありません。アメリカの弁護士は救急車を追っかけていって商売の種にするというので「アンビューランス・チェイサー(救急車追跡者)」と、からかわれていましたが、今や「Y2Kチェイサー(Y2K追跡者)」と言われております。アメリカの弁護士は、多分Y2K問題を飯の種にして、これから何年間かは十分食えるだろうということが言われているくらいです。
損害賠償には非常に大きな金が絡んできます。賠償の対象となる範囲としては第一段階がソフトや機器の調達コスト、第二段階が2000年問題への対応(改修、代替など)コスト、第三段階としては派生損害、があります。どの段階まで賠償を請求できるかは個別のケースで異なりますので一般論ではいえません。民法第416条の規定ですと、相当因果関係が認められる損害の範囲というだけで、たいへん漠然とした言い方しかできていません。
もしPL法を使っての訴訟になると、損害賠償範囲は派生損害まで含まれますから非常に大きな金額になります。ただしPL法は動産と有体物しか対象になりませんからソフトウエアは対象外です。もし民法の不法行為による損害賠償請求の場合ですと、過失責任主義で、しかも被害者に立証責任がありますから非常に訴訟がしにくいわけです。しかし、PL法でやりますと、過失責任主義ではなく無過失責任主義になります。立証するのは、供給者に過失があったことではなくて製品に欠陥があったということだけを証明すればよい。しかも、損害賠償も責任の範囲が予見可能範囲の派生損害も対象になります。従って、金額も巨額になるということが言えるわけです。これは日本においてもたいへん深刻な、かつ巨額な問題になるということが言えます。

米国では Year 2000 Information and Readiness Disclosure Act(Y2K情報開示法)というのが出来ました。2000年問題関連では9本目の立法です。昨年の10月19日にクリントンがサインして成立しました。グッド・サマリタン立法と俗に言われております。聖書の『よきサマリヤ人』の話に出てくるのですが、善意の救済者が救済行為を行なう場合には、その救済過程で過失があっても責任は問わないという趣旨です。善意の救済者の過失を免責するという精神の立法一般をグッド・サマリタン立法といっているわけです。
この法律で言っているのは、第一に開示した情報を根拠に訴訟を起こされることはないということです。このようにして必要な情報開示を促進しようというわけです。ただし、製品サービスの欠陥から企業を守るものではありません。第二には、先ほども申し上げましたとおり、独占禁止法の一部を来年7月14日まで一時的に適用停止するということです。
たいへん良い法律ができたなと思って私は感心していたのですが、その後色々な裏話を聞いたり、インターネットに出ている情報を見てみますと、どうしてどうして、どろどろした色々な問題があったことが判りました。この法律は、ある大変な効果をもっています。その効果は初めから意図されたものなのか、あるい偶々結果的にそういう効果があるというのか、どちらか解りません。私は多分意図されたものだろうと見ています。
その効果というのはこういうことです。アメリカは訴訟社会といわれている位ですから、この2000年問題はコンピュータ産業を壊滅させかねない程の影響力を持っています。しかも直接的損害の賠償請求だけでなくメーカーに対して懲罰的な賠償請求というものを課せられる危険性があります。しかも陪審員制度というものがある。これをこのままにしておくとアメリカのコンピュータ産業が壊滅してしまうおそれがあるわけです。
これは非常に国益に反するわけです。従って、アメリカのY2K問題に関する損害は全産業、全経済界が平準化してみんなで負担する仕組みを何とか考えないと、アメリカの経済が危機に陥ることになります。そういう状況の中で実にうまい仕組みを考えたものです。コンピュータ産業はどんどん情報開示をするようになります。それは社会的にも強く求められています。情報開示をした内容を根拠にして訴訟を起こされることはない。だから、ちょっとでも問題があったら、心配があったら、あるいは欠陥があったら、それをインターネットでどんどん情報開示するわけです。これは社会的なニーズにも合っています。どのみち既に時間切れになって対応が難しいわけですから、ユーザーがみんな自分で対応しないといけない。
メーカーがこれはこういう問題点がありますよと情報開示をしたらユーザはただちに対応をしなければなりません。判っているにもかかわらずユーザーが即座に対応をしないと過失になりますから、後で仮に損害賠償が請求できても過失相殺で大幅に減額されてしまいます。そういうわけですから、アメリカのコンピュータ産業、電子機器メーカーにとっては、技術的詳細をどんどん開示するということが自分の会社を救う唯一の方法になっているわけです。しかも、そうすることは社会的な要請にも添っている。実に見事な方法を考えついたなと思うわけです。

結論です。最後まで直接対応の努力を続けてください。人のせいにすべきではありません。詳細な技術情報をどんどん集めて、自らも積極的にインターネットで情報を開示して下さい。また、問題のシステムがあったら、思いきって、できるだけ広範囲にシステム全般をバージョンアップしてしまうのが一番いいと思いますね。今動いているシステムは立派に役立っているわけですから、捨てるのは大変もったいない気がしますが、直すのは莫大な時間がかかるし、直したと思っても直っていないかもしれません。それよりは思いきって捨ててしまってバージョンアップして、新しいシステムを思いきって入れるのが一番良いでしょう。
また対応は自社だけじゃなくて、取引先、地域、個人のネットワークがらみで行うようにしないといけません。自分の取引先に対してもも「あなた、ちゃんとやっていますか」と声をかけてください。それから危機管理計画を至急に策定して下さい。先ほどから申し上げている通り特に大事なのは中長期計画です。すぐ目がいく、また、判りやすいのは短期的なシステム・トラブルですが、こんな短期的な問題は本当は大したことはありません。埋め込みシステムの半導体チップの問題も、殆どの場合はリセット・ボタンをまた動き出すというのがほとんどです。
もっと大事なのは、先ほどから申し上げているような、日本に対する資源供給国、輸出国の2000年問題だと思います。
それから、もし皆様がメーカーの立場でしたら、他社からいろいろ御社の製品について大丈夫ですかということを聞いてくると思います。その場合は自社が何をしたかについての技術的詳細を開示して下さい。如何なる法律責任も取れる自信がない限り、決して「対応済みです」とか、「心配は不要です」とか、そういう類の結果を保証するがごとき表現はしないで下さい。もしそういう表現をすると、後日大変な法律的な責任が生じて、損害賠償訴訟で御社が潰れてしまうかもしれません。
実際、「心配は不要です」と発表することは相手の危機管理の策定の妨げになります。そうではなくて、自分が何をしたかについての技術的な詳細を発表することが、相手の危機管理計画策定の助けになるわけです。
本日は、一部ちょっと口が滑りすぎた所があったかもしれませんが、どうかご容赦願います。最近、世界銀行グループが世界の139カ国に行った調査によりますと、2000年問題について具体的な対策をとっている国はたったの21カ国、その中でも日本は中の下ということで大変お寒い状態でございます。是非、古屋先生の力をお借りして、今日私が申し上げましたようなことは杞憂に過ぎなかったと、後で笑い話にできるように是非して頂きたいと思います。本日はご静聴をありがとうございました。