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『オンライン教育の政治経済学』

木村忠正著

 7月12日、東京都立科学技術大学の木村忠正助教授によるIECP読書会が行われた。

1.オンライン教育の課題

 日本では18歳人口が1992年の約205万人から、2010年には約120万人へと減少すること は確実である。今回は少子高齢化という不可避的な社会構造の変化と、社会人教育の需要が増大する一方で、大学数もむしろ増大していることを背景に、情報メディア技術の発展の中での高等教育の構造変化、E-Learning Society & Ever Learning Societyの課題を多面的に取り上げた。

 まず情報化によって学習が行われる時間・空間が変化した。即ち、1) 同期から非同期へ、2) 集合(一地点)から分散(多地点)、3) 個別学習から共学習へと学習形態が拡張されてきた。その拡張は、教師中心から学習者中心へ、また体系的・階層的な教化主義(Instructivism)から学習者の意思・経験・認知の仕方を重視する構成主義(Constructivism) へと、教育法のあり方にも関連する。

2.「教育の情報化」のパラドックス

 しかし現実は教育の情報化への期待とは裏腹に、普及は限定的でしかなかったのはな ぜか?この間メディアは多様化し進歩してきたが、「高い主体性と判断力の育成」「個性重視の柔軟な教育」という目標は20年以上も変化していないのはなぜか?情報メディアを利用した教育法・学習法が時期尚早であったのか?あるいは、未来社会のイメージは、人間性の実現、個性の実現、自由度の拡大、創造性の発揮など近代市民社会の理念的な夢を追い求めたに過ぎないのか?情報メディア技術の開発(社会の情報化)は重要だが、情報技術を社会が取り込んでいく過程(情報の社会化)には、政治・経済・社会・文化・心理的な要因など社会的なロジックが働くが、この多くの????をどう解釈すべきか?

3.オンライン教育への向き・不向き

 成功する学習者の特性は、集中して聞く態度と自己管理能力にあるといわれる。また 文字志向か視覚志向か、学習態度は協調的/競争的、心理属性は外向的/内向的、直 感重視/知覚重視、思考重視/感情重視によってオンライン教育の効果が異なる。学習する「場」、特にライブや対面講義の重要性、また教える側の心理の問題など人間の心理的属性、メタ認知能力を考慮するとオンライン教育の限界も見えてくる。一方では、コスト削減の命題も深刻であり、従来型教授法との教育効果比較が重要な論点となっている。

4.「ワールドウェア」

 1970〜80年代にかけて大学に、多額の研究助成によってコンピュータが大量導入され、コースウェアが開発されてきたが、これらの教材は十分には利用されてはこなかった。この答えが「Worldware」、即ち、ワープロ、表計算、データベース、統計、CADなど一般市販品のソフトを「教育用に特化して開発されたCourceware」と対比して呼び、このWorldwareの浸透によって、一般講義やレポート提出など教育活動が、気づかない間に大きく変化したという事実がある。情報がデジタル化されることで、従来の紙と異なり、書き直し・やり直しは日常的になった(Doing It Again, Thoughtfully = DIAT現象)。教育の情報化は、劇的な革命的な変化ではなく、徐々に起こる質的な変化(水深ゼロメートルの情報化、情報技術の黒子化)であったのだ。このテーマの続編乞うご期待。

小林寛三(フェロー)

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