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 アジア太平洋地域の情報アクセシビリティ 
 1月22日に行われた「アジア太平洋地域の情報アクセシビリティ」は、盛況のうちに無事終了することができました。

 多数のご参加を賜り有り難うございました。

 情報発信機構による英語での速報はこちらから

 

国際シンポジウム
「アジア太平洋地域の情報アクセシビリティ」報告

 2004年1月22日に東京・六本木のアカデミーヒルズで、国際シンポジウム「アジア太平洋地域の情報アクセシビリティ」(主催: (財)C&C振興財団、国際大学GLOCOM)が開かれ、アジア太平洋地域から多くの関係者を招き、情報アクセシビリティに関する各国の状況や今後の展望について議論が行われた。本シンポジウムではアジア太平洋地域の各国は共通した問題も持ちながら、その状況や取り組みは全く異なっており、今後も情報交換を続けていくことが大変有用であることが明らかになった。以下は、その概要の報告である。

 情報アクセシビリティ(ICT accessibility)は、情報技術や通信によって受けられるサービスを、障害者や高齢者を含むどんな人でも利用しやすくしようとする考え方、あるいはその度合いを指す言葉で、情報化が進み多くの人がコンピュータやネットワークの恩恵を受けるようになってくるに従い、重要視されるようになってきた。今やインターネットでは非常に多くのサービスが利用できるようになってきており、障害があるからという理由でそれが利用できないとすれば、大変な問題である。

 この問題に対する取り組みは各国で行われている。本シンポジウムではアジア太平洋地域での状況や、国際組織・政府・企業・利用者の考え方などに関する情報を交換し、今後についての議論を行うことを目的に開かれた。

 本シンポジウムは朝10:00から夕方の5:00まで一日をかけて行われ、基調講演に始まり、パネル1でアジア太平洋地域の各国の状況の情報交換、パネル2で日本の状況の報告、パネル3でグローバルな活動についての議論が行われた。このシンポジウムでは、その題材に相応しく、視覚障害者や聴覚障害者を含む多くの障害者も参加した。会場では、聴覚障害者の参加をサポートするため、日英同時通訳と同時に(株)BUGの協力でリアルタイム日英字幕サービスが提供された。

 

■ 主催者挨拶と趣旨説明

 シンポジウム冒頭では、一方の主催者である(財)C&C振興財団の小野田勝洋氏より、挨拶があり、同財団が情報と通信に関する研究促進と、その社会への振興に関する活動を行うとともに、優秀な研究者の表彰、研究者の助成活動、社会や経済への影響に関する研究活動などを行っており、本シンポジウムはその研究活動の一環である旨の説明があった。

 続いてもう一方の主催者である国際大学GLOCOM副所長の山田肇氏が、本シンポジウムの趣旨説明を行った。山田氏によれば、アジア太平洋地域は様々な国があり、民族、言語、経済の発展状況や文化など多くの面で非常に分散が大きく、ある意味で世界の縮図のような地域となっている。この地域で協力して何が出来るかを探れば、その考えは世界に広めていくことができる。従って、この地域は情報アクセシビリティに関する協力方法を探る上では最適の地域だと言えるとのことであった。

 

■ ICTが障害者にもたらす可能性と今後の支援技術開発の課題

 挨拶に続き、静岡県立大学教授の石川准氏が基調講演を行った。石川氏は自身が視覚障害者であり、社会学者であると同時に、視覚障害者用の支援技術を開発するプログラマでもある。

 石川氏はまず、ビデオで氏の研究室の活動を紹介した。氏の研究室では、デジタルデータで提供される論文はコンピュータの音声読み上げシステムで読むか、点字ディスプレイで読む。また、活字の本は裁断し、OCR(Optical Character Recognition: 光学自動文字読み取り)にかけてデジタルデータに変換し、読み上げさせることで読むことが出来る。学生のレポートは電子データで提出させ、点字プリンタで出力して読む。このように、デジタル情報と各種の支援技術を利用することで、かなり自由に情報を得ることが出来る。

 石川氏は自らの経験を引きながら、視覚障害者がいかに情報を得ることが難しいかということを具体的に説明した。例えば、情報技術を利用しない場合、点訳されていない本を読むには、ボランティアにお願いをして点訳あるいは録音してもらうのに数ヶ月待つ必要がある。しかし点訳されている書籍は少なく、専門書に至ってはほとんどない。職業として本を読む必要があるような場合、例えば石川氏のように社会学者である場合には、深刻な問題になる。しかし、石川氏は情報技術を活用することで、それを克服している。実は、石川氏が利用している支援技術の多くは、氏自身が開発したものだ。

