「国際情報発信プラットフォーム」の立ち上げ
宮尾尊弘
国際大学GLOCOMにとって長年の懸案といわれてきた国際的な情報発信活動が、去る4月13日に「国際情報発信プラットフォーム」(Global Communications Platform from Japan; http://www.glocom.org)として立ち上がりました。これがGLOCOMにとって文字通り「長年の懸案」であったこと、そして、そもそもGLOCOM設立の目的が国際情報発信にあったことは、以下の設立趣意書の文面から明らかに読み取れます。
「目的: 現代日本に関する世界の研究者の交流拠点として国際大学にGLOCOMを設立し、現代の日本政治・経済・文化に関する国際比較と政策研究ならび学際的研究を行い、関連する情報の発信と交流を国際的規模で促進する」(国際大学GLOCOM設立趣意書、1991年)
このように、GLOCOMの設立趣旨に沿った今回の国際情報発信プラットフォームの立ち上げは、予想以上に広く一般から注目を集めているようにみえます。実際に、どの程度注目されているかについては、まず、立ち上げの際の記者会見に、国内外の報道機関31社から計43名の記者が参加して熱心な質疑応答が行われ、翌朝の主要全国紙が、すべて大きくこの情報発信プラットフォームを取り上げたことが指摘できます。そのためもあって、記者会見から24時間以内に、このプラットフォームのウェブサイトへのヒット数が5,000件を超え、1週間を待たずに10,000件の大台に乗せるといった状況です。
注目される理由
なぜ、今回のGLOCOMの情報発信活動がこれだけ多くの注目を集めているかについては、以下のような分析ができると思います。
まず、この「国際情報発信プラットフォーム」は、他の日本の情報発信活動に見られない3つの特徴を持っています。
(1) インターネットを使って双方向的に行う日本からの情報発信であり、情報交流であること。
(2) 日本語からの翻訳ではなく、最初から英語で発想し表現する日本からの情報発信であること。
(3) 日本の事柄について日本発の多様な意見や討論をグローバルに発信すること。
第1の特徴については、これまでの日本から情報発信といえば主に「マスコミ」によるニュースなどの配信であって、インターネット特有の双方向性に欠けていたといえます。また、日本の各組織のウェブサイトには英語のページがあるものの、それらは双方向的な交流を意図して作られていません。GLOCOMの情報発信プラットフォームでは、あくまでインターネットで多くの人に見てもらうとともに、双方向的な交流を行おうとするものです。
第2の特徴については、日本の様々な組織が持つウェブサイトの英語のページは、ほぼ例外なく日本語のページを単に英訳したもので、最初から英語で発想し、翻訳でない英語で表現した日本発の情報発信はほとんどありません。また、紙ベースの出版物で英語のものも、そのほとんどは日本語の原稿を英訳したもので、英語的な発想に欠けています。GLOCOMの情報発信プラットフォームでは、最初から英語での発想と表現を行い、英訳しないことを原則としています。
第3の特徴については、一般に日本では意見や主張を公に表明することがもともと少ない上に、マスコミが「世論」を左右する傾向があり、自由かつ多様な意見が出難い傾向があります。また、インターネットなどで意見や主張が表明されている場合でも、発信元の組織が縦割りのために、分野が政治なら政治、経済なら経済というように限定され、それも組織の意見を反映させるので、どうしても横並びの意見しか出されません。したがって、海外からみると、政府や企業のサイトに載っている意見は結論が分かりきっているとされ、最初から読まれないことになります。
これに対してGLOCOMのプラットフォームでは、分野や組織を横断的に超えて様々な重要問題を取り上げ、既存の組織の利害にとらわれない多様な意見を掲載する点で、これまでのどの活動とも異なります。このGLOCOMの活動は、決して特定の意見をプッシュするためのものではなく、常に幅広く多様な意見を発信するという意味で、「プラットフォーム」と命名されているのです。
