私、ナプスターの味方です。
池田信夫(主任研究員)
いまインターネットで最大の話題は、ファイル交換システム"ナプスター"だろう。これは去年、当時19歳のアメリカの大学生、ショーン・ファニングが開発したソフトウェアで、これを起動すると自動的にナプスターのサーバに接続し、同時に接続しているパソコンのハードディスクに入っているMP3ファイルを検索してコピーできるしくみだ。
これまでにもMP3ファイルをダウンロードできるウェブサイトはあったが、ホームページに出ているものしか検索できなかった。ところが、ナプスターは世界中のユーザーのパソコンを検索して直接コピーできる。いわば、他人のレコード棚をのぞいて「それ貸してよ」といってコピーするようなものだ。
技術的にはどうということもないソフトウェアだが、1年あまりでユーザーが1000万人を超える爆発的な人気となり、レコード業界などから「著作権の侵害だ」として訴訟を起こされる騒ぎになった。
日本では、もっぱらそういうグレーな部分が強調されるが、実際に使ってみると、「これはウェブ・ブラウザ以来の画期的なアイディアだ」というマーク・アンドリーセンの言葉の意味がよくわかる。なにしろ、これがあればウェブがなくても、世界中のユーザーのパソコンがそのまま配信サーバになるのだ。
これに対して、ヘビー・メタル・バンドのメタリカは「海賊行為だ」と抗議し、メタリカの曲を持つ数万人のユーザーのアカウントがサーバから削除された。また、「ビートルズの未発表曲」と偽って雑音を流す事件なども起きているので要注意だ。
他方で、これを歓迎するミュージシャンも多い。コートニー・ラブ(パンク・ロック・バンドのホールのリーダー)は、レコード会社を脱退してナプスターで音楽を売るインターネット上の独立系レーベルを設立する。「レコード会社こそ、ミュージシャンの上前をはねる海賊だ」というのが彼女の主張だ。
音楽ファンとしては、古いシングル盤や海賊盤にしか入っていない曲を聞くことができるのはうれしい。特に、現代音楽やフリー・ジャズなどのジャンルでは、レコードがすぐ廃盤になってしまうので、ナプスターは強い味方だ。
録音の機会に恵まれないクラシックの演奏家やインディ系のバンドが、MP3でデビューするケースも増えている。彼らにとっては、著作権料をもらうことより聞いてもらうこと自体が大事なのである。
マルチメディアの普及の最大の障害になっているのは、著作権という300年以上前にできた制度がデジタル情報を想定していないため、過剰にコピーを規制するしくみになっていることだ。ナプスターがこれほど圧倒的な支持を得たのは、旧態依然としたメディアの世界に対するユーザーの反乱だともいえるだろう。
たぶん「パンドラの箱」はもう開いたのだ。これからは音楽だけでなく、映像もこうした超分散型のシステムで共有されるようになるだろう。それは、著作権の壁に阻まれてきたマルチメディア・ビジネスが開花するきっかけとなるかもしれない。新しいメディアのあり方は、訴訟やロビー活動によってではなく、市場で決めるべきである。