 石川氏は実例を引きながら、情報通信技術によって障害者がどれほどの恩恵を受けるかを説明した上で、支援技術開発の現状と今後についても述べた。氏の説明によれば、支援技術開発はまだ途上であり、特にアジア太平洋地域でも日本・韓国・中国以外の国では開発がかなり遅れている。その一つの障害が、多くのソフトウェアがソースコードを公開していないことであり、障害に対する支援技術開発に対してはなんらかの特別な配慮が必要だと主張した。また、多くの地域の支援技術開発を支えるため、ODAなどを通じて援助していくことも必要ではないかと述べた。

 

■ パネル1: アジア太平洋地域のアクセシビリティ事情

 パネル1では、GLOCOMの山田肇氏をモデレーターとして、オーストラリアからGunela Astbrink氏(TEDICORE)、タイからWantanee Phantachat氏(NECTEC)、フィリピンからMateo Lee 氏(全国障害者福祉協議会)、韓国からSeongil Lee(Sungkyounkwan大学)の4氏を招き、各国の事情について説明を受けた後、議論を行った。その結果、アジア太平洋地域の各国では状況が異なることが分かった。

 オーストラリアでは、障害者差別防止法が1992年に制定されており、この法律が強い強制力を発揮している。法律やガイドライン制定の過程に障害者団体が参画するのが当然となっており、通信サービスなども過去の不服申し立てなどを通して、障害者に配慮されるようになってきている。あまりアクセシビリティに気を遣うと技術導入が遅れるのではという懸念を持たれる程だという。タイでは、2002年に作られたICTの国家マスタープランの中で障害者への対応が謳われているほか、ICTのアクセシビリティに関する政府委員会がICTアクセシビリティ戦略計画を設けている。情報通信技術省でも戦略計画を持っており、実施の責任を負っている。国際委員会で、国際的なルール作りにも参画しており成果を上げているとのことであった。フィリピンでは、ICTへの関心そのものが低く、特に郊外ではICTを利用していない人が多い。このような状況で、障害者のアクセシビリティ確保も遅れているが、先進国からのスクリーンリーダーなどの提供が始まっている。フィリピンは特にウェブアクセシビリティに重点を置いた国際宣言であるマニラ宣言に参加している。韓国では、国家情報化戦略計画であるサイバーコリア21、デジタルデバイド法の二つに基づいて、デジタルデバイド終結に向けた活動が行われている。この目的で、KADO(Korea Agency for Digital Opportunity and Promotion)を設立し、ルール作りや評価を行っており、現在、公的機関が提供するサービスのアクセシビリティ検証が進んでいるとのことである。

 続く質疑応答では、導入された規制に対する民間部門の反応、国際宣言は国内のアクセシビリティ推進に意義があるか、当事者である障害者などはどうやってそのような議論に参画しているか、といったことが議論された。

 会場の簗瀬進参議院議員は情報バリアフリー法の必要性を力説した。また法律が参照する技術的なガイドラインの必要性についても、パネリストと意見が一致した。

 

■パネル2: 日本の情報アクセシビリティの現状

 パネル2では、(株)ユーディット社長の関根千佳氏をモデレーターとし、日本の情報アクセシビリティの現状について、行政の立場からおよび企業の立場から、報告が行われた。

 まず初めに、経済産業省の坂井喜毅氏より、主にアクセシビリティ関係の標準化状況について報告があった。国際標準化機関であるISOでは、ICTのアクセシビリティに関しても標準化作業が行われており、日本も積極的に参加しており、提案も行っている。その結果、ウェブアクセシビリティを初めとしていくつかの分野で標準化が進んでおり、これを受けて情報通信分野、情報機器分野、ウェブアクセシビリティ分野でJIS規格もまもなく出来るところだとのことである。また、業界内での連絡や国への意見を行う機関として、アクセシビリティデザインフォーラムという団体を組織している。

