これからの日本におけるコーポレートガバナンス

立石信雄(オムロン株式会社代表取締役会長)

 最近になって日本でもコーポレートガバナンスをめぐる議論や動きが活発になってきた。日本の上場企業における外国機関投資家の持ち株比率も平均12%にまで高まってきている中、多くの企業で取締役会の改革や株主総会の充実が図られてきている。こうした流れを受けて、4月には法制審議会から商法改正の中間試案が提出されたところである

 また、先ごろ、コーポレートガバナンスに関する民間の国際組織であるICGN(インターナショナル・コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)の第7回年次総会が東京で行われ、日本国内外から450名もの参加者が集まった。私はその実行委員長として関わったが、その場でも活発な議論が展開された。

 これまで一般に言われてきた日本企業のコーポレートガバナンスの特徴を要約すると、@内部昇進者による取締役会・監査役会の運営、A企業間の株式持合による安定株主化、Bメインバンクによる支援体制、といった点があげられる。これらの仕組みは、敵対的な買収を防止し経営の安定化を促進し、企業の長期的な戦略立案を可能にするなど、日本的経営が成功した要因の一つとして評価されてきた。

 しかし、取締役や監査役の大部分が内部昇進者で占められ、社長が両者の実質的任免権を持つことにより、取締役会や監査役が利害関係者の集団にとどまってしまい、企業トップ自身が不祥事に深く関わるような場合には、経営に対するチェック機能が働かないという深刻な問題が浮き彫りになってきた。また、株式持合の進行により、互いの経営内容について口を挟まぬ「物言わぬ株主」を増加させ、資本市場からのチェック機能の不全化も招いた。このような経営のチェック機能の弱体化と併せて、株主の権利の軽視や低い投資収益率についての批判もなされるようになった。

 こうした問題点の解決策を探る上で、株主の意向を十分踏まえ、株主の視点を重視するのは当然のことである。しかし、経営者としての私の立場から強調したいのは、ガバナンス改革は企業が生き残るために必要であり、競争力強化の観点からも一層論じられてよいということである。

 私は1996年から98年にかけて、OECDのコーポレートガバナンス基本原則策定のためのアドバイザリーボードに日本代表として参加した。当時は米国経済が高成長を続ける一方、欧州が高失業率に悩み、日本はバブル崩壊後の後遺症に苦しんでいる時期であったが、すでに当時の参加メンバーの間では、各国の成長率の差は、コーポレートガバナンスの違いから来ているのではないかという見方、つまり競争力の差という着眼点があった。

 それから約3年が経過したが、その間、日本でも市場経済化がさらに進み、「資本市場で評価されない企業は資金調達もできない」「企業の競争力を高めるためにも、しっかりしたガバナンスを作り込む必要がある」など、日本においてもコーポレートガバナンスの重要性が急速に認識され始め、その議論が活発になり、具体的な取り組みも目立ってきている。

 日本においても世界に通じるスタンダードを築く必要があるが、かといって英米流のコーポレートガバナンスがよいというわけではない。確かにこれまでの日本企業は、株主の利益に対する認識は少々低かった面もあるが、日本の経営者は、従業員や取引先、地方自治体など、株主以外の利害関係者(ステークホルダー)も大切であるという考えのもと経営してきた。日本的な特徴を持ったコーポレートガバナンスがあってしかるべきであり、もう少し時間をかけて議論していく必要がある。

 日本的なコーポレートガバナンスの悪い点はまだまだ残っているが、全体としては改善しつつある。それは多くの経営者が改革の必要性に気づいた結果であり、その背景として「企業のガバナンス構造が企業競争力・企業価値を決定する」という認識が経営者の間に広がりつつあるからだ。

 いずれにしても、日本の企業にいま強く求められているのは、@透明性、Aアカウンタビリティ、B情報開示、C倫理性、の4つであり、ガバナンス改革に積極的な企業とそうでない企業とでは、両者の競争力には将来大きな差が出てくることは間違いない。

●この論文のオリジナル版は「国際情報発信プラットフォーム/http://www.glocom.org」に掲載されています。