日米の愛国主義

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

 12月のある日、ワシントンD.C.で行われたコンサートに行った。アイルランド人歌手のクラシック・コンサートなのだが、クリスマスの歌をたくさん取り混ぜて楽しいものだった。

 しかし、コンサートの最後に、歌手が「God Bless America」を歌い始めた。ある予感がした。曲の途中のある時点に来たとき、聴衆がいっせいにざざざっと立ち上がり、大声で合唱し始めたのである。「God Bless America」は、国歌ではないがアメリカ人なら誰でも知っている歌のひとつで、9月11日以降、アメリカの愛国心を鼓舞するために幾度となく歌われている。
 テロ以前であれば、この歌がわざわざ選ばれることはなかっただろう。しかし、ことあるごとにこの歌を聞かされる外国人にとっては、ちょっと居心地が悪い。まして私は歌詞を知らない。妻と二人だけで座っているわけにもいかず、一応立ち上がってみたものの、黙って聞いているしかない。

 この歌を最後にコンサートが終わった。そのとき、隣に座っていた老紳士が話しかけてきた。「ショーは楽しかったかい?」 私は「ええ、とても」と答えたが、彼の言い回しに引っかかるものがあった。何となく「何で君たちは一緒に歌わないんだい?」というニュアンスを感じたのである。もちろん考えすぎかもしれない。しかし、外国人にだんだん冷たくなるアメリカを感じている折だけに、そう聞こえた。テロ対策法の成立によって、すでに1000人以上の外国人が説明もなく拘束されている。

 ところで、シアトルにあるNBR(the National Bureau of Asian Research)という研究機関が、日本研究のためのメーリング・リストを開設している。参加者はアメリカ人が多いようだが、著名な研究者も参加している。

 私はこのリストの新参者なのだが、このコンサートの経験を投稿してみた。後から考えてみればタイトルが刺激的すぎたのだが「アメリカの愛国主義または全体主義?」と題してみた。つまり、このごろの愛国主義の蔓延は全体主義に近いのではないか、と問題提起してみたのである。

 この投稿に対しては大きな反響があった。そもそも、日本研究のメーリング・リストにアメリカの話を投稿した時点でモデレーターは違和感を覚えたようだ。メッセージを流してくれたものの、「あまりこの問題を掘り下げたくない」というモデレーターのコメントが付いた。にもかかわらず、次々と異論、反論が出てきた。

 メーリング・リスト宛だけでなく、個人宛のメールもたくさん来た。総じて言えば、メーリング・リストに流れたものは、最初はアメリカ人による反論が多かった。しかし、個人的に来たメールは、最初は同じ傾向だったが、やがて、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツといった国々の人から、私の意見に同意するものが届くようになった。そして、数人のアメリカ人から「実は私もそう思う」といった内容のものが届いた。メーリング・リストでもやがていろいろな意見が出てきて、「今回は過去の朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争と比べてもちょっとおかしい」という投稿もあった。

 しかし、私の最初の投稿に対して批判的なものも多かった。つまり、日本人は愛国心という言葉は使わないが、ナショナリズムはきわめて強いという指摘である。なるほど日本的経営論、日本文化特殊論などは一種のナショナリズムの表出なのであろう。

 だんだん議論が過熱してきたところで、モデレーターによるストップ宣言が出た。おそらくモデレーターのところに届くものには個人的な中傷が多くなってきたからではないだろうか。

 個人メールの中には「問題提起してくれてありがとう」というものもあったが、実はまだ日米間にも本音での議論が欠けているのだということに気づかされた。このメーリング・リストには親日派だけでなく、なぜか反日派も入っているらしい。いずれにせよ、彼らは知日派のはずなのだが、いまだ誤解している部分が多いようだ。

 非常に面倒な作業なのだが、われわれはもっと自分たちを説明する機会を持たなくてはいけない気がする。内に閉じこもったナショナリズムはあまり健全ではない。アメリカほどどぎつい愛国主義は遠慮したいが、少しくらい日本にも愛国主義と呼べるものがあってもいいと思う(そうすると日本がまた右傾化しているという、したり顔の分析が出てくるとは思うのだが…)。

 とにかく、もっと多くの日本からの発言が求められている。ご興味のある方は、ぜひ下記のところから登録のうえ、ご参加いただければと思う。

NBR's Japan Forum <http://www.nbr.org/regional_studies/japanforum.html>