"IP over DTV"か"DTV over IP"か−−NAB2000報告
上村圭介
4月8日から13日までラスベガスで、アメリカの放送業界の一大イベント、NAB2000が開かれました。これは全米放送連盟(NAB)が主催するもので、今年は"The Convergence Marketplace"というテーマのもと、1600件以上の展示が行なわれ、11万人以上が参加しました。
今回の目玉は、やはりデジタル放送とインターネットでした。デジタル放送は、アメリカではすでに1年以上前から開始されていますが、当初期待したように普及していないこともあってか、むしろ、インターネットとの融合についての期待がますます高まっています。"The Convergence Marketplace"というテーマが、放送業界がインターネットとの融合に向ける期待の高さを象徴していると言えるでしょう。
デジタル放送では、従来のテレビのように映像と音声を流すほかに、「データ」を放送することができます。デジタル放送のうたい文句の一つは、テレビの画質向上でしたが、それ以上にデータ放送による新たな「番組」の可能性に期待が寄せられています。特に、データ放送の帯域によってインターネットのコンテンツを「番組」として流す、IP over DTVの技術は、帯域の制約を解消する一手段として期待されています。
今回のNABでも、IP over DTV、つまり放送の帯域を利用してインターネットを流すということが一つの大きなトピックでした。特に、通信衛星を利用した高速インターネットの技術のブースは数も多く、もっとも関心の高い分野の一つと言えるでしょう。
しかし、IP over DTVという形での、放送とインターネットの融合は、当初想像されていたほど簡単なことではないということも次第にはっきりしています。
簡単ではない理由の一つは、放送番組のような高い画質のコンテンツを流すために、高速なネットワークが必要となることがあげられます。そして、もう一つは、ユーザからの「上り」回線をどのように確保するかという問題です。放送は、「サーバ」から「クライアント」への一方通行の片方向性のメディアであるために、インターネットの双方向コンテンツに必要なユーザからサーバへの「上り」回線がないのです。そのため、そのままではインターネットに必要な双方向性が確保できません。「上り」回線を確保するために、ユーザは電話回線などの方法でインターネットに接続しなければならないのです。放送がもともと一方向性の媒体である以上、放送インターネットが、それとは別に上り回線を用意しなければならないのはむしろ当然のことでしょう。
そこで、もともと片方向の放送の枠組みの上に、本来双方向のインターネットを接ぎ木するのではなく、双方向のインターネットの上に片方向の放送を乗せる、DTV over IPという、インターネット本来の姿に立ち返った解決が考えられます。Lucent Digital Video、Minerva Networks、2netFXなどが、インターネットにデジタル放送を乗せる技術についてのブースを出展していました。インターネットはもともと双方向なのですから、その上に片方向の放送を乗せるのであれば、上り回線の問題は発生しません。いわば「大は小をかねる」というわけです。
上り回線の確保以外にも、DTV over IPの意味はあります。それは、アンテナとチューナがなくても、インターネットの上にある機器であれば、すべてがテレビになりうるという点です。LANにつながったパソコン上で、テレビエミュレータを動作させ、普通のテレビと同じ番組を見ることができるようになるでしょう。
DTV over IPの技術は、NABの時点では、それほど大きな注目を集めてはいませんでしたが、これから注目していきたい分野です。