さらに付け加えるべき4つ目の特徴として、日本を代表するオピニオンリーダーである民間の個人や団体が、幅広くこの情報発信活動を支援していることです。例えば、プラットフォームの基本方針を決める「親委員会」のメンバー(添付資料参照)を見ても、情報分野、経済理論分野、国際金融分野の世界的権威である個人とともに、日本の経済界を代表する2つの団体のトップが顔をそろえています。また、協力を約束しているGLOCOMフェローのメンバーには、国際政治から経済、経営、情報、技術、文化、社会に至るまで、多様な分野の専門家が名を連ねています。
このような日本を代表する個人や団体が縦割りの壁を越えて、政府から独立した中立的な意見表明のための活動を支援していることは、極めて珍しいといえます。このような活動の必要性が日本で広く認識されてきたからこそ、それがようやく実現されたのではないでしょうか。
以上のような、これまでには見られない特徴を同時に兼ね備えた情報発信活動を立ち上げたために、国内外のマスコミも含めて、一般に幅広い注目を集めたものと考えられます。
2つの主な活動の柱
それでは具体的に立ち上がったプラットフォームでは、何が行われているのでしょうか。プラットフォームのサイト(http://www.glocom.org)を見れば分かるように、現在の活動は「意見表明」と「討論」の2つ柱から構成されています。
(1) Opinions (意見表明):各月のテーマに関して、日本を代表する学者、研究者、オピニオンリーダーのエッセイやインタビューなどを掲載し、できれば隔週ごとに新しい内容を付け加えていく予定。掲載内容に対する読者の質問や感想などはメールで受け付け、できる限り、著者や発言者に直接返答してもらう。
(2) Debates (討論):各月に、テーマに関して多様な意見を持つ論客を中心にオンライン・ディベートを行い、日本の中で異なった見解を持つ論者の間の交流を促進するとともに、国際的な意見交換を行うことを目的とする。当面は月1回の開催を予定。
実際に、プラットフォームを立ち上げた4月のメイン・テーマとしては、『小渕政権の崩壊と新しい森政権の課題』が選ばれ、「意見表明」については、政治評論家の内田健三氏と東京大学教授の猪口孝氏によるエッセイが掲載されました。
また「討論」は、経済の視点から『小渕政権の経済政策の評価と新政権の政策の将来展望』について、慶応大学教授の池尾和人氏と南カリフォルニア大学教授の目良浩一氏、それに私(GLOCOM教授の宮尾尊弘)の3人が、通常のBBS(掲示板)を使って逐次書き込み式のディベートを行いました。ディベートは4月20日と21日の両日行われ、3者の間でかなりの意見の相違が見られました。さらに、ディベートの合間に一般の読者からの質問やコメントを受け付け、2日目の討論の中でそれに答えることで、ある程度の双方向性を確保することができたと思います。
このように、先ずは、すでに指摘した3つの特徴、つまりインターネットを使った双方向的な意見交換を最初から英語で行い、日本発の多様な意見や討論をグローバルに発信するという特徴をもった情報発信活動が開始されました。
そして、5月は月のメイン・テーマとして『金融危機からのアジアの回復』が選ばれ、「意見表明」では国際通貨研究所理事長の行天豊雄氏を始め、その分野で日本を代表する専門家にエッセイを執筆してもらい、また、それに関連する問題について、よりインターネットの双方向性を活かした形のディベートを行う予定です。
実際上の問題点
しかし、実際に活動してみると、いくつかの問題点も浮かび上がってきました。特に、以下の3点が重大な問題といえます。
(1) 最初の問題は、日本において、特定のテーマに対して質の高いエッセイを英文で執筆できる人材を見つけることが困難なことです。
さらに、テーマが決まった後で、それについて英語で討論できる専門家を短期間に探し出して、ディベートに参加してもらうことは非常に難しいといえます。事前に英語で執筆ないし議論してもらえそうな専門家をリストアップしてみても、テーマを絞ると、当然ながら個々についての専門家はごく少数となり、実際にディベートに参加してもらうことは、スケジュールの点だけからいっても極めて困難となります。
(2) 次の問題は、海外から良い質問やコメントをもらって、真に意味のある交流や意見交換をすることが難しいことです。
