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『政策官庁の「情報史観」--ヴァーチャルガバナンスによる霞ヶ関改革試案』

前田充浩著

 本論文のねらいは、これまで政策官庁が抱えてきた新政策立案過程における非効率性を、IPネットワークの導入によって大幅に改善する可能性について検討することである。

 政策官庁とは、行政庁が行う政策の内容を、当該行政庁に所属する官僚自らが立案する制度が実務上確立している行政庁であり、通商産業省がその代表例とされる。政策官庁の官僚は、新政策を立案するという競争を展開しており、新政策の立案がその官僚の評価を決定しているという。

 しかし、新政策の立案には膨大なコストがかかる。まずは行政需要と呼ばれる新政策の必要性を探る情報収集が行われる。その過程で、社会的に必要とされていても対応が極めて困難な案件の採用は回避される。実行可能な案件は、それを立案する官僚の評価を高めるために困難なものであったかのように装われ、新政策立案のサイクルに従って処理されることになる。その後、対査定官庁に対する膨大な量の資料の作成や説明、関係する他の行政庁との間の権限争議と呼ばれる調整が必要となる。

 筆者はこうした新政策立案のサイクルの中で浪費されるコストに対して批判的な目を向けている。つまり、審議会や研究会、接待や会食を通じて本音の情報を収集する努力、そして、新政策を実現するための徹夜や休日出勤、必要以上の作業が慣例的に行われているというのだ。

 こうしたコストを回避する手段としてIPネットワークの活用が有効だというのが筆者の主張である。つまり、審議会や研究会、会食といった手段を使わずとも、IPネットワーク上のメーリング・リストや電子メールによる私信を活用することで情報収集が可能になり、査定官庁や関係官庁との間のやり取りも電子メールで行えばいい。

 筆者は、情報に関する各種の営為を適切に行うことを「智のマネージメント」と呼んでいる。IPネットワークは、収集できる情報の量を数桁ベースで拡大させ、収集した情報に基づいて有効行政需要を導出する場合の智のマネージメントについて、官僚という個人の脳内での情報処理という方法から、多くの人間が参加する議論を同時並行的に多数行う、という分散処理を可能にするという。その結果、優れたアウトプットを得ることができる蓋然性が高くなるというのだ。

 しかし、IPネットワークの導入は、新政策立案における情報収集と情報処理の両面において、政策官庁の官僚のみがそれらに携わることの正統性が決定的に疑問視されるようになるという新たな問題も提起することになる。

 こうした認識の上に立って、筆者は以下のように提言する。つまり、政策官庁が行っている作業の相当部分を、多くの人が情報を持ち寄り、議論を展開するサイバー空間上のプラットフォームに移行させる。そして官僚はサイバー空間上の議論のコーディネータとしての役割を担う。議論のコーディネートは高度な智のマネージメントを要するものであり、官僚のステイタスは保持される。

 こうした移行に対する最大の問題は、必要とされる官僚の数の減少である。この現実を官僚が受け入れなければ本論文の提言は実現が難しい。

土屋大洋(主任研究員)

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