 次に、総務省の武田博之氏より報告があった。氏に寄れば、日本のアクセシビリティに関する意識は高く、例えば世界に先駆けて骨伝導の携帯電話が作られるなど、民間での動きも進んでいる。そのような状況で、日本政府としては通信放送機構を通じた民間での取り組みに対する助成、放送番組の字幕化に対する助成、機器アクセシビリティ推進のためのガイドライン作成・規格作り、ウェブアクセシビリティ推進のためのガイドライン作りや政府ウェブページの評価などを推進しているとのことである。

 国際社会経済研究所の遊間和子氏からは、NECのアクセシビリティに対する取り組みについて説明があった。NECでは、ユニバーサルデザインに関するガイドラインを設けている。また、NECグループ内で情報を共有するため、UDコミッティという組織を作っており、グループ内のアクセシビリティに関係する人材が情報を交換している。ビジネスへの展開としては、製品の一部を選んで実際に障害者に利用してもらい、ユーザビリティテストを推進しているとのことで、その例として電子投票機やFAXコピー機などを紹介した。さらに、サポートページなどを中心にウェブページの改善にも取り組んでいるとのことであった。

 続いて、マイクロソフト株式会社の細田和也氏が同社の取り組みについて説明した。マイクロソフト社では、現在アクセシビリティをセキュリティ同様に同社の最優先の課題と位置づけている。アクセシビリティ支援技術の開発は常に新しいOSの発表よりもかなり遅れるため問題となっているが、同社では次世代ウィンドウズではアルファバージョンの段階から開発ベンダーに情報提供を行うなどの試みをしている。また、氏は社内での障害者就業環境をビデオで紹介し、視覚障害者が実際にウィンドウを利用して活動している場面を示した。

 最後にIBMの和田卓二氏が同社の取り組みについて説明した。IBMはアクセシビリティに関するガイドラインを持っており、社内啓蒙やツール整備、ガイドライン作成などを行うアクセシビリティセンターを設けているとのことである。また、和田氏自身が聴覚障害者でもあるが、IBM社内でも障害者が働ける環境作りを積極的に進めており、その職場環境に関する説明があった。

 質疑応答では、GUIの普及に伴って障害者の利用環境は不利になっていないか、まだ機器などのアクセシビリティ対応は不十分ではないか、アジアではどういう情報共有が必要か、などの議論が行われた。

 パネル2では日本の動向が伝えられたが、全般的に各プレイヤーともかなり取り組みは進んでいるという印象を受けた。質疑応答でもまだ取り組みが不十分ではないかとの指摘が出たが、それに対する議論では最初から100%の対応を望んでも無理であり、「何が足りない」と批判するだけではなく、「何が出来たか」という肯定的・建設的な対応が必要だとの意見で一致した。その観点では、確かに日本では一定の成果が上がってきていると言って良さそうだ。

 

■ パネル3: 「グローバルに考える」

 パネル2は関西学院大学の中村広幸氏をモデレーター、タイ視覚障害者協会のMonthian Buntan氏をパネリストとして、アクセシビリティ問題のグローバルな展開について議論が行われた。

 まずBuntan氏がプレゼンテーションを行い、なぜアクセシビリティが確保されなければならないかを説明した。この問題は非常に複雑な問題であり、大所高所から考える必要がある、そのためにはグローバルなアプローチを取ることは大切であると指摘した後、多くの国では、ICTの支援技術は、高すぎたり、ある国では補助金がなかったりして手に入らない地域が非常に多く、これは途上国の貧困な地域で起こっている一方、先進国にもある現象であり、国際的な取り組みをしていくべきだと述べた。氏に寄れば、いまある規制やルールの多くは任意な努力規定ばかりで、強制力がない。もっと強制力のあるルールが必要であり、例えば昨年12月にジュネーブで開かれたWSISで条項の中でアクセシビリティを取り上げたように、国際的なルール作りの中で、具体的にアクセシビリティに関する規定を作っていくことが大切であるとのことであった。

 その後、中村氏をモデレーターとしてこのテーマについて議論が行われた。そこでは、予算化を伴う国際協力の難しさ、アジア太平洋地域での情報交換継続が大切であることなどが議論された。

 