単にヒット数が多くても、それは一方的に見られているだけで、この活動によってどれだけ海外で日本が理解され、誤解が正され、インパクトを与えているかは分かりません。選ばれたテーマについて、海外の専門家や有識者、オピニオンリーダーがこちらの主張に応えて交流してくれるような仕組みを作っておかなければ、ただ、こちらから発信しているという自己満足だけになってしまいます。
(3) そして最後の問題は、このような政府から独立した民間の中立的なプラットフォームを、長期にわたって運営していくための資金集めが難しいことです。
このようなインターネット上の情報発信活動を支える方法としては、公的な資金を導入するか、あるいは民間企業などの広告を掲載して収入を得るかのどちらかが考えられますが、そのどちらも、このプラットフォームが民間の立場で、しかも中立性を保つという原則に抵触する恐れがあります。どうしたらこのようなプラットフォーム活動が、その原則を崩さずに資金を調達できるかという問題に対して、答えをみつけることは不可能に近いのかもしれません。
問題解決に向けて
以上のような問題については、国際情報発信プラットフォームの「親委員会」の委員や顧問、および実行委員会の委員や編集アドバイザー(そのメンバーリストについては添付資料を参照)に相談して、解決策を探っているところですが、以下のようなアイデアが出てきています。
(1) 日本のオピニオンリーダーをリストアップした「Who's Who」を作ること。
まず、様々な分野を代表し、英語で意見を表明できる人の名前と活動内容を、できるだけ多く集めることが何よりも重要です。そのベースが広がれば、その中で、実際に執筆や討論への参加を依頼して引き受けてくれる人を見つけることも不可能ではなくなるでしょう。これまで日本では、きちんとした「Who's Who」がなく、分野別の団体や個人をある程度リストアップして住所や電話番号を掲載している『マスコミ電話帳』や、著名人を機械的に並べて経歴を載せている『人名録』があるだけという状態です。したがって、このプラットフォーム活動の一環として、日本からの情報発信者として信頼できる人の分野別リストを、独自に作成することを考える必要があると思われます。
(2) 海外において協力してくれる個人や組織のネットワークを作ること。
特に、海外で各分野を代表するような研究者や研究機関と予め協力関係を作っておき、こちらから発信する内容について、必ず何らかの反応をもらうようアレンジしておくことが大切です。とりあえずは、米国ではニューヨーク・ワシントン地域に密集している大学やシンクタンクと連携を図り、ヨーロッパではロンドン周辺の大学や研究機関にコンタクトし、さらにアジアではシンガポールや香港の研究者や研究機関とネットワークを築くことから始めるべきでしょう。
(3) この活動に対して資金的に協力してくれる会(仮題:情報発信協力会)を作ること。
情報発信プラットフォームという活動に賛同する個人や企業に、この活動を支援する「情報発信協力会」の会員になっていただき、年会費という形で資金的に協力を仰ぐという方法がベストと思われます。その際に会員が受ける恩典としては、情報発信の内容を英語と日本語(一部抄訳)でまとめたハードコピーを定期的に受け取れること、情報発信の内容に対して意見や希望が述べられること、さらにオンラインではなく実際に討論会やフォーラムを行う場合は、優先的に無料で参加できることなどが考えられます。
さらなる発展に向けて
一般に、インターネットの時代には誰もが発信できるようになるといわれています。しかし、真の意味でのグローバルな情報発信と意見交換は、これまで日本では誰も行ってきませんでした。それを行うためには、すでに指摘した3つの特徴、つまりインターネットの特性を活用した双方向的な意見交換を最初から英語で行い、日本発の多様な意見や討論をグローバルに発信するという特徴を持った情報発信活動でなければなりません。