■ 公文GLOCOM所長によるまとめ

 最後に、GLOCOM所長の公文氏が閉会の挨拶を行った。その挨拶の中で、公文氏は次の3つのことを述べ、会を締めくくった。

  1. 支援技術は障害者を支援すると同時に、健常者をより便利にするのにも使える。強い人をより強くする技術もあってよい。それが還元されて、障害者もまた便利になるというプロセスもあり得る。
  2. 完全なものを求め、欠点を許さないという考え方と、完全なものは不可能だと考えて、良くできたものを褒めるという考え方がある。アクセシビリティに関しては後者の考え方を取る方がよい。
  3. 高齢者と障害者は会議中は同様に扱われていたが、高齢者はすでに人生の終わりにさしかかっているのに対し、障害者は能力を補うことでまだいくらでも活躍することが出来る。やはり、異なるものとして考えていくのがよいのではないか。

 

■会議を終えて

 今回の会議は参加者の意欲も大変高く、盛況に終わった。各国の状況や日本の状況の報告などがあったが、どれもかなり進んだ取り組みがされていることに驚かされると同時に、各国の事情が大きく異なることにも驚かされた。

 ただ、進んだ取り組みがあるとは言え、現状ではまだ多くの障害者はICTを活用した社会参加が十分出来ているとはとても言えない状況であることは間違いなさそうだ。これから社会にアクセシビリティを普及させていく長い道のりが待っているということだろう。技術開発についても、まだまだこれから進めていく余地がありそうだ。

 今後の展望として、今回活動に関わる人々が十分に情報交換をすることが重要であることも確認され、社会的にも「アクセシビリティがあることが当たり前だ」ということを認知させていくことが重要になると思われる。その意味で、今回のシンポジウムには大きな意義があったと言える。

(報告=石橋啓一郎 国際大学GLOCOM 研究員)

開会の挨拶
  • 小野田勝洋(財団法人C&C振興財団専務理事)
小野田勝洋(財団法人C&C振興財団専務理事)
山田 肇(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター副所長/東洋大学教授) シンポジウム開催にあたって
  • 山田 肇(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター副所長/東洋大学教授)
キーノートスピーチ
トランスナショナルな電子情報共生社会の実現を目指して
  • 石川准(静岡県立大学教授)
石川准(静岡県立大学教授)

パネル1
アジア太平洋地域のアクセシビリティの現状

Gunela Astbrink(TEDICORE) パネル1
ICT Accessibility in Australia
  • Gunela Astbrink(TEDICORE)
パネル1
Strategic Plan and Implementation of ICT Accessibility in Thailand
  • Wantanee Phantachat(NECTEC)
Wantanee Phantachat(NECTEC)
Mateo A. Lee Jr. (NCWDP) パネル1
Current ICT Accessibility Status in the Philippines
  • Mateo A. Lee Jr. (NCWDP)
パネル1
Accessibility in Korea - Status & Policies
  • Seongil Lee(Sungkyunkwan University)
Seongil Lee(Sungkyunkwan University)

パネル2
日本の情報アクセシビリティの現状

坂井喜毅,(経済産業省産業技術環境局情報電気標準化推進室室長) パネル2
Japan and the Standardization of the Accessible Design
  • 坂井喜毅,(経済産業省産業技術環境局情報電気標準化推進室室長)
パネル2
総務省の情報バリアフリー関連施策について
  • 武田博之,(総務省情報通信政策局情報通信利用促進課デジタル・ディバイド企画官)
武田博之,(総務省情報通信政策局情報通信利用促進課デジタル・ディバイド企画官)
遊間和子(株式会社国際社会経済研究所専任研究員) パネル2
NECグループおける 情報アクセシビリティへの取り組み
  • 遊間和子(株式会社国際社会経済研究所専任研究員)
パネル2
Microsoft & Accessibility
Enabling people and businesses to realize their potential
  • 細田和也(マイクロソフト株式会社)
細田和也(マイクロソフト株式会社)
和田卓二(日本IBM株式会社) パネル2
IBMにおけるウェブ・アクセシビリティの実現
  • 和田卓二(日本IBM株式会社)
パネル2
モデレーター
  • 関根千佳(株式会社ユーディット社長)
関根千佳(株式会社ユーディット社長)

  パネル3
グローバルに考える

Monthian Buntan(タイ視覚障害者協会事務局長) パネル3
ICT Accessibility for Persons with Disabilities: A Global Challenge
  • Monthian Buntan(タイ視覚障害者協会事務局長)
パネル3
モデレーター
  • 中村広幸(関西学院大学教授)
中村広幸(関西学院大学教授)
 
公文俊平(学校法人国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長) 閉会の挨拶
  • 公文俊平(学校法人国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長)

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