その第一歩を踏み出したGLOCOMの国際情報発信プラットフォームは、その内容を充実させて継続的に活動を続けることができれば、やがては、日本全体を代表する民間ベースの情報発信活動になることも夢ではありません。実は、それを考慮して、英語で「Global Communications Platform from Japan」という名称を付けたわけです。そして何よりも日本が、そのような民間ベースの国際情報発信プラットフォームを必要としています。
世界の中で顔がない国、主張がない国民として日本が見られているとすれば、それは日本のためにも、また世界のためにも不幸なことです。なぜならば、日本人は立派な顔を持ち、聞くに値する主張も持っているからです。また、日本の中でも実に多様な意見が聞かれるというのが事実だからです。問題はそれを表現し、発信し、海外と意見交換する手段と努力が足りなかったことです。それを新しい時代に本格的に克服する第一歩が、GLOCOMの国際情報発信プラットフォームによって踏み出されたのです。
このプラットフォームを、日本からの多様な意見や主張を載せて海外に発信し、グローバルに交流する「場」として育てていくこと、それがGLOCOMの設立の趣旨であり、これから将来に向けての使命でもあるといえるのではないでしょうか。
【資料】
「国際情報発信プラットフォーム」の趣旨と概要
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
問題意識
情報通信革命によって情報伝達のスピードとグローバル化の流れが加速する中で、日本の海外に対する情報発信の不足が目立っており、特に日本発の英語での対話・論争型の意見交換は皆無といえる。この事態を放置すれば、日本に対する世界の誤解が拡大し、今後の日本の発展にとっても世界の秩序の安定にとっても大きな足枷になる危険がある。
したがって(1) 日本に関連する重要問題に対して日本人がより積極的に英語で意見や主張を表現して海外に対して発信すること、および(2) 海外での日本に関する誤解や誤報を常にチェックしてタイミングよく正していくことがぜひ必要である。
このようなグローバルな情報発信活動を効率的かつ機動的に行うためには、インターネットをフルに活用してリアルタイムの情報収集を行うとともに、世界でも注目されるような日本の論客や執筆者とネットワークを張って、読むに値する主張と発言を常に流し続けることが大切である。
活動概要
以上の目的遂行のために、国際大学GLOCOM(グローバル・コミュニケーション・センター)に「国際情報発信プラットフォーム」(Global Communications Platform)と呼ばれる情報プラットフォームを構築し、常時高速でインターネットに接続しているという環境をフルに活用することで、日本を代表する国際的な情報発信と意見交換の「場」となることを目指す。
より具体的には、日本の主要な情報収集機関とネットワークを組むことで海外から日本に関連する情報をできるだけ速く入手するとともに、やはりネットワークを通じて日本を代表する論客や執筆者にその情報を流し、海外でも読まれるに値する意見や主張を「国際情報発信プラットフォーム」を通じて発信してもらう。また論点を浮き立たせるためにディベートの形をとって、双方向で参加型の情報発信も行う。
分野
(1) 国際、外交、政治、(2) 経済、経営、(3)情報、通信、技術、という3分野を柱とする。また、これらの分野に関連する社会、文化の問題も必要に応じて取り上げる。
組織体制
この活動の基本方針は、以下の「情報発信(親)委員会」によって決定される。
○ 情報発信・親委員会委員長
公文俊平(国際大学GLOCOM所長)
○委員:青木昌彦 (スタンフォード大学教授)
行天豊雄(国際通貨研究所理事長)
小林陽太郎(経済同友会代表幹事)
今井 敬(経済団体連合会会長)
牛尾治朗(ウシオ電機株式会社会長)
○情報発信・親委員会顧問
中山素平(国際大学特別顧問)
また編集についての具体的な進め方については以下のメンバーがアドバイスする。
○編集アドバイザー
水口弘一(経済同友会副代表幹事)
鈴木祥弘(日本電気特別顧問)
田代正美(経済広報センター国際広報部長)
上記の委員の意向を踏まえて実際に活動を実行するメンバーは以下の通り。
○実行委員会委員長
宮尾尊弘(国際大学GLOCOM教授)
○委員:小林正史(国際大学GLOCOM副所長)
原田 泉(国際大学GLOCOM・フェロー)